[15]みんなのナイショ? 〈P〉
ルクはそれから再びあたしの半歩先を歩き、警戒しながら我が家まで送り届けてくれた。
でもそれはこれ以上、あたしに問い掛けられたくなかったからかも知れない。理由はツパおばちゃんの事情を知っている、と言うよりも、それ以上は知らないから、だったようにも思われたけれど。
「リルのことをありがとう、ルク。気を付けて帰るんだよ」
「は、はいっ」
戸口へ出てきたパパにお礼を言われて、ルクははにかみながら返事をした。
パパはそんなルクから視線を上げて、庭の生け垣の向こうをじっと見詰めた。あたしから見えるパパの横顔は、口角を上げて薄っすらと微笑み……何を見たのか、一つゆっくりと頷いていた。
慌ててあたしもその方向へ首を向ける。遠い暗がりに溶け込んでいったのは、アッシュの後ろ姿にも似た薄茶色い後頭部? ──って、まさかね!?
「サンキュー! サー・ルクアルノー!! 明日もヨロシクねー!」
「ラ、ラジャー!!」
あたしはもう一度あのヘンテコな敬礼をして、もう一度生真面目に応えたルクを見送った。駆け出す姿が闇夜に消えた頃、隣のパパがあたしの肩に手を置き、優しくリビングへ連れ立った。
「何処まで行ってきたんだい? 幾ら二人がお供をしてくれても、もう少し早く帰ってこないとママが心配するよ」
「うん……ごめんなさい。西海岸に行っていたの、夕陽を見に。ルクがココアをおごってくれた」
「そう。後でお礼をしないとね」
扉を開いた途端、ピータンが空いている肩に飛んできた。起きる時間が早かったのは、昨夜あたしが遊んであげなかったせいかしら?
「ねぇ、パパ、ママは?」
リビングにはあたし達だけで、隣のダイニングにもキッチンにも、ママの気配は感じなかった。
「湯浴みをしてるよ。今日のランチはご馳走だったから、まだお腹が空かないからって」
「確かに~! あたしもママが出てきたら入ろうかな?」
「どうぞ。その間にパパが軽めの夕食を作っておくから」
「ありがとーパパ」
潮風を浴びた髪は少しベタッとしていた。ワンピースにも海や砂の匂いがついてしまっただろうか? 十五分ほどして出てきたママと入れ替わり、のんびり湯浴みから上がった頃には、ダイニングに美味しそうな香りが漂っていた。
夕食後はリビングに移り、二人が王宮の帰りに買ってきた木苺やナッツを、ピータンに少しずつあげながら三人でお茶を飲んだ。その間にツパおばちゃんの話でも出るかな~と聞き耳を立ててみたのだけど……パパとママは再会した人達の取り留めもない話題を楽しむばかり。ツパおばちゃんはあれから答えを出したんだろうか? あたしから訊いても教えてはくれないかしら??
「ねぇ~パパ? あの……──いったぁっ!!」
意を決して言葉を掛けた途端、指先に鋭い痛みを感じて叫んでしまった! って……ピータン!?
「ルヴィがあんまりもったいぶってるからでしょ? さっきから催促してたわよー?」
ママが救急箱を取りに行って、消毒液を差し出しながらウィンクをした。
「ええ……? ごめーん、ピータン! もうっ、食いしん坊なんだから!」
折角謝ったものの、最後の言葉でまたご機嫌を損ねたらしい……ピータンは大口を開けて、もう一回あたしの指に噛みつこうとした!
「おおっとおぅ……! ハイハイ、ピータン、ご飯でちゅよー」
「そんな言い方して……また噛まれても知らないわよ~」
「エヘヘ……ホントにごめん! ピータン、機嫌直して~!!」
テーブルの上でプンプン怒ったピータンに平謝りをして、あたしは仰々しく木苺を三段積みで差し出した。
……と、ココでタイム・アップだ。まぁピータンもようやく許してくれたみたいだから、これにて退散しよう。
あたしはピータンの小さな小さな頭を撫でて、おもむろに立ち上がり、パパとママにおやすみのキスをした。
「あら、もうおネムなの? ルヴィ」
「うん~今日は朝から宿題どっさり片付けたし、お城で食事会なんて慣れないこともあったしね。おやすみなさい~パパ、ママ、ピータン!」
二人と一匹にそれぞれの挨拶を返されて、あたしは昔パパが使っていた部屋に去った。
ナイショ事を抱えているのは、何を隠そう誰でもないこのあたしなのだ! 今の内に仮眠して、真夜中に起き出さないとね──!!
■第二章■ TO THE PALACE (王宮へ)! ──完──