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32 ミニ……


「おっはああーっ!」


「にゃっふぅぅー!」


 草原。

 髪をさらっていく風が気持ちいい。

 ちょっとした丘陵地になっていて、眺めも最高だ。

 晴れ渡った青空の下で風に吹かれていると胸の中を洗われる気がする。

 厄介事を背負わされてろくでもねえ気分だったけど、ちょびっと回復した。


 私は来た道を振り返った。

 まだリトマスの町が大きく見えている。

 風が草原に光る波を走らせ、城壁にぶつかって砕ける。


「ここが明日には戦場になるのか……」


 そして、それを阻止するのが私の役目、と。


「とんでもない無茶ぶりだよな」


 ま、文句言ってもしゃーない。

 やるっきゃねえなら、やるっきゃねえ。


「あひーん!」


 と馬が鳴く。

 今回の依頼のためにとアッシディウスが貸してくれた馬だ。

 名前はボルテックス号。

 リトマスいちの名馬という肩書きは伊達ではないらしく、マヌケな鳴き声に反して競走馬みたいに隆としている。

 魔物と掛け合わせた子らしい。

 角が生えてて、かっけー。

 ただ、たてがみが渦巻きなのは堪忍ならん。

 散髪しとく?

 いい剣、持ってんだ私。


「目的地のヒュッポース要塞はここから3時間ほどパカラったところだってさ」


「シーナは馬に乗れるニャ?」


「乗れるにゃよ?」


 私はカタログギフトの技能スキル特集を引っ張り出した。

 Bランクギフト【騎乗(3GP)】があれば事足りる。

 でも、今回は馬上戦も想定される。

 いちおうAランギフト【馬上戦闘術(7GP)】も習得しておくか。

 有効期限は10日。

 今日から10日間、私は天下無双のパカラッパーだ。


 ついでだ。

 馬上で使えそうな武器も見繕っとくか。


「今日のカタログギフトは……おん?」


 なんと全部英語だ。

 銃のカタログギフト。

 ミリタリー特集。

 どのページにも黒々とした物騒なものが並んでいる。

 アメリカとかなら、こういうのもあるのか。

 ……と思ったが、ん?

 ちょいちょい出てくる国旗が星条旗じゃない。

 星の数は30個くらい――しかも六芒星で、縞柄も赤と白ではなく緑と黄色だ。

 ナンチャッテ星条旗。


 これ、たぶんアレだな。

 私のいた世界に似ているけど、少しずつ違う世界のカタログだな。

 女神はたまに謎世界の謎ログギフトを送ってくる。

 この前は蒸気機関で空を飛ぶホ○ダのバイク特集だった。

 いろんな世界があるんだな。


「シーナ。この黒いの、なんニャ?」


「まあ、魔道具みたいなものだよ。指1本でムカつく奴をぶっ殺せる、ね」


「人間はおっかないことばかり考えるニャね。どれにするのニャ?」


「うーん。私は銃、詳しくないぞ?」


 アルニャンの後頭部で半分紙面が隠れて見えない中、ぱらぱらとページをめくり、――お!


「このMiniナンタラでいいか」


 私はよさげなのをポチった。

 ミニというぐらいだから私でも扱えるだろう。

 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。


「あれ、10GPも引かれている……」


 私はとてつもないミスをしでかしたことに気がついた。


「あれ、これってSランギフトじゃん」


 そして、――ごどん。

 そいつは緑の草原に降り立った。

 黒い塊……。

 なんだろう、大砲?

 に似ている。

 でも、砲身は太いのが1本ではなくて、細いのが6本束になっている。

 で、ごっつい三脚の上に載っている

 座るところまでついている。

 垂れ下がっている黒いベルトみたいなやつは、銃弾が連なったものだった。


「えっと……ウン? うん!?」


 これはアレか?

 ガトリング砲ってやつか?


「でけえよ……」


 どのへんがミニだよ!?

 何に対してミニ?

 宇宙に対して我らの存在などミニにすぎない的な?

 巨人向けの銃ですってか。

 私向けじゃねえのは確実だ。


「弾数1200発だってよ。そんなに何に使うんだよ」


 ミニって書いてあるから、私ゃてっきりBランクくらいショボい銃が出てくると思っていたよ。

 女スパイとかが隠し持っていそうな小口径拳銃だ。

 こんなもん出されても困るわ……。


「ふんぬぅ!」


 10倍にした私の筋力ならギリ持ち上がる。

 でも、ボルテックス号には載せられそうもない。

 せっかく召喚したのに持ってけねえ……。

 ドチキショー。

 10GP無駄にしちまったぜ。


「出鼻くじかれちゃったよ。今日はもうロクな日にならないぞ」


「ちゃんと読まないシーナが悪いニャ」


「んだとぉ?」


 私はアルニャンの柔らかいお腹をもみゅもみゅした。


「全部アルニャンが悪い。ちっちゃくて可愛い後頭部しやがって。つい目を奪われたじゃねえか。どう落とし前つけてくれるんでィ!」


「ニャー。仕方ないニャ。なでさせてあげるニャよ」


 アルニャンは私のスネに体をこすりつけ、そのまま足の甲にこてっ、と倒れ込んだ。

 あ、かわいい……。

 よし、全部ゆるした。


「このデカブツはここに置いていくか」


 私はアルニャンを頭に乗っけて、ボルテックス号に飛び乗った。


「見ろよ、ぎゃはは! このデカブツMini野郎、こんなところにポツンと野ざらしだぜ。私はこのまま草原の彼方に行くから、そのうち豆粒みたいに小さくなるな。ミニガンやん! 頭おかしい!」


「おかしいのはシーナニャ……」


 今更だけど――


「アルニャンは宿でごろごろニャーゴしててもよかったんだぞ? これから行くところ、絶対面白くないからな。まじカスみたいなところだからな」


「ボクはシーナの頼れる相棒ニャ。たとえ火の中水の中ニャン」


 頭の上から大きな瞳がヒョイと覗き込んできた。


「あんたは可愛い奴だねえ。よし! そんなら死ぬときは一緒だ。殺されそうになったら絶対離さないからな、アルニャン!」


「迷惑すぎるニャ……」


 ボルテックス号はパカラッ、パカラッ、と軽快な音を立てて走り出した。


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