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34 炸薬の雨


 どーん、どーん、と黒煙が上がる。

 ヒュッポース要塞は蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。

 崩れかけの建物から魔物が飛び出してきて、どーん。

 砲弾で細切れ肉になった。


小卑鬼ゴブリンを討伐しました×6】

剣闘馬人ケンタウロスを討伐しました×3】


 うっほ。

 1発撃つだけで10GPくらい入ってくる。

 どんだけ魔物吹っ飛んでんだよ。

 女神様大歓喜だわ、こりゃ。


 迫撃砲。

 中に砲弾を落とすだけで発射できるから、結構ぽんぽん撃てる。

 そして、ボカンボカン爆発が起きる。

 すでに、要塞の西側は全壊している。

 石を雑に積んだだけの要塞だから、ひとたび崩れ始めると崩壊の連鎖が起きる。

 身を守るはずの石壁が大質量の凶器となって魔物たちの上に降り注ぐ。


巨怪馬人ジャイアバルスを討伐しました×4】

死霊馬人スレイプニルを討伐しました】

小卑騎兵ゴブロナイトを討伐しました×3】

火炎馬ヒエンポスを討伐しました×2】

渓流馬ケルピーを討伐しました】

死骨馬スカロホスを討伐しました×2】

死骨翼馬スカロペガホスを討伐しました】


「ウハハハハ! わいは人型固定砲台や!」


 もう痛快よ、痛快!

 馬人系魔物がぼろぼろ召されていく。

 大量GPゲットだコレ!


 でも、ブケファラオスの名前はないな。

 ま、このまま敵の兵力を削げば戦争は回避される。

 目的は達成されたも同じだ。

 要塞の中の騎兵なんて飛行場に並んだ戦闘機と同じよ。

『ヒュッポース風雷騎士団』、恐るるに足らず。


「ウラ、ウラァ! ウラウラウラァー!」


 撃って撃って撃ちまくる。

 砲声は消しているし、砲弾は空から降ってくるから私の居場所がバレる心配はない。

 狂乱をきたして逃げ回る馬鹿どもを見下ろすのはゲハハ、楽しいなァ。


「オラオラオラァ! 逃げ惑え、逃げ惑えウハハハハ! 私はシーナ・弾雨・カタギリだァ! 好きなものは血ィ! みんなみんなぶっ殺してやるァ! ヒャッハアアア!」


「シーナ、ハメを外しすぎニャ。ちょっと落ち着けニャ」


 アルニャンがスネのあたりにしがみついてくる。


「これでいいんだよォ! 向こうも死に物狂いなんだから、私も同じテンションでやらないと失礼だろうがァ! マナーだろ!」


「そんなマナー、魔界にも存在しないニャア!」


 それになァ、誰も見てねえと思うとヒャッハ!

 ハっちゃけたくなるだろうがァ!


「ウヒョオオオオ!」


「さすがシーナさんだ! たったひとりで魔王軍を圧倒するなんて! なんてすごいんだ!」


「だッろおおォ! …………ォゥ?」


 振り返ると、そこには太陽よりもまばゆい光の君がいた。

 後光ではなく、顔が光るタイプの釈迦。

 リトマスが誇るスーパー美男子。

 もはや言うまでもないが、ルシウス君その人である。


 私は途端に内股になった。

 猫の手ポーズで可愛くクネクネしながら、


「にゃーごっ!」


 とかテキトーに鳴いてみる。

 で、砲弾投入。

 ぼごん!


「……」


 ええっと、どう?

 可愛い?

 狂気を覆い隠せるくらいの可愛さがあればいいんだけど。


「すごい……!」


 ルシウス君は手に汗握る感じでそう言った。

 何がすごいんだ?

 戦況?

 それとも、私の豹変っぷり?

 まあ、あえて掘り下げまい。

 可愛さがすごいってことにしとこう。


 ルシウス君の後ろにはオエェ……。

 エンヴィリッタもいた。


「まあ、なんですのこと? そのお下品な筒は」


「そんなに興味があるなら開けたところに出な。一撃で赤いジグソーパズルにしてやっから」


 私は構わずボンボン撃った。


「あら、そんなにバカスカ撃ち散らかして大丈夫ですのこと?」


「大丈夫じゃないだろ。魔物さんたち、今からポンペイになるところだしな」


「わたくしは魔物の心配などしておりませんのことよ?」


 エンヴィリッタはあきれた調子でファサリと扇子を開いた。

 その向こうから青い冷めた目が私を見ている。


「あの黒キツネのことを申し上げているのですわ」


「……ぇ?」


 ぼこん、という砲声がひと際大きく聞こえた。

 遠雷のような爆音もずっと間近に感じる。


「おい、てめえ。なんの話だ?」


 私はエンヴィリッタに詰め寄った。

 声が震えていた。


「黒キツネってのはツネッコのことだよな」


「ほかに誰がおりますの? あの黒キツネ、領主邸でいじめられておりましたので、わたくし、ひとつアドバイスを差し上げましたのよ。黒髪でも魔王軍の秘宝を盗み出してくれば認められる、と」


 魔王軍の秘宝。

 というと、アダマンタイトの剣のことか。


「あの黒キツネ、意気揚々と出て行きましたのことよ。今朝のことですわ。首尾よく要塞に忍び込んでいれば、あなたのお下品な魔道具で爆――」


 気づけば、私は渦巻きの顔に拳をめり込ませていた。

 べぎん、と何か折れるような音がするが、んなもん、どうでもいい。


「ツネッコ……!」


 眼下で轟音が響く。

 要塞が雪崩のように崩れ落ちていくところだった。


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