県別 トーナメント戦 開始
全部全部間違っていた。
俺が生まれた事自体が、強烈な間違いだった。
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「さあ次の四試合を発表致します! ドン! こちらになります!」
井上 遥 VS 田中 真由香
木崎 薫 VS 相沢颯太
富田 真司 VS 松永 奏
河合 渚 VS 松井 叶成
四回目となる抽選でようやく自分の名前が呼ばれた。
スタッフに指示され、会場に入るよう指示される。
そして入り口で再び、河合と邂逅した。
「どう? 元気にしてた?」
意外にも、彼女に話しかけれらた。
てっきり無視されるものかと思っていたのだから、予想外で一瞬戸惑う。
「まあ」
「お兄さんのパーティーってさ……」
「うん」
「……なんていうか、変ではあるよね」
言葉を慎重に選ぶように、彼女は考えながら話しかけ出した。
「……まあそうかもね」
「でもさ」
「え?」
「彼女達もさ、女の子なんだから。女の子は優しく丁寧に扱わなきゃダメだよ? 言ってる意味分かるかな?」
彼女はそうやって、淡々と答えた。
彼女なりに気を遣いながら出した答えだったのだと思う。
それは側から見れば、状況が複雑な俺に向けた変でおかしな言葉だっただろうけど。
それでも、その気遣いはとてもありがたかった。
「ありがとう」
「勿論、彼女さんも大切にね。……せっかく別ブロックに入れたんだから、決勝で会おうよ。アタシ、まだ切り札は取っておいてあるんだから」
そう不敵に笑う彼女は、やはりゾクっと来るほど存在感を放っていた。
「そうだね。……決勝で会おうか、河合」
「待ってるよ? お兄さん」
俺は彼女を置いて先に会場へと入場していく。
思い返して、彼女は自身のモンスターを可愛がるタイプだった。
ユニコーンを撫でて、そのユニコーン自身も穏やかな表情だったのが印象に残っている。
それでも、あの時のあの状況はとても異質で、他人から見れば気持ち悪いと言われるくらいのものだった。
でも。
彼女は優しく気を遣ってくれた。
そういう人間性の高さが彼女に魅力なのだろう。
気付かぬうちに、硬くなっていた表情が和らいでいた。
自信に満ちた顔で、会場に登場する。
会場のざわついた声、注目する視線、迫力と威圧。その雰囲気に呑まれることはない。
萎縮も緊張もすることなく、堂々とピッチに立つ。
長さ五十メートルの正方形で、黒土と砂の層で出来たフィールド、その真ん中に敷かれた線の近くに立つ。
そして相手の木崎 薫という少年と向かい合った。
猫背で眼鏡の彼は硬い表情で少し怯えた目をしながらやや下方向を見ていて、その少し長く伸びた前髪のせいで目が合わない。無理に呼吸を整えて落ち着こうとしているのか、逆に不規則な呼吸にすらなっていた。
「木崎君」
「……え、何……?」
「息、一回吸って吐いてみてよ」
「……うん」
「大丈夫。他に三試合も行われてるんだから、そっちに目が行ってる人も多いだろうしさ。俺もめっちゃ緊張してるけど、だからって情けないプレイはしたらかっこ悪いかなって思ってるよ」
「……緊張してるようには見えないけどな」
「そんなこと無いよ。……息、落ち着いた?」
会話をしているうちに、自然と彼は自主的に息を整えようとする事から意識が遠のいて自然と息は整っていた。
「うん、……ありがとう」
もう顔が俯くこともなく、目が合ったまま彼は少し柔らかい表情で感謝を口に出した。
しかし無表情が崩れたと気づいた瞬間、直ぐに柔らかい表情が顔から消えて、彼はスタート時点へと向かっていった。
その行動の理由が良く共感出来て、郷愁を感じながら俺もフィールドの端へと移動する。
……自分の表情を見せるのは怖いよな。
そう懐かしみながら、俺は開始の合図を聞きながらカードを手元に用意したのだった。
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「どうです? 八代さん」
「今の所欲しい選手はいないな……」
「そうですか。私は既に二人はピックアップしていますよ」
「誰だ?」
「この二人ですね」
「あ、その人僕も注目してます。……被りましたね」
「……うわ、マジですか」
「ふむ。悪くは無いがな。けど、ウチに入るには実力不足だ」
「なるほど……流石名門事務所のスカウトを任されているだけはありますね」
雑談を交わしながら、スカウトマンらは目を光らせる。
誰を候補から外し、誰を候補に入れ、誰を保留させるのか。
彼らは物色する側だ。
彼らの為に並べられた商品を買うかどうか、選択する側なのだ。
商品が行った努力も流した汗や血すら関係ない。
その商品の価値が全てだ。
だからこそ、彼らは慎重に選ぶ必要がある。価値があり、交渉人と共に安く引き入れる事ができる商品を。
「次は、ああ話していた彼が出ますよ。相沢君」
「彼もかなりいい物件ではありますが、かなり高く着きそうですね」
「そうですかね、白石さん? 僕はウチの事務所なら彼にとっても魅力的なオファーでしょうし、そちらよりは安い条件でも契約してくれるとは思いますが」
「随分と喧嘩腰ですねぇ。しかし私の事務所の交渉人も指折りの優秀な人材ですよ? 話術でこちら側に傾ける事は十分可能なんですよ」
「……落ち着きたまえ、二人とも」
喧嘩に発展しそうだった為、軽口の叩き合いがヒートアップし始めていた二人を静止する。
そこで、八代が気付いたように呟いた。
「何を話しかけているんだ、彼は?」
「さあ? 緊張をほぐして上げてるようですけど」
「ふむ。そこまでの余裕があるのか。コミュニケーション能力も悪くないな」
「まさか、彼も狙うつもりですか?」
「食い合いになりますよ、八代さん」
「まだ分からないさ。それに、やはり大本命が既にいるからな」
その一言に、やはり三人は落ち着きを取り戻した。
勿論、ほぼ全ての事務所から声を掛けられるであろう彼女と契約出来るとは思い難いがそれでも彼女の情報を集めておくのは、今後敵になる可能性が高い事からも損は無い。
彼らは再び試合に目を戻し、一つ一つ目の前のことに集中しようと考えたのだった。
『ピーーー』
開始の笛が鳴らされた。
話していた三人のスカウトマンらが会場を見下ろす。
既に多くの選手は己のモンスターらを出していて、それをみた彼らは素早くパソコンのメモ帳を開き、情報を入力していく。
「相沢君は……ヴァンパイアノーブル、九尾、水光姫の三体か。ランクだとD+、D、D……ふむ情報的にはもう一人D+ランクの主力がいることは明らかだが、 ……そちらは切り札という事だろうか」
「まあ恐らくそうでしょうね」
「相手の木崎君は……ふむ。スピリガン、オーグリスにゴブリンロードか。ランクは……D-、D-、D。だが……全員近接戦闘向きのモンスターらだな……どういう意図だ?」
イングランドの妖精で体の大きさを自由に変えられると評判のスプリガン、ヨーロッパの女巨人オーグリス、そしてゴブリンを率いる王のゴブリンロード。
ランク的には申し分ない。
強さとしても各モンスターらがランクの高さに見合わない強さ、といったこともない。
彼らは固唾を飲んで、試合がどう転ぶのかを見守ったのだった。




