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ヴァルの鼓動を感じられなくなる事が少々残念だったが、帝国軍が逃げ去った後、馬車の下から這い出た。帝国軍の後からやってきたリンデン軍と挨拶を交わす。
思いの外、人的被害が少ない。それもやはり、兵士の数が多かったせいだろう。砦の兵士、追加でやってきた第三師団だけではなく、自警団や街の警備隊も最大限砦に駆けつけたおかげだと言える。
自警団の男たちは、
「負けたらどんな目に遭うか、難民見てたからよくわかります。あんな人生を強いられるぐらいなら、ギリギリまで戦って、たとえ死のうとも家族を守った方がマシだと考えました。」
との決意で参加したと言っていた。
砦で、セスや、ネッドと合流する。アプレイウス師の姿を見て、久しぶりと、挨拶を交わしていた。
ヴァルが、
「ずいぶん早くに帝国軍が崩れ去ったな。」
と、言うと、セスとネッドが顔を見合わせる。
「うーん、多分それ、龍が、皇帝たちを踏み潰したおかげだと思う。」
「は?」
「なんか、飛んでく途中で、ぐしゃっと後陣のど真ん中を、踏んでったのよね。うんこ踏んだみたいに。」
「踏んだ?」
「そう。踏んだ足を『げっ』って見て、フリフリして飛び去ったのよ。あれで指揮系統は完全に破壊されたと思ってすぐさま出陣したの。」
その様子を想像して、ヴァルとアプレイウス師が吹き出した。私もニヤニヤする。
「それにしても黒龍をずいぶん引きつけるまで攻撃しなかったんだな。」
ヴァルが尋ねると、ネッドが返事をする。
「もともと遠くから射る矢では傷を与えることもできませんからね。側壁は犠牲にしてもよいので、中庭あたりまで引き込んで、狭いところで攻撃開始の予定でした。そこにテオが犬の姿で戻ってきて・・・」
「狼ですって。」
テオが逃げていた神馬を引きながら戻って来た。
「イザドラは?」
「エヴァと一緒に洞窟を出て、詰所にいる。」
迎えに行きそうな勢いのテオを見て、アプレイウス師が、
「今行くと、すれ違いになるぞ。そのうちエヴァがつれて戻るだろう。心配するな。エヴァが回復しつつあるのは感じられる。」
と止めた。
ネッドが中途半端な話を終わらせる。
「・・・狼の姿で戻ってきて、黒龍と卵の作戦を報告してくれたのです。重要な点は黒龍が魔法陣から解放された瞬間に卵の気配に気が付くということでしたから、なるべく龍への刺激を控え、ギリギリまで待つ予定でした。何はともあれ、殿下、卵とは非常に素晴らしい作戦であること、また、その作戦が無事成功したこと、心よりお喜び申し上げます。」
ネッドに褒められ、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう。皆の協力のおかげだ。」
セスがネッドの言葉を継いだ。
「本当。黒龍も今頃大事に卵を孵しているでしょうよ。四方八方丸く収まる、素晴らしい作戦だわね。」
「え、あの卵は孵らないよ。」
ぶわん、と地面からエヴァとイザドラが浮かび上がった。卵云々は、エヴァのセリフだ。
「イジー!」
テオが駆け寄って、イザドラを抱き寄せた。
「無事かい?大丈夫かい?気分は?」
イザドラが、笑いながら、
「平気。」
と、答える。
「ちょっと、ちょっと待って!」
セスが慌ててエヴァに問う。
「卵が孵化しないって、どう言う事よ?!」
エヴァがため息を吐く。
「いや、あの卵は黒龍の骨で作ったもんだし。中にジェサイアの魂を閉じ込めたから、一応胎動っぽくはなってるけど。本物じゃないよ。」
「「インチキなの?!」」
ネッドとセスが声を上げた。
「そりゃそうさ。命を生み出す魔術なんて使えないよ。まあ、でも、黒龍も4、50年は抱いてるだろうし、当分バレないさ。」
セスがアプレイウス師を見ながら苦情を述べた。
「えええ!40年後に怒り狂った黒龍に国が破壊されないよう、なんか手を考えてよね。」
ブルブルッと肩を震わせながら、ネッドが、
「黒龍の怒りが目に浮かびます。」
と、嘆く。
一難去って、また一難。
久々に、アプレイウス師の、フォッフォッフォ、という笑い声を聞いた。




