買い物
「悪いちょっと遅れた」
「大丈夫大丈夫。これで前回のはチャラって事で。今日は色々教えて貰うからね」
一分ほど遅刻してしまったようで、篠原さんは既に待ち合わせ場所にいた。
彼女はテンションが高いように見える。俺もある程度合わすべきか。テンション高いの本当は苦手なんだけどな。
謝りながら、俺はプランを確認する。
「登録は済んでるんだよな?」
「うん、昨日のうちに」
「まずはショップコーナーに行く感じで良いか? 予算は?」
「大丈夫。三十万くらいだね」
「オッケー、今日は俺に色々任せる感じで良いんだよな? じゃあ取り敢えず安い奴でも良いから武器は一つ買ってわないか?」
「だね」
そう決めて、俺たちは武器コーナーへと向かった。
「流石に丸腰はまずいからな。数万くらいで良質な武器を選ぶべきだと思う」
「そうだよね。どう言うのが良いの?」
「うーん、使いやすさとかコスト面で考えるなら短剣だけど、出来るならやっぱり、リーチの長い武器が個人的に推奨かなぁ」
「なるほどー」
いくつか目をつけながら、彼女は目を少し輝かせていた。
彼女はじっくりとケースに飾られている剣を眺めている。
「ねえ、これとかさカッコいいし値段もお手頃だよね!!」
彼女が指差す剣は中々安い割には性能が高そうだった。
「お、確かに!」
剣は銃刀法違反になるので、勝手に迷宮以外で出してはいけない決まりになっている。
よって、武器の所持には合わせて収納する為のマジックバッグが必要だ。それに盗難予防でもある。
昔は当時高かった収納袋の購入を嫌がり、値段をケチった探索者達は楽器ケースやゴルフバッグに入れていたりもした。それによって普通の一般人さえも不審者扱いされた事があったとか。
今では改善された訳だが、昔の話で良いものは聞かない。
「まあ大事な買い物だし、今焦って選ぶ必要はないかな。良かったら先に別の物を選ぼうか」
色々見て回りながらも、若干決めかねていた彼女に声を掛け、提案する。
「うん」
次のコーナーへと回る。
皮袋、リュック、水筒。
ここは鞄コーナーだ。
「ところで収納袋はどのくらいの大きさが良い?」
「分かんないけど、剣が仕舞えてその他にも食料やら色々入れても大丈夫なくらいには欲しいかなー」
「じゃあ、これなんかどう?四万円で、しっかり袋自体の縮小機能もついてる奴」
「いいね、それ!」
「了解」
俺のマジックバッグは念の為大きさには絶対困らない程度の物を買った。
値段はしたけど。
「んじゃあ、大本命。カードの購入に行こう」
「待ってました!」
俺たちが見て回ると、展示されてるだけでもえげつないほどの数のカードがあった。
「予算を考えても、Fランク辺りが良さそうかな」
Fランクのモンスターであれば五万から十五万円程度で済む。
安い奴だともちろん一万を切るが、そういう奴らは買っても結局戦力として数えられないので、多少値は張っても堅実に良い物を買うべきだ。
まあ俺はギャンブラーだった訳だが。
「買うならやっぱり攻撃役が出来るモンスターの方が良いの?」
「そうだなー、まあ総合的な強さはそんなに変わらないだろうけど、支援役とか防御役を買うと自分で戦うことになるし、使い勝手なら攻撃役がダントツで一番だと思うよ」
「ふーん」
Fランクモンスターが主に置かれている場所を見て回る。
あ、ちなみにこんなガラス張りのケースに入ってて盗まれたりしないのかと思われたりするが、迷宮製の特殊ガラスなのでハンマーで殴ろうが銃で撃ち抜こうとしようが当然無傷だ。
「でもコストパフォーマンスを考えると、おすすめは鎌鼬とか白狼とかホムンクルスとか。そこら辺になるかな」
モンスターが戦う上で一番重要な要素が何かと言えば、扱いやすさと単純な火力の高さだ。
例えばゾンビなんかは怪力だが、命令が理解できない場合が多い。
だが、火力は何よりも大事だ。
一撃で倒せれば危険はないし、何よりも時間をかけて倒すよりも何倍も効率が良い。
という事で俺は火力型のモンスターをいくつか見繕った。
「んー、そうだね。どうしようかな?」
「まあ……直感的になってみるのも良いかも」
篠原さんはゆったりと歩いて、そして止まった。
動かない彼女の、視線の先を捉える。
「ねぇ、……私この子が良い」
彼女はじっとガラスケースの向こうに置かれたカードを見つめている。
『エインセル』
Fランクのモンスター。
妖精族のメイジだ。しかしある能力に特化した魔力型が生まれやすい妖精種に反して、エインセルはこれといった個性が薄い。強いてあげるなら、火が強力な弱点だという事くらいだろうか。
それに腕に醜い火傷を持つ彼女は、あまり多くのマスターに選ばれなかった。
いわば、不人気モンスターの一角である。
個性が薄く、個体によって性能差は大きく変わる上、研究が全く進んでいないモンスターだ。
火力役も支援訳も回復訳もこなせるが、器用貧乏。
正直言って、オススメできない。
「篠原さん、それは……」
言いかけて、やめた。
彼女が食い入るように、強く『惹かれる』ように見入っていたから。
それは少しだけ俺がインプに感じ、向けた物に似ていた気がした。
「──何?」
「……いや、何でもない。それと買うのは良いけど予算の範囲内か?この後武器とポーションなんかも揃えるんだぞ?」
「えっ、あ、……どうしよう」
「篠原さんがどうしても欲しいって言うならポーション代くらいは貸すけど」
「何が目的!?」
「酷くない??」
中級ポーションは最低でも一つ揃えたい。それに武器も数万円はするだろう。
となると、仮にもレアモンスターであり二十一万円するエインセルは予算外だ。
「いや、でも、そんな大金出してまで迷惑はかけたくない、かな……」
そう言う彼女は、未だに諦めきれないような分かりやすい表情を作っていた。
「……ああ、もう。気にするなよ。そんなに大きな額じゃない。この程度貸すから、稼げる様になったら利子一割で返してもらう事にするよ」
「利子はちゃっかり取るんだ……」
いや正直大きな額じゃないとかそんな訳ないだろ(マジレス)。
中級ポーション一つと初級ポーション三つ。計十四万円が大金じゃないとかふざけるなよ俺(自業自得)。
F+ランクモンスターカードがおよそ十四枚分だ。
相変わらず酷すぎる買取価格だが、実際最も安全出来る換金期間だしこの際ギルドに文句は言わない。
だけどこれまで赤字続きで、最近ようやく黒字が出てきた身としては痛い出費だ。
しかしそんなダサい事は悟られたくない。
「で、どうする?」
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします」
「了解。じゃ、ポーションはこっちで俺が信頼してるメーカーから選んでくるから、武器の方を決めておいてくれ」
「う、うん」
俺は安く性能が高く信頼性の高いポーションを選んで、彼女はどこからか安くて良さそうなロングソードを選んで来た。
会計で金を出し合って、ケースから品物を取り出してもらい、商品を受け取った俺たちは店を後にする。
「私自分で決めようとすると悩み過ぎて時間掛かるんだよね。だから結構助かったかな。ありがとう」
「それはどういたしまして。ところで、これからダンジョンに行くって予定になってるけど……どうする? 行く?」
彼女の反応を伺うように、提案する。
「勿論!」
そして、その言葉に安堵した。
「じゃあ、お待ちかねのダンジョンへ行こうか」
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エインセル1 二十一万円
ロングソード 三万三千円
収納袋1 四万二千円
中級ポーション1 八万千円
初級ポーション3 六万六千円




