思慕(1)
その日の夜。
残業を終えた大槻が、自室に戻るべく施設内の廊下を歩いていると、エンが一人、窓の外を眺めていた。
眷属たちの中でも特にロキとの繋がりが強く、レヴィや清羅が時折、姿を消すことがあっても、ロキのそばを離れずにいるというのに、こうして一人でいるのは珍しい。
「一人なんて、珍しいな」
大槻が、率直に声をかけると、少し沈んだ目で、無理やり笑みを作った。いつもの、基本的に能天気なエンにしては、滅多にない事。こんな表情をするのは、以前、ロキが失踪し、消滅しそうになった時以来。
「ロキの調子は、どうだ?」
「うーん、わかんね」
昼間の事もある。どこか投げやりな言い方に、引っかかるものがあって、エンのそばに立って問い直した。
「どうか、したのか? せめて話を聞くくらいならするが」
「うーん、うん、そうだなあ」
エンもロキと同じく呪いを受け、平常時と違う状態なため、ストレスがかかっているのかもしれない。窓の外を見る目が、うるりと揺れた。
「ロキは、俺の事、必要なのかな、って」
「は……? いや、そりゃ、必要なのに決まっているだろう」
「そう、だねえ、わかってはいるつもりなんだけど」
曖昧な、歯切れの悪い様子に、じっと表情を窺った。
エンは、窓の外を見たまま、ぽつりと話し始めた。
「最近、ロキの感情が読めないんだわ。
繋がろう、近付こうとするほど、見えなくなる。
俺は、今まで、いろんな人間に仕えてきた。
ぶっちゃけ、人間でいうところの、アタマがオカシイってやつもいた。
そいつは、いつも、いつも不安定で。
けど、こんな風に、見えないなんて事はなかった」
「なにか、思い当たる原因とかは?
呪いが関係しているのでは?」
「さあ。全く関係ない、とは、いえないけど、呪いとは違う気がする」
「清羅には、相談は?」
清羅なら、何かわかるかもしれない。と、いうか、自分を含め、現代に生きる人間には、計り知れない話だ。




