21 エピローグ
「お爺さま、いました!ちっちゃい!」
「可愛い!」
「えー、可愛いか?」
「・・・危なくないですか?」
ジェン、オリバー、カーソン、ケリー、ジョーイ。黒龍の様子を頻繁に監視していたテオから連絡をもらい、孫たちを連れて、生まれたばかりの龍を見に来ていた。子供達は火口から覗き込みながら、口々に感想を述べている。
親である黒龍が、私達の気配に気がついて顔を上げて威嚇する。
グルルルル。
子供達が揃ってのけぞった。
「お爺さま、お母さん龍怒ってませんか?」
お母さんだっけ?お父さんだったような気もするが。
「子供が産まれたばかりだからね。ガルガル期なのかもしれないね。だけど、大丈夫。あの龍たちは私達を襲わないよ。」
「どうして?」
“どうして”期のジェンが質問してくる。
「どうしてもさ。」
確信がある。あの卵が孵化するために、アプレイウス師とエヴァンジェリンが払った犠牲を考えたのだ。二人とも、「時が満ちた」と、微笑みながら旅立っていった。最初はアプレイウス師が洞窟へ消えた。そして数年後にエヴァが。二人の魔力がどのように卵に影響したのか、しょぼい魔法使いの私には、想像もつかない。だが、彼らの力が、そしてジェサイアの家族の魂が、この新しい龍の誕生につながっているのは間違いなかった。
「この龍が成長するのには、長い年月が必要になる。ひょっとしたら一人ぼっちになってしまうかもしれない。この子が孤独にならないよう、お前たちが心をつないでくれ。」
「どうして?」
一番年上で、もうすぐリンデンの師団に入隊する予定のオリバーが、ジェンの「どうして」にため息をついた。
「ジェン、孤独な黒龍がどれだけ危険な存在か、クリストフ大叔父さんの『リンデン戦記』を読めば一目瞭然だよ。」
「まだ読めないもん。」
ジェンが文句を言う。
クリストフの戦記からは巧妙に私達の“インチキ”が抜け落ちているけれど。
腹這いになったまま、しばらく子龍を眺めていたケリーが起き上がる。
「リオンおじいさま、街に戻る前に、テオおじさんのところで馬に乗っていい?」
テオとイザドラは、この山の麓で、神馬を繁殖させ、軍馬としてリンデンと周辺国に輸出している。どうやったのかは知らないが、あの馬達を雌馬相手にその気にさせたのは、テオの力だ。
イザドラは、元帝国、現在のバードック共和国に、戦傷兵と孤児のための施設をそこらかしこに作り終えると、さっさとテオとこの田舎に引っ込んでしまったのだ。時々子供や孫に現れる、先祖返りの秘密が漏れないように、と言っていたが、アプレイウス師とエヴァの事を弔い、龍の様子を観察する意味もあったのではないかと思っている。
「ああ、いいね。寄って行こう。」
子供達は皆立ち上がり、競うように山を降り始める。足元が危ういジェンは、オリバーがおんぶして。
「皆、わかっているね。龍の居場所については絶対に秘密だよ。」
私が念押しする。
ジェンが口を開く前に、他の子供達が、
「「はーい!」」
と返事をした。
「悪い奴らに捕まったら大変だもんね。」
「操られるかもしれないもんね。」
「どうして」が始まる前に、カーソンとケリーが釘をさした。
ジェンが、頬を膨らませる。
「龍が変になったら、ヴァルお婆さまがやっつけてくれるから大丈夫よね?ヴァルお婆さまは勇者なんだから。」
オリバーが背中のジェンに向かって言う。
「お婆さまがいつも言ってるだろう?無駄に血を流すのは勇者のやる事じゃないって。戦うことを避ける最大の努力をして、なおかつ勇者と呼ばれることこそ価値があるって。龍と戦わないようにするんだよ。たとえ勝てる力があってもね。」
帝国が崩壊した後、傷だらけの人民と土地を、女将軍として私と共に復興してきたヴァル。リンデンの師団をネッドが、共和国軍をヴァルが治めて、双頭のストラウスと呼ばれていた。ネッドが亡くなるまでは。
ネッドを弔うと、セスはふらっといなくなった。どこかを自由に旅していると信じているが。
「あ、お婆さまだ!」
先頭を歩いていたカーソンが声を上げた。矢のように背をまっすぐに伸ばし、騎乗している姿が目に映る。
「迎えに来たぞ。」
そう言いながらヴァルが馬を降りる。
私は子供達よりも先にヴァルに駆け寄り、両手を伸ばした。微笑んでいる唇にそのままキスをする。
「「「うへぇ。」」」
子供達のうんざりした声がするが、気にもとめてやらない。
ヴァルお婆さまは、私の勇者、そして私の唯一無二だからね。




