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40 一難去って・・・


 カン、カララン、と鉄格子が石床に転がる。

 私は剣を納めてユミーとヤーに駆け寄った。

 全身にひづめ型のアザがハンコみたいに押されている。

 たんこぶも3段くらいになっていて、顔も男子校のバケツみたいにボッコボコ。

 長い耳も枝みたいに折れている。

 せっかくの美形が台無しだ。


「THEボロ雑巾って感じだね。写真撮っていい? カタログにカメラあるし」


「『漆黒』……か」


「あたしたちを助けに来てくれたの?」


 ユミーとヤーが期待の目をキラキラさせる。


「いや、別の子を助けに来たら、あんたたちがいた感じでね。もう、ほんとどうしよ。抱えて逃げるべきか、見なかったことにして置き去りにすべきか」


「「……」」


 キラキラお目目は死んだ魚の目に変わった。

 だってココ、敵地のド真ん中だよ?

 どこにでも繋がるピンクのドアでもない限り、救出は困難を極めるんすわ……。


 二人とも、命に別条はない様子。

 でも、自力で逃げるのは無理っぽそう。

 相手が馬ともなると、なおさらだわな。


「あおーん。わんわん!」


「「……?」」


「ニャ?」


 2人と1匹が私を見上げて首をかしげた。

 しゃーないやんけ。

 必死のパッチでツネッコを助け出したと思ったら、要救助者がさらに2人いたんやぞ。

 しかも、転移系のギフトは底をついて、助け出す手段は「担いで走る」しかないと来た。

 最悪だよ。

 変な鳴き声上げるくらい許してくれよ……。

 こっちは問題続きでヘトヘトなんだよ。


「「……」」


 そんな不安げな顔で私を見てんじゃねー。

 そもそも、なんで私がアホどもの尻をひーひー言いながら拭かなきゃならん。

 いい加減グレっぞ?


「シーナさん! 無事!?」


 薄暗い地下牢が急に明るくなった。

 顔が照明器具みたいな青年が走ってきた。


「ルシウスきゅぅん!」


 透明化魔法の効果は切れてしまったようで、変装のためなのか大きな頭蓋骨をかぶっている。

 そんな姿もカッコイイ!

 ワイルドだ!

 ええとこに来たで、あんた。


「怪我をしたのか……!」


 ルシウス君は赤くなった私の肩口を見て目を白黒させている。

 私は戦士みたいに腕を回してみせる。


「こんな傷、唾つけたら治ったよ。この通りに全快だ」


「さすがシーナさんだ。唾液に治癒効果があるなんて」


 いや、さすがにねえよ。


「今、大きな魔力がすごい速さで遠ざかっていったのを感じたんだけど」


「ツネッコを見つけて転移の魔法で飛ばしたんだ。リトマスへね。元気だったよ」


「それはよかった! シーナさんはさすがに仕事が早いね。……で」


 ルシウス君の顔が投獄されていた二人に向けられた。

 いろいろと察したような顔をしている。


「お察しの通りだよ。『ユミー&ヤー』の二人だ。矢文を射た後、捕まっちゃったみたい」


「そんなこと、エンヴィリッタは一言も言っていなかった」


 あの渦巻き女のねじくれた思考回路からすれば、矢文を射た人間がその後どんな目に遭うかなんて頭の隅にすら入っていないのだろう。


「……」


「……」


 ユミーとヤーは不安げに顔を見合わせている。

 ようやく助け舟が来たと思ったら、その船頭が人を殺したそうな形相でブチギレているのだから不安にもなる。

 そうさ、私はキレまくっている。

 なんもかんもあの渦巻き女のせいだ。

 ついでに、父親のほうも堂に入ったアホだ。

 二人まとめてイカリにくくりつけて沈めてやりてえよ。


「安心してくれ。君たちはこれで脱出できる」


 ルシウス君は輝く微笑みを浮かべて、巻物を取り出した。

星幽体逃射アストラル・エスケープ】のスクロールだ。


「いいの? それはルシウス君たちの脱出用にと思って渡したものなんだけど」


「彼らは怪我で動けない。何が正解かは後にならないとわからないけど、今はっきりしているのは、こうするのが最善だってことだ」


 ユミーとヤーの体が淡い光に包まれる。


「迷宮脱出用の短距離転移魔法だ。そう遠くまでは飛べない。ここを見下ろす山のいただきに僕らの馬車がある。御者に助けを求めるといい」


「すまない。この恩は必ず返す」


「だから、あんたたちも無事に戻って来なさいよね」


 ずひゅーん、と迫撃砲みたいな射角で二人は飛んでいった。

 地下牢に再び静けさが戻ってくる。

 私は、んふ、と笑った。


「ルシウス君、絶対モテるでしょ?」


「一番尊敬する人に振り向いてもらえないんじゃ意味ないさ」


 ルシウス君は私を真正面に見てニッコリ笑った。

 まぶしいっつの。

 閃光玉か!


「それじゃ、私らのほうも脱出しますか」


「夜のほうが逃げやすいと思う。隠れて待つかい?」


「それが賢いだろうね。ついでに、魔物に変装しよう」


 私はルシウス君のイカした帽子をコンコンと叩いた。

 それでも無事逃げおおせられるかどうか。

 半々ってところだな。


 ……ん?


「ところで、あの渦巻きは?」


「……それが、捜索しているうちに、はぐれてしまって。何か見つけたようだったな。走っていったのは足音でわかったんだけど、どこに行ったのかは……」


 ルシウス君は苦笑した。


「まだ透明化の効果が切れていないとしたら、捜し出すのは骨が折れそうだ」


「よし、死んだものと仮定して諦めよう!」


「そういうわけにもいかないだろう」


「クソがァ。あのカス、どんだけ我々人類に迷惑かけるんだよ。どんだけ人類の平均を押し下げりゃ気がすむんだよカス」


 私は天才なので画期的ロジックを組み立てた。


「人間はカスじゃねえ。つまり、カスは人間じゃねえ。よって、あいつは人間じゃねえ。決定! もう見捨てようぜ!」


「そういうわけにもいかないだろう」


 んだよぉ……。

 どうせ死んだら地獄に堕ちる奴をどうして命懸けで捜し出さなきゃならねえんだよ。

 ちょっと早めの地獄に堕としちまえよ。

 チィィ!


「ふニャァ……」


 私はネコザル型精神安定剤を思いっきり吸引した。

 これキメなきゃ、やってらんねえぜ。


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