提言
(クリス)
ザリザリとした声が、耳の奥で語りかける。
ニェーボと名付けた、眷属のワイバーンの声。
(なあに?)
(ココニ来テカラノ態度、自身ニ誇レルカ?)
(どういう意味?)
クリスも心の中でイライラと応えた。
(我ハ、クリスノ眷属。クリスノ意思ニ従イ、全テヲ肯定スル。
ダガ、ソレハ、彼ノ方ノ眷属モ同ジコト)
(ロキの眷属たちに気兼ねしているってわけね)
(違ウ)
(違わないわ。ニェーボは、ロキの眷属が怖いんだもの)
(我ガ恐レルノハ、己ノ誇リヲ失ウ事ノミ。
再度問ウ。クリス。己ガ振舞イ、己ニ恥ズベキコトハナイカ)
(何がいいたいのよ!
私の事を全部肯定してくれるっていうのなら、黙っていて)
ニェーボは、わずかに言葉を途切り、続けた。
(我ハ、常ニクリスノ味方。
ダカラコソ、時ニハ諌メネバナラヌ。
敵ヲツクルコトヲ恐レ、ヘツライ、迎合セヨ、ト言ウツモリハナイ。
ソナタガ、己ニ恥ジルコトハナイ、ト、言イ切ルノデアレバ、コレ以上、ナニモイウマイ)
自分自身に対して、恥ずかしい態度?
クリスは、意識して眷属から心を切り離して考えた。
本当は、気付いていた。嫉妬に任せて、ロキに意地悪をしていた。決して、美しい振舞いとは言えない。
自分は、妖魔の呪いを受けたロキを、元気付けるために来たのではなかったのか。けれど、ロキは、へこたれた様子など見せず、健気に耐えていたようだった。もしかしたら、そんな態度に苛ついていたのかもしれない。
その考えに行きついて、ぞっとした。
自分よりずっと濃く神の遺伝子を持つロキが、落ち込んで弱っているところを見たかったのだ。慰めて、感謝され、頼られたかったのだ。その当てが外れて、それで苛立っていたのだ、と。自分は、自分より優れていると思える人が落ち込んでいるのを見て、優越感に浸りたがる人間なのだと突きつけられた気がした。
ニェーボに諌められなければ、きっと気付かなかった。できれば、気付きたくなかった。けれど、気付かぬままに過ぎてしまっていていいものではない。
(ニェーボ)
クリスが、心の中で呼びかけると、眷属がこちらに意識を向けたのを感じた。
(もし、己の振舞いに恥じるところがあったとしたら、どうしたらいいと思う?)
(ソレハ、言ワズトモ、判ッテイルハズダ)
謝るしかない。
自分の罪を認め、許してもらえるまで謝罪するしかない。
ロキに許しを請うためだけではなく、自分の、人としての誇りを取り戻すためにも。
今戻れば、まだ間に合う。けれどどうしても、その勇気が出なかった。
クリスを乗せた車は、故国へ飛ぶ飛行機を目指し、走り続けた。




