第六話 共犯者たちの、役割分担
空き教室、改め「対策本部」。
二回目の会合で、ソレイユが黒板に組織図を書き上げた。この子、本編五周の知識もさることながら、根が委員長気質だ。
前世は絶対、学級委員か生徒会役員だったと思う。桃色の髪をひとつに結び、飴色の瞳を輝かせてチョークを走らせる姿は、ヒロインというより、文化祭前夜の実行委員長である。
「役割分担を発表します! 異議は挙手で!」
「オーレリアン様は、生徒会長権限でバザーの運営規則を改定。お金の流れを『見える化』してください。敵の細工は、お金の流れが不透明なほど刺さりやすいので」
「任せろ。ヴィオレッタ、会計規則の草案を頼めるか。君、そういう緻密なのが得意だろう」
「ええ。骨子は三つ。寄付金は受領のたびに三名立会い。即時封蝋。台帳への即時記入。……細工の入る『時間の隙間』を、まず潰しますわ」
「ジークハルト様は警備計画。バザー当日の金庫と会計室周りの動線管理をお願いします」
「承知した」
黒髪を短く刈った長身の騎士が頷く。三年前まで、妹の話題以外では目元ひとつ動かさなかった男だ。それが今は――。
「実は妹も手伝いたいと言っている。……あの事件以来、人混みが駄目だったんだが、去年あたりから平気になってな。『私が守られてばかりじゃ、お兄様が心配で倒れるでしょう』と」
良い傾向だ。外伝では、あの妹の件がジークハルトの理性を焼き切る導火線だった。妹に似た少女を危険に晒し、「また守れなかった」と思い込ませる――星三つの折り方。
導火線は、もう湿らせてある。妹自身が、外を歩けるようになった。それ以上の防湿はない。
「ノエル様は、司書の身辺調査。ただし! 魔法探査は全面禁止です。相手は本職、探知の気配で逆にこちらの動きを悟られます」
「ふうん。じゃあ足で調べる」
白銀がかった淡い髪の少年が、猫のような目を細めた。小柄で中性的な見た目のせいで年下に見られがちだが、頭の回転はこの中でも一、二を争う。
「……図書館に、友達と一緒に勉強のふりをして通えばいいんだろ。僕、友達いるから。魔法科に六人、普通科に四人。あと図書委員に二人」
ノエルが謎に指を折って数え上げる。三年前まで「どうせみんな僕の魔力目当てだ」と、猫の目で誰も寄せ付けなかった子がこれだ。
「皆、貴方の魔力目当てよ」と囁き続ければ完成する人間不信――星一つの、一番簡単で一番後味の悪い折り方。
その材料が、今や十二人の友達に上書きされている。感慨で目頭が熱くなる。
「リュカ様は情報の分析班。それともうひとつ――医学の知識で、司書の健康状態を観察してほしいの」
「健康状態? 面白い着眼だね。理由は?」
車椅子の上で、亜麻色の髪の少年が身を乗り出した。この三年で頬に血の色が差し、背も伸びた。私は頷き、外伝の設定資料、キャラクター詳細のページを頭に浮かべた。
「長期潜入の工作員は、覚醒剤に近い薬で眠気と疲労を消し続けています。任務中に無防備な睡眠を取れないから。でも代償として、午後に手の細かい震えが出る。それと、光への過敏――彼が図書館でいつも窓に背を向けて座るのは、癖ではなく症状のはず。二つ揃えば、正体の医学的な裏が取れますわ」
全員が、まじまじと私を見た。オーレリアンが半ば呆れ、半ば感心したように言う。
「ヴィオレッタ。君は時々、恐ろしく『そちら側』の手口に詳しいな。一体どこで学んだ」
「……悪い書物を、三百時間ほど」
嘘は言っていない。一切、言っていないのが我ながら怖い。
「最後に、私! 私は敵の『シナリオ予測』を担当します。ヴィオレッタ様と二人で、敵が次に打つ手を先読みして、皆さんに配ります。――以上、質問は!?」
「ひとつ」リュカが手を挙げた。「この同盟に、名前は付けないの? 合言葉とか」
「「「要る!」」」
男性陣の食いつきが一番良かったのがそこだった。
殿方って、いくつになってもこういうのがお好きよね。協議の末――そして「ページめくり(仮称)」を倒す会なら、と誰かが言い出して――同盟名は『栞の会』に決まった。ページをめくる者を、止める栞。
……悪くない名前だと、私も思う。




