7 砲手の座は誰の手に
ドンカーツ分校のオリジナルPR映像が無事に公開された翌日、採掘フェスで開催される競技への出場者を選抜しますと候補生たちにアナウンスがされた。やる気マンマンな候補生たちが訓練時間を確保しようと奔走し、7日先まで埋まりきった機体の予約にうめき声を上げる。
「なあんでスノウライトだけ内定もらってんだ。不公平じゃね?」
そのような状況となれば、ひとりだけ操手に決定済みと聞いて不満を漏らす候補生も当然ながら存在する。コマチたち4人が昼食のタケノコ入り特製ホイコーロー丼を食べているところへ同期の候補生であるザックスが声をかけてきた。
「今から練習して~、選抜期間中にコマチちゃんと競えるくらいまで上達できる自信があるのかしら~?」
「ザックスには無理。もう追いつけないところまで差が開いてしまったと自覚できないバカな負け犬」
卒業までならいざ知らず、選抜期間は15日そこそこしかない。そんな短期間で追いつけるのかとフワティーが尋ね返し、すでに勝敗は明らかだってことに気づいていないマヌケだとアンリエッタが鼻を鳴らす。遅れてやってきたエイガスがヤレヤレとため息を吐きながらテーブルに着く。手にしているトレーに乗せられている丼もののパッケージにはホイコーロー丼風味とあり、歯ごたえのありそうなタケノコやピーマンをボリボリ貪るコマチの様子を羨ましそうな表情で眺めている。
「確かに不公平かもしれないが、チャンスのない奴が言ったところで教官は相手にしてくれないさ。操手以外の出場枠を狙う方が現実的だろう」
中型機の操手に関しては並び立つ者がいない。教官たちの下した判断は充分に納得がいくとエイガスがホイコーロー丼風味のペーストをホカホカご飯の上にあける。スプーンですくってひと口食べた後、もの凄く残念そうな表情でガックリと肩を落とした。
「それでぇ、エイガス班長はどっちを狙っているのかしら~?」
「ちょうど中型機の使用予約を入れてあったから砲手にしようかと考えてる」
「コマチのパートナーは私だよっ。譲らないからねっ」
ターゲットはどっちだとフワティーに尋ねられたエイガスは、たまたま今日の午後も中型機を予約できている。今さら小型機の取り合いなんてしたくないので砲手しかないと答えた。同じ時間帯に機体を確保してあるデイジーが、砲手の座は絶対に譲らない。実力の違いを見せつけてやると挑戦状を叩きつける。
「プーコットって、そんなに射撃が得意だったか?」
「デイジーは勢いだけで突っ走るタイプ。実力のほどは推して知るべし」
本人は自信マンマンだけど射撃が上手だという評判は耳にしていない。腕前の方はどうなんだとザックスが疑問を口にする。尋ねられたアンリエッタは、悪くはないものの人並み外れて上手なわけでもないと肩をすくめてみせた。
「この後ねっ。ギッタンギッタンに叩きのめしてあげるから覚悟しておきなさいっ」
昼食を終えた後の訓練時間。訓練教官のスパイル大尉にお願いして採掘フェスで行われる競技と同じルールでの模擬戦闘が実施され、デイジーは約束どおりエイガスをギッタンギッタンに叩きのめしてみせた。エイガスは相手を照準に捉えられないまま、すでに10回以上の撃墜判定を受けている。
「ど~よっ、実力の差を思い知ったっ」
『調子に乗らないのっ。実力差があるのは砲手じゃなくて操手の方よっ』
ピギー04の砲手席でフハハハ……と高笑いをあげるデイジー。すかさず模擬戦闘を監督していたスパイル大尉から、操手がコマチなら砲手は誰であっても同じ結果になると通信が入った。エイガスが搭乗しているピギー02の操手は流れるような動きで死角へ回り込んでくるコマチに対応できず、デイジーはもうトリガーを引くだけで撃墜判定がもらえるような状況だったのである。これでは訓練にならないとスパイル大尉が模擬戦闘を中止させ、監視艇のもとへ集合するよう指示を出す。
「スノウライト候補生はピギー02の操手席についてちょうだい。ピギー04は私が動かします。あなたは偵察ポッドを使って上空から互いの動きを確認していなさい。それだけでも学ぶところは多いはずよ」
ピギー02と04が戻ってきたところでスパイル大尉が操手交代を言い渡す。そんな殺生なとデイジーが悲鳴を上げたものの、教官が操手をするとわかって納得した。ピギー02の操手をしていた候補生は、そもそもコマチがどんな動きをしているのか俯瞰して確かめるよう指示される。
採掘フェスで行われる模擬戦闘は直径6キロほどの円形に戦闘エリアが設定され、外周に沿って参加者全員を均等配置した状態でスタートするバトルロイヤル。最も近い相手との距離はおおよそ1キロ前後になるからと、初期配置をスパイル大尉が指定する。互いに指定されたポイントに到着したことがレーダーで確認されると、ピギー04から模擬戦闘開始との通信が入ってきた。
「それじゃいきますね」
「おおっ、スノウライトの操縦はこんなに滑らかだったのかっ」
砂漠といっても平坦ではなく、風によって作られた砂丘があちこちにあって1キロも離れている相手を直接視認することはできない。とはいえ高度を上げては狙い撃ちにされるだけなので、機体が地形に隠れるよう地表ギリギリの高さを維持したまま砂丘の間を縫うようにピギー02を進ませるコマチ。いつもとは全然違うぞと砲手席のエイガスが驚いたような声をあげる。
「速度を落とさないよう、勢いを保ったまま方向を変えているのか。ローラーコースターに乗ってる気分だ」
慣性に振り回されはするけれど、急制動でつんのめる様な挙動はないから照準がつけやすいと呟くエイガス。これほど機体の動きに差があるのでは、プーコットでもやりたい放題できて当然だと憮然とした表情を浮かべた。
「相手はスパイル大尉です。機関砲は牽制にしかならないと考えてください」
「無反動砲でスポットするしかないか……」
ピギー02に搭載されている機関砲の口径は20ミリ。まったく通用しないわけではないものの、装甲の厚い部分を貫通するには威力が足りない。もちろん実際に撃つわけではなく、照準用のレーザーを一定時間照射することで撃破判定となるのだけど、撃ち抜けない場所にあてても無効判定にされてしまう。狙われている方向に対して防御姿勢をとれない候補生とは違うぞとコマチに注意を促され、エイガスが照準システムを機体上部の旋回砲塔に取り付けられている口径90ミリ無反動砲のものへ切り替える。
「無反動砲が4発と無誘導のロケット弾が14発か……。これでバトルロイヤルなんてできるのか?」
「どの場面でどれを使うかって判断も競技の一部なんだと思う」
採掘フェスの模擬戦闘は誘導兵器禁止というルールが定められている。機関砲では決定力に欠け、初速の遅いロケット弾で回避行動をとっている相手を狙ったところで命中は期待できない。確実にターゲットを撃破できる武装が4門ある再装填機構のない無反動砲しかなくてどうすんだとエイガスが愚痴をこぼしたところ、ひと組の参加チームが他を全部倒して勝利みたいなことができないよう、あえて制限しているのだろうとコマチが推測を口にした。
「なるほど、状況判断が試されるってわけか」
放っておいても他のチームに撃破されるであろう相手に貴重な弾薬を投じることはない。誰を相手にどのタイミングで切り札を使うのか。操手と砲手の操作錬度だけではなく、戦略眼が問われる競技だったかとエイガスが嘆息する。
「そろそろ視認できると……うわっ、プーちゃんもう撃ってきたっ?」
互いの距離が600メートルほどになり、重なり合って見える砂丘の隙間にピギー04の姿がチラリと確認できた瞬間、ピギー02の操手席に警告音が鳴り響いた。もとより正面から突撃するつもりなんてなかったコマチは、予定どおりのルートで機体を砂丘の陰へ引っ込ませる。今のはちょっとだけ砂丘が切れている場所があったから、通りすがりに相手の向きや姿勢を確認しただけ。最初からチラ見せのつもりだったので、ピギー02の姿を確認してからトリガーを引いても手遅れだ。案の定、監視艇に積んである戦術データリンクシステムは攻撃失敗と判定した。
「あの調子でバンバン撃ってくるなら弾切れに追い込めるんじゃないか」
「やってみようか。残弾数のカウントは班長さんお願いね」
戦術データリンクシステムはピギー02と04の両方と通信でつながっており、各々から受信した情報を統合して攻撃が成功したか失敗したか判定しているけど、判定結果を伝える際に相手が何を発射したかも教えてくれる。今の攻撃についても、無反動砲1発が発射され標的に命中しなかったと表示されていた。つまり、カウントする手間を惜しまなければ相手の弾切れを察知することも不可能ではない。最も大事な無反動砲を惜しみなく撃ってくるなら使い切らせてしまおうとエイガスが提案し、コマチもそれに賛成する。
「プーちゃんは積極的というか強気だなぁ。大尉に叱られてなきゃいいけど……」
「今は出場者の選抜期間中だから、あえて何も言わずにやらせてるんじゃないか」
コマチが500メートルほどの距離を保ったまま一瞬だけピギー02の姿を晒して誘いをかければ、今度は無反動砲と一緒にロケット弾まで使用してきた。いつでも物陰に隠れられる位置で回避行動に徹している相手を着弾まで時間のかかるロケット弾で狙っても命中するわけがない。バカスカ弾薬を浪費して、よくスパイル大尉が黙っているものだと疑問を口にするコマチ。ピギー04に乗り込んだのは教官でなく試験官としてではないかとエイガスが予想を口にした。
「なるほどねぇ。弾切れなんか起こしたら問答無用で外されちゃいそう」
「さて、プーコットは大尉が試験官であることに気づくかな……」
相手との距離を保とうと砂丘の合間をヌルヌル逃げ回るコマチのピギー02に対して、スパイル大尉の操るピギー04は間合いを詰めようと追いかけてくる。機体の性能に差はなくコマチも操作ミスはしていないものの、進路の選び方には経験の違いがはっきりと表れていた。ピギー04がやや遠回りになる迂回路へ向かったかと思えば、コマチが進もうと考えていた砂丘の陰にバッチリ射線がとおるポイントへ先回りされていたという状況がたびたび発生する。慌てて進路を変更するものの予定していたルートを潰され、その度にジワジワと距離を縮められてしまう。
「こっちの動く先を読んでポジションとってくるよ。容赦ないなぁ」
「それに対応できてるスノウライトも大概だと……おっ、無反動砲の残りは1発だ」
操縦技術とはまた違ったところで教官の貫録を見せつけてくるスパイル大尉に、訓練中の士官候補生を相手に大人げないとコマチが頬を膨らます。本人にまったく焦った様子がないので、余裕で対応できる候補生の方がおかしいとエイガスが呆れていたところ、デイジーが3発目の無反動砲を発射したと戦術データリンクシステムが伝えてきた。ロケット弾も半数近くまで減っている。
「……あいつ、アホだな」
「プーちゃん……」
コマチがピギー02の機体をチラリと晒してすぐさま砂丘の陰へ引っ込ませれば、デイジーはあっさりと最後の無反動砲を外してみせた。その後は残っているロケット弾を放ってくるものの、発射速度が高く弾着の早い無反動砲で捉えられなかった相手に当たるわけがない。とうとうロケット弾も撃ち尽くし、装甲を撃ち抜けるはずもない距離から機関砲で攻撃してきた。あまりの考えなしな所業にコマチとエイガスが揃って言葉を失う。
相手が弾切れになったことを確認したコマチは逃げ回るのをやめ、片を付けるべくピギー04に対して機体が斜めになる姿勢を保ちつつピギー02を接近させていく。砲弾の入射角を高めることで見かけ上の装甲厚を増し、跳弾しやすくする防御姿勢だ。かつて護衛機として使用されていた練習機は、その重量で巨大昆虫を押し潰せるよう底面と側面に頑丈な装甲が施されている。正しく防御姿勢をとる限り、口径20ミリの機関砲弾では10メートルの距離からでも撃ち抜けない。ピギー04が絶え間なく機関砲を撃ち込んでくるものの、戦術データリンクシステムにはことごとく無効判定を下される。
有効な攻撃手段が残っていないうえ、相手にそれを覚られている状況では経験豊富なスパイル大尉といえど手の打ちようがない。懸命に回避行動をとるものの、向かおうとする先へ置いておくように発射されるロケット弾に逃げ道を塞がれ砂丘のひとつに追い詰められた。仕方なく砂丘を越える決断をしたけれど、そのために高度を上げれば機体から勢いが失われ速度は著しく低下する。訪れたチャンスを逃すことなくエイガスが照準を定め無反動砲のトリガーを引く。
ピギー04の底面に無反動砲が命中。機関砲では撃ち抜けない底面装甲も口径90ミリの成形炸薬弾には耐えられないと戦術データリンクシステムが撃破判定を下した。




