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熱砂の採掘戦場から  作者: 小睦 博


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16/30

16 鬼ごっこをしましょう

 動植物園を楽しんだ翌日、コマチはエイガスと調整の終わったピギー04で模擬戦闘の舞台となるエリアの下見に向かった。他にも地形の確認にきている国があるようで、レーダーを確認すれば直径が6キロほどある戦闘エリア内にポツリ、ポツリと機体が点在している。


「10日前がこれで、5日前、3日前と……競技が4日後であることを考慮すれば、この辺りが戦場になりそうだな」


 風によって砂が流されるため、砂漠の地形は日々刻々と変化している。そして、平坦で見通しのよいところと、砂丘が重なって射線が通りにくいところといった具合にムラが生じていた。各国の選手たちはもちろん障害物に機体を隠せる場所に集まってくるだろうから、激戦区になりそうな場所は予測できる。メンデヤンス王国軍から提供されている地形データを参照しながら、この辺りで激しいポジションの奪い合いが起きそうだとエイガスがディスプレイに地形図を表示させた。


「真ん中辺りは見通しがいいから、外周付近での1対1から始まる感じかなぁ。乱戦じゃなくて、トーナメント戦みたいな流れになりそう」


 地形図を確認したコマチが、戦闘エリアの中央付近にぽっかりと起伏の少ないところがあるから、実際のところは円形でなくドーナツ形。それぞれが外周に沿って進み、出会った相手と交戦することになるのではと予想を口にする。


「多少は乱戦になってくれないと弾薬が持たないな」


 参加16組のトーナメントと仮定した場合、優勝するには4回勝たなければならない。つまり、4発しかない無反動砲は一発も無駄打ちできない計算になる。後になるほど手強い相手が残るわけだから、最低でも決勝戦のために2発は残しておきたいと語るエイガス。そのため、乱戦のどさくさに紛れてロケット弾か機関砲でひとつかふたつは撃破したかったという。


「みんなそう考えるだろうから、乱戦に持ち込むチャンスもあるんじゃないかな」


 考えることはみんな同じ。相手が弾をケチっている間に、他の組が交戦しているところまで引っ張り込むこともできるのではないかとコマチが提案する。


「できるのか?」

「相手が全員、スパイル大尉並みの実力者だったら諦めるしかないけど……」

「さすがにないだろ……ないよな?」


 攻撃をかわしながら誘導する自信があるのかとエイガスに問われたコマチは、進路の先を読んで射線の通るポジションに先回りしてくる相手が複数いたらどうにもならないと答えながらピギー04を地表面ギリギリまで降下させた。砂丘の高さが4メートルもあれば機体は隠せるものの、やはり場所によって高いところ低いところとムラがあるので、どうして何も言わないんだと叫ぶエイガスを無視して狙われるとしたらどこからだと攻撃ポイントを確認していく。砂丘の間を縫うようにピギー04を進ませながら機体を操る感覚や視界を確認していたところ、いつの間にかレーダーに表示される光点が10を超えていた。


『これだけ集まってるならちょうどいい。本番前にひとつ腕試しといこうじゃないか』

『競技中でもないのに火器管制レーダーを照射すれば敵対行動とみなされますわよ』


 どの国もやる気マンマンだなぁとコマチが感心していたところ、通信機のスピーカーから聞き覚えのある声が響いてきた。どうやら、パンダネン共和国のコッペーノがオープンチャンネルで草試合を呼びかけている模様。続けてラーメナリーの制止する声が聞こえてくる。


『試合場を確認する数少ない機会を潰そうだなんて、盤外戦術にしても稚拙すぎる。少しは作法というものを学んではいかがかな』

『そのスカした物言いは帝国の自称エレガントか』


 乗るつもりはないのか各国の士官候補生が完全にシカトを決めるなか、どこか笑いを含んだような通信が入ってくる。どうやら、旧知の相手がいた模様。言いたいことがあるならかかってこいコラァとコッペーノが挑発するものの、自称エレガントと呼ばれた候補生は相手にせず、実力のほどは本番で示してみせるから首を洗って待っていろと煽り返す。迷惑だからオープンチャンネルで言い争うなとラーメナリーがふたりをたしなめるものの、どちらも引き下がらろうとしない。


『相手になってあげてもいいですよ。ですけど、ルールは鬼ごっこです』


 言い争っているふたりは互いの実力を把握しているのだろうけど、コマチには相手の情報がまったくない。せっかくの機会だから計ってみようかとコッペーノの提案に乗ることにした。ちょっと待てと制止するエイガスとラーメナリーを無視して、100メートル以内の距離から2秒間機関砲でスポットできたらそっちの勝ち。ただし、見通しのよい上空から撃ち下ろせないようコッペーノ側には高度制限をかけると告げる。


『連合法国の候補生か。エレガントを自称する腰抜けよりも話がわかるな。いいだろう』


 条件に同意したコッペーノが機体を地表近くまで降下させる。ピギー04との距離はおおよそ500メートルほど。レーダーで共和国機の位置を確信したコマチが鬼さんこちらと逃走を始め、二機による追いかけっこが幕を開けた。


「班長さん。ちゃんと射線のとおる場所を確認しておいてください」

「任せろ……と言いたいところだが、ドンカーツのあたりに比べると小振りな砂丘が多い。思った以上に射線がとおらないぞ」


 比較的起伏に富んだ辺りへピギー04を逃げ込ませ、砂丘の間をすり抜けるように進めるコマチ。どこから、どこが狙えるのか確認しておくよう告げられたエイガスが、砂丘のてっぺんより高いところを飛んでくれるマヌケな相手でない限り、300メートル以内にまで接近しなければ撃破するのは難しそうだと表情をしかめていた。共和国機との距離は400メートルといったところなのに、照準器のカメラにはチラリとも姿が映らない。


『くそっ、ドブネズミみたいにチョロチョロと……おい、もっと近づけないのかっ』


 鬼ごっこが始まって間もなく、共和国機は動きが鈍くいつでも振り切ってしまえることにコマチは気がついた。それでは情報収集にならないと、追いかけてくる相手にあわせて200から300メートルの距離を保つようピギー04を操縦する。いつまでたっても一定以上には距離が縮まらないことに苛立ってきたのか、通信機からコッペーノの罵声が聞こえてきた。どうやら本人は砲手のようで、何をグズグズしていると操手を叱りつけている。


『これは……とんでもないダークホースが潜んでいたようですわね……』

『草試合なんてエレガントじゃない。そう考えていたけど……連合法国の機体はまるでワルツかアイスダンスを踊っているかのようだ』


 ヤレヤレと半ば呆れた気持ちで上空から二機の追いかけっこを眺めていたラーメナリーだったものの、近づかれも引き離しもしないようコマチが互いの位置を調整していることを見抜いて息を呑む。示し合わせることもなく、距離を一定に保ってみせるなんて並みの操手ではない。アレは絶対に追いかけてはいけない相手。間違いなく返り討ちにされると拳を握り締める。帝国の自称エレガントと呼ばれた候補生も、氷上を滑っているような機動は優雅と評するほかない。襲いかかってくる狂犬を、微笑みながらいなしてしまえるほどの強者かと唇を噛みしめた。


『ダブチンッ。ぼうっと見てないで挟み撃ちにしろっ』

『お待ちなさいっ。勝てないからって、そんな話がありますかっ』

『外野は黙ってろっ』


 近づくことさえ許されず敗北という結果が受け入れ難いのか、他国の候補生に参加を命じるコッペーノ。インチキにも程があるとラーメナリーが抗議したものの、1対1なんて条件は示されていないと耳を貸さない。コマチがレーダーの表示へ目を落とせば、ピギー04の進路前方へまわり込むように接近してくる光点が確認できた。とりあえずそれをダブチン機と仮定して回避ルートを探す。


『こっちの進路に入ってくるなっ。邪魔しにきたのかっ』


 砂丘を盾にダブチン機を迂回したコマチが共和国機と一直線上に並ぶようピギー04を操れば、我慢ができない性格なのかコッペーノは早々に仲間を罵倒し始めた。なんて協調性のない連中だとエイガスも呆れている。ダブチン機は共和国機に輪をかけて動きが鈍く、コマチにしてみれば便利に使える盾が増えたようなもの。呼び込んだのはコッペーノなのだからと容赦なく活用していく。


『パンプキーナッ。お前も参加しろっ』

『こんのアホたれがぁぁぁ――――っ!』


 ダブチン機は使い物にならないと判断したコッペーノが更なる増援を要請する。あんな性格をしているのにお友だちは多いのかとコマチが訝しんでいたところ、通信機のオープンチャンネルに女性のものと思われる怒りの咆哮がこだました。それまで我関せずと無視を決め込んでいた一機が共和国機の進路を通せんぼして鬼ごっこを止めてしまう。


『なるほど、裏で手を結んでいたわけですか?』

『最初はバーガニア人民国、次がヴェジタリオ教国ですか。どちらも民主連合の加盟国とはわかりやすい。多少なりともひねりが欲しいですね』


 事情を覚ったラーメナリーが、バトルロイヤルにもかかわらずこっそり同盟を結成していたなと冷ややかな声を響かせた。まさかと驚くようなところに潜ませてこその伏兵だろうにと帝国の自称エレガントな候補生も鼻で笑う。たまたま知己を得る機会があったというだけ。証拠のひとつもない言いがかりだとコッペーノが声を荒げる。


『証拠の有無など問題ではありませんわ。判断はこの通信を耳にした方が各々下せばよい話。わたくし自身、誰に何を証明するつもりもございませんもの』

『皆、士官教育を受けている候補生だからね。状況をどう利用するかは各人が判断すべきことだろう』


 だけど、裁判所に訴え出るわけではないのだから証拠なんて必要ない。言いがかりかどうかは各自で判断せよ。これが真実であると他者に示すつもりはないとラーメナリーは言い放った。この状況をどのように解釈し、どう行動するかも競技の一部。おもしろくなってまいりましたと帝国の自称エレガント候補生が楽しそうに喉を鳴らす。


 下見が済んだのならとラーメナリーの機体に連れられ、コッペーノの共和国機とダブチン機、そしてパンプキーナと呼ばれた女性の搭乗している3機がメンデヤンス王国軍基地へと帰投していく。どうやら、何をするかわからんと監視がつけられているのは民主連合に加盟している国々であるらしい。帝国は自由行動を許されているのか一緒に帰投することなく、自称エレガントな候補生がピギー04へ機体を寄せてきた。


『痛快だったよ。コッペーノが口だけの男とはいえ、まったく寄せ付けないとはね』


 小型機レースの観戦スタンドは常設の物で、軽食やドリンクを提供するお店もオープンしている。ぜひ一杯おごらせてくれと自称エレガントがオープンチャンネルで誘ってきた。レースが開催される場所にはフワティーの他、整備科の候補生たちが機体調整のために向かっており、もとより戦闘エリアの下見を終えたら合流する予定。スケジュールに影響があるわけでもないからとコマチが了承し、二機は小型機レースの開催予定場所へと向かう。


 レースが開催される場所はパスタデアールのある岩場と砂漠の境目付近にあって、観戦スタンドは一見すると砂漠に建てられているものの、砂の層は1メートルから2メートルといったところ。薄く砂を被った岩盤に建てられているため崩れたりする心配はないと自称エレガントは語った。地表から40メートルほど高度をとってコマチがピギー04を向かわせれば、砂漠の中にポツンと横幅のある建物が見えてくる。その100メートル後ろはもう岩場となっていて、上空から眺めると浜辺に建った海の家みたいな印象を受けた。


『ようこそ、パスタブオートへ。ピギー04は南駐機場のD70を利用してください』

「管制塔まであるんですね」

『ここは常設のレース場で、普段は賭けレースが催されているそうだよ』


 管制官の指示に従って軍関係者に割り当てられた駐機場へピギー04を降ろしながら、なんでこんなに周辺施設が充実しているのかとコマチが疑問を口にすれば、ここはパスタブオートという賭けレース場なのだという答えが返ってきた。主催者側の用意した競技用の機体と専任ドライバーで競争し着順を予想するブオートレースの他、住民たちがお手製機体を持ち寄って競うレースイベントにも使用されるという。


「ピギー04、着底。待機モードへ」


 機体を駐機させたコマチが航法システムを待機モードへ移行させれば、コクピットの天板が前方へスライドするように開きシートが乗降位置へとせり上がっていく。ヨッコラセと操手席から這い出して隣にある自称エレガントの帝国機へ目を向けたところ、コマチよりひとつかふたつ年上だけどエイガスやフワティーよりは若そうな青年と女性が降りてきた。


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― 新着の感想 ―
間合いを完璧に調整されるのがヤバイということに気づけないのがまだまだ未熟な候補生だなぁ感
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