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異世界交番、本日も異常あり!〜手取り14万の最弱巡査ですが、最強の美少女たちを指揮して魔王も現行犯逮捕します〜  作者: 月神世一


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EP 4

 月給30万の借金と悪徳金融。手取り16万の社畜、異世界の闇金スパイを法で論破す

「おいコラァッ! いつになったら金返すんだ、フェイト・ラック! 天下のA級冒険者様が、借金踏み倒してタダで済むと思ってんのか!」

 ポポロ村の昼下がり。

 フェイトの借りている一軒家の前で、ガラの悪い男たちの怒声が響き渡っていた。

 黒ずくめの革鎧に、あからさまにヤクザめいた刺青を入れた三人組。王都の裏社会を牛耳る『ゴルド商会』の末端、いわゆる悪徳金融ヤミきんの取り立て屋たちだ。

「あー……。悪いんだけど、もうちょっと声のトーン落としてくれない? 今日のコイントス、見事に『裏』が出ちゃってさ。自律神経がぶっ壊れてて、頭痛に響くんだよ……」

 玄関先にパジャマ姿でへたり込んでいるフェイトは、顔面を蒼白にさせ、今にも吐きそうな顔で耳を塞いでいた。

「知るかボケ! 元金十万Gゴールドに、雪だるま式の利息が乗って、今じゃ五百万Gだ! 払えねえなら、そのご自慢のミスリル装備をひん剥いて売り飛ばすぞ!」

 取り立て屋のリーダー格が、分厚い羊皮紙の『借用書』をフェイトの顔に叩きつける。

「いや、俺が借りたのは十万だけだって。しかもそれ、前回の『裏』を出して三日間高熱で寝込んでる時に、お前らが勝手に家に上がり込んで、無理やり俺の手を取ってサインさせたんだろ……」

「証拠はあんのか!? ここにバッチリお前のサインと血判があんだろうが! 王都の法律じゃ、契約書これが絶対なんだよ!」

 胸ぐらを掴み上げられ、フェイトは虚ろな目で宙を見つめた。

 普段ならデコピンで消し飛ばせるようなチンピラだが、不運にも今日はコイントスで【ハズレ】を出してしまった日。全ステータスがゼロになり、物理的に一般人以下の虚弱体質と化している今のフェイトには、反抗する力など微塵も残されていなかった。

(あーあ。せっかくいい村(就職先)見つけたのに。……また夜逃げか。高杉の旦那、怒るだろうなぁ)

 フェイトが自嘲気味に諦めの息を吐こうとした、その時だった。

 ブロロロロロォォォッ!!

 けたたましいエンジン音と共に、白い車体の125cc MTバイクが猛スピードで突っ込んできて、取り立て屋たちの直前でキキィィッ! と鋭くスライド停止した。

「そこまでだ。……俺の管轄シマで、ずいぶんとデカい声を出してくれてるじゃねえか」

 バイクから降り立ったのは、M870ショットガンを背負った手取り16万の社畜警官――高杉隼斗だった。

 その背後には、無表情な『巡査ゴーレム』がズシン、ズシンと足音を立てて付き従っている。

「た、高杉の旦那……」

「チッ。なんだテメェ、この村の衛兵か? すっこんでろ、これはゴルド商会の正当な債権回収だ! この契約書が見えねえのか!」

 男が隼斗の鼻先に借用書を突きつける。

 隼斗は表情一つ変えず、借用書に素早く目を通した。

「……なるほど。元金十万に対して、ひと月で利息が四百九十万。暴利なんてもんじゃないな」

「王都の裏ルールじゃ、これが普通なんだよ! フェイト自身の血判もある! 法的に完璧な契約だ、文句あるか!」

 勝ち誇ったように笑う取り立て屋。

 だが、ブラック企業の営業マンとして、法すれすれの悪辣な契約書を腐るほど見てきた隼斗にとって、こんなものは三流の詐欺にすぎなかった。

「文句しかないな」

 隼斗は、冷たい声で言い放った。

「フェイト。この契約書にサインしたのは、いつだ?」

「え? あー……先月の十五日。今日みたいに『裏』を出して、意識が朦朧として寝込んでた時だよ。水と間違えてペン握らされてさ……」

 隼斗の瞳の奥で、警察犬の嗅覚が『真実』の匂いを捉え、理不尽に対する強烈な怒りの炎が灯った。

「聞いたか? 日本の『消費者契約法』第四条第三項だ。……消費者が正常な判断を行えない困惑状態、または健康状態の著しい低下に乗じて結ばれた契約は、後から『取り消し』が可能だ」

「は……? しょうひしゃ……?」

「さらに『利息制限法』。元本が十万円以上の場合、年利は上限十八パーセントと定められている。それを超える利息は、法的に一切の『無効』だ。元本すら返還の義務を失う場合がある」

 隼斗は一歩、取り立て屋に詰め寄った。

 その背後で、巡査ゴーレムが威圧的に胸を張る。

「つまり、お前らが持っているその紙切れは、法的に何の効力も持たない『ただのゴミ』だ。……それを使って脅迫し、金品を巻き上げようとする行為は、正当な債権回収じゃない。ただの『恐喝』と『強盗未遂』だ」

「なっ……! ふ、ふざけんな! ここは王都じゃねえんだ! そんな見たことも聞いたこともねぇ法律が通用するかよ!」

 取り立て屋の男が逆上し、腰の剣を抜こうとした。

 だが、それよりも早く。

 隼斗は腰のポーチから『警察手帳』を引き抜き、男の目の前にバシッと突きつけた。

「ここはポポロ村だ。そして俺は、この村の治安を預かる『日本の警察官ルール』だ! 俺の管轄で、俺の相棒に理不尽を押し付ける奴は……絶対に許さねえ!」

 警察手帳から放たれる『公権力の威光プレッシャー』が、男たちの闘気を強引に押さえ込む。

「ヒィッ!?」

 得体の知れない圧力に怯んだチンピラたち。

 その隙を、隼斗は絶対に見逃さない。

 ガシャコンッ!

 背中からM870ショットガンを引き抜き、流れるような動作でポンプを引く。

「ゴーレム! 右の二人の退路を塞げ!」

「ギガッ!」

 巡査ゴーレムが素早く回り込み、逃げようとしたチンピラ二人の首根っこを、万力のような力で掴み上げた。

「くそっ、離せ!」

「テメェ、タダで済むと――」

 リーダー格の男が隼斗に斬りかかろうと踏み込んだ瞬間。

 バァァァンッ!!

 至近距離から放たれた『高濃度催涙ガス弾』が、男の顔面のど真ん中で破裂した。

「ぎゃあああああっ!? め、目がぁぁぁっ! 息がっ!」

 呼吸困難に陥り、剣を取り落としてのたうち回る男。

 隼斗は一切の容赦なく、男の背中に膝を突き立て、両腕を後ろ手に捻り上げた。

「午後一時四十五分。恐喝、強盗未遂、および公務執行妨害で……現行犯逮捕だ」

 銀色の手錠が、ガシャン! と冷たい音を立てて男の手首に食い込んだ。

 あっという間の、完全制圧であった。

「……すげぇ」

 へたり込んでいたフェイトは、その一連の流れるような逮捕劇を、ポカンと口を開けて見つめていた。

 魔法も闘気もない。ただの一般人のはずの警官が、悪知恵とハッタリ、そして完璧な戦術で、ゴルド商会のゴロツキを瞬殺してしまったのだ。

「大丈夫か、フェイト」

 手錠をかけた男をゴーレムに引き渡し、隼斗が手を差し伸べてくる。

「あ、ああ……悪いな。高杉の旦那」

「全くだ。俺はお前のオカンじゃないんだぞ。……月給三十万も貰ってんだから、借金の管理くらいしっかりしろ」

 呆れたように言う隼斗だが、その手はしっかりとフェイトを引き起こしてくれた。

 ――しかし。

 隼斗が、取り押さえた男たちの懐を検めた時だった。

「ん? なんだこれ」

 リーダーの男の革鎧の内ポケットから、一枚の折り畳まれた羊皮紙が出てきた。

 それは、ポポロ村の地形を詳細に記した『地図』だった。

 だが、ただの地図ではない。村を覆う『絶対防衛結界』の魔力ラインが描き込まれており、その一箇所――村の西側の外れに、赤いインクで『×印』がつけられていたのだ。

「……結界の、ほころび?」

 隼斗の警察犬の嗅覚が、急激に嫌な汗の匂いを感知した。

 チンピラの一人が、青ざめた顔でブルブルと震え出している。

「おい。お前ら、ただの借金取りじゃないな? この地図はなんだ。誰に頼まれて、村の結界を調べていた?」

 隼斗がショットガンの銃口を男の眉間に押し当てると、男は涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら叫んだ。

「ひぃぃぃっ! お、俺たちは悪くねぇ! ただ、王都の酒場で、とんでもなくデカい男に大金積まれて頼まれただけだ! ポポロ村の結界の構造を調べてこいって!」

「デカい男……?」

「ネ、ネフィリムの魔族だ! あんなバケモノ、逆らったら殺される! あいつ、最高の『炎上』を起こすために、この村を火の海にするって……ヒィッ!」

 その言葉を聞いた瞬間、隼斗の背筋に、氷のような悪寒が走った。

 ネフィリムの魔族。そして『炎上』。

 それは間違いなく、かつてゴッドチューブの配信で村を焼き払おうとしていた『炎上神ワイズ』と、その関係者の影だった。

(借金取りは隠れ蓑だったのか。……奴らはもう、すぐそこまで来ている)

 平和で狂ったポポロ村の日常。

 だがその水面下では、最悪のバケモノの刃が、すでに村の喉元へと突き立てられようとしていた。

「お兄さーんっ! フェイトさんっ!」

「大事ないと聞いて駆けつけたが、すでに制圧した後か!」

 そこへ、キャルルとマンミアが息を切らせて駆けつけてきた。

 倒れているゴロツキたちを見て、二人は目を丸くする。

「お兄さん、怪我はない!? このゴミたち、私が原型留めないくらいにすり潰しておこうか?」

「いや、こいつらはもう情報を吐いた。交番の留置場にぶち込んでおく」

 隼斗は地図を懐にしまい、わざといつものように軽く肩をすくめた。

 二人に余計な心配をかけたくない。そして何より、このたいせつなばしょは、自分が絶対に守り抜くと決めたからだ。

「……高杉の旦那」

 フェイトが、パジャマ姿のまま隼斗の背中に声をかけた。

「アンタ、本当に頭が切れるし、容赦ないな。……ちょっとだけ、アンタが上に立つ理由が分かった気がするぜ」

 いつもは人を小馬鹿にしたような態度をとるフェイトの顔に、明確な『信頼』の色が浮かんでいた。

「バカ言ってないで、体調戻ったらさっさとパトロールの遅れを取り戻せ。手取り16万が月給30万の分まで働くなんて、割に合わねえからな」

「ははっ、手厳しいねぇ。……了解したよ、巡査長殿」

 フェイトが珍しく素直に敬礼を返す。

 手取り16万の社畜警官と、月給30万のサボり魔剣士。

 二人の間に初めて通い合った確かな男の絆。それが、直後に迫る『絶望の襲撃』において、村を救う最大の切り札になるとは、この時の二人はまだ知る由もなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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