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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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23/31

23 模擬戦闘 ―ラーメナリーの脅威―

 レーダーサイトに表示されている骨付き肉のアイコンが戦闘エリアの中心を目指して真っすぐ西進してくる。このまま交差することになるかとコマチが考えた瞬間、エレガンティウスは進路を北へと向けた。


「そうきましたか。理には適ってますね」


 北から接近してくる相手を避けるなら南へ回頭するのがよいと考えがちなものの、ピギー04は南に向かって全速で突き進んできている。ここで自分まで南に向かったら隠れる場所のない状態で並走することになり、撃破されるのは時間の問題。そのため、エレガンティウスはピギー04のやって来る方向へ転進しすれ違うことを選択した。最接近するポイントでの攻撃さえしのげれば、その後は互いに離れていくから追撃はない。実に合理的な判断だとコマチが口にする。


 すれ違いながらの攻撃はエレガンティウスも予想しているはず。相対速度が大きいため命中させるのは難しく、返り討ちにしてやろうとエトロワが狙っていることは間違いない。有利なポジションにいるのはこちら。わざわざイーブンな条件で勝負をかけることはないと、コマチは大きな砂丘を挟んで2機をすれ違わせる――


「ところがどっこいっ」


 ――ように見せかけて、最接近したタイミングでピギー04を東へと急旋回させた。全速で南下してきた勢いのまま互いを隔てる砂丘を駆け上がったピギー04が、帝国の機体を背後から撃ち下ろせるポジションへと跳ね上がる。背後を取られたことに気づいたエトロワが慌てて砲塔を旋回させるものの、いくら急いだところで機械動力である以上、一定の速度でしか動かせない。一方、撃ち下ろしになると予想していたコマチは砲手側での照準調整が最小で済むよう、跳ね上がった段階でピギー04に機首を下げた姿勢をとらせていた。


「もらったっ!」


 照準を合わせたエイガスが無反動砲のトリガーを引き、エレガンティウスとエトロワは何もできないまま2番目の脱落者となった。最初の脱落者はヴェジタリオ教国のパンプキーナ。エイガスがトリガーを引く直前に、メンデヤンス王国によって撃破されたと戦術データリンクシステムのログに残っている。


「ファースト撃破は王女様に持っていかれてしまったか。それにしても、あんなに高く飛んでよく狙われなかったな」

「エリアの中央にいたのは私たちだけだもの。みんな外周でドンパチしてて、狙撃できるポイントには誰もいなかったよ」


 ログを確認したエイガスが、砂丘の頂より高く飛んで狙撃される危険はなかったのかと尋ねる。競技開始と同時に全速で中央に進出したのは自分とエレガンティウスだけだったから事実上のタイマンだった。次からは乱戦になるだろうから、もうヘリコプターは使えないと砂丘の陰へピギー04を隠しながらコマチが口にする。中型機でのヘリコプターなんて試したこともなかったはず。本番でいきなり実行するなとエイガスが顔をしかめていたものの、中型か小型かなんて大した違いじゃないとコマチは意に介さない。


 首尾よくエレガンティウスを始末したコマチは、ピギー04を南下させ開始地点が南東辺りだった3機が睨み合っている辺りを目指す。互いに牽制を続けて三すくみの様な状況ができ上っていたものの、強豪の一角だった帝国をあっけなく撃破したヤバイ奴に目をつけられたと震え上がったのか均衡が崩れた。コマチから逃げることで手一杯になった1機が別の1機に撃破される。


「協調性のない人たちですね」

「まぁ、バトルロイヤルだからな」


 砂丘の狭間を淀みなく駆け抜けるピギー04に死角から接近されるのを嫌がって避けようとした機体が、別の相手が待ち構えている射線に飛び出してしまい撃破されていく。結局、コマチは弾薬を消費しないまま2国が退場してくれた。例えるならオオカミが3匹の仔豚を狙っていたところ、仔豚が仔豚を食べてしまった格好だ。そして、最後に残った1匹は敵わないと判断したのか逃走に移った。競技の性質上、強敵こそ囲んで袋叩きにした方が最後まで残れる可能性は高くなるのに、たまたま目の前に飛び出してきた相手に引導を渡して逃げるなんて、いったいどういう作戦だとコマチが首を傾げる。バトルロイヤルだし、反射的に撃ってしまったのだろうとエイガスは半ば呆れながら理解を示した。


「あ~あ、よりにもよってラーメナリーさんの目の前に飛び出しちゃったよ……」


 レーダーで逃げていった先を確認すれば、最後の1匹はパンダネン共和国を包囲している3機に背後から忍び寄ろうとしていたラーメナリーと出合い頭にバッタリ遭ってしまった。あっさり撃破されて競技から脱落する。


「ヤバイ相手から逃げた先に、もっとヤバイ相手がいるのはお約束だからな」


 人生にはよくあることだと重々しく呟くエイガス。候補生の中では年長というだけでまだ20代前半なのに、偉そうに語れるほどの人生経験があるのかとコマチは疑問に感じたものの、ツッコムのは野暮だと判断して競技の進捗を確認していく。


「共和国も人民国もまだ残ってるね。こっちは人民国から片付けようか」


 戦闘エリアの西側では3機に囲まれながらもパンダネン共和国のコッペーノがしぶとく逃げ回っており、北東部では人民国を含む3機が互いに漁夫の利を得ようと牽制を続けていた。ラーメナリーは西側の戦場へ向かうご様子。ここで自分たちまで西側に向かえばメンデヤンス王国との一騎打ちになりかねない。最終的にタイマンは避けられないにしても、先に邪魔者を排除しておこうとコマチがピギー04の機首を北へ向ける。


 北東部で睨み合いを続けていた3機は、自分たちを始末しに来たことが明白なコマチから潰すことに決めた模様。ピギー04を包囲しようと動いてきた。もっとも、バーガニア人民国の機体は盾に利用されることを警戒してか積極的に近づいてこない。そのせいもあって、コマチはかなり自由に動き回ることができる。もうちょっとで射線に捉えられるという絶妙な距離を保ったまま、おいで、おいでと誘いをかければ、迂闊な1機がピギー04の通過したルートをそのまま通って追いかけてきた。


「へい、らっしゃい」


 獲物が罠にかかったとエイガスが相手の予想進路に置きロケット弾を放ち、ピギー04を追いかけて砂丘を回り込んできた1機が出合い頭の衝突事故で撃破判定を下される。数の不利をものともしない強敵を警戒して残りの2機が距離を取る……かと思ったら、人民国のダブチン機はコマチの相手をもう片方に押し付けてトンズラを始めた。好意的に解釈するなら、コッペーノとの合流を優先したと言えるだろう。


「あっちは……ラーメナリーさんが蹂躙してるなぁ」


 射線に捉われないようピギー04に砂丘の隙間をスルスルすり抜けさせながら、サブモニターで戦況を確認するコマチ。西側の戦場では共和国を包囲していた3機のうち、2機までがラーメナリーに撃破されていた。コッペーノに味方している様子はなく、ただぶつかった順番に始末しているだけな印象。相手を追い詰めるようにグイグイ前へ出て、当たるを幸いちぎっては投げ、ちぎっては投げと戦場を蹂躙している。実際、共和国の機体も逃げまくっているように感じられた。王室の貫録を感じさせる戦いぶりに、おロイヤル流恐るべしとコマチが身体を震わせる。


 そして、合流した民主連合がどう動くかと推移を見守っていた矢先に、バーガニア人民国がパンダネン共和国を撃破したとのログが流れた。ダブチン、まさかの裏切りである。民主連合も一枚岩ではなかったのかとコマチが首を傾げるものの、あんな連中なのだから内部では相当ゴタゴタしているに決まってるとエイガスは肩をすくめた。


「それじゃ、こっちも片付けちゃいましょうか」

「近づいて大丈夫か? なんか、発狂してるぞ」


 ダブチンがコッペーノを始末している間に、共和国を包囲していた残りの1機をラーメナリーが撃破していた。生き残っているのは4機、それぞれ別の場所で対峙している格好となる。ダブチンがラーメナリーに撃破されるのは時間の問題だから、こっちもさっさと終わらせなければとコマチが対峙している機体へ意識を集中させれば、相手は半狂乱になってピギー04が姿を現しそうな場所へでたらめに弾をばら撒いていた。もちろん、素直に顔を出すコマチではなく一発も当たらない。


「それじゃ、その予測射撃を逆手に取りましょう。無反動砲、用~意」

「了解だっ」


 ラーメナリーに横槍を入れられては堪らない。ダブチンが時間を稼いでくれている間ん片付けるから、無反動砲の1発で決めるよう告げるコマチ。操縦桿を押し込んでピギー04を加速させ相手の周囲を回るような軌道で接近させていく。


「出会い頭にロケット弾がくるぞっ」

「それを待ってましたっ」


 この砂丘を回り込んだところに相手がいる。間違いなく置きロケット弾が飛んでくるであろう場所へとピギー04を向かわせたコマチが、直前で進路を内側へずらして機体を砂丘の縁に乗り上げさせた。


「ヘリコプタァァァ――――ッ」


 砂丘の縁を回り込んで姿を現すと予測して放たれていたロケット弾の軌道を、跳び越えて回避するピギー04。相手が照準を調整して次弾を発射するより早く、エイガスが無反動砲のトリガーを引いた。目の前の機体に撃破判定が下されたのとほぼ同時に、ラーメナリーがダブチンを撃破した旨のログが流れる。


「結局、一番厄介な相手を残しちゃいましたね」

「安心しろ。きっと、向こうさんもそう思ってる」


 残っているのはコマチのピギー04とラーメナリー王女の王国機だけ。こうなってしまったかとため息を吐くコマチに、それは相手も同じことだとエイガスが言い聞かせる。レーダーを見れば、湯気を立てるどんぶりに入った麺のアイコンが真っすぐ向かってきていた。出会い頭の撃ち合いになれば負けなしというエレガンティウスの言葉を思い出し、すぐさまコマチがピギー04に回避軌道をとらせる。残った2機による熾烈な追いかけっこが始まった。


「このままでは千日手になっちゃいますね」


 さすがに置きロケット弾を警戒しているようで、王国機はピギー04を真っ直ぐ追いかけてはこない。どうにか先回りしようと苦心している様子だけど、コマチは余裕をもって射線のとおらない場所を逃げ回ることができた。もっとも、攻撃できないのはピギー04も同じこと。互いに相手を射界に収められないまま時間だけが過ぎていく。


「タイムアップになれば撃破数の差で王国の優勝か……」


 模擬戦闘には時間制限が設けられており、複数の国が残った場合は撃破数によって順位がつけられる。コマチたちの撃破カウントは3であり、ラーメナリーはすでに5機撃破しているから、優勝するためには相手を撃破するしかない。


「その割に王女様は積極的だな」

「優勝することより、相手をひとり残らず屈服させることに情熱を傾けてるんだと思う」

「……つまり、ドSなのか」


 逃げ回れば優勝できるのに、どうしてこっちを追い詰めにきてるのかとエイガスが疑問を口にする。優勝という結果ではなく、相手を倒したという過程が重要なのだろう。なんか、そういう性格をしていそうだったとコマチが伝えれば、それはさぞかし魅力的な女王様になるだろうとエイガスが鼻息を荒くした。この砲手を信用して大丈夫かとコマチの胸中に不安がよぎる。


「っ、衝撃に備えてっ!」


 さてどうするかとレーダーで王国機の位置を確認し、その挙動に不自然さを感じ取ったコマチが警告を発した。機体を急旋回させてロケットエンジンを点火。コマチの砲手をしている間は感じることのなかった衝撃と加速度がエイガスに襲いかかる。レーダーの表示によれば、ピギー04は体当たりでもするかのような勢いで王国機に向け急加速していた。


「ヘリコプターかっ?」


 レーダーの表示で2機の位置が重なる。だけど、衝突することはなかった。王国の機体が砂丘をジャンプ台代わりに跳び上がったのを見て、エイガスが驚愕の声を上げる。障害物を盾に逃げ回るコマチを、上空からの撃ち下ろしで狙おうとラーメナリーは考えたのだろう。それを察知したコマチは、とっさに真下の死角へとピギー04をすべり込ませることを選択した。もちろん、ピギー04も真上を狙えるほど高仰角の火器は搭載していないので何もできない。エイガスが着地の瞬間を狙おうと無反動砲を旋回させたものの、王国機はまた別の砂丘の向こうへ姿を消す。


「うっわ~、今のは危なかったですよぉ」

「とりあえず、その緊迫感がまったく感じられない口調はやめてくれ」


 気づくのが遅れていたらヤバかったと漏らすコマチ。そして、切羽詰まった感じがまったく伝わってこないとエイガスは苦言を呈していた。


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― 新着の感想 ―
おじさま達がハァハァして興奮してそうなくらいの名勝負ダァ
新兵のトリガーは軽い物…それ以前の訓練兵ならむべなるかな。
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