[16]真夜中の追跡者?
扉の軋む音が微かに聞こえた。……どうして? 二人が寝入った頃に起き出して、家を抜け出そうと思っていたのはあたしなのに。
あれから五時間ばかり床に就いて──目的があれば、目覚まし時計が鳴らなくても起きられるものね! ──支度を済ませて部屋から出ようとした矢先、両親の寝室から人影が現れたのだ。トイレにでも起きたのかしら? と慌てて自室の扉を閉めたところ、その人物は手前にあるトイレには入らずに、あたしの部屋の前を通り過ぎて、家の裏戸から出ていってしまった。
ドロボウなんかじゃないわよねぇ……?
人気がなくなったことを確認し、あたしも同じ道を辿ってその影を追った。ちょうど目的の方向は同じようだし、このまま後を追いかけて、誰であったのかを確かめよう!
もう辺りの住宅も皆眠りに落ちてしまっているのか、光はぼんやりとした青い街灯のみだ。人影は背が高く、スタスタと歩みも早くて、小走りしなければ追いつけなかった。
で……こんな夜中にあたしが出てきた理由はと言えば……こっそり王宮に忍び込もうとしているから、というのはどうか内緒にしてね! だってどうしてもおばあちゃんとの約束は果たしたいのだ。でも幽霊のおばあちゃんにはきっと夜の間でしか会えないに違いない。だから昼食会の合間にこっそりおばあちゃんの部屋へ赴いて、あたしは一つだけ窓の鍵を開けてきたりもした。野良猫が使っている生け垣の隙間は、今のあたしならまだ通ることが出来る筈だし! 『ジュエル』を保管庫から取り出して瞼の中に挿し込み、これで準備万端!! と思ったのに~まったく……前を歩いていくのは誰なのよ!?
影は曲がり角を左折して、その先の角を今度は右折した。その時街灯の明かりが僅かに捉えたのは──パパの横顔と、肩に乗ったピータンだった!
──パパ……一体何処へ……?
遠目でも暗くても、その口元が引き締められていたのは分かった。いつものニコニコパパじゃない……何だか気持ちの悪い胸騒ぎを感じて駆け出そうとしたところ──
「ルヴィ……なの?」
「え?」
突然後ろから掛けられた声に、立ち止まり振り返る。三歩向こうの暗がりから現れたのは──ガウンを纏ったママだった。
「あなたまで……こんな所で何してるの? 早く帰りなさい」
ママの声は近所を気にして小さく押し殺されていたけれど、その表情はパパと同じで、いつもと違い真顔だった。
「ママこそ……パパこそっ!」
「パパ……? やっぱりパパはこっちへ来たのね!?」
ママもパパがいなくなったことに気付いて……?
嫌だ……嫌な予感がする……お願いだから、あたしを帰さないで!
ママから逃げるように数歩下がったあたしは、後ろの街灯に照らされて、その姿を見たママの顔がハッと驚いた。そうだった……髪色でバレちゃう!
「ちょっと、どうしてジュエルを嵌めてるの! 今すぐ帰って保管庫に戻しなさい。……お願いよ、ルヴィ。嫌な予感がするの。ママがパパを追いかけるから、あなたはお家でじっとしていてちょうだい!」
「ママまで……?」
二人して嫌な予感がするなんて、尋常じゃない……!
その時ママの顔がパッとあたしの後ろの空を見上げ、それはみるみる内に色を変えた。慌てて振り向いたあたしの瞳は、刹那に真っ赤に染められた。
王宮のある方角の夜空が、禍々しい紅の光に包まれている!
「ルヴィ! 急いで戻りなさいっ!!」
「ママっ……!」
ママはそう叫びながら、あたしの横をすり抜けて走り去った。一瞬の内にパパが消えていった角を曲がって、ママの姿も見えなくなってしまった。
嫌だ……パパとママに何か遭ったら……!!
あたしは言われたことを守る気持ちになんてなれなかった。急いで二人の後を追いかけ走る。それがまさか……あんな事態を招くことになるとは思いもよらずに──!!




