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ミュリエルの腕と足首を縛っている縄を切る。自由になった遺体を両手で抱えながら部屋を出た。
入り口付近では残りの男たちが捕縛されており、男娼たちが固まって、その様子を遠巻きに見ている。
中年捜査員がこちらに来て、力なく垂れ下がったミュリエルの腕を取る。
「・・・間に合わなかったか。」
私は小さく頷いた。
「遺体を母親の元に連れ帰っていいかしら。ここにおいておくのは忍びないわ。」
しばらく考えていたが、漸く首を縦に振ってくれた。
「ああ、待っているだろう。・・・書類上必要なんだが、貴方とその・・ミュリエル・イエーツの関係は?」
そうねぇ。なんだったんだろう。
「恋のライバルよ。完敗したけどね。」
敵わなかった。今私の目に浮かぶモーガンは、ミュリエルの横に、内気な微笑みを浮かべながら立っている姿だけだ。ミュリエルなしのモーガンはもう思い出せない。
首を傾げる捜査員に、顎をしゃくって、男娼の一人を指し示した。
「それと、あいつは逮捕しといて。モーガンとミュリエルの殺害に関与してるはずだから。」
青白い顔で、ミュリエルの遺体を眺めていた男が、声もなく、いきなり裏口の方向に走りだす。
その扉は開きません。
慌てて追いかけた捜査員が、戸口を押しながら暴れる男を後ろ手に縛り上げる。捜査員にのし掛かられ、頭を床に押し付けられた男が叫ぶ。
「俺が何したっていうんだ!やめろ!俺は何も知らない!」
ミュリエルの遺体を抱えたまま、私は男に近づいた。
「ちょっと調べりゃ、あんたがモーガンと懇ろになってたことはすぐわかるでしょうよ。誰が首謀者か知らないけど、あいつらだって馬鹿じゃない。」
転がされている用心棒たちにむかって顎をしゃくった。
「誰が計画立てて、誰がモーガンを殺害して、誰がミュリエルを誘拐したかなんて、すぐゲロるわよ。むしろ自分の罪を軽くするために、あんたに全てを押し付けることぐらい簡単にしかねないわね。」
「俺は誰も殺してない!モーガンは・・・モーガンと一緒になるはずだったんだ。身受けしてくれるって・・・もう若くないから、続けられない。こんな生活から抜け出そうって・・・俺のせいじゃない!」
モーガン、愚かなモーガン。何を夢見てたんだろう。与えられる愛に満足出来ないモーガン。手に入らないものしか見えなかったのだろうか。
ミュリエルの穏やかな顔を見つめる。
「助けて、助けてください。一夜の情けを交わした仲でしょう?」
男は今度は私を縋るように見つめる。情けね・・・あれはセックスというのよ、お馬鹿さんね。
「まあ、心象をよくして、罪を軽くしたいんだったら、事の成り行きを全て警備隊に白状することね。他の奴らに先を越される前に。」
私はミュリエルと一緒に馬車に向かった。
入り口で、老婆を従えたテオにかち合った。腕の中のミュリエルを見て、私に問いかけるような視線を投げてくる。
私は黙って、首を降った。
諦めきれないテオが老婆の方を見やる。
「やめとくれよ、あたしは医者じゃない、産婆だっていったろう!」
裏の小路で心配気にうろうろしていた文官くんを拾い、朝焼けが始まるころ、ミュリエルと四人で家路についた。




