39 牢の奥
【名持ち魔物『剣多腕馬人』フォーダバーを討伐しました】
【討伐報酬:10GP獲得しました】
【ネームド撃破ボーナス:30GPを獲得しました】
そういうわけで、さっそく私は【下級ポーション】を召喚した。
半分飲んで、半分は患部にかける。
すぐに肩口の焼けるような感覚はなくなった。
おっし、全快!
「助かったよ、相棒!」
「お安い御用ニャ!」
肉球とグータッチをかわす。
アルニャンが持ち前の手癖の悪さで【猛熊用トウガラシ1000倍スプレー・デスファイア】を抜き取ってくれたおかげで逆転できた。
さっすが私の相棒だ。
「うう、姉御おお……」
さて、ツネッコが今にも抱きつきたそうな顔をしている。
さあ来い!
わいが受け止めてやらあ!
私はゴールキーパーみたいに腕を広げた。
「わあああん! 姉御おおおお!」
ボールも持たずに突っ込んでくるツネッコを見事にキャッツする。
よしよし、心細かったな。
「ぐすん。オレのこと、助けに来てくれたのか?」
「違うよ。要塞ぶっ壊しに来たら、途中であんたがいることに気づいただけ。生き埋めにしなくてよかったー」
「……ああそう」
そうさ。
現実ってのはそんなにドラマチックなものじゃないんだぜ?
悲劇的な死も女神様のドジだったりするしな。
「でも、ありがとな、ツネッコ。私を選んでくれて」
「へへ!」
ツネッコは鼻の下を人差し指でなでて、男の子みたいに笑った。
「ただの損得勘定だぜ? 人間側より魔王側より姉御側が一番強そうだしな! 合理的判断ってヤツ!」
おう。
その判断は正しいよ。
あんたは今、覇権側に立ったのさ。
でもなぁ――
「えいっ」
「あだ!?」
私はツネッコの脳天にチョップを入れた。
「ダメだぞ。こんな危ないところに来て。私、心配したんだからな?」
「ごめん姉御。オレ、領主邸の奴らに認めてもらいたくって」
うつむいた後、ツネッコはすぐに顔を上げた。
光のある強い目をしていた。
「でも、間違ってた。いじめなんてするアホに認められる必要なんてないんだよな。オレはオレのことを認めてくれる奴のためだけに全力になるよ。姉御みたいな」
なんて嬉しいことを言ってくれるんだ、この子は。
ぎゅっ。
思わず抱きしめてしまった。
すると、私の鼻の下あたりで黒い三角耳がひょこひょこ動く。
可愛い奴め。
もっとだ。
「むぎゅうううううー!」
「ぐえ……」
「どや? わいの側も楽やないやろ?」
「うん。一番大変そう……」
私たちは顔を見合わせて、しばし笑った。
「それじゃリトマスに帰るべ」
転移用のスクロールを広げ、その上にツネッコを立たせる。
「これは1人乗りだからね。あんたは先に帰ってな」
「姉御とアルニャンの兄貴は?」
「私らはお馬さんでパカパカ帰るよ」
「すぐ戻るから心配無用ニャ!」
「……わかった。オレ、待ってるからな!」
ツネッコなりに何か察したらしい。
でも、食い下がらずに引き下がってくれた。
「転移! リトマスへ!」
ツネッコの体が青い光に変わっていく。
別れ際に変顔でもしてやろうかと思っていると、ツネッコがハッと顔色を変えた。
「あっ、姉御! 牢の奥に――
ひゅん。
声をぶつ切りにして、ツネッコの姿が掻き消えた。
大きな力の塊がリトマスのほうに飛んでいくのを感じる。
転移成功だな。
……うん。
「ええっと、牢の奥になんだって?」
私は嫌な予感を多分に感じつつ、そろりそろりと暗い地下通路を進んだ。
そして、案の定というか、発見してしまう。
鉄格子の向こうに2人。
人が倒れていた。
男女。
どっちも耳が長い。
エルフだ。
顔面ボコボコで全身アザまみれ。
私のマグマが再び臨界点に達した。
「あんのクソ渦巻き親子ォォ……」
虜囚がいるなんて一言も言ってなかったじゃねえか。
でもまあ、よく考えりゃそうだよな。
アホのエンヴィリッタはヒュッポース要塞に矢文を射た。
結婚式の招待状を結わえ付けて。
矢文を射たということは、射手がいたということだ。
その人物はどうなったか。
そんなの考えなくてもわかる。
圧倒的な機動力を誇る馬人系魔物の根城から無事逃げおおせるなんて不可能。
とっ捕まるのが道理だ。
で、その人物たちはこうしてここにいると。
牢の中で耳長の男女が顔を上げた。
エルフ族の凄腕弓使いコンビ『ユミー&ヤー』。
囚われの身となっていたのは私も知っている冒険者たちだった。




