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悪戯

 クリスが帰った後、ロキは沈んだ表情を見せ、自室にこもってしまった。

 大槻も薗田も、クリスとのやり取りに、なにか刺々しいものを感じてはいたが、どう慰めていいか、はかりかねていた。

 現時点で唯一の頼みの綱ともいえる薗田さえ、


「女の子同士のもめ事は、外野が口を挟んでも解決するものじゃないし。

 盛大にグチでも言ってくれればすっきりするんだろうけれど、ロキはそういうタイプでもないから、難しいわね」


 と、成すすべなしといった態度。他の者ならなおさら、うまい解決方法など思いつくはずもなく。


 そんな周囲の心配をよそに、子供たちは良く遊ぶ。

 施設の裏庭の芝生の上、少年姿のアキとフユ、推定3歳のレヴィは、転げるようにボールを追っていた。

 誘われて、相手にしているうちにつられたのだろう、久しぶりに声をあげて笑うロキをみて、薗田と大槻も笑みを浮かべてその様子を見ていた。

 と、ふいにエンがボールを追っていたレヴィにすっと近付き、後ろから思いきり突き飛ばした。

 足元がおぼつかなく、バランス的に頭が重いレヴィは、当然がごとく顔から地面に突っ込み、うつ伏せのまま大泣きし始めた。エンは、おかしくてしょうがないという風に、手を叩いて大笑いをし始めた。


「ぎゃあああああん、いだいいいい」


「レヴィ! エン、お前、なにやってんだよ」


 ロキが駆け寄り、レヴィを抱き起してエンを怒鳴りつけた。


「ええ、なにって。思いっきり顔から突っ込んで転ぶとか、マジ無様じゃね?」


 ロキは眉を寄せ、転んだ勢いでレヴィの口に入ってしまった芝生を指先でとりながら、優しく慰めた。


「大丈夫か? どこぶつけたの?」


「ここ、ここいたい。うわあああああん」


 レヴィの指した顎を、よしよし、といいながらそっと撫でた。

 その様子を、エンが腕組みして呆れたように見下ろしていた。


「お前さあ、転んだくらいで、怪我するようなタマじゃねえだろ。

 なんですぐ泣くんだよ、いい加減にしろよ」


「いい加減にするのは、お前の方だ」


 レヴィを抱き上げながら立つロキの言葉に、さすがにエンも口を結んだ。


「なに笑ってんだよ。こんな事、何がおかしいんだ?

 これから、二度とこんなマネするな。レヴィだけじゃなく、秋冬シュウトウにもだ。

 レヴィ、今、洗ってあげるからね、すぐきれいになるよ」


 強い怒りに震える目で睨み付けられ、立ち尽くすエンにぷいと踵を返し、泣き続けるレヴィを抱っこしたまま、自室に戻ってしまった。

 ボールを抱えたまま、おろおろと成り行きを見守っていたアキとフユが、おずおずとエンに声をかけたが、顎で「向こうへ行っていろ」という風に突き放され、顔を見合わせてロキの後を追っていった。

 なぜ、エンはあんな事を。

 大槻と薗田も、ただ顔を見合わせるしかなかった。

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