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勇者様と言うなかれ  作者: 大島周防
聖女様編
46/91

25

頭が痛い。脳の形が頭蓋骨の中でわかるような鈍い痛みだ。頭を振ると、痛みがあることがはっきりする。痛みをもっと感じたくて、さらに頭を振る。よし、痛いぞ。


ぼんやり頭を揺らしているとノックの音がした。


だけど返事はしてやらない。


「入るわよ。」


容赦ない声がした。セスだ。


「入るな。」


言葉にしたけれど、声は小さかったのかもしれない。ドアが勝手に開いた。


これだからドアに鍵を付けてとお願いしたのに。ヴァルに拒否されてしまった。私が中で何をやらかすか心配だったんだろう。


「侵入者が気になるなら、ドアの外で見張っているから。」


と、主張していた。今もテオとヴァルが変わるがわる歩哨に立っているのには気がついていた。歩哨の役にセスが加わったのだろうか。


セスが開いたドアから頭だけ突っ込んできた。部屋に入るつもりはないらしい。ドアとセスの隙間から、灰色の犬が入ってくる。


「犬?」


目に映っているものがあまりに突飛で、思わず声が出た。


「狼なんだって。犬じゃないらしい。」


セスが答える。ということは、現実か。


「じゃあね。」


といって、セスがドアを閉めて引っ込んだ。


犬、もとい、狼がトコトコこちらに向かって歩いてくる。変だ。


「いや、歩き方が狼じゃないわ。普通狼って頭下げて歩かない?なんで、頭上がってるのよ。」


独り言のつもりだったが、狼には聞こえたらしい。いきなり頭が下がった。


ということは、こいつはテオだ。インチキ狼め。


目で姿を追っていると、そのままテオ狼は、部屋の隅の毛布の上に座り込んだ。


ヴァルに、襲われたことを思い出すからベッドが嫌だと訴えたら、ベッドを運び出して、軍の演習用の毛布を持ってきてくれた。皆で西の森へ移動していた時にも使っていたものだ。


あの時のことを思い出しながら、何度か毛布にくるまったけれど、私の目が閉じることはなかった。このイライラするような、ドキドキするような感情はどこにもいかない。私の中にずっと居座っている。


誰かの手を見るとその感情の揺れが激しくなる。息が短くなり、立っていられなくなる。


とはいえ、テオ狼には手はない。そのせいだろうか。今のところ息が出来るぞ。私は試しにテオに近づいてみる。


一歩、一歩、一歩。


ついに、テオ狼の隣に立つ。


大丈夫だ。ふむ。


頭を上げて、私を見ていたテオ狼が、座って伸ばしていた前足の上に、そろりと頭を落とす。


なでろって意味かな?


私は隣に座って狼の頭を撫でた。結構手触りいいじゃん。狼ってみんなそうなのか?いや、テオの解釈は結構いい加減だから、正確じゃないかも。


耳の後ろをさすってみる。耳がぴこぴこ動いた。


ドキドキしない。息も普通だ。私はかがみ込んだ体制から、足を伸ばして、毛布の上にべったり座ってみる。


狼は目を瞑っている。私が手を離すと、片目を開けて、こっちを見た。撫で続けろってことか。


私って、触られるのはいやだが、触るのは大丈夫なんだ。ふむ。


さわ、さわ、さわ。


どのくらいそうしていたのだろう。いつの間にか私は眠りに落ちていた。



夜中に一度、イビキの音で目が覚めた。


事件以来、欠かしたことのないランプの灯りのおかげで、隣にいるのが人間のテオだということに気がついた。


しかも全身ヌードのテオだった。


どうやら私と同様に、眠りこけて、元に戻ってしまったらしい。なんか色々考えなきゃいけないんだろうけど、そのまま眠さに負けて目を瞑ってしまった。一度寝始めると起きていられない。


ぐう。


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