表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界交番、本日も異常あり!〜手取り14万の最弱巡査ですが、最強の美少女たちを指揮して魔王も現行犯逮捕します〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/24

EP 15

手取り14万の居場所と昇級通知。そして迫る「炎上」の勇者

 死王蟻機ネクロ・ハイヴクイーンの脅威から一夜明けた、ポポロ村の宿屋兼酒場。

 店内は、村の平和を守り抜いた三人の英雄を称える、盛大な祝勝会の熱気に包まれていた。

「お巡りさん、村長、マンミアさん! 本当にありがとうございました!」

「さぁさぁ、今日は村の奢りだ! 自慢の煮込みおでんと、極上のイモッカを腹いっぱい食べてくれ!」

 大鍋で湯気を立てるおでんの良い香りと、太陽芋から作られた度数四十度の酒『イモッカ』のアルコール臭が入り混じる。

 村人たちが次々と注ぎに来るグラスを片手に、隼斗は苦笑いしながら頭を下げていた。

「いやぁ、俺はほんの少し手伝っただけで……いててっ」

「こらっ、お兄さん! 火傷の治療は終わったけど、まだ無理して動かしちゃダメだよ!」

 隣にピタリとくっついて座っているキャルルが、包帯を巻かれた隼斗の腕を優しく支える。

「ほら、あーんして? 大根、すっごく味が染みてて美味しいよ♡」

「あ、ああ、ありがとう……」

 キャルルがふーふーと冷ましたおでんの『月見大根』を口に運ばれ、隼斗は照れくさそうに咀嚼した。

 その様子を向かいの席で見ていたマンミアが、ジョッキに注がれたイモッカをあおり、バンッ! とテーブルにジョッキを叩きつけた。

「むぐぐ……キャルル村長! いくらなんでも密着しすぎではないか!? 隼斗殿は私の、その……しょうがいを共にする伴侶……なのだぞ!」

 すっかり酔っ払ったケンタウロスの麗人が、顔を真っ赤にして絡んでくる。

「えー? マンミアちゃんこそ、さっきからお兄さんの太ももに自分の前足をすりすりしてるの、気づいてないとでも思ってるの?」

「なっ……!? こ、これは無意識の愛情表現であって、決して計算ではないっ!」

「ふふっ。お兄さんの心音は、私だけが聞いてればいいの。ね、隼斗お兄さん? ほかの女の人にうつつを抜かしたら……分かってるよね?♡」

 星の王子さまのような笑顔の裏で、キャルルがテーブルの下のトンファーをカチャリと鳴らす。

 マンミアも負けじと闘気を練り上げ、酒場の中で再びヤンデレと婚活騎士の静かなる修羅場が勃発しかけた。

「はいはい、二人ともストップ! 村の人たちがビビってるから!」

 隼斗が慌てて割って入り、二人の頭をポンポンと軽く撫でて宥める。

 ブラック企業のクレーム対応で培った対人スキルは、規格外のヒロインたちの手綱を握るのにも大いに役立っていた。

 撫でられた二人は、分かりやすいくらいに表情を緩ませて大人しくなる。

(……不思議なもんだな)

 隼斗は、温かいお茶(酒は勤務に響くので自粛している)を啜りながら、ふと自分の手を見た。

 火傷の痕が痛々しく残る、ボロボロの手。

 今朝、この異世界の交番で目を覚ました時。

『手取り14万』という絶望的な給与明細と、ママチャリを見た時は、自分の人生は終わったと本気で嘆いた。前世と同じように、誰かの理不尽に搾取され、孤独に死んでいくのだと。

 魔法使いに怯え、バケモノの姿を見て足がすくんだ。

 だが今、自分の隣には、己の身を挺してでも守りたいと思える、そして自分を守ってくれる最高の相棒たちがいる。

 感謝の言葉をかけ、笑顔を向けてくれる村人たちがいる。

「……なぁ、二人とも」

 隼斗の静かな呼びかけに、キャルルとマンミアが顔を上げた。

「俺は、魔法も使えないし、闘気もない。ただのしがない交番のお巡りさんだ。……給料だって、手取り14万しかない」

 隼斗は、照れ隠しのように鼻の頭を掻いた。

「でもさ。俺は今日、この村に赴任して、お前たちに出会えて、本当によかったと思ってるよ。前世のブラック企業じゃ、こんなに美味い飯も、こんなに温かい仲間もいなかったからな」

 隼斗の真っ直ぐな言葉に、二人のヒロインは目を丸くした。

「このかんかつと、お前たちのことは、俺が絶対に守る。どんな理不尽が襲ってこようと、俺が全部、現行犯でしょっ引いてやる。……だからこれからも、俺の相棒でいてくれないか」

 それは、ただ怯えて逃げていた昨日の彼からの、明確な『成長』と『覚悟』の証だった。

「……っ」

 キャルルは、両手で口元を覆った。

 彼女の耳に届く、隼斗の力強く温かい心音。打算の一切ない、純粋な『愛』と『守護』の誓い。

(あぁ……もう、だめ。好きすぎて、心臓が爆発しそう……! お兄さん、絶対に私から逃げられないように、一生大切に囲ってあげるからね……♡)

 好感度がメーターを振り切り、キャルルの瞳は極限までドロドロに甘く溶け落ちていた。

「隼斗、殿……っ!」

 マンミアの大きな瞳からも、滝のような涙が溢れ出した。

「ああ、なんと高潔で、慈愛に満ちたお言葉……! このマンミア、三百五十馬力のすべてを懸けて、あなたという絶対の主を、生涯お守りいたしますっ! ああっ、アリストテレスよ、私はついに真の幸福を……っ!」

 二人のヒロインから同時に抱きつかれ、隼斗は「重い重い! 怪我が開く!」と悲鳴を上げながらも、その顔には心底嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。

     *

 宴会がお開きになり、深夜。

 ボロボロの体を引きずって交番に戻ってきた隼斗は、デスクの上のノートパソコンがチカチカと光っているのに気づいた。

「ん? システムからの新着メール……?」

 マウスをクリックして画面を開くと、そこにはこんな文面が踊っていた。

『昇級試験(実践・民意貢献度)クリア!

 高杉隼斗巡査は、死王蟻機討伐およびポポロ村防衛の多大な功績により、【巡査長】へと昇級しました!』

「マジか! たった一日で昇級!?」

 隼斗の疲れが一気に吹き飛んだ。画面をスクロールすると、さらに嬉しい知らせが続く。

『・基本給が2万円アップします。(手取り16万円)』

「よっしゃぁぁっ! これでPXのカップラーメン生活から、たまには生鮮食品が買える!」

『・以下の装備が支給されます。

 防弾大型シールド(※溶けた大盾の新品交換)

 M870ショットガン(※ゴム弾・催涙弾装填)

 125ccMTバイク(魔導エンジン仕様)』

「バイク!? ママチャリからバイクに昇格!? うおおお、これでマンミアさんに引きずり回されずに済むぞ!」

『・【巡査ゴーレム】1体が支給され、使役が可能になります』

「ゴーレム……?」

 交番の奥の部屋を覗くと、いつの間にか、日本の警察官の制服を着た、身長二メートル近い無表情な石像ゴーレムが敬礼して立っていた。

「お、おう。よろしくな、相棒その三。……とりあえず、お前は飯食わなくていいから助かるわ」

 手取り14万から16万へ。

 ほんのわずかなステップアップだが、異世界で生き抜くための確かな足がかりだった。

 隼斗は心地よい疲労感と共に、交番の仮眠室のベッドへと倒れ込んだ。

「……明日も、頑張るか」

     *

 ――だが、その頃。

 ポポロ村から遠く離れた、人間の国・ルナミス帝国の首都。

 その一等地に建つ超高級ホテルのスイートルームで、ポポロシガー(高級葉巻)の煙を燻らせている一人の男がいた。

 名を、ゼロス・ディバイン。

 輝くような聖なる鎧を纏い、わざとらしく真っ白な歯を見せる、この世界の『勇者』である。

 彼はソファに寝そべりながら、空中に投影された魔導モニターをニヤニヤと眺めていた。

 画面に映し出されているのは、天界の神々が運営する配信サイト『ゴッドチューブ』。そして、今しがたランキングを急上昇してきた一本の動画――【ポポロ村防衛戦! 謎の警官と美少女コンビが大物喰い!】というタイトルの映像だった。

「チッ……なんだよこの動画。どこの馬の骨とも知らねえモブが、死蟲機を倒したってだけでPV稼ぎやがって」

 ゼロスは舌打ちをして、吸い殻を高級な絨毯の上に平然とポイ捨てした。

 そして、傍らに置いていた口臭スプレーを口の中にシュッシュッと吹きかける。カメラの前では聖人君子を気取っているが、裏では息を吐くように人を騙すクズだった。

『ゼロスよ。機嫌が悪いようだな』

 不意に、ゼロスの脳内に直接声が響いた。

 彼と契約を交わしている神――炎上神ワイズの声だ。他人の不幸と炎上でPVを稼ぐことを至上の悦びとする、悪辣なる神。

「ワイズ様か。いやね、俺の村焼きざまぁ動画の再生数が、このポポロ村ってとこの動画に抜かれそうなんですよ。……目障りですねぇ」

『ほう。ならば、ちょうどいいではないか』

 ワイズの粘着質な笑い声が響く。

『次の”ヤラセ”の舞台は、そのポポロ村にしよう。魔王軍の幹部、ミラースをそちらへ向かわせる手筈を整えた。村を火の海にし、絶望のどん底に叩き落とした後……君が颯爽と登場し、すべてを救うのだ』

「最高っすね、ワイズ様!」

 ゼロスはニヤリと、邪悪な笑みを浮かべた。

 彼のユニークスキル【マネー】は、課金(金を使う)すればするほどステータスが跳ね上がるという、資本主義のバグのような能力だ。

 彼には、勇気も、仲間への愛も、知恵もない。あるのはただ、圧倒的な金と暴力、そして承認欲求だけ。

「あの生意気な警官とやらも、俺の金と力の前じゃ、這いつくばって命乞いするのがオチだ。……せいぜい、最高のPVを稼ぐための『引き立て役』になってもらいましょうかね」

 手取り16万に昇級し、小さな平穏を手に入れた隼斗たち。

 だが、彼らの向かう先には、神の悪意と圧倒的な資本マネーによる、さらなる理不尽な『炎上』の嵐が待ち受けていた。

 理不尽を許さない社畜警官の、次なる戦いの幕が、今静かに上がろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ