13
ジェサイアの言葉はそれっきり途絶えてしまった。刻々と魔力を削りながら、死ぬのを待っているようだ。
「・・・同じ方法でもう一頭の龍は殺せませんね。そうだとしたら、魔法陣が解けた瞬間に、リンデン国ではなく、帝国に龍が牙を向くようにはできませんか?」
私は誰ともなく提案した。
ヴァルが、
「先ほどジェサイアの家族の遺体があった場所に、黒龍の骨がありました。それを帝国軍の中に投げ込むというのは?龍を惹きつけることはできませんか?」
勢い混んで尋ねているが、エヴァの反応は薄い。
「骨じゃ無理だろうさ。そんなに大事なものでもないだろ。それなら、お兄さん、あんたが黒龍に化けるってのは?」
エヴァの視線の先にテオがいた。
「え、俺ですか?そんなでかい物に化けたら、3秒と持たないっすね。いや、1秒ぐらいかな。エヴァさんが化けた方がいいんじゃないっすか?地龍になったの覚えてますよ。」
「やなこった。」
エヴァがあっさり断った。
「あたしゃダーリンが正気に戻ってくれればいいんだ。ダーリンと一緒に余生を楽しく送れれば後はどうでもいい。アンタ達の国がどうなろうとね。我儘と言われようと知ったこっちゃないね。」
鼻息荒く宣言するエヴァに、皆の顔に驚きが走った。
「「え?」」
私が代表して返事をした。
「あの、それって我儘でしょうか?私達は、皆それぞれ自分のやりたいこと、目的に向かって突き進んでいるので、特にそれが問題だとは・・・思ってないのですが。いけませんか?」
エヴァの目が少々大きくなった。
「私はそれを、ひたむきと呼んでいるのですが。ひたむきに何かを求めることは我儘とは思いません。」
エヴァ以外がうんうん頷いている。
「俺はイザドラと一緒にいられればいいし。」
テオが照れながら宣言した。
「あんま、考えてることはエヴァさんと違わないよ。」
まあそうだ、アプレイウス師がイザドラにすり替わっただけだ。
「ええ、私はそれだけじゃやよ。戦傷者を助けて神殿での地位を上げて、その途中で、何人か腐った枢機卿を潰して、十人ぐらい子供を産んで、そのうちの何人かはシェイプ・シフターになって、家族を増やすの。」
イザドラの目標にはいくらか人為的にはどうしようもないことが含まれているような気がする。
エヴァの目が一層大きくなった。
「私は殿下に仕え、殿下の盾となって生涯戦うことを望んでいます。そして国軍のなかでの女性兵士の地位を確立し、そこから女性の仕事と生活が広がっていくことを。」
ヴァルの望みはよくわかっている。仲間の追い求めるものはお互いに理解しているのだ。セスは自分の生き方を貫き、戦士であることも辞めない。ベネディクトは体が不自由であろうともストラウスの当主として、リンデンの軍師となることを諦めない。フェリシティはストラウス家を引き続き軍部の中枢として栄えさせ、次代を担うストラウスを求めつつ、自分は決してクリストフをあきらめない。たとえクリストフが軍人の家に相応しくない、文官君であっても。ストラウスは強欲なのだ。
エヴァが肩を落とした。
「なんか、あたしの考えが小ちゃく見えるじゃないか。理不尽だね。」
そう言いながら、エヴァの視線が私に来た。
「私が成し遂げたいのは、ヴァルの横に並び立つに相応しい男になることです。ヴァルがやりたいことを受け止め、ヴァルが自分を丸ごと委ねるにふさわしい力をつけることです。」
私の告白を聞いて皆の視線がヴァルに集まる。ヴァルが頭のてっぺんからつま先まで真っ赤になっているのを見て、ちょっとすっとした。日頃私の思いを無視している罰だよ。
エヴァがため息を吐く。
「胸焼けがするようなセリフはいいから、もっと画期的な戦略を出しておくれでないか?」
皆が慌てて再考を始めた。




