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30 招待状


「聞いたぜェ、ギャハハ! 今度は魔王軍の幹部をぶっ殺すんだってなァ! やるじゃねえか、漆黒のォ! ギャハハハハッ!」


「ぎゃは…………は?」


 私は筋肉の山みたいなドエリザベスを見上げて、首をかしげた。

 冒険者ギルドに居合わせた冒険者たちが餌をまかれたハトみたいにバタバタ寄ってくる。


「すっげえ! すげえよ、シーナさん! 魔王軍の要塞に突撃すんだろ!」


「シーナさんならマジやってくれそうだな! 魔王軍の幹部なんざ踏み潰しちまえ!」


「シーナさんは本当に素敵な方ですね。ご友人であるエンヴィリッタ様のご結婚を祝うためにアダマンタイトの剣を求められるなんて。これぞ真の友情です!」


 リズまでそんなことを言っている。


「なんで周知の事実になってんだよ……」


 渦巻きが押しかけてきたのが3日前のことだった。

 こちとら、どう断ったものかと苦慮していたところだってのに。


「オホホ! わたくしとルシウスのンン結婚式ですもの! 町じゅうに周知するのは当然ですのことよ!」


 エンヴィリッタがババンと登場した。

 ンン結婚式ってなんだよ?

 その「ンン」どこから持ってきた?

 置いてあった場所に戻して来いよ。


「既成事実化でございますわ! 先方にも連絡済みですのことよ! もう引っ込みがつきませんわね、シーナ・カタギリ! オホホ!」


 引っ込みがつかないのはお前だろ。

 私がアダマンタイトの剣を持ち帰ったら、公衆の面前で溶かしてもらうからな。

 愛の熱量とやらでな。

 できなかったら笑ってやらァ。


「ん? 先方にも連絡済み?」


「あー、非常に言いにくいのだが」


 渦巻きの傍らでルシウス君が青白い顔をしている。


「エンヴィリッタはヒュッポース要塞に矢文を射込んだらしいんだ。結わえたのは……結婚式の招待状で」


 魔王軍に矢文……。

 敵をわざわざ晴れ舞台に呼ぶわけがない。

 つまり、その招待状というのは……。


「末尾にこう記しておきましたの。ぜひ首のみでご列席くださいませ、と」


「ドアホォ!」


「びゃ!?」


 得意げに胸を張るエンヴィリッタを強めに張り倒す。

 要するに、宣戦布告じゃねえか。

 お前らの首の披露宴をやってやらァ、って意味じゃねえか!


「剣1本盗み出すだけだし、黙って忍び込めばワンチャンあったかもしれねえのに、わざわざ犯行予告出したんか、このアホは! マジくそだな。いらんことしない分、カタツムリのほうがマシだオラ!」


 私はアホをゲシゲシ蹴った。

 みんな、こいつでサッカーしようぜ。


「こいつの頭が糞なのは、きっとこいつの尻が脳ミソひり出す欠陥品だからに違いねえ。よって、入念に尻を蹴るのが唯一の解決法だオラオラオラ! いや、頭に詰まった糞を耳からかき出すのが先かア?」


「シーナ、さすがに口が悪すぎニャ……。あと、高そうな馬車がギルドの前に停まったニャよ?」


 アルニャンが尻尾で表通りのほうを指す。

 扉がばかんと開いて、バタバタと衛兵たちが乗り込んできた。

 その後から現れたのはリトマス領が領主、アッシディウスである。


「エンヴィリッタはおるか! 我が娘はどこに!」


 アッシディウスは憤怒と焦燥、半々といった顔に大量の脂汗を浮かべている。

 トレードマークの渦巻きひげも乱流気味だ。


「あんたンとこのアホならオラ! ここでお行儀よく寝てるぜ? これからこいつをどう始末するか考えるところだァ」


 私はエンヴィリッタを椅子にして山賊みたいに笑った。

 アッシディウスは一瞬言葉を失ったが、すぐに活火山みたいに真っ赤になる。

 ただし、噴石とマグマの向かう先は私ではない。


「始末してくれて構わん! いい加減、愛想が尽きたわ!」


「アッシディウス、何かあったのか?」


 と、ルシウス君が問う。


「今しがた魔王軍から矢文があったのだ」


 アッシディウスは渋面に滝のような汗をしたたらせて言った。


「……戦争になる」


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