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41 カブトムシ!?


 ヒュッポース要塞には白骨遺体がゴロゴロ転がっていた。

 死んだ魔物が放置されているとかではなく、たぶんスケルトン系の魔物だ。

 まだ日が高いから返事しないただの屍状態だけど、夜になったらカタコトと動き出すはず。


「借りまーす」


 私は手頃なサイズの頭蓋骨を拝借して、頭にかぶった。

 目の前をゴブリンが通り過ぎていく。

 チラッと私を見上げた。

 でも、それだけ。

 忙しそうに歩き去っていった。

 変装はバッチシだね。


「意外と気づかれないもんだね」


「魔物って種類が多いから。体は人間で、頭はスケルトン。そういうタイプの魔物だと思ったんだろうね」


 同じくフルフェイス頭蓋骨姿のルシウス君がこもった声で言った。

 頭蓋骨まで輝いて見えるから不思議だ。


「アルニャンもかぶっとくか?」


「ボクは妖精ニャ。存在感が希薄だから、どうせ気づかれないニャよ?」


「影薄陰キャぼっちだから、いても気づかれないか。今だけは羨ましいな」


「心外だニャ! 断固抗議するニャ!」


 耳元でうるさいので小さい頭蓋骨をかぶせておく。


「す、すごい。可愛さが骨を貫通している……!」


「そうニャろ? ボクの偉大さがわかったかニャ?」


 与太話はここまでだ。

 さっ、あのアホ女を捜しに行くべ。


 要塞の中を堂々と歩けるので、アホはすぐに見つかった。

 青色渦巻きの後ろ姿。

 物見やぐらから落下した釣鐘に身を隠して、何やらコソコソ覗き見している。

 視線の先には崩れた建物。

 そこに半ば埋もれるようにして妙な配色のものが横たわっている。

 デカイ剣。

 サーフボードみたいなデカさだ。

 藍色とオレンジのマーブル模様……。


「っ」


 ルシウス君が息を呑んだ。

 だね。

 あれは藍橙魔アダマン色と呼ばれる特有の色合い。

 つまり、あの剣は王断魔鋼アダマンタイト製ってことだ。

 エンヴィリッタは結婚指輪の材料を見つけてケツをフリフリしているわけだ。


「エンヴィリ――」


 声をかけたルシウス君が急に黙った。

 理由はすぐにわかった。

 バグンッ、バグンッ、と多脚戦車みたいな足音を立てて巨大な馬人がやってきた。

 すげえ。

 腕が6本もある。

 おまけに大きな角まで生えている。

 まるでマッチョなカブトムシだ。

 そして、顔は阿修羅のごとし。

 もう一目でわかったわ。

 こいつこそが、このヒュッポース要塞の主。

『万馬将軍』風厳馬雷王ブケファラオスだ。

 私の討伐対象のご登場だった。


「……」


 うん無理。

 迫力えぐいって。

 奈良の大仏が動き出したような圧倒的威圧感。

 胸板見てみろや。

 巨岩かよ。

 ケツでっか。

 屁で藁の家、吹っ飛ばせそう。

 こりゃ無理だ。

 46センチ砲とかないと討伐とか無理っすわ。


 ゴブリンやほかの馬人系魔物たちがこうべを垂れて下がっていく。

 私たちも右にならえで瓦礫の陰まで後退する。


「ルシウス君さ、今の見た?」


「あ、ああ……。凄まじい迫力だった。思わず息の仕方を忘れてしまうほどだった」


「腕6本あったね。逆に生活に困りそう。裸なのも着る服売ってないからじゃね? 将軍全裸なのウケるんだが」


「え、シーナさん、面白かったの?」


「いや、面白いでしょ。敵の将軍フルチンだぞ?」


「面白いのはシーナの頭ニャ」


 と、ここでブケファラオスに動きがあった。

 いかめしい顔がさらに険しくなる。


「臭うぞ、臭う。臭いよるわ。薄汚い人間の臭いが」


 野太い声の後で、バーガハッハッハ、と爆発音みたいな笑い声を立てた。

 巨大な6本腕が釣鐘を持ち上げて、放り投げる。

 ぐぁんっごおおんん!

 直撃したゴブリンたちが血煙に変わった。

 そして、どうでもいいが、エンヴィリッタが発見される。


「きゃああああですのことよお!」


 虫みたいにつまみ上げられたエンヴィリッタはなぜかちょっと嬉しそうにしている。

 私はハッとして隣のイケメンを見た。

 おい、まさかあのアホ、ルシウス君を――


「ルシウスぅうう! わたくしの愛しのナイト様ぁん! わたくしをお助けなさいまし!」


 悪い予感、的中。

 バチチチチッ、と隣で紫電が閃いた。


「がッ」


 と苦しげな声を漏らしてルシウス君が膝をつく。

 あの糞バカ、やりやがった。

 命令に逆らえないルシウス君に助けを求めるなんて。

 しかも、ちょっと嬉しそうにしてやがる。

 お姫様のピンチには白馬の王子様が助けに来るもの、とか思っているらしい。

 イカレている。


「耐えろ、ルシウス君……!」


「いや。もう気づかれている……。このままではシーナさんまで見つかってしまう」


 ルシウス君は頭蓋骨を脱ぎ捨て、自ら出ていった。

 金の髪を風に躍らせて。

 輝くウィンクを残して。


「んまあ、ルシウスっ!」


 とエンヴィリッタが学園祭のジュリエットみたいに歓呼する。


「わたくしを守るために自ら敵の前に姿をさらすだなんて! なんて素敵なんですのこと!」


 お前が命じたんだろうがドカス!

 それと私を守るためだっつの。

 ルシウスきゅん、そう言ってたもん!


「さあ、ルシウス! わたくしを守るために命懸けで戦うのですわぁ! そして、永遠に結ばれるわたくしたち! 見事わたくしを守り抜き、愛を証明なさいですのことよ!」


「やかましい」


 裏拳。

 大岩みたいな拳がエンヴィリッタを殴り飛ばした。

 ばがああんん、と肉の砲弾が瓦礫に突っ込む。

 そのままぴくりとも動かない。

 何かガラスが砕けるような音がした。

【蒼の代理石】がダメージを肩代わりした音だとすぐわかった。

 即死級の攻撃だったけど、たぶん無事。

 でも、指一本動かない。

 気絶したらしい。


「エンヴィリッタ! ――あぐっ」


 渦巻きに駆け寄ろうとしたルシウス君がびたっと足を止めた。

 首元で紫電が千鳥のように鳴いている。

 首輪の制裁……つまり、命令違反。

 なんらかの命令に違反があったらしい。


『わたくしを守るために命懸けで戦うのですわぁ!』


 ……これか。

 ルシウス君が剣を抜くと、紫電は嘘みたいに鳴りを潜めた。


「最悪だ……」


 命懸けで戦う。

 それ以外は命令違反で即・制裁。

 逃げることはおろか、隠れることすら不可能。

 戦うしか道がなくなった。

 しかも、唯一命令を撤回できるアホ女はのんきに寝てやがる。

 もう一回言おう。


「最悪だ……」


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