22 お抱え……
「シーナよ、よくぞ我が依頼を成し遂げてくれた」
領主邸に戻ると、アッシディウスがご機嫌で迎えてくれた。
心なしか、あごひげの渦も流速を増している気がする。
「おかげでリトマス家の名誉は守られ、私も物笑いの種にならずにすんだ。そればかりか、流れ竜を撃退し、町の危機を救ったというではないか。本来ならば勲章を与えたいところだが……いかんせん、あまり外には出せぬことゆえな」
「そのへんは撃退報酬だけいただけたらモーマンタイなんで」
正直、私は口封じで殺されるかも、とか思っている。
ルシウス君に斬られるときも、宴会用の剣とやらが実は真剣なんじゃ……、と真剣に思ったくらいだ。
「うむ。君は賢いな、シーナよ。謙虚さの意味をよく理解しておる」
アッシディウスは鷹揚な足取りで応接間を横切り、暖炉の上を見上げた。
そこには剣がかけられている。
「我が家の秘密を知る者は――」
知る者は?
ご、ごくり。
「……我が家で囲っておかねばならぬな。君をリトマス家お抱え冒険者とし、もって報酬とする。これからもよく働いてくれたまえ」
「え、嫌なんだが」
リトマス家のお抱えってことはアレだろ?
今回みたいな尻拭いをこれからもやれ、ってこったろ?
お前らが私を抱えて、私がお前らの汚尻を抱える。
何が報酬だ。
罰ゲームって言え。
ここで斬り合いになるほうが楽しいよ私?
やるか?
やっちゃうか!?
「無論、嫌とは言わせぬ」
「え、すげえ嫌……」
「喜んでくれてなによりだ」
アッシディウスは満足げに頷き、豪奢な椅子にかけた。
ほんとクソだな、この親子。
「どうも娘は付き人のルシウス殿に恋煩いしておるようでな、近頃は冒険者の真似事ばかりでいかん。危険な依頼ばかり受けているようだしな」
ハッピイグリザルのときも言っていたな。
冒険の中で愛を育むとかなんとか。
吊り橋効果を利用して親密になろうってわけだ。
迷惑だ。
オバケ屋敷行け。
「つまり、なんすか? 私にこれからもあのアンポンタンの面倒を見ろっておっしゃってやがりますか?」
「うむ、その通りだ。どうだ? 望外の光栄であろう!」
「ああン?」
「……ぐぬム!? ぐふ、首を絞めるのはやめよムムぐ」
「おっといかん。苦しめる前にこの馬鹿領主、ぶっ殺すとこだった……」
「く、苦しめるのもやめよ」
何が悲しゅうてあの渦巻きアホ女の恋路を助けてやらにゃならんのか。
付き合ってらんね。
テキトーに次の町、行っちまうか。
「私はアルニャンさえいれば、ほかに何もいらないよ? 嘘だけど」
「ニャ! ボクもシーナさえいれば……ニャ? 嘘なのかニャ!?」
「嘘じゃないよー」
領主邸を出たところで、私はアルニャンを抱きしめた。
お日様の匂いがする。
「あの闇魔法は助かったわー」
「ボク、役に立つ相棒ニャろ?」
「おう! もうペット呼ばわりしないよ。あんたは私の相棒だ」
「嬉しいニャる!」
私の腕に小さな頭をぐりぐりこすりつけて、アルニャンは総身で喜びを表現している。
「じゃ、盗んだもの出して?」
「……ニャむぅ?」
ヘソ天でおニャンコなポーズ。
にゃんにゃん!
「可愛い仕草してもダメだぞー?」
「ニャア……」
アルニャンは肉球付きの猿っぽい手でネクタイピンを差し出した。
大粒の青い宝石が埋め込まれている。
アッシディウスのネクタイが途中から寂しくなったのは気づいていた。
「へへ! 高そうだね!」
これを報酬ってことにしておくか。
「今晩はごちそうだよ!」
「ニャフーン!」




