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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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6 タイトル詐欺なPR映像

 ある日の午後、その日の訓練を終えたところでコマチたち4人は塾長室へと呼び出された。マルーイ中尉に連れられて部屋へ入れば、メーデル塾長の他、主任教官のタカマツ少佐を筆頭に教官たちが勢揃いしている。


「待っていたぞ。作品のお披露目に主演女優は欠かせないからなっ」

「塾長はこの5日間、PR映像の編集にかかりきりでね。ようやく満足のいく出来栄えになったらしい」


 お呼び出しなんていったい何事かと首を傾げていたコマチたちに、これよりビーチで撮影した映像素材を使ったオリジナルPR映像の試写会を行うと宣言するメーデル塾長。撮影が終わってから今日まで編集作業に没頭していたのだと、教官たちのまとめ役であるタカマツ少佐が裏事情を教えてくれる。責任者がそれでよいのかとコマチに抗議された少佐は、広報といった対外的な仕事が塾長の役割なのだと説明した。


「公開される前に自分の目でチェックできると考えればいい」

「それもそうね。年齢制限がかかるようなシーンがあったら困るもの」


 他人には見せられない映像が含まれていないか事前に確認させてもらえるのは良心的な配慮だとアンリエッタが大型モニターの正面へ陣取る。これから士官学校へ入学してくる若年層を対象としているのだから、視聴年齢が制限されては本末転倒だとその隣へデイジーが並んだ。それもそうかとコマチとフワティーも公開予定の映像を確認させてもらう。


『ここはドンカーツ基地のプライベートビーチ。本日は基地所属部隊のバーベキューパーティーですが、ドンカーツ分校の士官候補生も一部参加しています』


 ナレーションはマルーイ中尉な模様。誰もいない波打ち際を映していたカメラがゆっくり左へ向けられると、獲物のタコを手に海から上がってくるコマチたちが映像の中へ入ってきた。ここで効果音と共に「施設紹介~スイーラ連合法国軍士官学校ドンカーツ分校編~」と大きなタイトルロゴが表示される。あたかも軍広報が提供している紹介映像のひとつであるかのようなタイトルを見てコマチの額に青筋が浮かんだ。


「タイトルからして騙す気マンマンじゃないですか」

「広報局が公開してる映像を参考にしているから、似てしまうのは仕方がない」


 勘違いさせようという邪悪な意図を感じるとコマチが唇を尖らせて抗議したものの、参考とするものは必要だとメーデル塾長は言い張った。映像制作のプロではないのだから高いオリジナリティを求められても困ると首を振ってみせる。


『ドンカーツは熱帯にあるため年間を通じて海水浴が楽しめます。気温は高いものの降水量は少なく、カラリと晴れ渡る日が多いので釣りやキャンプなどアウトドアレジャーには最適な環境と言えるでしょう。シュノーケリングを楽しんできた士官候補生たちですが、どうやら立派なタコを捕まえたみたいですね』


 マルーイ中尉のナレーションと共にカメラがコマチたちへ寄っていく。花柄のワンピース水着を着けて笑顔で手を振る少女にはアンリエッタ・ヘイゲル候補生と、銀ビキニで投げキッスを披露するお姉さんにはフワティー・ペコハラ候補生と字幕での紹介が入れられる。プンスカと頬を膨らませている競泳水着の少女はデイジー・プーコット候補生と紹介されたものの、コマチ・スノウライト候補生と字幕が入ったのはタコをレンズに押し付けられ画面が暗転したタイミングだった。なんだか悪意を感じるとコマチがギリギリ歯を鳴らす。


『資源の回収速度にも限度があるため、採掘部隊はおおよそ40日に1体のペースで砂竜を仕留めています。つい先日、新たにミナミハゼ鉱山が無事に追加されましたので、今日は休暇。ビーチでバーベキューパーティーが開かれ、作戦に参加した候補生たちも招待されました』


 暗転した画面が上へスライドし、パラソルや日除けのテントを設営する採掘部隊の様子が映し出される。夜間作戦に参加した候補生はひとりだけで、ビーチへは料理をするために派遣されたはず。バーベキューへ招待されるのが珍しくもない士官候補生の日常であるかのようなナレーションを耳にして、コマチの表情に不信感がありありと浮かんだ。


『浜からはハゼやキスといった砂底を好む魚が狙えます。岩場ではエビやカニなどが獲れますので、腕自慢の皆さんが楽しんでいらっしゃる模様です』


 再び画面が切り替わると、採掘部隊員たちが砂浜に竿を並べているところが映し出された。形のよいキスを釣り上げたひとりがミテミテと自慢している。


『また、ここドンカーツ基地のプライベートビーチはウミガメの産卵場所であり、運がよければ千匹を超えるカメの赤ちゃんが一斉に海へ向かう様子が観察できるでしょう』


 このビーチは卵を掘り返して食べる不埒者も、産まれたばかりの赤ちゃんを狙う天敵もいないウミガメの楽園なのだと解説するマルーイ中尉。μ大陸は極一部の地域を除いて地表に淡水が存在しないため、水場を必要とする哺乳動物の生息域は限られている。ここは露出した岩盤によって形作られた入り江に海流で運ばれてきた砂が溜まってできた浜だから、砂漠と切り離されていて砂竜や巨大昆虫もいない。大自然の造り出した奇跡の楽園でマリンアクティビティを満喫しましょうと誘うナレーションに、これはただの観光案内ではないのかとコマチは疑問に感じた。


 どこがドンカーツ分校の施設紹介なのかと訝しむコマチをよそに、映像はジュウジュウと美味しそうな音を立てて焼かれる肉串やタコの塩もみをするコマチ、水着の上にエプロンを引っかけただけの姿で魚の下処理をするデイジーたちを映していく。もはやグルメ番組としか思えない映像が続き、候補生の4人ができあがった料理やお酒を手に並んでポーズを決めるシーンが流れた。肉串にかぶりつくデイジーとキスの天ぷらを咀嚼するフワティー、タコ飯をかき込むアンリエッタにから揚げをつまむコマチと食事風景が映され、最後はご馳走に舌鼓を打つ候補生たちを背景にドンカーツ分校は皆様の入学を心待ちにしておりますとマルーイ中尉のナレーションで締められる。


「なんですかコレ? 分校のことなんてひとつも紹介していないじゃないですか」

「第一弾は候補生たちの生活風景に焦点を当てたPR映像ってことにしようと思う」

「どうせ第二弾なんてないですよね?」


 映像が終わると、料理を手にした候補生たちにタイトルロゴを重ねたサムネイルが表示される。まったく分校の紹介になっていないと、さっそくコマチが物言いをつけた。これはまだ第一弾だとメーデル塾長が説明したものの、どうせ第二弾なんて作られないとコマチは信用しない。もっとも教官たちには好評なようで素晴らしいと拍手が送られていた。


「どこがい~んです? こういうのをタイトル詐欺って言うんですよ」

「目的は志望者を集めることだもの。正確な情報より、まず興味を引くことが先決よ」

「充分な候補生が集まらなければ部隊を維持することが困難になる」


 これは悪質なタイトル詐欺だとコマチが言い張ったものの、報道機関ではないのだから目的達成を第一に考えるようスパイル大尉に軍人の心得を説かれてしまった。反発式浮遊デバイスを扱える者が育たなくては採掘部隊を維持できなくなると主任教官のタカマツ少佐も容認の構えをみせる。


「正義はどこへ行ったんですか?」

「正義や悪を定義するのは勝者の特権。それが戦争、それが歴史だ。公正な裁定者など存在しない。つまり――」


 地上から正義は消え去ったのかとコマチが問い質す。だけど、勝利した側の言い分が真実であると歴史に記されるのが戦争というもの。軍人となる以上、そういう世界に身を置いているという覚悟はあって然るべきだとメーデル塾長に静かでありながら断固とした口調で諭されてしまう。


「――やっちまったもん勝ちってことだ」

「絶対に違うと思いますっ」


 終わりよければ、すべてよし。いかなる過程も結果によって正当化されるのが人類社会の理だと両拳の親指を立ててみせるメーデル塾長。そんなはずあって堪るかとコマチがまなじりを吊り上げる。


「第二弾は採掘フェスに向けた訓練風景を撮る予定だ。操手はスノウライト候補生に決定しているが、砲手はまだ決まっていない。君たちにもチャンスは残されているぞ」


 ガルルル……と唸るコマチに、ちゃんと第二弾の企画も進行中だとメーデル塾長が説明する。採掘フェスで開催される士官候補生による競技は、単座の小型機を使ったレースと複座の中型機による模擬戦闘のふたつ。まだ枠は残っているぞと、デイジーたち3名に向けて塾長がニヤリと笑みを浮かべた。


「コマチちゃんが決定済みってことは~、基地に居残りさせられたら毎日丼ものを食べるしかなくなるってことね~」

「ふたりには先に謝っておく。私にも……譲れないものがあるから」

「コマチのパートナーは私なんだから、いつだって一緒よっ」


 今年の開催場所はメンデヤンス王国の拠点都市パスタデアール。μ大陸の西部海岸にある都市であり、北部海岸の中央からやや東に寄った位置にあるドンカーツからは千キロ以上も離れていた。コマチが出かけている間は丼ものしかないとフワティーが誰に向けるでもなく呟く。それを聞きつけたアンリエッタとデイジーが、採掘フェスの出場枠は自分のものだと絶対に譲らない構えをみせる。


「採掘フェスには報道機関も来るはずだ。わが校の候補生が話題になればオリジナルPR映像の再生回数も増えるだろう」

「さすがです塾長。本校からの転籍を希望する候補生も期待できそうです」

「分校の規模が拡大して教官の数が増えれば昇進のチャンスも……」


 一方でメーデル塾長を始めとする教官たちは、報道で顔と名前が知れ渡った後に日常や訓練の映像がありますと広めれば100万再生も夢じゃないと皮算用を語り合う。訓練する候補生が増えれば予算も機材も人員も増やさなければいけないし、そうなれば今はタカマツ少佐ひとりな主任教官も操縦主任、射撃主任、座学主任と部門別に置かれることになる。ポストが増えれば昇進のチャンスも増えるとマルーイ中尉は小躍りして喜んでいた。


 候補生を広告塔に利用する気マンマンな態度にコマチは物申したかったものの、ここで実績をあげておけば広報の職に就けるのではないかと思い直す。本国の軍司令本部には広報アテンダントと呼ばれる女性士官の務めるポストがあって、公式発表を報道機関へお伝えしたり、記者会見の場で報道官をサポートするのが役目。訓練費用の返還義務が帳消しになるまで後方の安全な部署に配属されたいと願っているコマチにしてみれば、これほど都合のよい役職もない。


「意義がなければPR映像を公開したいのだが、よいかな?」

「言いたいことは山ほどありますけど、母校のためと思ってここは黙っておきます」


 さっそく完成した作品を投稿したいのだとメーデル塾長が出演者に承諾を求める。内心では詐欺映像であると訴えたかったものの、コマチは将来的なメリットと秤にかけて引き下がることに決めた。作ってしまったものは仕方ないとしかめっ面で応じる。


「分校のPR映像は塾長の判断にお任せしますっ」

「それより今は練習時間の確保。用が済んだのなら失礼させていただく」

「かわいく撮れてたもの、公開に異存はないわ~」


 デイジー、アンリエッタ、フワティーの3人はすでに採掘フェスのことで頭がいっぱいなのか、映像公開なんて好きにして構わない。出場枠は自分のものだと互いに牽制しあう。用件はこれだけだとメーデル塾長が告げれば、空き機体の予約は早い者勝ちだと大急ぎで塾長室から出ていく。


「期待しているぞ。スノウライト候補生」

「できる限りの努力はします。結果はお約束できませんけど……」

「それでよい。充分な情報もないのに軽々しく勝利を口にするようでは、どんな教育をしたのだと採掘部隊から苦情をもらってしまうからな」


 それでは失礼しますと塾長室を後にしようとするコマチに、上手いこと注目を浴びてくれとメーデル塾長が声をかけた。最善は尽くすけど結果は保証できないとコマチが返したところ、模範的な受け答えだと教官たちは満足げに笑みを浮かべる。


「アスリートなら意気込みを語るのも悪くないけど、私たちは軍人だもの。大口を叩いてやっぱりダメでしたなんて、事前の情報分析を怠った結果でしかないわ」


 成果を上げようと背伸びしないのがコマチのよいところ。そういう軍人の方が同僚から信頼されるものだとスパイル大尉が口にする。明日からまたビシビシしごくので、充分に休養を取っておくようにと告げてコマチを塾長室から送り出した。






 塾長室を後にしたコマチが機体の使用予約をしに駆けていった3人を探していると、候補生たちの談話スペースでアンリエッタがテーブルに突っ伏していた。デイジーとフワティーのふたりに慰められている。


「……してやられた。まさか、ふたりがこんなに悪辣だとは予想できなかった」


 何事かとコマチが問い質したところ、機体を予約するに際してデイジーは砲手狙いで中型の練習機を、フワティーがレースへの出場を狙って小型機を空いているところから速攻で確保したのに対し、両方の空き時間を見比べていたアンリエッタは端末の操作が遅れふたりに先を越されてしまったという。


「どっちもだなんて、アンリエッタちゃんが欲張ったせいよ~」

「普通、どちらか一本に絞るものでしょ」


 フワティーとデイジーのふたりはあらかじめ決めておかなかったアンリエッタの手落ちであると主張する。


「私は砲手だから、操手はコマチで登録しておいたわ」

「プーちゃん、ありがと~」


 中型の練習機は複座なのでふたりで登録しなければならない。自分の予約分はすべてコマチとのペアで登録しておいたから、別途予約する必要はないとデイジーが告げる。機体を押さえ損なったのが自分だけと知り、アンリエッタは今にも魂が抜け出てしまいそうなため息を吐き出した。


「オワタ。もう、オワタ……」


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― 新着の感想 ―
新作投稿ありがとうございます。 迂闊なるコマチちゃんの活躍に期待しています。 ふふ、自分の為に後続の迂闊なるものたちを嵌める手助けをする時点で君もドブネズミだよ…。
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