表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/35

何処かで少女が鳴いたとしても

間話です。

本編とも関係のある話ですが、主人公達の出番は一旦お休みとなります。


 この世界において『探索者』とは異端児である。


 多くの一般人がなるものの、その実態は血と肉を浴び続ける殺戮者に過ぎない。


 メディアや政府は情報規制を強いて、『探索者』自体のイメージを高めているからこそ、今でも多くの『探索者』と言う名の殺戮者が現れるわけだ。



 人は時に、彼らを健常者の振りをした異常者と呼ぶ。


 また、モンスターを消耗品のように使い捨てる事を非難することも多い。

 これには多くの出来事があったからなのだが、それはまた別の話だ。


 

 さて。

 この世には様々な人間がいる。


 同様に、人によって才能の大きさは違う。



 探索者の才能が高い人間は、肉を斬り生命を擬似的に奪う事に躊躇いを覚えなくなる。



 迷宮でモンスターを倒す事は殺す事とイコールではない。


 血を流して、首と胴体が切断されて、心臓が止まったとしても……それは死ではない。


 彼らの死体は迷宮によって分解され、元の迷宮のモンスターとして迷宮内を再び彷徨い続けるのだ。



 だから。

 人はモンスターを倒す事も使い捨てる事も厭わない。


 例え、そのモンスターがどれほど苦しいと、痛いと、死にたくないと願ったとしても。


**



 長い夢から目覚めたような気がした。


 感覚的には召喚された、といった辺りだろうか。

 

 目の前の男を、自分の新たなマスターを視界に捉える。

 二十代前半。そこそこガタイが良く、髪を金髪に染めているものの、別に顔が良いという訳ではない。ぱっと見チャラいが、モテるタイプではないだろう。


「おー、結構可愛いじゃん」

「光栄です、マスター」


 自分を見る目がやや好意的に変わった気がした。

 

 可愛い、という言葉には下心が含まれていない様に見える。

 と言うか、下心が含まれているならそれはそれでモンスターという異種に欲情する様なヤバいやつだ。



 記憶はないが、恐らく前のマスターから聞いたのか、生殖機能の無いモンスター相手でも所構わずどうにかして交配しようと試みていた変態が居たらしい、と言う話が記憶にある。



 見た目は人間とあまり変わらないのだけど、モンスターと言うのはそう言う対象ではないと思っていたので、相当ショックだった。多分だけど、それを話していた前のマスターもドン引きしていたと思う。



 まあ、少なくともこのマスターは今の所マトモそうで良かった。


「んじゃあ、獣人戦士ビーストウォーリアーちゃん。今日から君はそこの奴らと一緒に戦ってね。俺、あんまり指示出さないタイプだから、上手く他から学んでよ」

「……はい」


 そう言われ、彼のモンスターと思われる三体を確認する。



 一体はギガント。巨人で、大きさは四メートルほどだろうか。ランクはD-だ。


 もう一体はパーピー。大きく真っ白な翼を持つ女性だ。ランクはE。


 最後の一体は鬼女。鬼の角を頭に宿した女で、ランクはD+だ。

 

 対して私は猫型の獣人戦士で、ランクはD-。

 

 主力がE〜D+なのは中々の振れ幅であるが、D+のモンスターを従えていると言う事は、マスターはそれなりに時間を費やしてきたのだろう。少なくとも素人ではない。


「獣人ちゃん? でいいかな? よろしくね〜」


 ハーピーに気軽に話しかけられ、私は戸惑う。

 どう答えれば良いのか……。


「……はい。構いません」

「えー。そんなに畏まらなくて良いからね? 分からない事があったら何でも聞いてよ」

 

 真面目に答えたのだが、当のハーピーには明るく往なされた。


「そうですか……それは、えっと……ありがとうございます……」


 それはハーピーの声色が優しかったからか。

 みんなの表情が穏やかだったからか。

 

 私の知らないうちに、自身の中にあった警戒心は少し緩んでいた。


「まあまあ。気軽にしていいよ! それで、こっちは鬼女のルナ」

「ルナって呼んでね」

「ルナ、ですね」


 ルナ……名前だろうか。

 このパーティーで一番強いだけあって大切にされているのだろう。


「オレモ、ヨロシク」

「あ、は、はい」


 大きなギガントに話しかけられて、言葉が詰まった。

 けど、落ち着いて彼を見ると、あまり威圧感は感じない。


「ギガント、怖がらせない様にね」

「ウ、ン」


 パーピーに優しく注意され、ギガントは素直に頷く。

 こうして見ると、皆んな見た限りは気の良さそうなモンスターばかりだ。


「ほら。私達って皆んな人型のモンスターでしょ。だから、皆んな仲間だよね。仲良くしてこう?」

「何それ。うん、獣人ちゃんも馴染んでくれると嬉しいな」

「キッ、ト……ダイジョウブ」


 随分と暖かい歓迎だった。

 私には暑過ぎるほど感じるほどの。


 けれど、心地良い歓迎だった。

 

「……はい。よろしくお願いします」



 私は少し、暖かな気分で表情を崩していたと思う。







「どう? ここには慣れた?」

「ええ。お陰様で」


 私がパーティーに加入してから、既にかなりの月日が流れた。

 マスターはセオリー通り2ランク下のレベル相手で狩りを行っている。


 私たちのパーティーの平均ランクがD-として、その二つ下はE。なので私達が相手するモンスターらはゴブリンノーブルやニンフ、ロアなどになる。


「フ、ン」


 ギガントがゴブリンノーブルを殴り飛ばした。


「ケガ、ナイ?」

「貴方こそ」


 ギガントは穏やかだけど、頼れる存在だ。

 少し天然な所もあるけど、とても良い方なのだと思う。


「怪我人は回復薬貰ってるから集まって〜!」


 ハーピーが呼びかけた。

 その手にはマスターから貰った回復薬が数本握られている。


 マスターは私達に興味がないのか、後方で背後を確認していたけれど。


「私は貰っとくよ、ありがとう。獣人ちゃんは……まあ、心配しなくても大丈夫かな。何故か全然怪我しないし」

「そこは心配してください」

「ごめんごめん」


 ルナと私はリーチが短いのでかなり接近して戦うのだが、戦い方が違う為か私はあまり怪我をしない。


 そもそも私はヒットアウェーなので、そもそも攻撃を受ける回数が少ないのだ。

 逆に、ルナは攻撃と防御を繰り返し、あまり避けるという事をしない。それを可能とさせる回復力と攻撃力あっての事だけど。


 やはりと言うか、ルナの強さは別格だ。

 

 私の中でもルナは戦闘に関して困った時に聞けば、上手く言語化して教えてくれる良い先生でもある。

 

「ほら。痛い所は無いのよね?」


 ルナが優しく私の頭を撫でた。

 心地良い感触に、私のは心は穏やかになる。


「……いえ、ありがとうございます。ルナが敵を惹きつけてくれたお陰です。背後からの攻撃が容易でした」

「ふふっ、……良かったわ」


 そう言いながら、ルナは優しく微笑んだ。


 この関係がとても心地良い。

 私はルナが、いや、ここにいる皆んなが好きになっていた。


 もう少し撫でられていたいけど、ハーピーと話したいので名残惜しくもルナから離れる。


「ハーピーさん」

「獣人ちゃん! ……っていつも通り血の匂いキツいね」


 ハーピーは私に抱きつこうとしたけど、私が血まみれなのを見てやめた。

 

「私は前衛ですから」


 私は接近戦な上、ルナやギガントと違って打撃ではなく、爪での斬撃を攻撃手段としてるからかも知れないけれど。


「じゃあ、あんまり近付かないでよね。私、汚れるの嫌だし」

「変な事を言いますね」

「これでも乙女だから」

「乙女、ですかー?」

「何で懐疑的なの」

「いえ、イメージと違ったので」

「失礼な。獣人ちゃんも乙女とかに憧れないの? まあ筋肉カチコチ過ぎて無理かもだけど」

「はぁ? そっちこそ失礼ですね。抱きつきますよ?」

「え、ちょっ、やめて」

「えいっ」


 私は血まみれのままハーピーへと飛び付いた。

 頬ずりをして血をベッタリと付ける。


「ああ! ちょっと、汚れちゃったじゃん!」

「直ぐに落ちるんだから良いじゃないですか」

「まあそうだけど! ……あれ、でも獣人ちゃんから抱きついて来てくれたの初めてじゃない?」

「言われてみれば……そうですね」


 何故だろう。

 急に気恥ずかしくなって来た。


「最初は私が抱きつくのも嫌がってた癖に〜。いつの間に、そんなに私の事好きになったの?」

「うるさいですね」

「照れなくていいよ〜」

「照れてません」

「またまた〜」

「鬱陶しいです」


 照れてなどいない。

 彼女達が好きなのは……まあ、間違い無いけど。



**


「ねえ、もしさ人間になれたら何がしたい?」

「突然どうしたんですか」


 ハーピーに質問され、私はツッコミを入れる。

 

「いやいや、まあ仮定というか妄想の話というかさ」

「私は考えた事もなかったですね」


 というか、そもそも人間の生活をあまり知りませせんし。


「ルナは? ギガントはどう?」


 ハーピーは他の二人にも話題を振った。


「モンスターを殺しながらする雑談ではないと思うわね」

「ヨク、ワカラ、ナイ」


 やはり二人もよく分からないようだ。


「人間、と言われても想像出来ませんよ」

「ま、そりゃあそうだけどさ。私、人間になれたらやりたい事あるんだよね」


 あまり興味はないけれど、ハーピーは話を聞いて貰いたいみたいだった。


「何ですか?」

「恋、かなぁ。やっぱり私も一人の乙女だからさ」


 いや、知りませんよ。

 ちょっとうざいですね。


「それって人間じゃなくても出来るのでは?」

「無理でしょ。モンスターなんだし。昔、前のマスターに恋人自慢されてさ、めっちゃ嬉しそうにしてるもんだから、怠かったけどちょっと羨ましくて………………………………………………あれ、私何話してたっけ?」

「……え、えっと、前のマスターに恋人がいたって話では?」

「そんな話、してたっけ……?」

「してた、筈……ですけど」

「……多分、記憶が混同してたのかも。……だって、前のマスターの話なんて覚えてる訳ないし」

「……ですよ、ね」


 強烈な違和感があった。


 けれど、私達は飲み込んだ。

 全て、彼女が言った事は全部気のせいなんだって、信じながら。



***

 


 

 マスターは基本的に私達に無関心だ。

 戦闘指示の様なものはあまり無く、私達の会話に混ざってくる事もない。


 また、あまり向上心がないのか、今の稼ぎで満足しているのか、あまりレベルの高い狩場に行こうとしない。私達としてはリスクがなくて、ありがたいけど。


「会話の途中悪いんだけどさ」

 

 それはいつもの様に私達が召喚されて、会話を交わしていた頃だ。

 会話に混ざってくるなんて珍しい事もあるんですね、とぼんやり思う。


「はいマスター」

「何でしょうか」


 ルナもハーピーもマスターの前では規律正しく敬語を使う。

 私も緩んだ顔を直してマスターへと向き合った。


「ああ。狩場を変える予定なんだ。今日のうちは指示を出すから、従っておいて」

「了解です」

 


 私達は顔を見合わせた。

 こんな事は初めてだ。



 そうして、私達が連れて来られたのは迷宮01の21層だった。


 ここからはDランクのモンスターが出現する事となる。

 普段よりかなりレベルが高い場所だ。下手をすれば死ぬ可能性だってある。


 何故突然こんな危険な場所に来たのでしょうか。


「何で今更ここに……」

「え?」


 ボソッとハーピーが溢した言葉を、私は拾った。

 疑問に思い、思わず聞いてしまう。


「昔さ。マスターがもっと若かった頃はここに挑んでたんだよね」


 それは……意外な事実だ。

 だってここは私達が普段利用している狩場より危険とはいえ、レベルも高いし報酬だって相当増える。こちらに挑めるならあちらを使う必要は無かった筈だ。


「その頃の主力はさD+〜Eまでいてマスターも特に苦労する事なく進んでたんだよ。だけどさ、ここでつまづいたんだ。あの頃は七体のモンスターに指示を下してたんだけど、あんまり手が回り切ってなくて。最初の戦いでDランクモンスターの一体を相手に戦って、それで主力のモンスターを一体ロストしたの。七体がかりだったのにね」

「……」


 私は言葉を失った。

 マスターの事など私は知らないけれど、それは彼の初めての挫折だったのだろう。


「マスターがロストしたのなんて初めてだったからさ。私達で一旦中止しようって言ったんだけど、焦ってたのか、あの子の失ったダメージが大きかったのか、進むって言ったんだよね。でも、やっぱりゴタつきまくってて。二十一層のボスを倒す事は出来たんだ。その頃にはもう私とギガントと他の一体しか残ってなかったけどね」

「……そう、だったんですか」


 ハーピーが静かに言葉を続ける。

 マスターは選択を間違ったのだろう。その結果、多くの仲間を失ったのだ。


 彼が悪い、とは言い切れない。

 けれど、彼は自分を責めたのだろう。責任を取ろうと思ったのだろう。

 

 誰かが責められる。責められなきゃいけない。


 失敗とはそういう物だ。


「あの日、21層のボスを倒してたマスターはルナを手に入れた。けれど、それ以上に損害が多過ぎた。けれどあの頃のマスターはまだ諦めてなかったんだ。ヤケクソ、っても言えたかな。あの後、三回は挑戦したよ。皮肉な事に、マスターって少人数のパーティーの方が動かしやすかったみたいでさ。七人の頃より戦えてた。でも、三回目で他の一体も失っちゃってね。心が折れたらしくて。それから、ずっとあそこの狩場でお金稼ぎするだけになってた」

「そう言う経緯で……」

「マスターもさ。昔は結構私達の会話に混ざったりしてたんだ。昔は結構親しみ易かったんだよ? お茶目で、コミュ力とか高くて。けどみんな消えちゃったからさ。私もずっとまともに喋ってない」


 マスターは確かに明るい人物だと言うのは分かった。けれど、モンスターに対して親しみを持っていたのは意外だった。私も全く話さないから分からなかったのだろう。


「そろそろ陣形を組みましょう。近くにモンスターがいると思われます、マスター」


 索敵していたルナが、マスターに助言する。

 しかし、マスターは黙ったままだった。


「マスター?」


 ルナがマスターの顔を覗き込みむ。

 よく聞き取ると、彼は独り言を言い続けていたようだった。


「大丈夫……大丈夫、うん、…‥うん」

「え?」

「……ああ。……ルナか。気にしなくていい」


 ルナが心配の入り混じった疑問の言葉を投げる。

 しかし、マスターは彼女を制止した。


「ゴブリンタンク」


 マスターがそう呼びかけると、五体のゴブリンタンクが召喚された。


 けれど彼らは盾を持っていない。

 一体何に使うつもりなのだろうか。


「ゴブリンタンク。総員、敵に『ヘイト』を」


 そう指示されたゴブリンタンクらには戸惑いの表情が窺えた。

 ヘイトを使うのには問題ない。


 しかし、彼らには盾がない。


 どうやって己の身を守れと言うのだろうか。


「命令だ」


 しかし有無を言わせぬ口調によって、ゴブリンタンクらは敵へとヘイトを使った。

 ヘイトによって、フィールドにいた一体のモンスターが此方へと駆け出して来る。


「コカトリスです!」


 その鶏と蛇を合わせた怪物は、尻尾でゴブリンタンクの内の一体を串刺しにした。


「──な」


 あっさりと倒されたゴブリンタンクは地に伏して、光の粒子に変わる。

 状況を理解出来ずに、私は掠れた声を溢した。


「『不良品』が混じってたのか……? まあ良い。ゴブリンタンク、総員ヘイトだ!」


 訳の分からない事を、マスターが言う。同時に、再びマスターが命令を下した。

 すると先ほどとは違い、コカトリスは動きを止める。


 コカトリスは混乱している様だった。


 複数対に同レベルのヘイトをかけられ、誰から潰せば良いのか戸惑っている様子だ。

 これが作戦ということなのだろうか?


「今だ。ゴブリンタンクはヘイトをかけ続けて、全員攻撃しろ」


 それは命令だった。

 マスターの目は虚ろで、何も写しなどしない。


 私達は否応無しに一斉攻撃を仕掛けた。

 しかし、攻撃が届く前に混乱から解けたコカトリスがもう一体のゴブリンタンクを消し去る。

 

 そして私達の攻撃によってコカトリスもまた、光の粒子へと変わった。


 戦闘は終わった。

 確かに、終わったのだ。


 ゴブリンタンク二体が消えたとて。

 それはコカトリス一体の魔石の値段より、価値があるのだから。

 

「マスター……?」




 ……その場にはハーピーの小さな掠れ声だけが場に響いていた。







 それから。

 私達の狩りは変わった。


 マスターは大量のゴブリンタンクを購入していた。


 大量のゴブリンタンクが死んでいる間、私達は一斉攻撃を仕掛けるだけ。

 それだけなのに、とても息苦しかった。



 ハーピーが聴き出したららしく、どうにもマスターは、とあるインフルエンサーに影響されたのだとか。



 曰く、モンスターは消費するものである、と。

 


「一日、十万円……順調だ……はははっ」



 彼は、それから利益だけを考える様になった。

 ゴブリンタンクのロスト分と、その時の利益を数え続ける様になったのだ。



 仮にもゴブリンタンクはE-ランク。一回の戦闘で三体を失うとすれば、Dランクのモンスターの魔石だと利益は若干マイナスだ。

 しかし、モンスターカードがドロップした日は違う。



 それまでのマイナスを払拭するほどの大きなプラスとなる。



 いつしか、四体だけだった私達の主力パーティーは再び七体まで増えていた。



 新しく入ったDランクの妖精シャナ、ケンタウロス、そしてコカトリス。

 結果だけ見れば、それはとても順調の様に見えた。



 内側はとっくに崩壊していたけれど。



 マスターはそれを無視し続けていた。

 私達でさえも目を背けていた。



 だから、同罪なのだ。




 当然、こんな作戦はいつまでも続かなかった。



「……値上がりし過ぎたせいで、利益が薄過ぎるな」



 どうやらこの戦術の浸透によってゴブリンタンクの価値が上がったらしいのだ。

 ゴブリンタンク一体の値段がDランクのモンスターの魔石の値段を上回ったのだとか。これでは毎回モンスターカードをドロップしないと利益が出ない。



 潮時、といった所だろう。



 こんなブルーオーシャンはとっくに消えていた。

 私達はそれを知っていながら、彼に言わなかったのだ。



 







 私達は元の狩場に戻って来た。


 マスターと共に安全地帯へ座り込む。

 マスターは動かないまま、携帯を触り始めたようだ。



「はぁ……」


 皆んながため息をつく。

 これから、どうするのだろう。


 そんな不安だけが私たちを襲った。



 シャナ、ケンタウロス、コカトリスとは別々に、それぞれ固まって座り込んでいる。


 

 彼らとは全く話さない。

 話す気も起きなかった。


 何処かですれ違ってしまって、溝が空いたままなのだ。



 だから、私達は交わらない。


「……どうするの?」

「さあ。マスターが決めるのでは?」

「それは……分かってるけどさ。私達がどうするのか、って事」


 ハーピーの言葉に、ルナは淡々と返した。

 その態度が、苛立っていたハーピーを更に強く苛立たせる。


「どういう意味?」

「マスターの為に何が出来るかって話でしょ」


 冷たい返し。

 ルナから不機嫌さをアピールされ、ハーピーの怒りが積もり重なっていく。

 

「別に……私は興味ないわ」

「は?」


 ハーピーが、ルナに対する声色を変える。


「何? 私に出来ることなんてないわ。最終的に何をするのか、それはマスターが決める事だから」

「そんなのでいいの? 私が、私達が支えなきゃ、マスターは……」

「それ、私に関係ないわよね?」

「オチ、ツ……」

「…‥ふざけないでよ!」


 ハーピーがルナに掴み掛かった。

 襟元を掴まれたルナは、しかし落ち着いてハーピーの手を払おうとする。


「離してくれない?」

「離さない」

「離して」

「……嫌」

「…‥離して」

「痛ッ……」


 ハーピーの必死の抵抗も已む無く、ルナはハーピーの手を力尽くで振り解いた。


 ハーピーの表情が見えない。


「ハーピー、方法は一つよ。正攻法であの狩場に挑む。それか、この狩場でやり直せばいいじゃない」

「何言ってんの……そんなの、……出来る訳ないでしょ!」


 突然……、いや必然的にハーピーが叫びんだ。

 真っ赤に目元を腫らしながら、ハーピーが頭を抱えて、そして爆発したように吐き出す。


「…‥正攻法じゃ、マスターは無理なの!! 私が一番知ってるし、私が一番理解してる。それは、私達が……私が弱いからだよ…‥!! ルナは良いよね。足、引っ張らないもんね。私は違う。私が弱いから、みんなと連携が取れない。また、みんなを失って、それでまたマスターが喋らなくなっちゃう」

「……じゃあ」

「じゃあこの狩場でやろうって? 無理でしょ!? この狩場でやり直せる訳ない。私達は正攻法じゃなかったけど、初めて二十四層まで行ったの!! こんな所で諦めたように、また前に戻るなんてマスターは無理……それは、私も死ぬほど嫌……」


 啜り泣く声と、嗚咽を漏らす声だった。


 ハーピーは泣きながら、自分の首に両手を当てていた。


 彼女が自らの首を絞める。

 嗚咽が弱まっていって、彼女が苦しそうに足掻いた。



 そんな事をしても意味なんてないのに。



 彼女はすぐに、ゴホッ、ゴホッ、と咳き込んでオエッと空っぽの胃から吐きそうになる。

 しかし水も食料も摂取する事のないハーピーは何も吐き出さない。


 吐き出せ無かった。



「ヤメ、ヨウ。ソレ、イミ、ナイ」

「……そんなの分かってるよ!!!」


 ハーピーが立ち上がって逃げ出すように走り去る。


 なのに誰も追いかけない。



 マスターに至ってはこの期に及んでも、こちらを見る事さえなく、別の方向を見ながらその表情さえ伺え無かった。



 ああ、最悪だ。



 生き物というものは、案外プライドを持っている。

 

 無意識のうちに見下して来た相手に、自分が怒鳴られた時、全てを本心から受け入れて、向き合って、そして相手とも和解しようなんて気持ちを持つような聖人君子は正常じゃない。


 

 誰も、彼女を追いかけようとしなかった。



 私だけが立ち上がって、彼女の走った方向へと駆けていた。









「見つけましたよハーピー」


 私が声を掛けると、静かに泣いていたハーピーは逃げ出そうとした。

 それよりも早く、私は背後から彼女を押し倒して捕らえる。


「離して……!! 離せよ!!」


 彼女の声が荒々しくなる。

 私は一言も発しないまま、ただただ彼女が疲れて反抗する気力が無くなるまで彼女を強く、抱きしめるように抑え続けていた。


「そりゃ、そうだよね。逃げられる訳ないよね…私じゃ」


 彼女の力は非力だった。

 彼女がいつだったか言っていた、乙女のような細くて柔らかい少女の腕では、私を振り解く事は不可能だった。


「その翼を使えば逃げようと思えば逃げれた筈ですよ」

「違うよ……この翼は飾り。飛ぶのは物凄く体力を使うし、翼は空中に逃げる時にしか使えない。普通に移動するんだったら、時間さえ考えなければ走った方が何倍も遠くまで行けるよ」

「そうなんですか」

「何、しに来たの」


 彼女は私を試すような言葉を投げかける。


「いえ。貴方を抱きしめたかったので、抱きしめに来ただけですよ」

「こんなに強く?」

「ええ。貴方が逃げると思ったので。もう少し強く抱きしめても?」

「ダメ。離れて」


 強い拒絶を帯びた言葉をぶつけられる。

 その言葉に、心が揺らぎ、心臓がギュッと苦しくなった。


「先に言いますが、私は大人ではありません。聖人でもないです。なので、怒ってる時は怒りますし、悲しい時は泣きます」

「そんなの知らないし、私に関係ない」


 私の涙が、彼女の首元に落ちた。

 涙痕が服の染みになる。それが乾きそうも無い。


 とても切ない気持ちが心を支配した。


 泣きながらの声が、どうにか口から言葉になる。


「……そうかも知れません。……でも、私は上手く言えないので、直接言います。……私は貴方の手を離したくありません。…貴方が大好きだから、多少の事は受け入れる覚悟でいます。……私は貴方に寄り添いたいんです……」


「……嘘」


 ハーピーは、静かに、私をもう一度否定します。


「私は、私から見たハーピーの事しか知りません。でも、貴方も貴方から見た私の事しか知らないでしょう? 私は貴方が思っているより、何十倍だって貴方に寄り添いたいと思ってるし、寄り添えると思っています。私は貴方がどんな人生を送って来たのかも、どんな苦しみをどれ程抱えて来たかも知りません。でも、私は貴方が抱える物とは違っても、何個も苦しみを覚えて来ましたし、この知識に刻んで来ました。私ですら、私の人生を知りません。ハーピー。私なら、貴方の苦しみを共有出来ます。貴方の苦しみを共有出来るのは私です。ルナも、特にギガントなんて不器用だから分からなかったのでしょう。ねえ。貴方は、マスターの事をどう思ってるんですか? 貴方はこのパーティーの一員なんですよ? 誰よりもこのパーティーを支えて来た筈です。それは他の誰よりも貴方が知ってる筈なんです。思い出して下さい。自分が何をして来たのか。何が出来たのか。ほら。例えば私は、貴方に話しかけられたあの日から、貴方と居ることが嬉しくなって、私を元気づけてくれていたんですよ?」

「……」

「どうなんです?」


 ゆっくり吐き出した、私の言葉をハーピーは受け止めてくれたような気がした。


「私、マスターの事好きだったの。好きだったんだ」

「もう好きじゃないんですか?」

「そうなのかも」

「ちゃんと恋、出来たんですか?」

「恋はね。出来たよ。……でも、違う。私がしたかったのは、多分恋じゃなかった。私は、幸せが欲しかったの」

「幸せが欲しい気持ちは分かります。私もですね、私は何の為に生まれて、何をして来て、これから何をするんだろう、って考えてます。でも肝心なのはその先に、幸せがあるかどうかなのかも知れません。ねえ、ハーピー。私は、貴方と一緒にいられたら幸せになれると思うんです。恋は幸せになる為の一つの手段に過ぎません。けれど、ハーピー。私はハーピーの事、愛してます。ハーピーはどうですか?」


 幸せなんて、恋で叶えなくても良いじゃないか。

 私は多分、貴方を愛せているから幸せを感じているんだ。


「分かんない。でも、私もさ……貴方のこと……大好きだよ……」


 私達は抱きしめ合った。

 そうすれば幸せを感じられるような気がして。


「このハグは、親愛の証と受け取っても構いませんか?」

「……うん」



 それから、私を介してハーピーは二人に謝ることになった。



「ルナ」

「何?」

「貴方は間違ってませんよ。貴方の考えは尊重されるべきですし、確かに最終結論を下すべきなのはマスターです。たとえ貴方がマスターに誰よりも大事にされていたとしても、貴方は周りに嫉妬される必要はありません。その実力は貴方の種族のお陰だけではないのでしょう?」

「……ええ」

「ルナ。良ければ、いつもみたいに私の頭を撫でて貰っても?」


 返事をするよりも早く、ルナは私の頭を撫で始めた。

 私は歩み寄り、彼女を抱きしめる。



「ルナ。大好きですよ」

「私もよ」


 

 ルナから離れ、ギガントへと向く。

 先に口を開いたのは彼の方だったからだ。


「オレモ、ゴメン」

「ギガント。……気にしているなら、気にする必要はありません。貴方は温厚で、優しく振る舞える人です。けれどあの時、貴方とハーピーが衝突したのは事実ですし、彼女を追いかけるのは私の役目だったのですから」

「デモ」

「大丈夫です。あの時の事はもう反省しているのでしょう?」

「ウン」

「なら、大丈夫です」



 ルナもハーピーも暖かく、微笑み直した。


 こうして。

 私達はまた、仲直りして関係を修復する事が出来た。



「マスター」

「……」

「マスター、こっちを向いて下さい」


 私は強い口調で、マスターを呼びかける。


「何かな?」

「あの時、マスターの事を殴ろうかと思いました」

「殴れないだろう?」

「気持ちの話です。一つだけ聞きます。マスターは、ハーピーの事が大切ですか?」

「それは答えられないな」

「なら。お願い、……いえ約束して下さい。お金が貯まったらハーピーを進化させて下さい。それから名前も与えて上げてください。出来ませんか?」


 マスターは相変わらず無表情だった。

 彼は答えずに、後ろ向いて歩き出す。


「っ、マス──!!」

「……それくらい、約束してあげるよ」


 強く叫ぼうとして、マスターは返答した。


「絶対にですか?」

「……ああ、勿論」


 良かった。



 本当に、良かった。




 


 それから、マスターには気付かれないよう、その事をハーピーに報告する。

 彼女は余計な事を、と言う態度を装いながら、大分照れ臭そうに頬を赤らめて喜んでいた。



 嗚呼。

 もう少しだ。


 彼女が幸せになった時、そうしたらようやく……




──私も幸せになれる













「今日からゴブリンタンクを使わずに戦う」



 最終的に、マスターが下した決断はそれだった。

 従来通りの戦い方で、再び攻略を進める。



 元に戻るだけ。

 私達は、そう思っていた。

 マスターさえも、そう思っていたのだろう。



 現実は甘くなんて無いけれど、希望が見え始めていた。





 でも。






 一度研ぎ忘れた牙は、切れ味を失う。




 そして。

 悲劇はあっさり起こった。



「……イレギュラーです!!」

「くそっ、引くぞ」



 それはイレギュラーとの遭遇だった。

 二十四層に居た私達はボス戦で、昇格迷宮を経験し、Cランクのケルベロスと遭遇した。



「ダメだ。逃げきれない──」



 ケルベロスの攻撃によって、ギガントが腕に大きな負傷を負った。

 それでも尚、逃げる様にして私達は全員走り続けている。



 ケルベロスは速い。

 

 普通に走っても逃げ切れないことは誰にでも理解出来た。



──ダメだ。



 本能的に分かる。

 このパーティーはとっくに崩壊していたんだって。


 

 だって。

 私たちは、また同じ道を辿っているんだから。



「どうする、どうする、どうする──」



 それはマスターの悲痛な叫びだった。

 もうすっかり慣れた、マスターの命令も、指示も飛んで来ない。



 ただ夢中に、背中を無防備に晒しながら走り続けていた。



 息が切れて、脚は全く上手く動いてくれない。

 嗚呼、倒れそうだ。



「オ、レ……ダメ。マス、ター、ズッ…‥ト、アリ、ガ、ト、ウ」

「……ぇ、ギガント?」



 最後尾に居たギガントが走るのをやめて、ケルベロスへと向く。


 そして拳を振っていた。

 私が視界に捉えた彼は、心臓を剥き出しにする様に噛み千切られていた。


 拳を当てることさえ出来ずに光の粒子へと消えたのは、私達が大好きだったギガントだった。



──幻覚ですよね?



 死んだ?

 ギガントがですか?




 優しくて、穏やかで、仲間想いで、時々カッコ良くて、不器用で、話すのが苦手だからゆっくり聴いてあげたくなって、図体に似合わない優しげな声で安心させてくれて、ハーピーと本当に仲が良くて、体重が重いから私達と同じ椅子に座ろうとして尻もちをよくついてしまって、それから……、それから………




「あ…………………あ、あああ、あああああ!!……ギガント……ギガント!!!」



 ハーピーが泣いた。

 私と同じように。現実を受け止め切れずに。


 嗚咽を漏らしながら、涙で滲んだ視界で彼の仇を捉えてた。

 体力を消耗し過ぎた彼女は、羽の重量に引っ張られながら、その足で逃げていたのだ。


 けれど、無駄な足掻きなのは誰の目にも明らかだった。

 ケルベロスはもうそこまで迫っていたのだから。



 彼女もまた逃げるのをやめた。



「死ねえええぇぇぇ!!!」



 彼女の高くて美しい声に似合わない、絶叫だった。



 怒りのまま、ハーピーはケルベロスへ向いて、弓を引き、そして放った。



 矢が飛ぶ。

 彼女自身の羽を乗せた、熟練された矢だった。



 このパーティーの中で、ランクの低い彼女がやっていけるほど才能に満ち溢れた矢だった。



 けれど、矢はケルベロスの皮膚にあっけなく弾かれた。


 

 刺さりさえし無かった。



 ケルベロスが走り続ける。

 ハーピーに迫りながら。



 彼女の顔は絶望に染まって行った。



「ハーピー!!!」



 私は叫んだ。

 この先の未来を誰よりも鮮明に想像してしまったから。



 想像は現実となった。



 涙を滲ませるハーピーは首を噛みちぎられて──虚ろな目のまま、その首が……落ちた。



 ゴロッ。



 肉塊が転がる。

 あまりにも非現実的な光景だった。



 肉と血を口に含んだまま、邪悪な笑みでケルベロスが嗤う。




 死んだ?

 ハーピーも?



 違う。そんなわけ無い。

 無い、ですよね??



 現実を確認するように、私はハーピーの首をもう一度見る。

 幻覚なんだと、願いながら。



 けれど、そこには何も無かった。

 光の粒子に消えた後で、血痕だけが幻覚じゃ無いんだって信号を鮮明にぶち込んでいた。



「ハーピー? 嫌だ。嘘だ。嘘ですよね? だって、ハーピーはいつも笑えるようになって。だから、あれはハーピーじゃ無いんですよね? ハーピーはあんな顔しません。させて良い訳が無いんです。ハーピ──」



──ケルベロスが不敵に笑っていた。



「あ、あああああああ!!!!!!」


 殺さないと。

 殺して、絶対に殺して、殺して……、殺して……。


 殺してから……あ、あ、ああ。



 嗚咽が、思考を阻んで。


 

──気づけば私は、駆け出してた。



 勝てるわけも無いのに、殺意だけに駆られていた。



 悲しみと切なさがポッカリ空けた心の穴は、いつまでも永遠に空き続けるんだと察したからかもしれない。


 

 失う物なんて、何も無いのだ。

 私達は、幸せにはなれないんだから。



 私はケルベロスを引っ掻く。

 三つの頭のうちの一つ、その眼を抉り取る。


 同時に痛みと衝撃が私を襲って、視界が暗転した。


 押し倒されたんだと、一瞬置いて気付く。

 腹をケルベロスの足に貫かれたのか、耐え難い痛みが襲った。


 けれど正気なんて失っていたのか、私は再びケルベロスの喉元を引っ掻きに掛かった。


 爪に分厚く硬い肉を薄く引き裂く感触が通る。


 ああ。

 腹を貫かれてなかったら、この腕に力が入っていたのに。


 内臓が抉り取られて、腸を曝け出してなくて、肝臓がぐしゃぐしゃに潰されてなくて、肺がボロボロになってなくて、そしたら、そしたら……



 そうしたら、お前を殺せていたのに。



 嗚呼。


 死ね。死ね……死ね……死ね!

 死ね死ね、……死んでしまえ!!!


 何度も何度も震える手でケルベロスの喉元を引っ掻く。



──ダメだ。



 お前は、このくらいじゃ死なない。


 


 私の表情は絶望と涙にぐちゃぐちゃになっていた。

 気づかぬうちに意識さえも薄れていく。


「うああああぁ!!!」


 遠くでルナが叫び鳴く声が聞こえた。

 

「行かせなさい! 行かせなさいよ、ねえ!! 命令を、命令を解除しろォ!! ……行かないと! 行かないと、助けないと!」


 ルナ。

 泣かないで。


 泣く貴方なんて似合わないのに。


「……命令だ」

「殺すわよ!!!!!!! ……皆んな、みんな、私が、殺すわ!」

「命令だ……。ルナ、お前が行く事は、許さない……」



 ああ、マスター。

 ……知りませんでした。


 少しは、私たちの事大切に思ってたんですね。


 

 マスターの頬に伝う涙を。

 どんな感情で受け止めれば良いのか、私には分からなかった。



 ……そう言えば私、マスターの名前すら聞いて無かったなぁ。



「……っ、…………ぁ、………ね」



 爪で、ケルベロスの喉元を刺そうとする。

 喉元を引きちぎって、せめてこいつだけでも殺していこうと考えていた。

 けれど、力は入ら無かった。



 弱いですね。

 私は。




 そして。



 力尽きた私は、ルナの金切り声が遠ざかって聞こえなくなるのを感じながら、少しだけ安心してその意識を手放した。







 一人。

 否、一匹の猫の獣人の少女が、小さく鳴きながら命の灯火を消す。












 神様。

 もし、願えるなら。



 次の生は、私を誰よりも幸せにしてくれるマスターの元へ行きたいです。

























***



 どれだけ願っても、どれだけ泣いても。

 生物はあっさりと死ぬ。



 劇的な覚醒で逆転したり出来るのは、ほんの一握りの選ばれし物たちだ。




 故に、この世の多くの生物はモブに過ぎない。





 2042年。

 とある海外の配信者が、革新的な新しい戦術を発案した。


 瞬く間に世界に広がったその方法は二月も経たないうちに、ゴブリンタンクの在庫を世界中から消失させた。



 また、日本に住んでいたとあるマスターは英語が達者だった為、他よりも早くゴブリンタンクの在庫を確保出来た。


 しかし在庫が無くなり、ゴブリンタンクの値が利益を取れない程高騰した為、彼は他の多くのマスターと同様に元の正攻法に戻る事となる。


 が、多くのマスターと同様に正攻法に戻ろうとして、戦術の切替によるミスを起こした。



 多くのモンスターが世界中の探索者らから消え、二ヶ月後に迷宮災害が起こる事を魔道具の預言書により知っていた多くの政府は頭を抱えたと言う。



 のちに、その探索者は語る。


「モンスター達に愛着を持った事に後悔した時期もあったけど、今は全く無いよ。今では全てのモンスターに名付けをして、モンスターとの仲の良さとそれが与えるプラスの影響について研究している団体のリーダーになったしね。何故名付けを、って?これは、一匹、いや、一人名付けられなかったモンスターが居たからかな。その子の名前はミアにしようと思ってたんだ。意味?私の、と言う意味さ。彼女は、私の、私が愛したかった、ただ一人の乙女だった。僕の人生における最大の後悔だね」



 彼はその後、モンスターとの関係が悪いと戦力ダウンを起こすと言う証明を行ったりなど、と活躍する事となった。



 また、この戦術を発案した配信者もある時期を境に失踪することとなる。

 どうやら自らの意思で活動を辞め、密かに暮らしているそうだ。




 しかし彼の戦術は、モンスターの非生命体思想を大きく肥大させる事となる。

 


 そうして、時は2060年。



 現在も多くの探索者が、モンスターは生物では無いと考えている。

 彼ら彼女らは多くの人間にとって、()()であるのだ。

 



 

14,000字?…死ぬぞ作者。


と、すみません。一話にまとめたかったので、区切らずそのままお読み頂きました。


次の話数からは通常通りの文字量に戻ります。ご容赦を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ