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26 闇魔法と光のお誘い


「我、常闇に触れ、影なる衣を羽織らん。ンンンン影纏カグマァ! ……お、でけた!」


 私の虚像すがた実像わたしから切り離されて、お猿さんみたいにキッキと喜んでいる。

 苦節3日――。

 ついに、わいも魔法が使えるようになったッキー。


「やっぱ才能あるんやな、わい。天才なんやな」


「あ? オレの教えがいいからだろ。姉御はせいぜい凡人レベルだっつの」


「魔法名をつぶやく前に、ンンンンって溜めるのがコツやな!」


「んなコツねえよバーカ。魔力をぎゅんって感じでズバアアっつってんだろ!」


 魔法指南役のツネッコは大の感覚派だ。

 私が必死に練習している横で、狂ったインコみたいにずっとオノマトペを連呼していた。

 ぷぎゅんぷぎゅん!

 みょぎぃいいい!

 ほんぎょおおおおおおおおおお!

 ……頭おかしいんかと思ったわ。


「小声で詠唱すると魔法の効果も減るんだね」


「魔法ってのは世界との契約で成り立ってっからな。世界ってでけえだろ? 小っさい声だと聞こえねえんだろーな」


 となると、全力で魔法をぶっ放つには、相手にクソデカボイスで手の内を明かす必要があるのか。

 これからあああ火の玉ああああ撃ちまああああああああっす!!

 ふぁいあああああああ!!

 ……滑稽だな。


「あらかじめ詠唱しておけば、魔法名をつぶやくだけで発動できるんだっけ?」


「おう。事前詠唱セットってんだ。でも、弓引いてんのとおんなじだから、けっこー疲れるぜ?」


 ひとつしか魔法を使えないくせに、ツネッコは辣腕教師みたいに雄弁だった。


「さて」


 私は窓辺で日向ぼっこしているニャンコを頭に載せて、剣を取った。


「私ゃこれから冒険だ。ツネッコ、あんたはどうするね?」


「オレも冒険行きてえ! 魔物と戦う!」


「勇ましいねぇ。自分からオトリ役を買って出るなんて」


「なんでオトリなんだよ! やっぱ行かね!」


 ダメと言えば食い下がる。

 それを見越してうまくあしらってやった。

 やっぱ、わい天才や。


 ツネッコはベッドに突っ伏してバタ足している。


「あーあ、今日も暇だぜ。盗みで食ってたときのほうがやることあって楽しかったなー」


 やることがない、か。

 そりゃ困った。

 暇を持て余して妙なところに入り浸ったり、怪しい連中とつるんだりする前に、どこかに居場所を作ってやらないとな。


 宿屋通りから徒歩数分。

 冒険者ギルド・リトマス支部に到着。

 中に入るやいなや視線という視線が私に集まる。


「あれが『漆黒』か。思ったよりちっせーな」


「あのナリでドエリザベスより強ぇんだってよ。ドラゴンまで逃げ出しちまうほどさ」


「あのプライドの高けェ風麗竜が睨まれてシュンとしてやがってよ。マジでビビり散らかしてたかんな」


「リトマスに来てまだ半月かそこらだってのに、もう領主お抱えだってんだから、すげえよ」


「ああ、もう人間じゃねえ。イカレてやがる。来年あたりには王断魔鋼アダマンタイト級になってんじゃねえか? 人間じゃねえよ」


 人間だわ。

 2回も言ってんじゃねえよ。

 3回目はねえからな?


「はあ……」


 ここ最近ずっとこの調子だ。

 冒険者は主婦より噂好き。

 情報交換は大事だろうけど、勝手に交換される私はたまったもんじゃない。


「あ、シーナさん!」


 受付嬢のリズがカウンターテーブルの奥から笑顔を投げかけてきた。

 そして、隣にいる受付嬢に目を移した。


「シーナさんが来てくださったわ。人間やめちゃってる人用の超・高難度依頼、持ってきてくれるかしら」


「はい、リズさん! 竜の群れとか暴走古代兵器とか倒すアレですね! すぐお持ちします!」


 なんだ、その人外案件は。

 嬉々として取りに行くんじゃねえ。


「シーナさん!」


「ああン?」


 チンピラ顔で振り返ると、世界中の光を集めて作ったような輝かしいイケメンがいた。


「あぁん! ルシウスきゅぅん!」


 私は途端に乙女になった。

 がに股も内股に変わる。

 手提げかばんみたいな持ち方をしていたアルニャンも、胸の中に抱いてやる。

 こうして顔のそばに抱いていれば、小顔効果あるんじゃね!?


「ねえねえルシウス君さあ、みんなひどいよね? 私のこと人間扱いしてくれないんだ。私ってバケモノなのかな?」


 私は小顔効果を最大化するべく、アルニャンを前に突き出した。

 その分、私は引く。

 見よ、人類はこれを遠近法と呼ぶ!


「バケモノだなんて、そんなことないよ。シーナさんは素敵な人だ」


 ルシウス君の笑みが太陽みたいに照り付けてくるので、私の顔では猫型の月食が起きていると思われる。

 シーナさんは素敵な人だ。

 シーナさんは人だ。

 人だ!

 とぅんく!


「リズさん今の聞いた!? ルシウス君が私のこと『人だ』って言ったよ!」


「ルシウスさんがおっしゃりたかったのは、そこじゃないと思いますよ、シーナさん」


 白い目が返ってきた。


「つか、ルシウス君が一人なの珍しいね。いつも目が回りそうな髪の奴、連れているのに」


「今日は休みをもらったんだ」


 そう言った後でルシウス君は少しそわそわした。

 じゃあ、私はワソワソする。

 ワソワソワソー。


「シーナさん」


「はいはい」


「その、よかったら僕と食事でもどうかな?」


 リズたち受付嬢がきゃああ、と黄色い悲鳴を響かせた。

 冒険者たちもヒューヒュー。

 チッうるせえな。


「奢りなんだろうね?」


 私は照れ臭いのを誤魔化してぶっきらぼうにそう答えたのだった。


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