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努力の理由

すみません、遅れました。

ストック?残ってませんよ?


*主人公の苗字を相沢に変えました。なんか軽く調べたら存在する名前だったらしいので。


「えーと……今の予算がこの位で……次必要なのは……あ、後……」


 カチッ、カチッ、となるデジタル時計は1:10分と表示されている。 

 最も、その音はパソコンと繋げたヘッドフォンから流れる音楽で掻き消された。


 俺はノートを開いて、金銭面の計算や必要だと感じたものの確認を取っていた。

 そしてようやく時計を見て気付いたように呟く。


「あ、やば…そろそろ寝ないと」


 気づけば時間はあっという間に過ぎていた。

 基本的に、俺は健康体である事を目標としているし、その為なら多少キツイ筋トレや食事制限も厭わない。


 最初は姉さんにも心配されてたけど、もう子供ではないのだから大丈夫だと説得した。


 

 あ、眠いな……。


 横になって電気を消すと急激に睡魔が襲ってくる。



 明日はどうしよう。

 最近、毎日の思考が迷宮での事ばかりになっている。


 次の迷宮攻略は明後日だ。


 楽しみに思いながら、俺は眠りに落ちた。



***


 次の日。

 放課後を知らせるチャイムの数分後、玄関付近で美香が立っていた。


「美香?」

「……颯太」

「その髪可愛いね」

「ありがとう」 


 ポニーテールに結んだ彼女の髪についてコメントを残すと、ほんの少しだけ頬を赤らめながら、美香が感謝を伝えた。


「何してたの?」

「いや、何もしてないよ」

 

 ん?

 なら何故あそこにいたのだろうか。


「一緒に帰らない?」


 考えを振り払い、俺は何気なく彼女を誘った。

 が、後から自分が言ってる事の意味を自覚する。しかし、それより前に彼女は短く答えた。


「……うん」


 何気ない様な、特別な意味を含まないような、そんな返事だったのに。

 俺の心は不思議と高鳴っていた。


 

「じゃあ、うん……行こうか」

 

  

 彼女と帰り道を歩き出す。

 普段なら一人だった筈のアスファルトの道は、和やかで楽しい場所に変わっていた。



 彼女と雑談を交わす。何気ない事だったり、今日の学校で起きた出来事だったり、友人の笑い話だったり。彼女が笑うと釣られて俺も笑う。ニコッと笑みを顔に出す彼女を見て、表現出来ない感情が心を温める。


「それでさ…」

「うん」

「優奈が先生の髪型河童じゃんって小声で突っ込んでたんだよね。それに遥が吹き出しちゃって……私もお腹痛過ぎて楽器持つ手震えてたね」

「っはは、あ〜音楽の授業で? 俺も見たかったなぁ」

「いやいや、あの後誤魔化すの大変だったんだよ?」

「確かに、大変そうだわ」


 笑いながら、我ながら変な会話だと自覚する。

 嗚呼。楽しいな。


「それで、どう? 攻略は順調?」

「うん。あれから何回か一人で潜ってみたけど、すっごく順調だよ。01ダンジョンで四層まで行けたし」

「え、凄いじゃん」

「まぁね〜」


 実際、かなり進みは早い方だ。

 才能があるのだろう。


「颯太は大会出るんだよね?」

「ああ。美香は出ないの?」

「どうなんだろうね。今の所は何とも言えないな〜。でも事務所とかに所属するタイプのプロを目指すんだったら、あそこで知名度上げた方が良いよね……」

「そっか」

「颯太はプロとか目指してるの?」

「……え、まあ、そうなるかな」


 俺は今、探索者に打ち込んでいる。

 いや、のめり込んでると言っていい。それはきっと、手応えを感じているからだ。

 探索者を経験してみた時、紛れもない才能を感じたからかもしれない。


 プロになる機会が来れば、恐らく躊躇わずに人生の全てを捧げれるだろう。


「私はプロとかあんまり考えられないかな。だって何にでも上には上がいるからさ」

「そうだね。……でも、俺は別に一番になりたい訳じゃないんだよ」

「そうなの? プロ、目指してるのに?」


 考えていたことがある。

 数十万円というバイト金を投資して、俺は探索者という職業を経験した。



 探索者のプロ、と言うのは中々に夢のある職業だ。

 一般の探索者はともかく、事務所に入っていると言えば聞こえは良いし、実際収入も良い。


 実際、俺も大手にせよ小さめの事務所にせよ、プロとして契約出来ると言う自信はある。

 けれど世界で一番だとか、日本代表だとかそう言うのは考えられない。


 それはとても高く、遠い場所なんだ。


「俺はさ、案外取り柄のない人間なんだよ。勉強は平凡だし、スポーツも微妙だった。音楽とか漫画とか小説は好きだけど、自分が作るなんて未来はあんまり想像出来ない。けれど、探索者は違ったよ。他の人を見ててずっと思ってたんだ。自分ならもっと上手く出来るって。本気で。自信はあったよ。現実は想像よりずっと大変なモノだったけど、でも間違いなく成功は出来ると思う。探索者が楽しいから、自分が最も才能のある事だから。だから、俺は探索者になって、それで食べて行きたいんだ」

「……」

「ごめん。何でもないや。行こうか」

「……私もさ、そう言うの分かる。大人になったら、お金を稼いでかないと食べれないじゃん。でも、会社員になりたい訳じゃないんだよ。学校は会社員になる方法しか教えてくれないけど、一歩見渡せば今は色んな職業がある。配信者も、歌手も、音楽家も小説家も漫画家もイラストレーターも。そして探索者も。私もさ、そんなに勉強ができる訳じゃないけど。でも、それが全部じゃないよね。楽しいをして生きてくのって夢があるよ。でも安定の道から外れるのは怖い。実際は誰でも慣れて、時間さえ掛ければその内安定した稼ぎが出るようになる職業じゃん。探索者って。でも、給料は全部政府主導のギルドの買取値段によって決められてるし、その価値もコロコロ変わる」

「うん」

「だけどさ、夢は追うべきだと私は思うな」



 彼女の言葉は案外簡単にも、俺の悩んでいた事を解消してくれた。

 不安、恐怖。プロを、他の人間と違う道を歩む事。


 それを彼女は取り払ってくれた。


「……ありがとう」




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