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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
殿下編
78/91

8

一昼夜走り抜いて、詰所に到着したのは、明け方だった。神馬というだけあって、夜目も効き、休む必要もなかったのが幸いした。


イザドラは、詰所の軒下にある椅子に座って待っている。


馬から一番最初に飛び降りたのはテオで、


「ドラ、大丈夫かい?」


と、手を伸ばしながら駆け寄った。


テオの馬も引き受けて、詰所の裏に連れて行こうとすると、ヴァルが私のことを見つめていることに気がついた。


「何?」


と、問いかけると、ヴァルの顔が綻んだ。


「いや、かつてこの馬に、殿下を抱いて乗っていたことを、ちょっと思い出しました。」


ああ、そんなこともあったっけ。


「ヴァルの腕の中に収まらなくなったのは、嬉しくもあり、残念でもあるね。」


そう言うと、ヴァルの顔が少し赤らんだ。


テオとイザドラの元に戻り、


「朝は冷えるだろうに。体に良くないだろうから、詰所の中で待っていればよかったのに。」


と、イザドラに声をかける。返事の前にイザドラは、顔を顰める。


「詰所の中はねぇ。エヴァが張り切っちゃって・・・胎教に悪いから、私は早々に出ちゃったの。」


どう言うことだ?とテオに視線を投げかけると、テオが、口をへの字にした。


「いや、この詰所、帝国軍の奴らが陣取ってたらしいっす。三人いたらしいんですけど、エヴァが奴らをとっ捕まえて、何が起きてるか吐かせるために・・・ええと、拷問したらしいっすよ。」


仕方がないか。


「吐いたのか?」


ヴァルが聞くと、


「知ってることは全て。隠しことができたとは思えないわ。三人とも、エヴァが納得したら、あっさり・・・」


イザドラが答えながら、親指で、喉元を掻っ切る仕草を見せた。


ヴァルが詰所の中の様子を確認に行った。


「エヴァは?」


私が聞くと、イザドラが、


「残りの兵達がいるらしい場所を確認しに行ってる。どうやら山腹の黒龍を殺した洞窟あたりにいるらしいのよね。」


と、答える。


ヴァルが戻ってきて、首を振る。


「ずいぶん暴れたな。」


ため息と共に嘆く言葉で、なんとなくエヴァのやったことが想像出来た。


「で、彼らが吐いたことで分かったことは?」


「二頭いた黒龍のうち、一頭を誘き出して、その隙に魔術師が洞窟の一頭を殺害したってことらしい。魔術師はそのまま洞窟で残る一頭を操ってるって。エヴァの予測どおり、番を殺されて、残りは狂ったらしい。」


狂気につけ込んで操っているわけか。では、魔術師にいる、その洞窟に行く必要があるな。エヴァはだから確認に行ったわけか。


イザドラがためらいがちに続ける。


「誘き出した時にね、かなりの兵士が犠牲になったみたいね。例によって、数名を除いて徴兵された平民ばかり。この詰所にいたのもそうだったわ。」


ずっと元兵士達の精神面の治療を続けてきたイザドラにはなかなか受け入れ難いことではあろうけれど、今は帝国の兵士に同情している時ではない。


私の眉間に皺が寄ったのを見て、イザドラが言葉を続けた。


「いや、別に帝国の兵士を屠るのを問題視しているわけじゃないわよ。彼らを止めなければ、明日は我が身。やるときゃやるわよ。ただ、こんな有象無象の兵士で、黒龍をやれるとは思えないから、やっぱりよっぽど魔術師が優れてるのよね?で、その魔術師を殺すか、倒すかして、黒龍のコントロールを止めると。エヴァが魔女として相当優れているのはわかってるけど、それでも黒龍を倒した魔術師とやりあえるのかしら。」


もう一つの問題は、魔術師を倒したとして、それで黒龍を引かせることができるのか、だ。


「情報が足りないから、兵士たちをなるべく殺さないようにエヴァに頼んどいた。2部隊八百人いた兵士が、黒龍の誘き出しやらなにやらで、今じゃ20人ぐらいしかいないと言ってたけど。あ、20人マイナス3人か。」


「いやさらに減って10人だね。」


振り返ると、エヴァが戻っていた。


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