18 採掘メカの祭典、開幕
採掘フェスの開催日を迎え、コマチたちは会場となる国際展示場を訪れていた。A展示場では民間事業者向けに輸送艇などが、B展示場では護衛機といった軍用機が展示され、屋外展示場では事業者向けの中古市が開かれている。
「見て、見てプーちゃん。人型メカがあるよっ」
「なんで手足が生えてるわけ?」
今日と明日はビジネスデイ。機体と搭載されるモジュールやパーツなどの製造事業者、砂竜の解体と資源の回収、輸送を受け持つ鉱山事業者に軍関係者しか入場できない。一般公開デイに比べて空いているから今のうちに見学しておこうとA展示場へと足を運んだところで、採掘機のような4本脚に2本の腕がついた上半身を乗せた作業機を見つけてコマチがはしゃぐ。それを見たデイジーが、どうして人の形に似せる必要があるのかと首を傾げていた。
「これは砂竜の解体に使用される作業機。重い資材を持ち上げたり、引っ張ったりするのに踏ん張れる脚と器用な腕が要求されました。両腕で1トンまで保持できるので輸送艇の整備作業などにも利用されています」
製造メーカーの営業担当らしいスーツ姿の男性が、砂竜から切り出された資材は形や大きさが一様ではないので、状況に応じて器用に動かせる腕が必要だった。反発式浮遊デバイスは搭載しているものの、浮いている状態では力を発揮しにくいこともあるので踏ん張れる脚が求められたのだと説明してくれる。砂漠に着地する場合は4本ある脚を折りたたむことで自重を支えられるだけの接地面積を確保でき、のけぞらせるように上半身を畳んでコンパクトにもできると製品パンフレットを差し出してきた。輸送時はバスみたいな長方形に納まる形へと変形させておくことでデッドスペースを最小限にできるという。
展示エリアを巡っていると、大まかに分けて作業機、輸送艇、積み込み機の3種が中心であることがわかってくる。輸送艇には積載量が100トンを超える大型艇もあるのだけど、それは展示場に入らないので屋外のイベント広場に1機だけ展示してあった。売れ筋は積載量が20トンから40トンの中型艇。積載量100トンなんて持て余してしまうこともあるけれど、中型艇はシーンを選ばず使えるので中古品を処分する場合でも高値がつきやすいと人気らしい。
「プーちゃん。こっちにも人型メカがあるよっ」
「人型ってより、船に手足を生やしたような感じね」
B展示場へ移ると、こちらにも半人型メカが展示されていた。上半身にあたる部分がなく、ピギー04に腕と脚を取り付けたようなフォルムをしていて、ニワトリの踵から下が長く伸びたような着陸脚で屹立している。
「連合法国のドライバーか。こいつが完成していれば逃がさなかったものを……」
「ここは共和国の展示ブースだったのね~。でも、未完成品を展示していますの~?」
「コンセプト展示ってヤツだ。動くには動くが、航法と火器管制装置は未実装なままとなっている」
人型メカにはしゃぐコマチが近づいていくと、近くにたむろしていた灰色の野戦服を身に着けた一団のひとりが振り向く。逃げ回るピギー04に追いつけなかったのは新型機でなかったからだとパンダネン共和国のコッペーノが忌々しそうに舌打ちを響かせた。どうして未完成品なんて展示しているのだと首を傾げるフワティーに、ハードウェアの部分はすでに完成していて稼働試験も終わっているけど、新しく組み込まれた機能を活用するための管制装置が間に合わなかったのだと告げる。機体を支えている着陸脚にはロケットエンジンが仕込まれていて、エンジンごと向きを変えることで通常の後方から下向き、逆噴射までこなす。破格の運動性能が期待されるものの、姿勢をコントロールするシステムの開発に手こずっているという。
「あの腕はなに?」
「倒した虫を持ち上げるためのクローアームだ。作戦内容に応じて無反動砲や30ミリ機関砲などに換装することもできる。これまで以上に幅広く活用できるマルチロール機がコンセプトだからな」
どうして腕が生えているのかと尋ねたアンリエッタに、積み込み機としての機能を持たせたためだと解説するコッペーノ。連合法国だって砂竜をおびき出すための餌に砂漠の巨大昆虫を利用しているだろう。クローアームがあれば倒した虫を輸送艇まで運ぶのに積み込み機を随伴させる必要がなくなるし、短距離ならそのまま運んでしまってもよい。採掘機の護衛任務に就く場合は火器に換装することもできる。兵装を組み換えることで様々な用途に対応できる新時代の汎用機だとふんぞり返った。
「機体を減らすためなんて、なんだか貧乏くさい話ね」
「減らすんじゃなくて、単機能で無防備な積み込み機をこいつに置き換えられると考えられないのか?」
積み込み機を随伴させる必要がなくなると耳にして、定員削減なんてケチ臭いとデイジーが言い放つ。削減ではなく、餌にする虫を輸送艇に積み込むことしかできない専用機を汎用機に置き換えるのが目的。すぐに削減へ結びつけるお前の方こそ発想が貧困なのだとコッペーノが不機嫌そうに顔をしかめた。今回は旧型機で相手してやるが、やられっぱなしで済ませるなんて期待するなとコマチに向かってシッシッと追い払うように手を振る。
「ピギーだって充分旧型機なんですからねっ」
旧型機を使ってるのはお前だけじゃないと言い残して、共和国のブースを離れるコマチ。プンスカと頬を膨らませたまま次なるブースへ向かう。なんだか人だかりができてるところがあるぞと足を向ければ、そこは改良されたピギーを展示しているワルトロン社のブースだった。人だかりの中心で機体の紹介をしているのはシーゲル中尉だ。
「本当にこの機体であんな機動ができるんですかっ?」
「私はスノウライト候補生の操縦を目にしておりませんが、初期生産モデルからの改良点は兵装を取り付けるマウントをマルチ対応にして、センサー類を増設。それに伴う装甲形状の変更と火器管制システムのアップデートが中心と聞いております」
どうやら、昨日の戦場下見で鬼ごっこを見学していた国々が集まっている模様。同一性能のまま外国にも販売されるのかと詰め寄っていて、運動性能や機体バランスに影響を及ぼすほどの変更箇所はないとシーゲル中尉が受け答えをしている。
「ちょうどいいとこに現れたわね。スノウライト候補生、こっちきなさい」
人だかりの後ろから呑気な顔でボーっと眺めているコマチに気がついたシーゲル中尉が、やらかした張本人なんだから手伝えと手招きする。こいつが実際に操縦していた操手ですとコマチが紹介されると、こんなやる気の感じられない地味な娘にパンダネン共和国とバーガニア人民国がまとめて手玉に取られたのかと驚愕の声が上がった。
「競技に向けた特別な改造はしてないって本当ですか?」
「普段から実機演習で使っているままです。特に変わったようには感じません」
集まっていた人々はピギー04が競技用の特別仕様機ではないかと疑っていたようで、本当に無改造なのかとコマチを取り囲む。実機演習に使用している練習機から適当に選んだ一機。整備はしてもらっているけど操縦した感じいつもと違ったところはないと、地味は余計だとツッコミたい気持ちを堪えてコマチが答える。
「ワルトロン社の人はどこへ行っちゃったんです?」
「別室で商談が進んでるの。そっちの方にまわってもらったわ」
どうして肝心な製造メーカーの担当者が不在なのかとコマチが小声で問い質せば、ガチの商談に加わってもらうことにしたので、その代わりにブースを引き受けたとシーゲル中尉から返答があった。ある国家から正式採用したいという話が外交筋を通して持ちかけられ、商談にはワルトロン社だけでなく連合法国の外交官にカッター大佐も立ち会っている。国際交渉の場に引っ張り込まれたいのかと尋ね返されたコマチが、この場は任されましたとやる気に満ちた笑顔でサムズアップを返す。
「挙動は素直で操作したとおりに動くって感じです。補正が弱いので無茶するとひっくり返っちゃうこともありますけど、逆に意図して1回転させることも可能です。欠点は砲手の人の胃袋までひっくり返っちゃうくらいで……」
「オゥ……」
バランサーによる補正は弱く、操縦桿をニュートラルの位置で維持するとゆっくり水平な状態へ戻っていく程度。エイヤって気合を入れてやればバレルロールのような機動も可能だとコマチが得意気に語る。ただし、やる時はあらかじめ砲手に伝えておかないと整備員からめっちゃ怒られますと警告され、話を聞いていた人々がこめかみを引きつらせた。
「現行モデルは兵装のマウントがマルチ対応に更新されておりますので、火器の組合せがかなり自由になりました。ミサイルポッド8つとか機関砲ばかり16門なんて極端な搭載も可能です」
広報のような仕事に慣れているのか経験談はコマチに任せ、知識で語れるところを紹介するシーゲル中尉。旧モデルは取り付け位置ごとに兵装が限られていたものの、現行モデルはロマンを追求できます。火器管制システムもアップグレードされて最大8体までのマルチロックオンに対応しましたと売り込んでいく。
「フルバースト射撃が実際にできるのか……」
「全身に装備したミサイルを一斉発射とかロマン溢れすぎだろ……」
「無反動砲をありったけ積んで全門斉射……」
説明を聞いた各国の士官候補生たちが、あんなことやこんなことができるのかと手をプルプル震わせていた。命綱とも言える弾薬を一度に全部消費すると耳にしてコマチは正気を疑いたくなったものの、引き受けた以上は仕事をこなさなければと思い直し笑顔で説明を続ける。しばらくすると満足したのか人だかりが散っていった。
「あ゛~、ちかれた~」
ブースから人が減ったところでコマチは展示パネルの裏側にある休憩室へ移動し、喉がカラカラだと冷えたドリンクをいただく。は~ヤレヤレとシーゲル中尉が椅子にだらしなく腰かけて、やっぱり喉が渇いていたのかドリンクをグビグビあおる。
「シーゲル中尉はこういった仕事に慣れてるんですか?」
「そりゃ、広報アテンダントだもの。カメラの前で説明できなきゃ仕事になんないわ」
どうして軍人なのに製品紹介が巧みなのかと疑問に感じたコマチが尋ねたところ、広報アテンダントという答えが返ってきた。採掘フェスには報道機関も集まるということで派遣されたのだという。
「ケバイだけが取り柄のおばさんじゃなかった」
「ケバイ言うな。これはカメラ映りを意識したメイクなのよ」
ケバイと言われて、これは報道用のメイクだとシーゲル中尉が反論する。カメラの中心に映るのは発表資料を表示しているモニターで、広報アテンダントがアップで撮られる機会は少ない。小さく映り込むことがほとんどだから、背景に紛れてしまわないようアイラインや鼻筋をくっきりさせるメイクで目立たせているだけ。必要だからやっている職種メイクだと言い張った。
「この娘みたいに地味なのは、たまたま通りがかった通行人にしか見えないでしょ」
「おうふっ?」
任官したら広報アテンダントみたいな武器を振り回さなくてすむ部署に配属されたいと考えているコマチを指差して、地味な田舎娘には務まらないと鼻を鳴らすシーゲル中尉。思いがけないところから飛んできた流れ弾にコマチが胸を押さえて絶句する。
「そろそろくじ引きの時間だわ~。イベントホールへ向かいましょ~」
ひと息ついたところで、もうすぐ出番だぞとフワティーが口にする。イベントホールでは開会セレモニーが行われていて、主催者やスポンサー様の挨拶に見どころ紹介などのステージが進行しているところ。その内のひとつに候補生たちによる競技を紹介するコーナーも予定されていた。予選レースの組合せに模擬戦闘の開始地点を決めるくじ引きもあるため、コマチとフワティーは参加しなければならない。まもなく指定された集合時間だとフワティーに促され、すっかり生気を失ったコマチが力なく椅子から立ち上がる。しゃんとしなさいとデイジーに手を引かれ、ヨロヨロとした足取りでブースから出ていった。




