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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
愛の狩人編
69/91

21

ミュリエルの腕と足首を縛っている縄を切る。自由になった遺体を両手で抱えながら部屋を出た。


入り口付近では残りの男たちが捕縛されており、男娼たちが固まって、その様子を遠巻きに見ている。


中年捜査員がこちらに来て、力なく垂れ下がったミュリエルの腕を取る。


「・・・間に合わなかったか。」


私は小さく頷いた。


「遺体を母親の元に連れ帰っていいかしら。ここにおいておくのは忍びないわ。」


しばらく考えていたが、漸く首を縦に振ってくれた。


「ああ、待っているだろう。・・・書類上必要なんだが、貴方とその・・ミュリエル・イエーツの関係は?」


そうねぇ。なんだったんだろう。


「恋のライバルよ。完敗したけどね。」


敵わなかった。今私の目に浮かぶモーガンは、ミュリエルの横に、内気な微笑みを浮かべながら立っている姿だけだ。ミュリエルなしのモーガンはもう思い出せない。


首を傾げる捜査員に、顎をしゃくって、男娼の一人を指し示した。


「それと、あいつは逮捕しといて。モーガンとミュリエルの殺害に関与してるはずだから。」


青白い顔で、ミュリエルの遺体を眺めていた男が、声もなく、いきなり裏口の方向に走りだす。


その扉は開きません。


慌てて追いかけた捜査員が、戸口を押しながら暴れる男を後ろ手に縛り上げる。捜査員にのし掛かられ、頭を床に押し付けられた男が叫ぶ。


「俺が何したっていうんだ!やめろ!俺は何も知らない!」


ミュリエルの遺体を抱えたまま、私は男に近づいた。


「ちょっと調べりゃ、あんたがモーガンと懇ろになってたことはすぐわかるでしょうよ。誰が首謀者か知らないけど、あいつらだって馬鹿じゃない。」


転がされている用心棒たちにむかって顎をしゃくった。


「誰が計画立てて、誰がモーガンを殺害して、誰がミュリエルを誘拐したかなんて、すぐゲロるわよ。むしろ自分の罪を軽くするために、あんたに全てを押し付けることぐらい簡単にしかねないわね。」


「俺は誰も殺してない!モーガンは・・・モーガンと一緒になるはずだったんだ。身受けしてくれるって・・・もう若くないから、続けられない。こんな生活から抜け出そうって・・・俺のせいじゃない!」


モーガン、愚かなモーガン。何を夢見てたんだろう。与えられる愛に満足出来ないモーガン。手に入らないものしか見えなかったのだろうか。


ミュリエルの穏やかな顔を見つめる。


「助けて、助けてください。一夜の情けを交わした仲でしょう?」


男は今度は私を縋るように見つめる。情けね・・・あれはセックスというのよ、お馬鹿さんね。


「まあ、心象をよくして、罪を軽くしたいんだったら、事の成り行きを全て警備隊に白状することね。他の奴らに先を越される前に。」


私はミュリエルと一緒に馬車に向かった。


入り口で、老婆を従えたテオにかち合った。腕の中のミュリエルを見て、私に問いかけるような視線を投げてくる。


私は黙って、首を降った。


諦めきれないテオが老婆の方を見やる。


「やめとくれよ、あたしは医者じゃない、産婆だっていったろう!」


裏の小路で心配気にうろうろしていた文官くんを拾い、朝焼けが始まるころ、ミュリエルと四人で家路についた。


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