33 ヒュッポース要塞
リトマスから馬でパカラうこと3時間。
馬の背のような山のいただきで私はあっけに取られていた。
山の向こう側は茶色of茶色。
地平線の彼方まで不毛な荒野が広がっている。
一方、こちらは緑の草原とターコイズ・ブルーの森。
線を引いたようにくっきり景観が分かれている。
空の色まで違いやがるぜ。
「まるでぶった斬った2枚の風景画を強引に引っ付けたみたいだ」
「言い得て妙ニャ」
アルニャンが小枝を拾って振り下ろした。
えいっ。
「その昔、伝説の勇者が世界を両断したのニャ。それで魔界と人間界に分かれたのニャ」
「それ、ホンマに? 勇者すっげえな。500メートルくらいありそう」
ということは、あっちの茶色いほうが魔王領か。
ヒュッポース要塞はすぐ見つかった。
荒野の中に、半ば砂に埋もれるようにして建つ石造りの要塞。
大きさの違う石材をデタラメに積み上げた城壁は、遠目にもだいぶ歪んで見えた。
「素人の手造り感パないね。美感の欠片もねえ」
「勇者が斬ったのは世界だけじゃなかったのニャ。豊穣と荒廃を分かち、美醜も両断したのニャ」
豊かで美しい人間界と、荒れ果てた醜い魔界。
「魔物が人間を襲うのは羨ましいからニャン」
リア充爆発しろ、みたいな感じか。
気持ちはすっげえわかるわ。
寝返ろっかな。
「さぁーて、どう攻めますかねー」
手頃な岩に腰かけて、私はヒュッポース要塞を見下ろした。
膝に乗ってきたアルニャンの頭に、さらにBランクギフトの望遠鏡を載せて観察してみる。
「重いニャ……」
「わー、見て見て。魔物がうじゃうじゃいるー」
「見えないニャ……」
「じゃあ、私の実況を耳で楽しめ。えー、ゴブリンっぽいのがうじゃうじゃいます。弓矢持ってます。おおっと、城壁の上で目を光らせている!」
「耳元でうるさいニャン……」
アルニャンは辟易としてボルテックス号の鞍に移った。
ちなみに、ボル公は今、ウマそうに草を食んでいる。
「日があるうちに忍び込むのは難しそうだな。隠れられそうなところもないし」
アッシディウスには敵将の首をとってこいと言われている。
でも、当の依頼人も本当に私が首級を持ち帰るとは思っていないだろう。
うまくいったらラッキーくらいの感じだ。
だから、必死こいて万歳突撃をかます必要はない。
ダメだったらダメでしたですむ話だ。
そもそも、戦争ってのは頭が貧弱なアホか、頭までマッチョなアホがやるもんだ。
私はどっちでもねえ。
アホどもの喧嘩なんてものはな、高いところから見下ろして笑うのが正解なんだよ。
「そんじゃ高みの見物作戦といきますか!」
私は膝を打って立ち上がった。
幸いにして、ヒュッポース要塞は眼下に見える。
ここは特等席だ。
「石でも投げるのかニャ?」
アルニャンが片目だけ開けて言う。
「さすがの私でも、こっからじゃギリ届かないだろうね」
「手前までは届くのヤバいニャ。ドン引きニャ」
「そこは絶賛だろ常考」
私は今、70GP持っている。
カタログギフトのストックは使いかけも含めて10冊。
この中には遠くの標的をミンチに変えるクレイジーな調理器具もたくさん載っている。
今が使い時だろう。
「ロケットランチャー、大型投石機、自爆ドローン、長距離爆撃魔法のスクロール……」
どれを選ぶかで、結果が変わりそうだな。
「そういえば、いいもん持ってんだった」
女神のありがたい贈り物『カタログギフト再発行チケット』――。
これでまた選択肢が広がった。
過去ログにも魅力的なギフトがいっぱいだ。
「風麗竜はどうニャ?」
ひょこっ。
また可愛い後頭部が紙面を半分隠した。
「誘拐事件のときの召喚獣特集か」
ヒュレイドラは強大だ。
リトマスが滅びかねないくらいだから、要塞なんか朝飯前だろう。
「でも、こいつ、有効期限が30分しかないんだよなー」
私の命令に従うのは30分だけ。
もし、攻城の途中で期限切れしたら、最悪、敵方に寝返るとかもある。
ほんと最悪だ。
リトマスの滅亡率が1万倍くらい跳ね上がる。
諸々を考慮した結果、ベストな選択は――
「これだな!」
私はチケットを消費した。
エセ・アメリカーンな雑誌から、イイ感じの狂気を召喚する。
ふおおぉ~~んん!
現れたるは、――黒い筒!
パッと見、大砲!
でも、敵は空にありとばかりに上を向いている。
「なんニャこれ……」
「え、迫撃砲」
名前はM……ナンチャラカンチャラ。
曲射砲の一種で、空に向かってぶっ放す。
私は迫撃砲の横にあぐらをかいた。
分厚い砲撃マニュアルを膝の上に広げる。
「取説は読まずに知らん人の墓前に供える派だが、今回ばかりはさすがに読むっきゃないな。……って英語じゃねえか!」
知っている英単語と数字、雑なイラストから読み解くと……。
砲弾は60発。
射程は100~3000メートルほど。
砲口に砲弾を落とせば勝手に弾が飛んでいくらしい。
「だいたい把握した! さっそくやっちゃおう!」
「……ほんとかニャ?」
アルニャンがそわそわと離れていった。
死ぬときは一緒って約束だろうがよ。
ここにいやがれ。
迫撃砲はいったん空に撃ち上げるから、間に障害物があってもOK。
それが利点。
要するに、山陰からこっそり撃てる。
Bランクギフト【遮音魔法のスクロール】で砲声を隠せば、こちらの居場所が割れることもない。
わいは地上のステルス爆撃機やで。
「このくらいの角度でいいのか?」
私は新兵みたいな落ち着きのなさで砲弾を手に取った。
「ほい」
砲口に投入。
ぼごん。
まあまあの音がして、どきっとする。
でも、やまびこは返ってこないから、消音はできているはず。
「……」
5秒経った。
まだ何も起きない。
「……?」
10秒経過。
全然何も起きない。
のどかな雰囲気の中に、
「ニャー」
と、猫の鳴き声がしただけ。
ちなみに、鳴いたのは私だ。
アルニャンとボルテックス号が白い目を向けてくる。
そして、――カッ!
要塞の物見やぐらで火の手が上がった。
何秒かして、どかーんと爆音が到達。
「あ、当たった」
物見やぐらが横倒しになって、釣鐘がぐわんと大きな音を立てた。
ドミノ倒しで隣のやぐらが倒壊。
連鎖的に城壁が引きずり倒されて、砂塵が要塞を覆った。
崩壊のピ○ゴラスイッチだ。
「oh……」
まじ?
あと59発あるんやが。




