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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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4/8

4 因縁のビーチにて

 バーベキューパーティーの当日、コマチたち候補生4名とスパイル大尉は装甲兵員輸送艇に調理器具と調味料や食材、折り畳み式のテーブルに木炭などのキャンプ用品を積み込んでドンカーツ基地のプライベートビーチへ向かう。シュノーケリングなんかも楽しめるという話だったので、5人とも水着の上から野戦服のシャツだけを羽織った格好である。ドンカーツの港がある湾とは幅2キロメートルほどの半島で分断されている入り江に到着すれば、採掘部隊を乗せてきたと思われる輸送艇が浜辺にいくつも並んでいた。


「ぐぎぎぎ……この浜辺には見覚えがありますよ……」


 輸送艇を着陸させて操手席から降りると、コマチの目の前には見覚えのある景色が広がっていた。入り江の奥は流されてきた砂が堆積する場所なのか三日月形のビーチが形成されていて、弧を描いたような波打ち際が500メートルくらい続いている。堆積しているのは砂漠の砂でなく、海から漂着したサンゴ砂。真っ白な浜辺が太陽光を反射してキラキラと輝く様子を見れば、誰もがここは常夏のリゾートだと勘違いすることだろう。


「コマチが引っかかった、非公式映像の撮影に使われたビーチ」


 見覚えがあるのは当然のこと。コマチがドンカーツ分校を志望するきっかけとなった非公式勧誘動画に映っていたのと寸分変わらぬ景色が目の前にあった。プークスクス……とアンリエッタが笑みを漏らす。


「この光景を見たらビーチリゾートと勘違いするのも仕方ないわねぇ」


 こんなのを見せられたら仕方がないとフワティーが苦笑いを浮かべる。砂浜では水着姿の採掘部隊員たちがパラソルを立てたり日除けの天幕を張ったりと、バーベキューの準備を手際よく進めている真っ最中。ご機嫌な砂浜をひとり占めして朝っぱらからパーティーだなんていったいどこのおセレブ様だと、庶民なら誰もが爆弾を放り込みたくなるような光景が展開されていた。


「でも、コマチが今ここにいるってことは、あの映像も嘘ではなかったってことね」

「うぅ~」


 念願叶って常夏のリゾートでバーベキューパーティーができるのだから、非公式ではあるもののフェイク動画ではなくなったと口にするデイジー。今さらどうしようもないのだから、嫌なことは忘れてバーベキューを楽しもうと輸送艇から荷物を降ろし始めた。反論が思いつかないのか、コマチは不満そうに唸るだけである。


「やぁ、先日の夜間作戦はご苦労だった。食材が集まってくるのは昼頃になるから、それまでの間は存分に羽を伸ばしてくれ。かまどの準備と炭をおこすのはやっておくよ」


 コマチたちが輸送艇からテーブルや木炭を運び出していると、30代半ばくらいの男性士官が20代後半くらいの男性ふたりをお供に引き連れてやってくる。知らない顔ではない。夜間作戦でパタス01に搭乗していたサルーナ大尉であり、コマチはブリーフィングで顔を合わせていた。ビーチではこれからお昼にかけて釣り大会が開催予定。その後は調理で忙しくなるだろうからと、今のうちに遊んでくるよう勧められる。荷下ろしの指示は自分がしておくからとスパイル大尉が引き受けてくれたので、コマチたちはシュノーケリングを楽しむことにした。


「コマチ、どうして銛なんて持っている?」

「これは銛じゃなくてヤスって言うんですよ」

「マニアにしかわからない違いはどうでもいい。理由を聞いている」


 羽織っていた野戦服を脱いでシュノーケルやフィンなどの道具を準備している途中、先端が三叉になっている細長い棒をコマチが手にしていることに気づいてアンリエッタが問い質した。銛とは違うという説明を返され、何をするつもりだと不機嫌そうに表情をしかめる。


「美味しそうな獲物と出会えた時の備えはしておきたいじゃないですか」

「野人の発想……常識人にはついていけない」


 これがあればせっかく見つけた獲物をみすみす見逃さずにすむと、白と黄色のラインで格子が描かれたブラウンのセパレート水着に包まれた胸をそらすコマチ。重ねたフリルで胸元がカモフラージュされる花柄ワンピース水着に身を包んだアンリエッタは、地味な格子柄にもかかわらずしっかりと自己主張してくるDカップから忌々し気に目をそらした。


「エッロ。フワティーさん、エッロ……」

「そんなことないわよぉ。世の中にはデイジーちゃんみたいなのが好きって殿方もいっぱいいるんだからぁ」


 そこにデイジーとフワティーもやってきた。フワティーが着けている水着はギンギラギンに輝く銀ビキニで、濃い色をした肌とのコントラストが強烈。デイジーはマリンブルーにオレンジ色のラインが入った競泳用で、露出度の高さより体のラインがはっきりと出る水着にエロスを感じる男も多いのだとフワティーに解説され頬を赤らめている。


 砂浜の東側半分は魚釣り大会で使うため西側へ向かう4人。波打ち際でフィンを装着し、波に足を取られないようゆっくりと海へ入る。水深が1メートルを越えたあたりでゴーグルとシュノーケルを着け泳ぎ出した。μ大陸は人間の活動範囲が限られているせいか、水が澄んでいて水底までくっきり見渡すことができる。コマチの身長より深くなるあたりから砂地の所々に岩が露出し始め、サンゴやそこに生息するカラフルな魚たちが観察できるようになってきた。


「この辺りにいるのは稚魚ばっかりだねぇ」


 サンゴと岩の隙間をトロピカルな色の美しい魚が泳いでいるものの、どれも体長5センチ程度の小魚ばかりだと海面に顔を出したコマチが口にする。ひとりだけ素潜り漁のつもりでいやがると他の3人が呆れていることには気づきもしない。


「この浮いているのはなに?」

「フロートですよ。ヤスを手放しても回収できるよう紐でつないであるんです」


 水面にプカプカ浮いている物体を指でつつきながら、ゴミを流して海を汚すなとアンリエッタが顔をしかめていた。これは獲れた魚や道具を吊るしておけるイカした漁具だとコマチが説明する。どうして漁師にならず士官学校へ入学したのかとアンリエッタはすっかり呆れ顔だ。


 水深が2メートルを超えるくらいの場所までくると掌サイズの魚たちが目立つようになる。映像なんかでおなじみのユラユラ揺れるイソギンチャクの触手とその中に平然と居座っている白黒パンダカラーな魚を見つけてデイジーは大はしゃぎだ。フワティーは黒地に小さな白い斑点がたくさん並んだ上品な宝石箱を思わせる魚とにらめっこを始めた。コマチも時折水底にある小石をヤスの先端を使ってひっくり返しながら海中の景色を楽しむ。


 水が澄んでいて底まではっきり見通せるせいか、水深が4メートル近くになっても深いとは感じない。デイジーたち3人がシュノーケルで息ができる水面近くから波によって屈折した太陽光が作り出す光の縞模様を楽しんでいたところ、ひとり底のあたりまで潜っていたコマチが水中だというのに黒い煙のようなものに覆われた。危険な生き物でもいたのか、煙のようなものをまとわせたまま急いで浮上してくる。


「タコさんを見つけましたっ」

「うわぁ……」


 何事かと近づいていったデイジーたちに、海面へ顔を出したコマチが手にしているヤスの先端を自慢気に掲げてみせる。そこでは、頭をぶっすりと串刺しにされた海に生息する八本足の軟体動物が身体を真っ赤にして怒りを表していた。吸盤のついた足を四方八方へ伸ばし、口のように見える漏斗から真っ黒なスミを吐き出す。


「すぐ締めちゃうから、プーちゃんこれ持ってて」


 ヤスの柄をデイジーに手渡して、フロートに留めてあった小振りなナイフを鞘から抜くコマチ。暴れるタコの両目の間を狙って何度かグサグサ突き立てれば、懸命に抵抗を続けていた八本の足が力を失って垂れ下がった。真っ赤だった体色もすっかり白くなっている。続いて突き刺さっているヤスから獲物外し、袋のような頭をひっくり返して腹わたを手際よくそぎ落としていく。


「生ゴミを海に流すのはノーマナー……」

「ゴミじゃありません。これはエビさんの食べ物です。ヤドカリさんも喜んでます」


 海を汚すなとアンリエッタが注意したものの、ここに棲む生き物たちにとっては栄養満点なご馳走だとコマチは言い張る。


「サメさんに嗅ぎつけられないうちに戻りましょう」


 こんな入り江に人喰いザメはいないけど、獲物のタコを齧りにくる不届きなサメはどこに潜んでいるかわからない。見つかると面倒だから漁はここまでだと浜へ向かうコマチ。やっぱり素潜り漁のつもりでいたのかと残りの3人が冷ややかな視線を送ったものの、獲れたてのタコが食べたくないのかと尋ねられあっさり白旗を上げた。


「あ、塾長がカメラ回してる」

「前の動画でコマチちゃんが釣れたから、味を占めたのかしら~」


 膝くらいの浅瀬でフィンを外した4人が浜に向かってジャバジャバ歩いていくと、波打ち際で花柄の派手な半袖シャツを着た50歳を超えていると思われる男性がコマチたちに動画撮影用のカメラを向けていた。ドンカーツ分校の責任者で、コマチが引っかかった非公式勧誘動画を投降した張本人メーデル中佐である。校長という肩書きは首都にある本校の責任者と被って紛らわしいからと、分校の教官や候補生は塾長と呼ぶよう指示されていた。カメラを構えたままコマチたちへ近寄ってきて、スマイルをくれとずうずうしく要求してくる。


「はあ~い」


 フワティーとアンリエッタがカメラに向かって手をふりながら愛想を振りまく。フワティーに至っては前かがみになって豊かな胸元を強調した後に投げキッスまで披露するサービスっぷりだ。デイジーは勝手に撮るなと頬を膨らませている。そして、メーデル塾長の非公式映像に騙されてドンカーツ分校を志望したコマチはまなじりを吊り上げて容赦なくカメラのレンズにヌルヌルのタコを押し付けた。


「詐欺被害者を増やすつもりですかっ」

「君という有望な候補生が得られたからな。オリジナルPR映像の投稿はドンカーツ分校の伝統にしていきたいと思っている」


 詐欺も同然のフェイク動画を作るなとコマチが猛抗議するものの、より多くの志望者を集めるのも仕事のうちとメーデル塾長は引き下がらない。効果があると判明したので、話題作りのために毎年新しい紹介映像を公開するのだと拳を握り締める。


「獲れたばかりの新鮮な魚介類をその場で料理して食べるビーチバーベキューか。今日は素晴らしい映像が撮れそうだ」


 女性の士官候補生4人が水着姿で砂浜バーベキューを満喫している映像に分校を紹介するナレーションを重ねよう。夜中にひとりで視聴したらお腹が空いてくるような料理と、それを美味しそうに頬張るシーンが欲しいとメーデル塾長に告げられ、コマチに任せておけば大安心。グルメ番組にも引けを取らないショットが約束されているとフワティーが請け負った。


「ど~して、あっさりと協力しちゃうんですかっ?」

「候補生は未来の補充兵なのよ~。たくさんいる方が、より優秀で適性の高い候補者を選べるでしょ~」


 バーベキューパーティーには採掘部隊が砂漠でキャンプする時に活躍する大型給水艇まで動員されていた。機体の横に取り付けられた簡易シャワーブースで海水を洗い流しながらコマチが唇を尖らせたものの、自分の部下として配属される相手なのだから大勢の中から選抜できる方がよいに決まっているとフワティーに告げられ、反論が思いつかなかったのか不満そうに頬を膨らませる。


 悪辣な非公式紹介映像に利用されるのは腹立たしいけど、こいつしかいませんと適性の低い後輩の面倒を押し付けられるのはコマチも望むところではない。仕方ないと諦め、水着の上から割烹着をつけてタコの塩もみに取りかかる。獲れたのは重量が2キロくらいある形のよいタコで、ガシガシと怒りを叩きつけるように揉んでも千切れたりしなかった。ぬめりが落ちたら一度水できれいに流し、次は片栗粉で揉んで残っているぬめりと吸盤の汚れを丁寧に落としていく。


「揚げ物のタネは他にあるから、タコ飯にしましょうか……」


 タコの下処理が終わったころ釣り大会で獲れた魚たちが届く。ハゼとキスにクルマエビっぽいエビを確認したコマチは、揚げタネは充分と判断しタコはご飯と一緒に炊き込むことに決めた。研いだ米とだし汁に調味料を加え、最後にぶつ切りにしたタコの身を並べて炊飯器をセット。ハゼとキスのうち体長が12センチに満たないものはから揚げにするので洗って鱗を落とし、頭と腹わたを取り除くようデイジーとアンリエッタに指示を出す。エビの処理はフワティーに任せ、天ぷらにする形のよい魚はコマチが背開きにする。


 かまどにセットした鍋に油を注いで熱しておき、タコ飯が炊きあがるまでは天ぷらのタネにする魚と野菜を処理するコマチ。炊きあがったら混ぜてからもう一度蒸らし、その間に天ぷらを揚げ始めた。テキパキと無駄のない手際の良さに、なんかプロの料理人みたいだと採掘部隊員たちが集まってくる。いつの間にかその中に基地司令官、採掘部隊長、分校責任者というドンカーツ基地トップ3の姿まであった。メーデル塾長がカメラを回していることは言うまでもない。


 揚がった天ぷらを油切り網に取ったコマチがどんぶりを3つ並べ、それぞれにタコ飯をよそう。そこにエビ、ハゼ、キスにナスとシシトウの天ぷらを乗せ、ご飯に味がついているのタレでなく藻塩を振りかけて仕上げる。


「こちらはタコ飯天丼。略して、TmTでございますっ」


 ドドドンっと基地トップ3の前にタコ飯天丼のどんぶりが並べられた。


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― 新着の感想 ―
ほほう、コマチ候補生はぽっちゃりのDですか…… 誰かとは言いませんが彼が黙っていませんね
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