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王国立シャラマイユ学院。国の未来を担う貴族の子息子女たちの為に建てられたこの学院には、貴賎問わず国中から入学志願者が集まる。
入学方法は二種類。貴族という身分を利用して入学試験を免除されるか、厳しい入学試験に合格するかだ。
平民からも学生を募集しているシャラマイユ学院だが、その学費は驚くべきほど高い。一般の商人程度では到底払えるものではなかった。
結果、集まる子供たちは貴族と、それの同等かそれ以上の資産を保有する大富豪の家の子供たちになる。当然、貧乏貴族と呼ばれる人々は学費を払うことができず、王国に支援してもらうことになる。
何が言いたいのかというと、ごく普通の平民が入学するのは授業料が全額免除される特待生になるほかなく、至難の業という陳腐な言葉で片づけてよいほど簡単ではないということだ。
「そんな中入学できちゃった僕ってすごくありません?」
「まあ、素晴らしいですわね。今度わたくしにもお勉強を教えていただけますか?」
真新しい制服に身を包み、期待に胸を膨らませて頬を上気させた新入生の列の中に、リーゼロッテはいた。
学院の入学式が終わり、新入生たちはクラスごとに教室に誘導される。入学式が行われていた講堂から出ると、上級生たちが花道を作って列になった新入生を歓迎してくれるが、ヤバいやつであるリーゼロッテにかかる声は少ない。
広い学院の敷地内を移動するにはそれなりの時間がかかるようで、暇を持て余したリーゼロッテは隣を歩くテディとおしゃべりしていた。驚くことに、テディはテオドールの従者としてアレクサンド家の力を借りて入学するのではなく、特待生となりテディ個人として入学したのだ。高位貴族の二人と対等な友人でいたがるテディらしい。
先の事件は学院内にももちろん伝わっており、別の意味で一躍時の人になったリーゼロッテには、多くの好奇の視線が注がれている。そんな中でいつものように話せるようなリーゼロッテではない。猫かぶり癖は上段回し蹴りを披露した後も健在だった。
テオドールは、二人のはるか後方で誰かに捕まっていた。リーゼロッテとは反対に、最近急に人気者になってからというもの知らない人に話しかけられることが増えたらしい。もともと人見知りで壁の草をしていたテオドールにはただの苦行でしかないだろうな、とリーゼロッテは同情した。
「__連絡事項は以上です。本日はお疲れ様でした。慣れない環境で疲れがたまっていると思います。寮でゆっくり休んでください。解散」
初めてのホームルームが終わり、教室内が喧騒に包まれる。教室の中では早くもグループができつつあった。
そんな中、リーゼロッテはまたもやテディとつるんでいた。テオドールは同じクラスのご令嬢数人に話しかけられてたじたじである。アイコンタクトという名の救難信号を受信しているが、以前の恨みをここで晴らさずしていつ晴らすというのか。
「では、行きましょうか、テディ様」
雨に濡れそぼった子犬のような視線を送ってくるテオドールを無視して、寮に向かうことにした。
「あ、え、ええ、そうですね」
話すたびに微妙な顔をするのはやめてほしい。
学院に通っている間、学生たちはみな二人一部屋の寮で生活する。基本的に外出は自由だが、門限には厳しい。
女子寮に向かうリーゼロッテは、途中でテディと別れた。女子寮と男子寮はすぐ近くにあるが、寮内に異性を連れ込むことはご法度である。テオドールやテディと話すためには寮に隣接している共同の食堂やそこら中に点在しているカフェテリアなどを利用しなければならない。
そんな人目に付くところで話す気など、リーゼロッテにはさらさらないが。
女子寮に着くと、玄関先にある窓口で帰寮の申し出をする。窓口にいる女性に部屋番号と名前を伝えると、優しい笑顔で『おかえりなさい』と迎えてくれた。
「ルームメイトが他の方になっていますので、後でご挨拶なさってくださいね」
「そうですか。ご丁寧にありがとうございますわ」
しっかりと管理されているようだが、学生間の部屋交換は自由だ。窓口に申請をすれば、いつでも交換することができる。
入学式前に荷物を部屋に運び入れた際にルームメイトの男爵令嬢と顔を合わせたが、明らかにリーズロッテと同室なことを嫌がっていた。替わってくれる人を探すのはさぞ苦労しただろうと申し訳ない気持ちになる。
リーゼロッテの部屋は二階の最奥にある。六階建ての建物の二階であることを幸運に思えばいいのか、全女子生徒を収容する巨大な建物の長い廊下を端まで歩かなければいけないことを不運に思えばいいのか。
やっとの思いでたどり着いた部屋の扉の前に立つと、中から人の気配がした。どうやら、ヤバいやつと同室になるという貧乏くじを引いたご令嬢がすでに帰ってきているらしい。
はてさて、どんな子だろうか。
ノックの返事を聞いてから、扉を開ける。
そこにいたのは、豊かな赤い髪を背中に垂らし、気の強そうなつり目をした少女だった。背が高く、すらりとしたシルエットをしている。王都の劇団で花形女優をやっているといわれても納得してしまうような美貌の持ち主だ。
「はじめまして! トイドール伯爵家から参りました、アリス・トイドールといいます。リーゼロッテ様ですよね? お噂はかねがね。お会いしたいと思っていました!」
薔薇色の唇から飛び出した言葉に、リーゼロッテは言葉を失った。
噂を具体的に教えてほしいとか、なんで私はこんな美人な伯爵令嬢を知らなかったのかしらとか、思うところは多々あるけれど。
__トイドールって、テオが話してた……!
目の前に立つ少女は、どうやら物語の主人公らしい。
かくして、悪役令嬢はヒロインと出会うのであった。




