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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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21/30

21 小型機レース ―最後の切り札―

 先頭を行くパンダネン共和国が気持ちよくかっ飛ばす一方、ヴェジタリオ教国とバーガニア人民国にブロックされて予選第1レースを勝ち上がった3国は4位以下に押し込められてしまった。後方集団がセクション5に到達した時点で共和国との差はすでに10秒以上にまで広がっており、盛り上がりようのないレースを見せやがってとスタンドからは失望の声が上がっている。


 ピットエリアからレースを眺めているコマチたちの目の前を、共和国の機体が罵声を浴びせられながら駆け抜けていく。フワティーたちはまだセクション6で、先頭との差はもう20秒に達しようというところ。そんな中、モニターのひとつにかなり強引な追い抜きを仕掛けたものの人民国の機体に進路をふさがれ、結果的にヴォクタ聖国にまで抜かれるバニー02の様子が映し出されていた。


「うまい。あれならわざと順位を落としたようには見えない」

「今のって演技なの?」

「そう、すべて予定どおり」


 ヨシヨシ、指示どおりだと笑みを浮かべるアンリエッタ。ヤラセなのかと疑問を口にするデイジーに、あえて減速を余儀なくされる状況を作り出し聖国を先に行かせたのだと楽しそうに説明する。


「王国の動きが気になるけど、次のセクション2で仕掛ける」

『あいあいさ~』


 セクション1へ進入してきたバニー02が、トップから20秒遅れてコントロールラインを通過していく。順位はメンデヤンス王国と並んで最後尾。王国の機体から様子見しているような気配を感じるものの、あまりリードを広げられても面倒なので次で仕掛けるようアンリエッタが指示を出す。この状況でもまったく焦っていないようで、応答するフワティーの口調からは余裕すら感じられた。


 2周目のセクション2へ突入する後方集団。教国と人民国の機体は4位の聖国をブロックしたまま1週目と同じ砂丘の端を回り込んでいった。それを確認したフワティーは後に続くことなく別のルートを選択する。


「えっ? 曲がらないで真っすぐ行っちゃったっ?」

「パターンBが最速なのは邪魔者がいない場合の話。あのペースなら遠回りでもパターンCの方が速い。王国も気づいていたみたいね」


 悪質ブロッカーにスローペースを強制されるくらいなら別のルートを進んだ方が速い。フクロナマケモノでも理解できる話だと目を丸くしているデイジーにアンリエッタが語りかける。そして、パターンCへ進路をとったバニー02のぴったり後ろを王国の機体が追走しているのを見て、同じことを考えていやがったかと舌打ちを響かせた。


 2機がかりで追い越せないよう車線を塞いだまま、最速であるはずのルートを教国と人民国の機体がノロノロ進む。スローペースに苛立つ聖国のさらに後方、そこにいるはずだったバニー02の姿が見えなくなっていることにまだ気づいていないようだ。今がチャンスとばかりに邪魔者のいないルートをフワティーとオロネーズがかっ飛ばしていく。


「今さら気づいても、もう遅いわね」


 モニターに表示される情報を見て、予選第2レースとは様子が違うぞとスタンドの観客たちに期待する声が戻り始めた。ピットから伝えられたのか、教国と人民国の機体が慌てたようにペースを上げ始める。だけど、バニー02はもうセクション3へ抜けるゲートを目前にしていた。民主連合のブロッカーに先んじてセクション3へと突入する。


 2周目も早々につまらない連中のチーム戦術が崩されたとスタンドは大盛り上がり。出し抜かれた教国と人民国は懸命にバニー02と王国の機体を追いかけるものの、前との差は縮まるどころかジリジリと広がっていく。それまで並走していた2機だけど、追いかける側になって教国が人民国の機体より先行し始めた。ブロックが薄くなった隙をつかれてセクション5で人民国が、セクション6で教国がヴォクタ聖国に追い抜かれてしまう。


「策を弄するのも考えものだねぇ」


 視界に入らないほど先を進む共和国の機体を追いかけ、フワティーのバニー02とオロネーズの機体が喝采を浴びながらホームストレートを駆け抜けていった。3秒ほど遅れてコントロールラインを通過した聖国の機体にも温かいエールが送られる。だけど、教国と人民国の機体を迎えたのは耳を塞ぎたくなるような罵声だった。勝者の陰に敗れた者が存在するのは当然のこと。小細工なんて使わなければ負けても拍手のひとつくらいはもらえたろうにと、コマチがため息を吐きながらドンケツの機体を見送る。


「共和国には追いつけそう?」

「トップとの差は18秒。このペースなら問題ない」


 全機体が3周目に突入したところで、ここからトップまで届くのかとデイジーが口にする。ゴールまで残り8周。フワティーなら1周につき2秒半は縮められるので、ファイナルラップに入るころにはトップを射程圏内に収めているはずだとアンリエッタは答えた。


 アンリエッタの予想どおり、安全圏にいると思われていた共和国は周回を重ねるごとにそれまでの貯金を吐き出していく。トップとの差が縮まってくるのにあわせてスタンドの興奮も高まってきた。共和国がコントロールラインを通過してファイナルラップに突入した時、スタンドから凄まじい歓声がわき起こる。共和国に向けられたものではない。トップから2秒ほど遅れてホームストレートへ進入してきたバニー02とオロネーズの機体を迎える歓声だ。


『パターンFを使うわ~。逃がさないんだから~』

「ピット了解。あとはフワティーに任せる」


 先頭をいく共和国が懸命に逃げるものの、セクション3でとうとうピッタリ後ろにまでバニー02に詰め寄られる。セクション4に入る直前、セクション5はパターンFでいくとフワティーから通信が入った。もうピットにやれることは残ってないとアンリエッタが了承し、あとは結果を見守るのみとヘッドホンとマイクが一体となったヘッドセットを外す。


 コマチがモニターを見上げれば、セクション4のバックストレートをロケットエンジン全開でかっ飛んでいく3機の姿が映し出されていた。トップは未だ共和国が保ったまま、左右からフワティーのバニー02とオロネーズの機体が迫る。まるで3機がΔ型の編隊飛行をしているかのように誰ひとりとして譲らない。だけど、セクション5に入ってすぐにあるコーナーに備えゲートの100メートル手前で共和国の機体がエンジンをカット。減速を始めたところで編隊が崩れた。フワティーとオロネーズのふたりはロケットを噴かしたままゲートへ突き進んでいく。


「王国もっ?」

「奥の手を隠していたのは私たちだけではなかった」


 ゲートを通過する寸前で2機がロケットエンジンをカット、まったく減速することなくセクション5へと突入した。速度が高すぎるためこれまで通ってきたルートに入れず、バックストレートの勢いを保ったまま仲良くコースアウトしていく。その様子をモニターで確認したデイジーが、同じことをしてきやがったと驚きの声を上げる。パターンFに気づいていないフリをしていたのは王国も同じだったかとアンリエッタが表情をしかめさせた。


 そして、大外へとコースアウトしたはずの2機はその速度を維持したまま大回りルートを突き進む。急旋回する航空機のように機体を大きく傾け、地表からわずか数メートルの高度をストレートと変わらぬスピードでぶっ飛んでいく。距離の不利を速度差で覆す大外ぶん回しルート。それがパターンFだった。ゲート手前での減速が大きく響き、共和国がトップ争いから脱落する。


「ちょっとアンリエッタ、どうにかなんないのっ?」

「手札は尽きた。フワティーにがんばってもらうしかない」


 しかしながら、先にセクション6へのゲートを通過したのはオロネーズの機体だった。バニー02もすぐ後ろにつけているものの、最終セクションだけでのオーバーテイクは難しい。なにか指示はないのかとデイジーがアンリエッタに詰め寄るものの、あとはドライバーの腕次第だとチーム監督が首を横に振る。万策尽きたと思われた時、それまでレースには口を出さなかったコマチがアンリエッタの外したヘッドセットに手を伸ばした。


「フワティーさん。最後のコーナーの手前、アウト側にある砂丘をバンクに見立てて駆け下りながら加速してください。コーナーをきれいに回り込むんじゃなくて、その勢いのままイン側の縁に機体を叩きつけるつもりで乗り上げて……」

『コマチちゃん。私にアレをやれって言うのっ?』


 コマチからきた突然の提案にフワティーが珍しく焦った様子を見せる。ちょっと待ていとアンリエッタとデイジーも目を剥いた。あんなことができるのはひと握りの変態だけだとコマチを制止する。


「上手くいけば優勝できます。失敗しても、共和国に抜かれることはないでしょう。つまり、やり得ってヤツです」


 共和国とは充分に差が開いたから、もう2位は確実と考えてよい。あとは1位になれるかどうかだと言い張るコマチ。アンリエッタがモニターに目を向ければ、もう追いつくことは不可能と諦めたようで共和国はどうにか3位を確保しようと追いすがってきた聖国を執拗にブロックしていた。


「判断はフワティーに委ねる……」

『もうっ、そんなこと言われたらやるしかないじゃないっ』


 もう自分は何も言わないとアンリエッタが丸投げする。ノーリスクでワンチャンある手を実行しなかったら、自分が日和った小心者と後ろ指をさされてしまうではないかとフワティーもやる気になった。最後の手段を実行するべく、すぐ前をいくオロネーズのアウト側へとバニー02を寄せていく。


 この砂丘を回り込んだら、あとはホームストレートへ真っすぐ突っ込むだけという最終コーナー。強引な割り込みを警戒してオロネーズは機体をイン側に寄せ、一方のフワティーはコマチの指示どおりにアウト側の斜面を駆け上がった。なぞるような正確さでレコードラインを外すことなく最終コーナーへ機体を進入させるオロネーズ。対してフワティーは斜面を駆け下りた勢いもそのままに、コーナーのイン側にある砂丘へバニー02を突っ込ませる。


『へぇぇりぃこぷとぁぁぁ――――っ!』


 反発力で砂丘の砂を盛大にふっ飛ばしながら大きくバウンドするバニー02。ふっ飛ばされた砂の中をオロネーズの機体が突き抜けてくる。ホームストレートとその奥にコントロールラインが視認できる場所で2機が並んだ。


 互いに一歩も譲らず、フワティーのバニー02とオロネーズの機体が同時にセクション1へのゲートを通過した。あとはもうスピード勝負。コンマ1秒でも早くコントロールラインへたどり着いた方の勝利となる。速度を最大限に保つためジリジリと高度を下げながらゴールを目指すオロネーズ。だけど、心中ではすでに敗北を確信していた。


 スピード勝負になれば、より高い位置にいるバニー02の方が速度へ変換できるエネルギーを多く保有する。この物理法則は小手先のテクニックで覆せるものではない。


「こちらは手札を使い尽くした。だが、彼女は最後まで切り札を隠していたか……」


 コントロールラインに向けて、オロネーズの機体より高い進入角度でバニー02が降下していく。わずかな速度差が生まれ、少しずつバニー02が前へ出始める。そして、ほぼ同時にコントロールラインを通過した。スタンドから凄まじい歓声がわき起こる。


「これでひとつ。次はもうちょっと楽に勝ってもらいたいわ」


 まったく心臓に悪いと呟きながらアンリエッタが椅子の背もたれに寄りかかって天を見上げる。しばらくして映像での確認が終わったのか1位、スイーラ連合法国。2位、メンデヤンス王国と着順がモニターに表示された。パンダネン共和国はヴォクタ聖国の追撃を振り切って3位でコントロールラインを通過するも、スタート時のフライングが確定しタイムペナルティを加算された結果、4位に転落。以下はヴェジタリオ教国、バーガニア人民国の順となる。バニー02がピットエリアに戻ってくると報道関係者と思われる人たちがワラワラ寄ってきた。


「なぜ塾長が混じっている?」


 機体から降りてきたフワティーを取り囲む報道関係者たち。その先頭で撮影用のカメラを回しながらマイクを差し出しているのは他でもないメーデル塾長だった。ピットから指示を出すアンリエッタの様子をずっと眺めていたくせに、民主連合のブロッカーをかわす作戦はあらかじめ考えてあったものですかと白々しい質問を投げかけている。


「優勝おめでとう。運営委員会のお偉いさんも大喜びして怪しげなダンスを踊り狂っていたよ」

「モローニ博士、来てたんですか?」


 報道マンの先頭に立ってインタビューしているメーデル塾長をコマチたちが呆れ顔で眺めていると、モローニ博士がひょっこりとピットへ顔を出した。採掘フェスの主催者に招かれてVIPルームで観戦していたらしい。決勝レースで共和国がトップに立ちスタンド中に失望の声が溢れていた時は青褪めていたものの、最後の最後まで目の離せない熾烈なデッドヒートという結末に衣服を脱ぎ出すくらい狂喜乱舞していたという。


「アシスタントの私たちをのけ者にして、ひとりだけVIPルームですか?」

「オムツバニーの格好でおっさんのストリップにつき合いたいなら明日は……」

「なんでもありませんっ。聞かなかったことにしてくださいっ」


 モローニ博士がVIPルームで王侯貴族のように観戦していたと知って、アシスタントは仲間外れかとデイジーが唇を尖らせる。もっとも、アシとして同行するならオムツバニーだと告げられ大慌てで発言を取り消す。


「明日の模擬戦闘も大いに盛り上げてくれるって期待しているよ」


 そして、明日も期待しているとだけ言い残して博士はピットから去っていった。


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― 新着の感想 ―
前話でフライング気味にって書かれてたのがそのままフライング判定になるとは…このリハクの眼をもってしても見抜けなんだ
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