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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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17/30

17 ブオートレース場でエレガントなカフェを

「初めまして、マドモアゼル。私はニクザンマイン帝国の士官候補生、エレガンティウス・ザーブトンと申します。こちらはエトロワ・バラートン、砲手を務めます」


 コマチが機体から降りて砂地へ足を着けると、銀色の髪をした細身の青年が挨拶と自己紹介をしてきた。後ろに控えている女性も細身で、食事はちゃんと摂れているのだろうかと場違いな疑問がコマチの頭に浮かぶ。


「スイーラ連合法国の士官候補生、コマチ・スノウライトです」

「砲手のマイケル・エイガスと申します」


 とはいえ、医師でもない身で人の健康状態に口出しするのはお節介が過ぎるというもの。そこには触れず、ご丁寧な挨拶痛み入りますと操手同士、砲手同士で握手を交わして観戦スタンドへ向かう。


「これがブオートレースで使用する機体ですか。なんだか、おもちゃみたいですね」

「哨戒機のように反発力では上がれない高度を飛行する必要がないからでしょう。重量も300キロくらいしかないそうですよ」


 建物のエントランスホールに展示されている機体を見つけて、思っていたよりちっちゃいと感想を口にするコマチ。レースに必要なものしか搭載されていないから軽量なのだろうと諸元表に目を通しながらエレガンティウスが答えていた。採掘部隊が使用する哨戒機はリフティングボディに航法装置や観測装置を積み込んでいるため重量が2トンを超える。


 ほうほう、ここがブオートレース場かとキョロキョロしながら一行は館内を進む。エレガンティウスが案内したのは、壁に大きなモニターがいくつも並んでいるカフェだった。それぞれのモニターはレースコースの様々な場所を表示しているようで、映像には異なる機体の様子が映し出されている。そのうちのひとつにバニー02もあった。


「……あの常に弧を描くような機動、マドモアゼル・コマチの操縦に似ていますね」


 コマチがひとつのモニターに見入っていることに気づいたエレガンティウスが、そこに映し出されている映像を見て動きが似ていると感想を口にした。まだまだ洗練されていないものの、今年の連合法国はレースでも優勝候補かと感心したようにため息を吐き出す。


「極限まで速度の損失をそぎ落とした結果。理屈はわかるのですが、ミス・コマチほど完成されているのは現役士官でもひと握りでしょう。いわゆるエース級です」


 テーブルについているタッチパネルで飲み物をオーダーしながら、操縦技術に関してはすでにエース級。ほぼ実力順となる小型機レースであれば優勝は確実だとエトロワが口にする。バトルロイヤルである模擬戦闘は展開次第でまぎれが発生しやすいものの、その矢面に立たされるなんて貧乏くじを引かされた気分だと愚痴をこぼしていた。正直なところを話せば、レースで優勝していてくれればよかったのにと思わざるを得ないという。


「そうなんですか?」

「ああ、民主連合は裏で手を組んでそうだし、連合法国はエース級を投入してきた。きっと今ごろ、各国共に頭を悩ませているよ。自分たちはどう動くべきかってね」


 他の出場者がどの程度の腕前なのか情報を持っていなかったコマチはエース級と言われてもピンとこない。そうだったのかと首を傾げるばかりである。そんなコマチに、民主連合と連合法国のどちらを優先して撃破すべきか各国がウンウン唸っているとエレガンティウスが楽しそうに笑いかけた。曰く、他と足並みを揃えられなかった国が時間稼ぎの囮として利用されることは目に見えているそうだ。


「ヴェジタリオ教国のパンプキーナはきっと、コッペーノと睨み合っているあなたへ手を貸すフリをして不意打ちを仕掛けるつもりだったのでしょう。ですから、あんなに逆上していたのだと思います」


 単独で相手するのは分が悪すぎる。味方のフリをして背後から撃ってやろうと作戦を立てていたのに、コッペーノに関係をバラされてしまった。それで我慢できず怒鳴りつけたに違いないとエトロワが意地悪そうにシシシ……と笑う。


「まったく仕方のない連中だよ。候補生のうちからそんな手段に頼って、いったい何が学べるというのだか」


 模擬戦闘の目的は戦訓を得て、それを取り入れることにある。勝利を目指さないのは問題なものの、固執し過ぎるのも本末転倒だと口にしながらエレガンティウスが配膳されたお茶とケーキを勧めてきた。がんばることに意味があるなんて思わないけど、何かを学ぶことができたなら敗北にも価値が生まれる。大切なのは機会を無駄にしないことだとお茶へ口をつけた。


「あの機体の動きも悪くないですね」

「あれは……メンデヤンス王国軍の機体だね。今年は王国と連合法国がダブルタイトルを獲得するべく本腰を入れてきたかな」


 お喋りをしながらハムハムとケーキを食べていたコマチの注意をひとつの機体が引きつけた。バニー02に引けを取らない動きをしている。エレガンティウスによればメンデヤンス王国軍の機体とのこと。王国と連合法国はレースと模擬戦闘の両方で勝利する腹積もりなのだろう。自分が代表選手に選ばれた年に限って強敵が現れるなんてと肩をすくめてみせるものの、口調にはどこか楽しんでいるような響きがある。


「ラーメナリーさんってお強いんですか?」

「王女殿下は砲手なんだけど、照準が素早くて正確。クイックドロウみたいな早撃ち勝負になるとめっぽう強い。コッペーノもエトロワも出会い頭で撃ち負けている」


 王国も優勝を狙っているということは、あのラーメナリーという王女様も侮れない相手ということ。相当な実力者なのかとコマチが尋ねたところ、1対1の草試合で共和国と帝国を打ち倒しているという答えが返ってきた。すでに黒星をつけられているエトロワが悔しそうに顔をしかめる。砂丘の陰から飛び出て互いに向き合った瞬間、こちらがトリガーを引くより早く撃破判定が下されたとその時の様子を説明され、同じ砲手であるエイガスがゴクリと唾を飲み込んだ。


「じゃあ、そういう勝負にならないよう立ち回らないとダメですね」

「簡単そうに言ってくれる……でも、君であれば可能かもしれない」


 メンデヤンス王国の操手に操縦技術で劣っているとは思わないものの、自分では有利な状況を作り出せず早撃ち勝負に持ち込まれてしまった。相手の操手は王女殿下の腕を信頼しているのか、出会い頭でぶつかることを恐れていない。むしろ、そういう状況を作り出せれば勝利を確信しているようで強気に前へ出てくると語るエレガンティウス。もっとも、逃げ回るコマチを真っすぐ追いかけたりすれば、出会い頭に相対するのが機体でなくロケット弾の弾頭ということもある。どれほどの達人であっても置きエイムにクイックドロウで立ち向かうのはさすがに分が悪く、ラーメナリー王女にとって最も厄介な相手はコマチで間違いないとお茶のカップを持ちあげながらウインクしてみせた。


「まぁ、だからこそどの国も乱戦のさなかに撃破しておこうと狙ってくるだろうね。もちろん、私だってそのつもりだよ。勝利を諦めるつもりはさらさらない」


 だけど、今日のことで最後にスイーラ連合法国と1対1になったら勝ち目はないと各国も覚ったはず。だから、民主連合とメンデヤンス王国、連合法国をどの順番で潰していくべきか頭を悩ませているのだとカップに口をつける。


「困りましたね。できれば3機を相手に逃げ切れるか試しておきたかったのですけど、あのパンプキーナってひとに止められちゃいましたから」

「ごふっ……」


 そして、3対1という状況を当たり前のように受け入れるコマチの発言を耳にしておかしな音を立てた。お茶が気管へ入ってしまったのかゲホゲホと激しくむせるエレガンティウスをエトロワが介抱する。また非常識なことを言い出しやがったと顔をしかめているのはエイガスだ。


「スノウライト、あの状況で鬼ごっこを続けるつもりだったのか?」

「相手の実力に差があるならつけ込む隙はあるかと……」


 自分はなし崩し的に終わって助かったと考えていたのに、こいつはやる気マンマンだったのかとエイガスがこめかみをヒクつかせる。相手の足並みが揃っていないならワンチャンあったのではないかと語るコマチ。本番前に感触をつかんでおきたかったと残念がる様子に、エレガンティウスとエトロワも唖然とした表情を浮かべていた。


「純朴そうな雰囲気とは裏腹にマドモアゼル・コマチは好戦的なのだね」

「スノウライトは常識がわからぬ野人と評判でして……」

「あたしは田舎もんかもしれませんけど、未開人じゃありませんよっ」


 ひとの好い田舎娘みたいな顔をして、実はバトルジャンキーだったのかとエレガンティウスが引きつった笑みを浮かべる。他の候補生からは野生児のように思われているというエイガスの説明に、ジャングルの奥地で見つかった原住民族みたいな言い方するなとコマチがまなじりを吊り上げた。素潜りでタコも獲れない都会の連中が軟弱なだけだとテーブルをバシバシ叩く。


「海に棲まう悪魔を素手で捕らえるなんて……なんと恐ろしい」

「タコさんはありふれた食材ですよっ。悪魔とか言う方が非科学的ですっ」


 ウネウネ動く軟体動物が嫌いなようで、あんなのに素手で触れるなんてと顔色を青染めさせたエトロワがイヤイヤと首を横に振った。タコは人間様に食べられるために存在しているのだとコマチが説明しても、あんなキモイ生き物が自然に発生したわけがない。悪意を持った何者かが放ったに決まっていると、絶対に受け入れない構えをみせる。


「お、フワティーがピットに戻ったようだぞ」

「では、我々も向かいましょうか」


 コマチとエトロワがキシャー、キシャーと威嚇しあっていたところ、機体整備を行うピットエリアの様子を表示しているモニターにバニー02が映り込む。優勝候補の一角ならぜひ挨拶しておきたいとエレガンティウスが席を立った。採掘フェスの競技で使用されるのは最新鋭機でなく、外国へ輸出もしている旧型機。競技自体が製品のデモンストレーションという側面をもっている。今さら隠すような機密もないだろうとエレガンティウスとエトロワを連れてコマチたちが連合法国のピットへ向かう。


「あら~、コマチちゃん。そちらの方々はどちら様かしら~?」

「模擬戦闘に出場するニクザンマイン帝国のおふたりです」


 ピットではバニー02を背景に冷たいドリンクをゴクゴクするフワティーの姿をメーデル塾長が撮影しているところだった。コマチたちの後ろに見慣れない顔があることに気づいたフワティーが何者かと問い質す。


「ニクザンマイン帝国のエレガンティウス・ザーブトンと申します」

「もしかして~、ザーブトン伯爵様のご子息でいらっしゃいますの~?」


 エレガンティウスの挨拶を受けたフワティーが、帝国にある伯爵家のひとつではないかと首を傾げる。ラーメナリーが王女様であることも言い当てていたし、どうして外国の貴族に詳しいのかとコマチは疑問に感じたものの、また講義で説明されたはずだと補習を追加されては堪らないので黙っていることにした。


「ご存じでしたか。いかにもザーブトン伯爵家の子息ではありますが、あいにくと三男でしてね。軍で身を立てなければ放逐される立場です」


 お尋ねのとおり帝国貴族の家柄ではあるものの、爵位を継げる立場ではないから家名なんて有って無いようなものだと答えるエレガンティウス。軍で出世できなければ容赦なく勘当される運命だと笑う。


「なかなかの腕前とお見受けしましたが、あなたの操縦はマドモアゼル・コマチを模倣したものですね」

「それがわかっちゃうということは~、コマチちゃんが操縦を披露したの~?」


 優勝候補の一角ではあるものの、連合法国の中では2番手。コマチをお手本にしているなと告げられて、やる気のないことに定評のある娘が本番前に実力を見せたのかとフワティーが目を丸くした。草バトルをやりたがっていたパンダネン共和国の候補生に鬼ごっこを逆提案して相手の実力を探っていたとエイガスが説明し、おかげでこっそり手を組んでいた連中を暴き出せたとエレガンティウスも楽しそうに語る。


「呆れた話ね~。そんなやり口が見抜かれないって本気で考えてるのかしら~」


 採掘フェスには各国の軍人が集まってくる。競技中にとった各機体の行動はすべて記録に残るし分析もされるのに、プロの目をごまかせると思っているのかと頬を膨らませるフワティー。そして、それはこちらも同じこと。本番前に手の内を明かせば対策されるのは当たり前だぞとコマチに向かって唇を尖らせた。


「全力を出したわけじゃありませんよ。ヘリコプターも見せてません」

「あれで……まだ余力を残していたと?」


 プンスカと怒れるフワティーに睨みつけられたコマチは、本気を出すまでには至っていない。手の内を明かしたなんて大袈裟だと言い張った。全力には程遠いという言い訳を耳にしたエトロワが、まだ奥の手を残していたと知って愕然とした表情を浮かべる。


「ヘリコプター? 拡張装備は制限されているはずでは?」

「いや、ヘリコプターというのは――ふごっ」

「エイガスくぅぅぅん……」


 ヘリコプターという名称から兵装のひとつと考えたのか、誘導兵器や機体から分離して稼働する自律型兵器の使用は禁止されているはずだとエレガンティウスが問い詰める。兵装とは違うのだと説明しようとするエイガスを、ニッコリと微笑みを浮かべたフワティーが鼻先を摘まんで制止した。そのまま左右からエイガスの頭を包み込むように両腕を回していく。いったい何が始まるのかと期待に赤面している顔をグイと胸元へ引き寄せると――


「口の軽い殿方は長生きできないわよ~」

「うごおっ?」


 ――首を極められて身動きできない獲物のボディに膝蹴りを叩き込んだ。両腕とボリューミーなおっぱいにガッチリと頭を固定されているエイガスは逃げることすら許されない。そのまま2発、3発と容赦のない追撃が加えられ、うっかり軍事機密を漏らすところだった迂闊な男が床に転がされる。


「これは勉強になりました。次からは私も使わせていただきましょう」

「エトロワ……君は私に恨みでもあるのかい?」


 自分より大柄な男性をあっさり悶絶させる手口を見て、参考にさせていただくと口にするエトロワ。これが知り過ぎた人間の末路だとフワティーから威嚇されたエレガンティウスは、明日の開会セレモニーでまた会おうと言い残してピットから逃げるように去っていった。


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王は(凡)人の心が解らない…
ん?ウカツにご褒美あげたのかな?フワティーは優しいなぁ…
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