県別 一次予選 初戦
ようやくずっと書きたかった対人戦を描けて嬉しいです。
『それでは合図に則り、一体目を同時に出して下さい』
無機質な機械音声に両方が小さく頷く。
試合の制限時間は十分だ。
その時点でより多くのモンスターが残っていた方が勝利となる。勿論、大抵は先に決着がつく場合の方が多いが。
俺の手に握られたカード。
三体のカードを一枚ずつ同時に出していくのがルールだが、一体目は相性云々を考えなくても良い。
だから、一枚目は決まっていた。
『ピーーー』
カードを翳す。
「リリィ!!」
一匹のヴァンパイアが光に包まれ、現れた。
「一体目が私とは、分かってるじゃないですか颯太様」
「勿論」
そう言い、相手を見る。
彼の目の前に現れていたモンスターはワーウルフだった。
画面には既に
『一体目: ヴァンパイアノーブル D+』 vs 『一体目:ワーウルフ E』
と記載されていた。
狼男はEランクのモンスターだ。最初に出てくるモンスターである以上、切り札格のモンスターと思われたが、案外ランク自体は低い。
「ッ」
対する相手の木村はこちらの出したモンスターに驚いのか、驚愕の表情を見せていた。
「……へー、強いじゃないか」
小さく呟いた、彼の言葉がこちらに届くことは無かったが、彼も最初の方のどこか緩んだ顔を引き締めていた。
『ピーーー』
笛のような音が再びスピーカーから発せられる。
その合図と共に、お互いが二体目を繰り出した。
「アンナ」
水光姫。
相手のレベルを見ようと、手を緩める気は無い。
「お呼びかしら、マスター?」
「ああ。よろしく頼むよ」
二体目。
相手が繰り出したのはシルキーだった。
今回は二体目とあって、相手も驚いてない。
『ピーーー』
三体目を繰り出す。
「シャナ」
久しぶりに妖精であるシャナを呼び出す。
ここはフェリスでもメイでも構わないのだが、バランスを考えサポートが得意なシャナに決定する。
「久しぶりだね!! ずっと暇だったんだよ?」
「それは本当にごめん。もう少し出番は増やすから、今回はよろしく頼むよ」
「仕方ないなぁ。任せて!」
明るい彼女ほんの少し不満を抱えた様子でいる。
それを説得し、彼女は納得を見せた。
そして、相手の三体目を確認する。
……キキーモラ。珍しいモンスターだな。
狼の顔、白鳥のようなくちばし、熊の胴体、鶏の足。ボルゾイの尻尾。
スラヴに伝わる幻獣である。ランクはF+だ。
情報は少ないが、確かデバフメインのモンスターだった筈だ。
「……随分とモンスターのランク差があるみたいですけど」
木村という男に挑発に意味も込め、話しかけてみる。
「勝ち負けは、ランク差だけで決まる訳ではないでしょう?」
「確かに」
『戦闘、開始!!』
「──その通りだ!」
戦闘が開始される。
お互いに緊張が走って、木村が先に指示を下した
「ワーウルフ、突撃! キキーモラは呪術を! シルキーは風弾!」
「ガァアア」
「キーキー」
「『風弾』!」
彼の言葉に、相手のモンスターらが応えた。
その指示通り、先ずはワーウルフが前衛らしく突っ込んでくる。
拳で殴りかかってくるワーウルフを、リリィが前に出て受け流す。
攻撃を受け流され体制を崩したワーウルフにすかさず、リリィがナイフを頭目掛けて突き刺す。が、それは間一髪で相手に躱わされた。しかし流れるように次の攻撃を繰り出すリリィが蹴りをワーウルフの胸に食らわせ、ワーウルフは二メートルほど吹っ飛んだ。
「よくやった、リリィ!」
続いて、シルキーの風弾がマスターの俺を目掛けて飛んで来た。
急いで射線から離れたが、こちらに近づくより前にアンナが放った『水弾』によって相殺された。
良い判断だ。
避けれる物を避けていても、相手は当たるまで打ち続けるだけだ。
しかし避けるまでもなく叩き落とせば、無駄に気を張って避ける準備をしなくて良くなる。
そして風弾の処理をした後、今度は呪術が俺に襲いかかる。
しかし、俺に向かう呪術それをリリィが前に出て防いだ。
「グッ」
衰弱系の呪いなのか、リリィが苦しそうな表情をする。
すぐに対処する為、回復系の魔法を扱えるシャナに指示を送った。
「シャナ!」
「了解です!」
シャナが『治癒』を掛ける。
すぐにリリィの呪いが解け、リリィから苦しそうな表情が消える。
よし、と。状況が好転するのを感じながら、次の指示を考える。
相手もしっかりと探索者をやっているだけあって、攻撃の巧さが光る。
特にシャナが居なければキキーモラの対処に手間をかけていただろうと想像する。結果的にシャナを選んだ事が相手に刺さっていたという訳だ。
「反撃に出るぞ! リリィは魔法を駆使しつつ相手に突っ込んで陣形を崩し、その間にアンナが孤立した敵から順に撃破していけ! シャナも援護を!」
「了解です!」
「任せて!」
「承知したわ、マスター」
こちらの指示に応える三人。
リリィが指示通り突っ込み、素早く立ち上がっていた相手のワーウルフと交戦する。
ナイフで斬りかかるリリィを、避けようとするがワーウルフは脇腹付近に傷を負う。システム上、血は流れないが、負傷判定を知らせるマークが付く。
ワーウルフはそれでも、リリィに拳を落とすが、リリィは腕を切りつけながら、攻撃を躱した。
「ガア!!」
上半身が狼のワーウルフは、二歩下がって距離を取る。
リリィは、ナイフを手に握ったまま鋭く目を光らせる。
『リリィ、すぐに障害を消す。後何歩だ?』
『四歩あれば、足ります』
『分かった。任せろ』
テレパシーで会話を交わす。
四歩、そのくらいなら問題はない。
「シャナ!」
「はい! 『風矢』!」
シャナが放つウィンドアローが木村へと向けられる。
タンク役のワーウルフが、射線に入ろうとするが、リリィが素早く近づき動きを止める。
木村もまた反応が遅れ、射線から逃げようとするが間に合わない。
「マスター!」
代わりにシルキーがマスターである木村を防ぐが、ダメージを負う。
初級魔法の為威力は高くないが、しっかりと命中すればかなりの痛手だろう。
相手の陣形は完全に崩れ、タンクのワーウルフもマスターも、シルキーも移動した為、ただ一体だけが孤立していた。
「しまった、マズい!!」
キキーモラが急いで駆け出し、ワーウルフの陰に隠れようとするが、あまりにも遠い。
「アンナ!」
「ええ!」
『氷砲』
氷の大砲がキキーモラ目掛けて正確無比に発射され、一瞬のうちにキキーモラがダウンする。
「今だ!」
リリィがワーウルフを退けて駆けた。
一歩、二歩、三歩、と近づいて。
四歩目で魔法を唱える。
『感電』
感電はクールタイムの長さと、レジストされやすい事が難点だ。
しかし、確実にレジストを持たない相手マスターに発動出来れば……試合を決めれる、重要な手札になる。
感電状態を解けるかもしれない疑念点であるキキーモラは倒した。
つまり、これでチェックメイトだ。
「ぐっ、あ」
感電により足が動かなくなったマスターは、避けるという行為が出来なくなる。
そうなった相手の対処は簡単だ。
「アンナ、最大出力だ」
「任せて」
『水竜』
水の竜が、一直線に木村へ向かって突き進む。
最大火力の、上級水魔法。
「グゥア」
それでもワーウルフは己のマスターの前に立ち防ごうとするが、意味はない。
「範囲は狭いけど、火力は一流ですよ」
「……完璧に、崩されたようですね」
悔しそうな表情をして、木村はワーウルフと共に水竜に喰われて行った。
『ピーーー。試合終了、勝者相沢 颯太』
笛が鳴った。
それと同時に、キキーモラは復活し、水竜に食われたワーウルフ、シルキーと木村も元通りになっていた。
全てシミュレーションだった。
それだけだ。
「相沢さんで良いのかな?」
リリィ、アンナとシャナをカードに戻したと同時に、対戦相手の木村 太郎が話しかけてきた。
平凡な少年というイメージだったが、彼はすぐに手を差し出した。
握手のサインだ。
「ああ、GG……グッドゲームでしたよ、木村さん」
「だいぶ古いネタですね、それ」
「知ってるんだ?」
「まあ、ええ」
どちらかと言うと真面目っぽいイメージもあったのでGG、good gameの頭文字を知っていたのは意外だった。運動部にでも入っていたのだろか。
俺は差し出された手を握り返す。
「中々上手だったよ」
「そちらこそ。不運でしたよ、初戦で当たるのが貴方だなんて」
「こっちもだ。最後ら辺で戦いたかったよ。でもまあ、勝ち続ければ、また会えると思うよ」
そう言い合い、俺たちは背を向けて元の部屋へと戻っていった。
*ちなみにスポーツなどの場合はGGはスポーツマンシップを込めて相手を称える物ですが、オンラインゲームの場合は煽りと取られる場合があるので使わないで下さい。
ブクマ高評価お願いします。




