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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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20/30

20 小型機レース ―民主連合の戦術―

 採掘フェス3日目。展示場での一般公開が始まり、本日はパスタブオートで小型機レースが開催される。午前中に予選レースが2回行われ、決勝レースのスタートはお昼の休憩を挟んだ後。フワティーを始めとするスイーラ連合法国のチームも早朝から現地入りして、地形の変化を確認するためのテスト走行を始めていた。


『タイムの方はどうかしら~』

「セクション2はパターンBの方が速い。他の機体も同じコースをとり始めた」


 走行中のバニー02から計測結果はどうだとピットへ通信が入ってきた。3つ並んだモニターで各機体の動きやセクションごとのラップタイムを監視しているアンリエッタが、セクション2のコース取りはパターンBを採用した方が速そう。他国の機体も同様の動きを見せ始めていると伝える。


『今日のコンディションならセクション5でパターンFが使えると思うんだけど~』

「計算上の条件はクリアしている。ただし、パターンFを試している機体は皆無。今ここで披露するのが得策とは思えない」

『奥の手はギリギリまで隠しておきたいわよね~』


 バニー02を操縦しているフワティーがパターンFはどうだと尋ねてきたものの、テスト走行で手の内を明かすことはないとアンリエッタに止められる。そのコースが使えることに誰も気づいていないようだと告げられ、なら秘密にしておこうと決勝レースまで温存する方針にフワティーも同意した。


「やっぱりメン王国が速い?」

「ラップタイムを見た感じだとそうかなぁ。フワティーさんとリンギネルさんがトップを争ってて、帝国と……あとヴォクタ聖国ってところが追いすがってる感じ」


 アンリエッタの後ろでモニターを見ていたデイジーが、ライバルはやはりメンデヤンス王国かと隣にいるコマチに尋ねた。タイムから判断する限り4か国が頭ひとつ分抜けていて、あとはどんぐりの背比べという返答にウムウム頷く。


「問題は予選レースの組合せ。その4か国はいずれも第1レースで、第2レースには共和国を始めとした民主連合が固まっている」


 だけど、わかった風な顔をしているコマチとデイジーに、タイムだけで決まるほどレースは甘くないとアンリエッタが告げる。4か国のうちひとつは予選レースで脱落することが決定しているし、裏で手を握っている民主連合が決勝レースに進出してくることは確実だという。


「おそらく、人民国と教国が他をブロックして共和国を先行させる。共和国が安全圏までリードを広げたら、片方が妨害を続けたままもう片方を先に行かせればいい。それで3か国のうちふたつは確実に決勝へコマを進められる」

「そんなの悪質な妨害行為じゃないっ」


 自分が作戦参謀だったらこう指示すると、アンリエッタが予選第2レースの展開予想を語って聞かせる。公正な競技でそんな行為が許されるのかとデイジーが憤るものの、たまたま展開がそうなっただけと言い張られればそれまでだとアンリエッタは首を横に振った。


「それに、民主連合が手を組んでいると誰も騒がない。皆、疑いの域を出ないと理解している証拠」

「そういえば、王国も帝国もことを公にするつもりはないみたいなこと言ってた。どう対処するのかも競技のうちだって……」


 軍士官の発言は国家の意思を代弁するものと受け取られかねない。確たる証拠もなく外国を非難したりすれば外交に悪影響を及ぼすので、状況証拠だけで軽々しく追及するようなマネはしないのだと憤るデイジーに言い聞かせるアンリエッタ。ラーメナリーもエレガンティウスも追及する姿勢は見せなかったとコマチが補足すれば、そういう疑いがあるとわかれば各国も対応を考える。追い詰めきれずに言い逃れられ、しょうもない負け惜しみでお茶を濁す姿を晒すことはないと肩をすくめてみせた。決め手を欠いたまま中途半端な追及で時間を浪費すれば逆に信用を失うという。


『民主連合の動きが予測できてるなら~、対策も考えてあるんでしょ~?』


 3人の会話はマイクに拾われていたのか、すでに対策案も用意できているのではないかとバニー02からフワティーが問い質してくる。展開だけ予想して、その先を考えないアンリエッタではないそうだ。


「私はこのチームのオペレーター。もちろん腹案は用意している。オムツバニーしか役割がないデイジーと一緒にしないでいただきたい」

「あんただってモローニ博士のおまけでついてきただけでしょっ。なに選抜されたチームの一員みたいな顔してんのよっ」


 当然、いくつかの対策は考えたけど、開陳するのは予選第2レースで民主連合の出方を確認してからだと通信に答えるアンリエッタ。しれっと選抜者面すんなと抗議の声をあげるデイジーをまるっと無視し、まずは予選通過を第一に考えるようフワティーに言い渡す。


『決勝レースを走れないんじゃ対策も無意味だものね~。了解したわ~』


 ギャワーと荒れるデイジーの声が届いているのかクスクスと笑うような口調で応答し、バニー02はテスト走行を再開した。






「酷いレースだねぇ。お客さんたちも荒れてるよ」


 小型機レースの予選が開始され、第1レースはオロネーズとフワティーが互いに手の内を見せない淡々としたレース運びで1位と2位を確保。帝国との熾烈な3位争いを制したヴォクタ聖国が決勝レースへ駒を進めた。今現在、コマチたちの目の前で行われているのは第2レース。アンリエッタの予想は見事に的中し、民主連合のあからさまなチーム戦術にスタンドから大ブーイングが浴びせられている。


「予想していたとはいえ、ここまで陳腐化した手を恥ずかしげもなく使ってきたことに驚いている。創造性が皆無だと評さざるを得ない」


 ひとつくらい想像の斜め上を行くようなサプライズがあるかもと期待していたのに、一から十まで想定の範囲内かとコマチの隣でアンリエッタも憤慨していた。手垢がつくまで擦り倒されたネタをくり返すにしても、ちょっとは新しい要素を加えてこいと不機嫌そうに頬を膨らます。予選第2レースは結局、終始単独先行していた共和国が1位で、中盤までは後続の妨害にあたっていたヴェジタリオ教国が2位。そして、最後まで悪質ブロックでポジションを維持したバーガニア人民国が3位で決勝進出を決めた。


「あんな奴らに抑え込まれるなんて、他の連中は頭に砂しか詰まっていない。予選落ちして当然」


 最後まで素直にブロックされ続ける奴があるか。予選落ちした連中は能無しを通り越した脳無しだとプンスカ怒るアンリエッタ。ちょっとは工夫して相手の手の内を引き出せと、苛立たしげに空になったドリンクのパックをゴミ箱に叩き込む。


「でも~、アンリエッタちゃんには対応策があるんでしょ~」

「ランチをとりながら説明する。コマチ……」

「はいはい、ちゃんと整備科の皆さんの分まで用意しておきました」


 予選第1レースをオーダーどおり2位で通過したフワティーが、もったいぶらずに教えろとアンリエッタの身体をユサユサと揺さぶる。まずは腹ごしらえだと話を振られたコマチが冷めても美味しいお弁当用のから揚げとハンバーグを作ってきたと告げれば、女子の手作り弁当がいただけるなんて夢のようだと整備科の士官候補生たちが歓声を上げた。


「ここの折詰も味は悪くないんすけどねぇ」

「量がちょっとな~。ダイエット食かってツッコミたくなる」

「山盛りの肉……俺が欲しかったのはこれだよ」


 ブオートレース場でのランチは飲食店フロアにあるレストランの折詰弁当。お昼近くになると注文しておいた分をピットまで配達してくれる。彩も華やかで美味しいのだけど、食べ盛りの男性候補生たちからは量が絶対的に足りてないと不評だった。ホテルを出る前に作り置きしておいたから揚げとハンバーグを大皿に盛りつけてドドンと出せば、整備科の候補生たちが涙を流して喜ぶ。


「ブロックされた場合、仕掛けるポイントはココかココ。ポジションは最後方付近がいいと思う」


 ウキーと猿のような奇声を発しながらから揚げとハンバーグを奪い合う整備科の3人とデイジーを無視して、アンリエッタがモニターにコースの概略図を表示させた。小型機レースのコースは大雑把に言えば巨大な楕円形をした左回りのトラックで、スタートとゴール地点のあるセクション1がホームストレート、セクション2と3がそれぞれ第1コーナーと第2コーナーに相当し、ロケットエンジン全開でかっ飛ばせるセクション4がバックストレート。セクション5と6が第3、第4コーナーにあたる。ただし、風によって作られた砂丘が無数にあるためトラックの最内に沿って最短ルートを進むことはできない。ココで仕掛けろと作戦を説明されたフワティーが、花の形に切られたニンジンの煮物をモグモグしながらなるほどと相槌を打つ。


「前にいる機体を囮に使うわけね~」

「そう。真後ろにいる機体に気を取られてこちらの動きを察知するのが遅れるほど余裕ができる。だから、不自然に思われない形で順位を落としておくことが重要」


 仕掛けるのは早い方がよいけれど、失敗して警戒されたら成功率が大幅に落ちる。確実に一度で決めたいから、急ぎ過ぎずに状況を作り上げるようアンリエッタが指示を出す。その様子をメーデル塾長とノリーオ大尉が黙って眺めていた。


「ヘイゲル候補生は作戦参謀か指揮官に向いているのかもしれませんね」

「うむ、企業に取られるのがもったいなくなってきたな」






 ランチタイムも終わり、食事をしていた人々がスタンド席へ戻ってきたころ、決勝レースのスタート時刻が近づいてくる。スタンド前のホームストレートでは優勝をかけて争う6機がスターティンググリッドに着いて、各国の整備員が機体の最終チェックを行っていた。グリッドの配置は左右に一機ずつが3列で、最前列がメンデヤンス王国とパンダネン共和国、第2列にスイーラ連合法国とヴェジタリオ教国。最後列がヴォクタ聖国とバーガニア人民国である。


「スタートは慎重に。アホが相打ち覚悟で突っ込んでこないとも限らない」

『いつでも避けられるよう準備しておくわ~』


 いつの間にかチーム監督に収まったアンリエッタが、バニー02のコクピットへ通信で呼びかける。機体を浮かせている反発力は機体同士の間にも作用しているので接触事故は起きにくいものの、リフティングボディを採用している小型機は主翼など出っ張った部分も多い。その気で突っ込めば相手を競技続行不能にするくらいはできるので、民主連合が一人一殺みたいな作戦を仕掛けてくることもあり得ると注意喚起され、いつでも回避行動に移れるようにしておくとフワティーが応じていた。


『レデース エーンド ジェントルメーン、スタート ユア エンジン』


 ヴゥゥゥ……とサイレンが鳴らされ、コース上にいた整備員たちが各々のピットへと戻っていく。コースに参加機体以外いなくなったところで、エンジンをかけろという旨のアナウンスが流される。


「機体を動かすのは反発式浮遊デバイスなのに、なんでエンジンなんだろうね?」

「これはμ大陸以外の場所で行われてきたレースの慣例。エンジンには胸のエンジン、すなわち闘志に火をつけろという意味も込められている」


 小型機に搭載されているのはロケットエンジンで、そもそもセクション1では使用が禁止されている。航法装置へ電力を供給するためにプネマドライブはとっくに起動済みだし、どうしてエンジンスタートのアナウンスがされるのかとコマチが疑問を口にした。無粋なツッコミはやめろとアンリエッタがギリギリ歯を鳴らす。


 スタートタイミングを表示する信号機に赤いランプが灯り、時間の経過とともに増えていく。いっぱいまで点灯した後、一斉に消灯した。スターティンググリッドに着いていた各機体が動き始める。


「また幅寄せしてきたっ」


 ややフライング気味にスタートした共和国の機体がオロネーズの操るメンデヤンス王国の機体に寄っていく。フワティーのバニー02もヴェジタリオ教国の機体に幅寄せされていた。反発力の傾斜によって進む関係上、左右に避けた分だけスタートダッシュの行き足は鈍くなる。その隙をついて空いたラインから一気にトップへ躍り出たのがバーガニア人民国の機体。だけど、オロネーズの前へつけるとスピードを落とし、共和国の機体を先行させた。共和国を勝たせるためのチーム戦術にスタンドから怒号が響き渡り、怒り狂ったデイジーがドスドスと足を踏み鳴らす。


「焦らなくていい。同じ手が二度も通用すると思ったら大間違い」


 単独で抜け出した共和国機がスイスイとリードを広げていき、2位と3位が後続をブロックしてペースを落とさせる展開にスタンドの観衆は激怒していたものの、これはまだシナリオどおりの展開だとアンリエッタは涼しい顔をしていた。仕掛けるポイントは2周目のセクション2。その手前で順位を落としておくようフワティーへ指示を伝える。


「つまらない策に頼ってなお負けた時、いったいどんな言い訳を聞かせてくれるのか。今から楽しみで仕方ないわ」


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― 新着の感想 ―
そういえばこの世界SNSあるんですよね。 妨害戦術なんてとっておいて負けたとかSNSで徹底的に愚弄される奴だと思うんすけどいいんすかこれ…。
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