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25 私側


「ふっほ。獣人の子かわええ……。ケモ耳生えてるぅー! 尻尾ふっさふさー!」


「さ、触ってんじゃねえよ!」


「あー、でも、シラミとかいそうだな……。この世界の連中、全体的に不潔なんだよな」


「んだとぉ!? オレにシラミなんて――」


「おし、吸う前に洗うか!」


「聞ッけッよ! つか、吸うってなんだ!?」


 私はカマキリみたいに威嚇してくるツネッコをマッパに剥いた。

 首根っこ掴んで水たらいにぶち込み、Cランクギフトのシャンプーでバシャバシャ洗う。


「はえー。尻尾の付け根、こうなってんだ。やっぱ尾てい骨から生えてんのか?」


「ひゃうあ!? そ、そんなとこ見てんじゃねえ! あぶくぶくぼぼぼ……」


「お、耳4つあるんか」


 人耳とケモ耳がそれぞれある。

 用途に違いとかあるのだろうか。


「中で繋がっているなら、ケモ耳から入れた水が人耳から出てくるかも。鼻から出てきたらウケるなギャハハ。やってみよー」


「試そうとしてんじゃねえ! 離せよ、このゴリラパワー女!」


 ツネッコを飼うことにした。

 私は綺麗好きだから、念入りに洗わないとな。

 ボロ切れみたいな服もなんとかしないと。


 そんなわけで、中央通りの瀟洒なブティックへ連れ込む。


「私、弟が欲しかったからな。お前は男装させて弟扱いしてやるヒヒッ」


「いや、怖えよ……」


「シーナは怖いニャよ? 素手で魔物ぶっ飛ばすニャ」


「マジ怖えよ……」


 ツネッコは尻尾と耳を垂らしてしまった。

 しゅん。


「でも、シーナは優しいニャ」


 売り物のセーターの上で香箱座りしていたアルニャンが目を閉じたままそう言う。


「それはオレもなんとなくわかる気がする……」


 そこまで言って恥ずかしくなったのか、ケッとそっぽを向くツネッコ。

 ええよ、ええよ。

 私はそういう小生意気な感じな弟が欲しかったんよ。


「んっほ! 似合うング!」


 馬子にもなんとやらだ。

 男の子の服を着せたツネッコはキラッキラの美少年に変貌を遂げていた。

 将来イケメンになりそうな予感しかない!

 女子高ならファンクラブできるやつだ!


「うおい、お姉ちゃんって呼んでみろよ」


「顔怖えよ……」


 ツネッコは新品の生地に鼻をうずめて嬉しげに尻尾を振った。

 そんな微笑ましい姿を誤魔化す感じで、ぶっきらぼうな顔をする。


「でも、いいのか? オレがこんな綺麗なもん着ちまって」


「いいんだよ。ダメって言う奴はもう私が全員殺して埋めた。だから、誰もダメって言えないよ」


 私はツネッコの双肩をむんずと掴んだ。


「そ、それじゃフフ、吸わせてくれる? 一回で吸い尽くさないようにちょっとずつ吸うからさ。ね? いいよね?」


「やっぱ怖ェよ、この人……。ま、まあ世の中ギブ&ベイクだかんな。吸うぐらいなら許してやらぁ」


「焼いてどうすんだよスウウッハアアアアアアアアアア!」


 尻尾から香ばしい匂いがした。

 アルニャンが「ボク以外を吸ってるニャ……」って顔で見てくる。

 無視だニャ。


「見てママ。あの人たち、へん」


 通りすがりのチビ助がこっちを指さしている。

 黒髪2人の組み合わせは目立つよな。

 ほかの通行人も、そうする義務でもあるみたいに一瞥くれていく。


「指さしちゃいけません。指を噛みちぎられますよ」


「ママ、こわいよぉ」


「食べられる前に早くいらっしゃい」


「はーい!」


 黒い尾がぶわっと逆立った。

 怒髪天をつくの尻尾バージョンだ。


「おいてめえ!」


「どうどう」


 私はツネッコの脇に手を差し込んでフォークリフトっぽく持ち上げた。

 おニューの靴がギャグマンガみたいに空転している。


「なんで止めんだよ、シーナの姉御! 舐められたままじゃ、もっと舐められるぞ!」


 それはひとつの真理かもな。

 でも、正解とは限らない。

 立場が悪化することだってある。


 ツネッコは耳をしゅんとさせた。


「なあ、シーナの姉御。一緒に魔王軍に寝返らね? あんな糞みたいな連中も、こんなカスみたいな町もいらねえよ、オレ」


「寝返ってどうすんの?」


 魔王四天王を目指すとか?

 おもろそうやん。


「知らねえよ。盗みで生計立てりゃいいだろ?」


「人間側を裏切って魔王側から盗むの?」


 論理的破綻を指摘すると、ツネッコはムキになった。


「なら、オレは魔王軍最強の盗賊王になる! で、人間側のお宝全部ぶん盗んで大富豪になってやる!」


 またすごいこと言い出したな。


「アルニャンの兄貴、オレに盗みを教えてくれよ? なあ、いいだろ!」


「ダメだニャ。キミは自分のために盗もうとしているニャ。それじゃ本物の盗賊王にはなれないニャ」


 こっちも妙なこと言い出したよ。

 まともなの私だけかよ。


「あ? 自分以外のための盗みなんてねえだろ?」


「あるニャ。ボクの盗みがそうだニャ。これまでも盗みで数々の人を幸せにしてきたニャ。話せば長くなるニャけど、あれはボクがまだ――」


「回想ハラスメントいくないぞ。勝手に過去に跳ぶな」


「ニャあごぉ……」


 私はツネッコにフードをかぶせてほっぺをぐりぐりした。

 モチ肌たまらん。


「人間側とか魔王側とかどうでもいいじゃん。ツネッコ、あんたは私側になりな」


「姉御……」


「寂しいなら、おてて繋いでやんよ」


「い、いらねーし別に」


「ニャー」


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