優勝候補
一人一分かかるかどうかといった意気込みが一時間が以上続き、ようやく終わった。
スマホの画面を見ると、既にスケジュールは組まれているようで、自分の出番まであと十五分程度だと言うことを知る。
会場では意気揚々なアナウンサーと共に、既に四組八名の参加者が戦う用意をしており、また他の参加者らも敵の情報を見逃さないようにと画面に釘付けであった。
……そうか、ここからは手の内を明かしながら戦わないといけないのか。
そうなると二回戦以降の事も考えないといけなくなる。
そう思いながら、静かに面倒だとも感じた。
***
「で、どうですかね八代さん」
十一月の肌寒い季節の中、冷たい空気に晒されながら観客席に座るニット帽の五十代ほど男性に、若い男性は声をかけた。
「君もスカウトの端くれなら、自分の目で確かめないか」
「それはそうですよ、村上さん」
「まあ、確かにそうなんですけどね」
三人並んで座る男達はスカウトだった。
全員が別の事務所のスカウトマンではあるのだが、お互いの仲は良好だ。
特に長い年月、この仕事に携わってきた八代という男性は目が効くと評判で、残りの二人……村上という若い男と白石という中年の男は彼に意見を聞く事が多かった。
「データは受け取っているだろう?」
「まあ、もちろん貰ってはいますが、やはり数字だけでは見えない部分もありますし」
「ですね」
「数字は重要だよ。やはり大抵の場合は数字が物をいうからね。特にランク付けされている者を見極める我々のような人間は、しっかりと数字を見なければならない」
探索者らの基本的な強さの指標は、やはり所持しているモンスターのランクだ。
数字。
それはモンスターのランク、勝ち抜いて来た数、勝率などを言う。
ランクが高いモンスターを所持していようと、一次予選や二次予選での混戦から勝ち抜いて来たと言ったようなデータであれば、彼らの価値は下がる。
それは運よく勝ってきただけと言う場合があるからだ。
「D、D-、D-。この人なんかどうですかね? 中々いい具合じゃないですか。お、しかも歴七ヶ月。掘り出し物では?」
「ランクに文句はないが、モンスターを見てみろ。Dランクではあるが、アピスだ。Dランクとしては価値も低いし強くはない」
「ええ、本当ですね」
「ほら。現に、その少年に勝ったのはD-、D-、E+の彼だろう?」
「なるほど」
スカウトマンらは雑談を交わす。
それでも、十五程度の少年少女らを値踏みする目が彼らには宿っていた。
「む。彼は……」
「誰ですか?」
「気になる人が?」
「この彼だよ。名前は……相沢 颯太か」
「彼ですか? ランクはD+、D+、D。探索者歴は五ヶ月。……中々の逸材じゃないですか」
「ああ。目をかけておこう。しかし、今回は案外豊作かもしれないな?」
「そうですね。何と言っても目玉がいますから」
参加者らを吟味しながらも、彼らの中には既に少なくとも一人、必ず声をかけると決めている選手がいた。
「小鳥遊 結奈。今年はあの小鳥遊 翔の三女が参加する年だからな」
整った容姿の、あどけない少女。
若干十五歳ではあるが、しかし彼女の持つ雰囲気が今でも彼らの目に焼き付いて離れない。
『一言、お願いできますか?』
『そうですね……頑張って優勝させて頂きたいです』
誰もが彼女に釘付けになった。
それまで、誰かが一言言っていても携帯を弄ったり、隣の席と会話を交わしていたりした人間でさえもが。
彼女の言葉に耳を傾けていた。
オーラ。
彼女の纏う迫力はやはり、別格だった。
彼らのデータリストにはしっかりと、少女のモンスターのランクが記載されていた。
『C、C-、C-』
「これで、親からの支援は一切受けてないと断言されているのでしょう? 物凄い才能ですよ」
「ええ。彼のご子息全員が英才教育を受けているのでしょうね。だからこそ、全員がとてつもない」
Cランクのカードなど、普通の買おうとすれば安くとも八桁……千万はいく。それに加えC-のカードも二対を揃えているのだから盤石という他ない。
やはり彼女は何歩も抜きん出ているだろうか。
間違いなく、単独の優勝候補だ。
「さて、対抗馬が誰になるのやら……」
五十を超える歳でも輝きを失わない目で、熟練のスカウトマンたる八代は会場に視線を向けながら小さく呟いたのだった。




