普通の恋愛を
「お待たせ〜。待った?」
「いや、俺も今来たとこ」
「テンプレ的なセリフだね」
11月20日、土曜日。
まだ秋ではあるが、気温は大分低くほぼ冬と言って差し違いなかった。
本日は美香との待ち合わせだ。ラウ○ドワンで遊ぶ……もとい、デートである。
「今日のコーデ季節感があって可愛いね」
「そう?」
一目で注目を掻っ攫うほど、今日の彼女はおしゃれに着飾っていた。
ホワイト系の服と、グレーのスカートというコーデで、実際とても可愛らしい。
「ていうかスカートじゃん。普段着なそうなのに」
「……それは」
「髪留めも付けてるし。そんで似合ってる。……もしかして気合い入れてきた?」
「……違うから」
からかうと、彼女はほんのり顔を紅潮させた。
まあ、俺も数日前に美容院に行って香水付けたりしてる訳だから人の事は言えないんだけど。
「何から遊ぶ?」
「……んー、カラオケ?」
「そうだね」
軽く会話を交わし、予定を決めたところでカラオケに向かった。
フリータイムで、ドリンクバー付き。あと、ワンオーダー制なので何かしらをオーダーする必要はある。
一室に入ると、肌寒くなってきた外よりやや暖かく丁度いい温度である。
何やら店員さんがイベントに対する軽い説明をした後、部屋を去っていった。
「あれ、何これイベント?」
「カラオケ甲子園……って、なんかやってるぽいね。景品も付いて来るみたい。せっかくだから何か歌おうか」
ちなみに機種はjoys○undである。
何でも、二人の合計得点を足した点数でランキングを競うらしい。
「どっち先に歌う?」
「何か、先に歌うのは緊張するなぁ」
「じゃあ俺先歌うよ」
ひとまずある程度有名な曲をを入れておく。
実際は結構色々聞いてる上、一人の時や男友達と歌う時はボカロやアニソン何かも歌うのだが、今回は控えておく。
「〜♪」
「おお上手い上手い」
腹に力を入れて、一曲歌い切る。
点数は……89点だ。
……もう少し練習すればよかったか。
「次、入れてる?」
「うん入れてるよ」
彼女がマイクを持ち、立ち上がる。
画面に曲名が浮かぶ。
「あれ、この曲」
「うん」
「何か意外かも、この曲知ってるんだね」
俺はとても好きな曲なのだが、女子高生が知ってるタイプの曲じゃないし、どちらかというと若干マイナーよりな曲だ。しかも相手はスポーツ少女の美香。口から溢れるように、意外だと思ってしまった。
「加奈子を挟んで、藤井君に聞いたの。颯太が好きそうな曲」
不意に出たセリフにドキッとさせられる。
心がときめいていた。
「~♫」
「上手っ!」
可愛らしい声とは裏腹に、しっかりと音を捉えていて、歌い方も上手い。
力強い声だったり、広い音域だったり。
「やった!」
「94点……凄いね!?」
「ふふん、でしょ?」
少しわざとらしく、ドヤる彼女。
突っ込んで欲しそうだ。
「うん。可愛いよ」
「へへっ」
画面に表示される94点の数字。
才能とはこう言う事を言うのかもしれないなぁ、とほのかに感じた。
「あ、すみませんー」
店員さんが入って来る。
タブレットを触って、イベントの記録完了を押した少し後のことだった。
「はい?」
「先ほど、イベントに参加して頂いたと思うんですけど、こちら景品のフライドポテトです」
「あ。ありがとございます」
「オーダーされた物も時期に届きますので、少々お待ち下さい」
皮付きタイプのフライドポテトを受け取った。
「おー、ポテトだ」
「無料ってことかな?」
「うん。ぽいね。一緒に食べようか」
「そうだね」
その後、三時間ほど歌い、ナゲットやパフェなんかを完食して部屋を出た。
「いくらかな?」
「あ、このくらい気にしないで良いよ。奢るし。そんな高くないでしょ」
「良いの?」
「うん」
と思ったら、二人で三千円ほどした。
パフェとかが高かったのかもしれない……。
「次、行こうか」
「そうだね」
「クーポン貰ったしゲーセン行く?」
「良いよー」
軽い感じで決まり、ゲーセンエリアに行った。
基本的にUFOキャッチャー系が多く、ゲームなどは奥の方にあるのだろう。後はエアホッケーがあったりする。
「どれからやる?」
「じゃあ私あのぬいぐるみ狙おうかな」
「お、良いね。俺はちょっと両替機に行っとくよ」
そう言って一時期二手に別れる俺たち。
千円くらいで良いかなと思いながら、機械に千円札を入れる。
ジャラジャラと出てきた百円玉を回収し、美香の元へと戻った。
「あー!!」
美香が声を上げていた。
先ほど「遊ぶには百円を入れてね!」と明るく言っていた台の音声が「残念〜!!」と言っている。
見た所、取れなかったのだろう。
「どう?」
「もう二百円使ったんだけど、全然取れない!」
「あー、まあそんなもんかもね」
「悔しい〜!」
可愛らしく悔しがる彼女に俺は提案する。
「俺も一回挑戦していい?」
「えー、うーん、いいよ?」
「任せて任せて」
百円玉を投入し、→のボタンと↑のボタンが点滅し始める。
そして意を決してボタンを押した。
「お、どうかな?」
「これで取れたら、何か悔しいかも」
「理不尽な」
設置されたアームが、ゆっくりと降下して狙っていたイルカ系のぬいぐるみを掴んだ。
「おっ」
「ぅ」
一緒に遊んでいる筈なのに、対照的な表情を覗かせる二人。
そしてアームがゆっくりとイルカを持ち上げ始めた。
やがて持ち上げ切ると、アームが上昇を止めたが、しかし同時にぬいぐるみも落ちてしまう。
「あちゃー、ダメかぁ」
「そうだよね! 一発じゃ無理だよ!」
内心、美香は嬉しそうだ。
負けず嫌いなところがあるから、同じ台で遊ぶと言うよりかは近くの台で遊ぶのが良いのかもしれない。
「俺は隣のこれやるよ」
「じゃあ、私もこれ取れるまで続けるかも」
言いながら、俺は隣の台に移り、菓子類系を狙う。
そして数十分後。
「おかしくない?」
「おかしくないよ。てか、ダジャレ?」
手一杯の菓子類を持ちながら、俺はぬいぐるみを二つ手にする美香に返事をした。
「割と得意なんだよ。それに、多いように見えてこれでも原価は低いんだ。コンビニで買うとしたらこの倍は買える筈」
「そう言う問題なんだ。てか、それ持てるの?」
「まあ、こう言う時に便利なのがマジックバッグなんだよね」
「なるほどー」
俺たちは時間を確認して店舗から出た。
外は少し暗くなり始めていて、夕陽へと変わっていた。何だかんだ四時間くらいは遊んだだろうか。
「駅まで歩こうか」
「だね」
二人で歩きながら、何気ない雑談を交わす。
学校での話。週末中に出た課題の愚痴。今日のカラオケでの思い出深いシーン。食べたポテトの感想。好きな音楽の話題。
「喉渇かない? ちょっとその自動販売機で飲み物買いたいんだけど」
「うーん、私はあんまりだけど、待つよ?」
「ありがとう。ちょっとだけ待ってね」
小銭を投入し、水を購入した。
最近水の値上がりもあってか高いな、といった感想を抱く。
それから口を付けて水をグビグビと飲む。
「ちょっとだけ飲む?」
「え、あ、うん」
あたふたしてまう彼女を見てクスクス笑ってしまう。
それが余計羞恥心を煽ったのか、彼女は「やっぱりいらないから!」と照れたようにガシガシと脇腹を指先で突きながら断った。
「痛い痛い」
「もう」
割とダメージがあり、彼女の手を掴む。
そこでようやく止めてくれた。
それでもずっと歩みは止めない。
「手、離さないの?」
「んー」
曖昧な相槌を打って誤魔化す。
彼女もまた手を離す様子は無かった。
気づけば夕陽は落ちていて、空には小さく三日月が浮かんでいた。
「月、綺麗だね」
「どっちの意味、それ?」
「んー、今回に限っては普通の意味かな」
「そう?」
反撃に出るように、彼女は顔を覗き込みながら揶揄うような仕草で挑発的な顔をした。
随分と心が絆されてしまったと、今更ながら実感する。
「ねえ、美香」
「なーに?」
彼女となら、付き合いたい。
心底そう思った。言葉は、ダイレクトで良いだろうか。
あんまり照れくさいセリフも思い浮かばない。
「美香、……」
「颯太」
言いかけた瞬間、美香が遮った。
言葉を引っ込める。
「私と、付き合わない?」
そう言ったのは、彼女の方だった。
心が激しく脈打つ。
彼女なら良いのだろうか。
藤井を思い出す。最近はもっぱら彼女自慢ばかりするようになったけど、アイツは幸せそうだった。俺の周りだって、他の人と付き合ってる人間はたくさんいる。
恋や愛を言葉にするのは難しいし、何が恋なのか、を判断するのもまた難しいのだろう。
……俺だったら、どうするだろうか。
けれど、彼女にときめいて、心が揺れ動く自分の気持ちと、彼女を愛おしく大切だという気持ちがこの恋の証明なのだと思う。
「うん。むしろ、さっき俺が言うところだったよ」
「そう、だね」
「ありがとう、美香」
「こちらこそ」
幸せを感じた。
とても嬉しくて、楽しくて。緩んだ頬を戻すのが大変なくらいに。
愛おしい。
美香に体を向けた。
彼女もまた、向き直る。
その行動に察したのか、彼女は目を閉じた。
そして、柔らかな唇に俺は口付けを落とす。
第一章 パート2 「強さ」、これにて完結です。次回のパート3 「大会 前編」は短めになる予定ですのですが、是非ともご期待下さい。




