22 エピローグ
空がすっかり明るくなった頃戻った我が家は・・・人で溢れていた。
ネッドを始めとするストラウス家の使用人たちが、ことの成り行きを知るために、我が家を訪れていたから。
遺体に対面したイエーツ夫人は、ミュリエルの顔を、何度も何度も撫でていた。その姿を、ミーガンが侍女の腕の中から、不思議そうに見ている。
ミュリエルの遺体を、私の寝室に寝かすと、夫人とミーガンも部屋に入り、しばらく三人きりになる。
居間には使用人も含めて皆が集まっていた。
ほとんどの人が、一晩中夫人の話を聞いていたらしい。私が説明しなくてはならなかったのは、間に合わなかった、ということだけだった。一目瞭然だったけれど、言わずにはいられなかった。
テオがいなかったから、ろくすっぽ寝ていないだろうイザドラが、
「神殿関連の施設で、葬儀をしてもらうように手配するわ。」
と、低い声で言う。次の瞬間には、テオと連れ立って出ていった。
「夫人が落ち着いたら、ミュリエルさんの体を清めて、新しい服に着替えさせてあげないと。化粧もだね。」
ネッドが、侍女の方を見ながら言うと、侍女が、
「承りました。」
と、いって家令とともに部屋を出ていこうとする。この二人は昨夜、ネッドを連れてきて、そのまま我が家にいたらしい。侍女の後ろ姿に、ネッドが再び声をかけた。
「ミュリエルさんから脱がしたドレスは取っておいてくれる?」
侍女が頷いた。
私が、誰ともなく
「モーガンの遺体はどこに埋葬されたの?」
と、聞くと、妹ちゃんが、
「バスケス家の墓所。土葬されただけで、墓石もないらしい。」
と、答えた。
「一緒にできる?」
と、聞くと、頷いて、文官くんと一緒に出て行った。バスケスとの交渉、貴族院の諸々の手続きはあの二人に任せておけば大丈夫。
いつの間にか、私とネッドだけが残された。
「何企んでるの?」
と、聞くと、ネッドが顔を綻ばせた。
「人聞きの悪い。ちょっと戦略を立てているだけですよ。夫人は、イエーツ家を出るそうです。身一つでもいいとおっしゃっていましたが、そんなことはさせません。いただくべきものはいただきましょう。」
ネッドがちょっと首を傾げて、私を見る。
「セス、貴方は?大丈夫ですか?少しは吹っ切れましたか?」
「モーガンのこと?言ったでしょ。私は人のものには手を出さないの。」
私はネッドを抱え上げる。ネッドが右手を私の首に回してきた。
「北の砦に戻るまで、色々やることがあるわね。そのうちの一つは貴方にもう少し肉を付けることよ。今の時間なら、街の食堂で朝食が食べられる。」
ネッドが嬉しそうに笑った。
「いいですね。私も外で食事をしてみたいんです。みっともなくてもね。」
「顔についたお弁当のこと?心配しなくても私が食べてあげるわよ。」
そう言いながら、ネッドの体をちょっと振り回した。首の周りの右手にちょっと力が加わる。
その心地よい緊張を感じながら、貴方が感じたことのない喜びを、これからどんどん体験させてあげるからね、覚悟しなさいよ、とつぶやいた。
+
イエーツ伯爵家に夜な夜な出没するミュリエル(テオ:女装に文句が止まらなかった)の亡霊の噂は、王都をあっという間に駆け巡った。
「暗闇に浮かんだミュリエル様が・・・ミュリエル様の顔がぼんやりと光の中から浮かび上がって(殿下:面白がって下から光を当てた)・・・それは恐ろしい呪いの言葉を吐かれて(誰よ?)・・・」
それは、心痛のあまり、イエーツ家を出ていく奥方に手厚い慰謝料を支払うまで続いたという。




