[14]二人きりの時間? *
島の中心を南北に貫く大通り。もうすっかり暗くなった空の下、お店や街灯の明かりが辺りの空気を華やいで見せる。
「ルク、此処からはリルを送ってくれる?」
「え? う、うんっ」
あれからそれぞれの飲み物で身体の温かみを取り戻したあたし達は、家々から零れる光を頼りにココまで戻ってきた。
明るくなった周りの景色に、この先は「ルク一人で大丈夫」との結論を出したのだろうけど、アッシュが最後まで送らずに、あたしをルクに任せたのは意外だった。
「アッシュ、送ってくれてありがとう。また明日ね」
「どういたしまして。明日こそは宿題を終わらせようね」
「うっ……! ……うん」
お礼の言葉に帰ってきた宣戦布告(?)は、あたしの二の句を途切らせた。まぁでも……お陰で後半はたっぷり遊べることになるのだ。この荒行(?)もアッシュに感謝しなくちゃ、ね……。
シアンお兄様とタラお姉様のお宅に厄介になっているアッシュは、手を振りながら来た道を戻っていった。そこから少し西南へ向かった先に、二人の愛の巣があるからだ。
「じゃあ、我が家までヨロシクー、※サー・ルクアルノ!」(※サー(Sir)は騎士の称号)
「ラ、ラジャー!!」
おどけた敬礼にルクは生真面目な敬礼を返した。周囲を警戒するようにキョロキョロと見回しながら、あたしの半歩先を歩き出す。いや……そんなに心配するような物騒な国でもないけれど?
「でも珍しいよね? アッシュがうちまで送らずに帰っちゃうなんて。何か用でもあったのかなぁ?」
ふと問い掛けた後ろからの声に、ルクはいきなり立ち止まってしまった。並んだ肩に合わせて再び歩き出したけれど、その横顔は俯きしゅんとしている。さっきまでの燃え立つ意欲は何処へやら、水を掛けられちゃった焚き火みたいだ。
「た、多分……アッシュはボクに、き、気を遣ったんだ……ボ、ボ、ボクが飲み物を買いに行ってる間、ル、ルヴィを独占……し、しちゃった、からって……」
「……へ?」
な、な、何言っちゃってるの??
あたしは急に脳ミソの回転が悪くなった気がした。いえ……元々そんなに回転の良い脳ミソではないけれど。うーんと、えーと? それってまるで告白みたいじゃない?? い、いや……あたしの思い上がりな思い込みか!? そ、そうだよね……最後に会ったのは三年も前で、この十四年の人生の中でも、トータルにしたって数十日しか会っていない相手なのだもの!
あたしはまるでルクのどもりが伝染ってしまったみたいに、浮かび上がった言葉の数々が、混乱した脳内をグルグルと駆け巡ってしまった。と、と、とりあえず「好き」だとハッキリ言われた訳じゃないのだ。深く考えるのはやめよ……そう思い直したあたしは、とにかく話題を変えることに頭を使い始めた。
「えー、えっと……あー! ね、ねぇ、ルク!」
「んん?」
隣でトボトボと歩いていたルクの、丸っこい瞳が戸惑うあたしの表情を捉えた。
「ツパおばちゃんが首相になったら嬉しい?」
何となく現れたのは、昼間の出来事の続きだった。
真正面に向き直したルクの横顔が、大切な質問だと言うように一度沈黙を作る。
そしてしばらくルクも考えを巡らせたのだろう、ゆっくりと開いた口元から、
「ボクはおばさんがなってくれたら嬉しい、と思う。自分の伯母さんだからって訳ではなくて……おばさんはそれに見合う人物だと、思うから。でも……」
この時のルクは、不思議とどもらずに答えを返した。それからふいに歩みを止める。二歩ほど進んでしまったあたしの振り返る眼差しに、思いの丈を紡ぎ出したルクの面差しは──
「でも今のおばさんは……ならない方がいいのかも知れない。あんなおばさんは初めて見たから……だからおばさんは、きっとならないと思う」
「──え……?」
そう断言したルクもまた、あの時のツパおばちゃんと同じくらい辛そうに見えた。
何故なの? ツパおばちゃんは何を抱えているの?? 一体どうしてならないというの──!?
※作者談・・・とは言え、夜道に子供?二人では心配なので、アッシュは離れて二人を送っておりましたとさ(笑)。




