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24 ツネッコ


「おい、ガキんちょ。アレだ。飴玉食わせてやるから、全部忘れてウチさえんな?」


 私は引き攣り笑顔で、こっちゃ来い、こっちゃ来いと手招きした。

 屋根裏を覗いたら人がいました。

 ホラーかよ、怖いっつの。

 子供だと倍怖い。

 アルニャンと一緒だったから悲鳴上げずにすんだが、一人だったらショック死する自信ある。

 異世界の座敷わらしはケモ耳ですかよ……。


 そのケモ耳っ子は威嚇する小動物みたいに尻尾の毛を逆立てている。

 耳と尻尾の感じからしてキツネ系の獣人だな。

 毛並みは真っ黒。

 私と同じ黒髪だ。

 たぶん、女の子。

 男の子も真っ青な目つきの鋭さだが。


「なんてもの盗んでくるんだ、この馬鹿」


 私はほこりまみれになっているアルニャンをキッと睨んだ。


「だから、違うんだニャ! きっとそいつ、邯鄲かんたん師ニャ!」


 邯鄲師。

 別名、枕荒らし。

 旅館で寝ている客から金品を奪うクソ野郎。

 たしかに、私たちを見るキツネっ子の表情は、怯えより敵意が勝る。

 ま、さすがの盗っ人妖精でも人間の子供をかすめ取るのは無理あるか。

 サイズ的に。


 きょろきょろ。

 キツネっ子は逃げ場を探している。

 しかし、ここは天井裏だ。

 逃げ場なんて私の足元――羽目板が外れているところしかない。

 幼い目にギンと光った。


「我、常闇に触れ、影なる衣を羽織らん――」


 詠唱。

 なんの魔法だ?


「――影纏カグマ!」


 盗品の陰から飛び出してくるキツネっ子。

 その姿が一瞬ブレた。

 タッタッタッ!


「ッ?」


 キツネっ子の位置と足音が聞こえる場所にズレがある。

 幻影魔法の類か。


「甘いわ!」


 私はズハアアア、と息を吸い込み、身体能力10倍の肺活量で一気に吐き出した。

 バカみたいな風が吹く。

 それが厚く積もったほこりを巻き上げた。


「んみゃギゅ、ふぁあ……!?」


 キツネっ子がほこりの渦に巻かれてひっくり返る。

 そのまま羽目板を突き破って、私の部屋のベッドに落ちた。


「えっくしぇええンン! ひくじぅ! ぷえええっしょぉぉンン!」


 くしゃみ連発。


「どうだね? 私の無詠唱風魔法『ほこりバアアン』の威力は」


 私はむふん、と胸を張った。


「な、何しやがるチキショー! びえっしゅん!」


 キツネっ子は涙目で戦意喪失だ。

 捕獲完了、と。


「あんた、枕荒らし?」


「だったらなんだってんだよ!」


 開き直る感じで、目が挑発的だ。

 身なりがボロっとしているし、たぶん孤児だな。

 枕荒らしで生計を立てているのかも。


「説教食らう筋合いはねえ。さっきの会話聞いたぞ。お前の連れも泥棒だろ、ババア! ――ヴゃ!?」


「私はババアじゃねえ。お前が糞ガキだから、私が大人びて見えるだけだ。目線より高いところにあるものが全部エベレストだと思うなよ? 殴るぞ、オラ」


「もう殴ってるニャ……」


 ほんとだ。

 私の拳にいつの間にかフルオート制裁機能が搭載されていたらしい。


 壁際に追い詰められたキツネっ子は活路を求めてアルニャンを見た。


「なあ、お前! 凄腕のドロボーなんだろ? そのババ……お姉さん裏切ってオレと組めよ! オレと組めば毎日盗ませてやるぜ?」


 それ、メリットなのか?


「魅力的な提案だニャ」


 魅力的なのか?


「でも、それには及ばないニャ」


 アルニャンは私の肩にぴょんと飛び乗った。


「シーナも毎日盗みをさせてくれるニャ!」


「おい、語弊!」


 私はあきれをため息で表現しつつ、乱れたベッドにどっかり腰を下ろした。


「ま、なんだ。私の連れもカスだし、あんたをどうこうするつもりはないよ。でも、盗みなんてやめときな」


「じゃあ、オレも飢えて死ねってのかよ?」


 オレも。

 その一言に異世界の過酷さが如実に表れている気がした。

 キツネっ子は自分の黒い髪を忌々しげに引っ張った。


「オレは魔王の眷属だからな。どこ行っても、嫌われちまう。同胞からも厄介払いされた。もう盗みでもしなきゃ食ってけねえんだよ」


「ふむ……」


 私は依頼で結果を出しているから、冒険者としては認められつつある。

 でも、町を歩けば奇異の目にさらされる。

 たぶん私が困っていても助けてくれる人はいないだろう。

 私がそういう連中を軽蔑しているように、この子の目にも周囲の人が敵に見えているのだ。

 ……よし。


「おい、キツネっ子。名前は?」


「ねえよ。名前ってのはつける奴がいなきゃ、ねえままなんだよ」


「そーかい。なら、私がつけてやろう。キツネっ子だからツネッコでいいや」


「テキトーに変な名前つけてんじゃねえ!」


「私のことはシーナ様とお呼び! 女王様も可!」


「うるせえ! お前なんかババア様だ!」


「ほう。舐めた口利けなくしてやる必要がありそうだな」


 指をゴキゴキ鳴らしながら詰め寄ると、ツネッコがごくりと小さな喉を鳴らした。


 ツネッコは肋骨が浮くくらいの痩せっぽちだ。

 なので、宿屋の1階にある食堂で飯をたらふく食わせてやった。


「どうだ? もう二度と舐めた口利けねえだろ?」


「利けねえです、シーナの姉御! はあはあ!」


 ツネッコはワンコみたいにお座りして舌を出している。

 イヌ科だもんな、キツネ。


「あんたのことは私が面倒見てやるよ。同じ闇属性のよしみでな」


「うるせえよババア。はあはあ!」


 ツネッコはまんざらでもないって顔で具沢山スープを犬食いしていた。

 教えること、多そうだな……。


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