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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第十章:守る為に、壊す ~リリ編~
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第二話

───8月6日11時頃、北部区域ニビヤシアック、亜細亜中心にて。


「…ああそうだ。作戦は失敗…そちらも上手くいくとは考えていなかっただろ?…心配するな、まだ手は残っている。それでは」


清さんは不満そうに受話器を置いて、こちらを睨む。あー、こりゃ相当キテるわ。


「リリ…お前は昨日の夜何をしていた?」

「んなもん決まってんじゃん、お仕事だよお仕事」

「…お前の仕事はシトレン・ルドマン暗殺部隊の作戦指揮だったはずだ。誰がジョングオ派構成員を殺害しろと言った?」


チッ、何でばれてんだよ。


「そんな証拠どこにあんだよ、ふざけんじゃねぇ」

「郊外で発見された死体の中に、まるで砲弾で体を引き裂かれたような者が混じっていた。しかもシトレンのいた場所からとても離れた地点でだ」

「だからってウチのシモノフちゃんを疑うのかよ?あーやってらんねー、冤罪だ冤罪!」


ウチがぶーぶー文句を垂れてやると、とうとう清さんの怒りが爆発し無言で机を思いっきり殴った。

え、何マジギレしてんの?


「…リリ、お前の気持ちも分かる。だが今は俺の指示に従ってくれ」


…んな事言われても、ウチの考えが揺らぐわけないの分かってるはずなのに。


「…ぜってー嫌だ。誰がジョングオ派の言いなりなんかに…」


ロイド・ルドマン襲撃から始まったジョングオ派による一連の事件。それを裏でサポートしていたのは他でもない、清龍党だ。

ウチはジョングオ派に尻尾を振るマネは絶対にしたくない。ウチの家族を、ウチの全てを壊し尽くしたアイツ等に従うなんてマッピラごめんだ。

だが、清さんは違う。ジョングオ派を利用して七大ファミリーの勢力縮小を試みようとしている。清龍党の敵である連中に媚を売ってまで。

何でこの人はそんな事が出来るんだろうと疑問に思っていたが、次の言葉でウチは事態を把握してしまう。


「…ジョングオ派主導じゃないんだ、この作戦は。本家の申し付けだ」


本家…?ウソだろ?何で本家がジョングオ派と組んでるんだ…?

ウチはあくまで実働部隊のトップだから、本家絡みの情報は清さんを始めた重役伝いでしか聞くことが出来ずにいた。

確かに本家の申し付けとなると支部は逆らうわけにいかない。マフィアにとって上下関係は絶対だ。

…そう、上下関係。それを破ってまでウチは今回の作戦に反抗してきた。それが清さんにバレてしまった今、ウチはどうなるんだろう。

ウチが何も言わずに突っ立っていると、清さんはため息をついて口を開く。


「…去年、本家の総代が周峰に変わってからか。清龍党は平和的交渉で他組織と友好化を築くことを進めていてな」

「…だからって、なんでジョングオ派なんかに…」

「リリ、まだお前の反抗は俺しか知らない。もしこれが本家の耳に入れば、お前は即処刑だ。親に逆らう事がどれだけ重罪か、お前は身に染みて知っているだろ?」

「…たりめーだ」

「…お前に二つの提案だ。一つは今回の件がなかった事としてリリとして俺の指示に従う事」


何度も言わせんなよ…たとえ本家がいようと、ジョングオ派の言いなりには絶対になりたくねぇ。


「…もう一つ。リリの名を捨てる事」

「…はぁ?」


名前を捨てる、か。あえてとぼけて見せたけど、ウチにとってそれがどれだけ重い物か、清さんは知ってるはずなのに…

清さんはゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって頭を下げる。

ああ、やっぱりそう言う事か…クソ、何考えてんだ。


「清龍党“正式”後継者候補、清黎々様。もし貴方様がお望みならキャスタニア支部長の座をお譲りし、更に私目から本家へ意見の申し立てを行わさせて戴きます」


…ああ、ムナクソわりぃ…!ふざけんなマジで…!

未だに頭を下げ続ける清さんに迫り、感情の赴くまま彼の顔を無理矢理上げさせる。


「…ざっけんな!!!!もう一度その名前をほざいてみろ…清さんだろうとぶっ殺すぞ…!」

「…清の名を冠する者なら本家であろうと聞く耳を持ってくれるはずです…それが貴方様ほどの位なら尚の事」

「黙れ…黙れ!!だまれ!!!!」

「どうか落ち着いて下さい…お願いします」


思いっきり舌打ちをして、清さんを突き放す。

清龍党という名は、組織を立ち上げた清一家から来ている。

“清”という苗字は中国では決して珍しくないモノだが、清龍党に所属する“清”は特別で清一家直営の家系の者しか名乗ることが出来ず、それ以外の者は改名を迫られる。

でも、ウチはその名を捨てたんだ。捨てなきゃならなかったんだ…なのに今更名乗れるかよ…!


「…清さん、ワリィけどウチはリリ。リリとしてやることやらせてもらうよ」

「…そうか。なら」


清さんはそう言うと、机の裏から拳銃を取り出して構える。


「お前は清龍党に対する反逆行為を働いた重罪人として粛清する」

「…ヘッ、撃てよ。ウチは最後まで足掻いてやるからよ」

「…生憎俺は拳銃の扱いが下手でな」


そう言って引き金を引く清さん。だが棒立ちのウチに弾丸は掠りすらしない。

…そうやって情けかけるつもりかよ。ま、優しさとして受け取ってやるか。


「…ありがと、清さん」

「例を言われる筋合いはない。さぁ、逃げるなら今しかないだろう」

「言われなくても分かってるし…!」


清さんに背を向けて、一切振り返ることなく彼の部屋を後にした。二発目が飛んでくることはなかった。

…ウチは知っている。清さんもまたジョングオ派を憎んでいることを。決して最後まで従う気はないだろうということを。

だからウチを逃がしてくれたんだ、きっと。

…その思い、絶対に無駄にしないから。



───同日18時頃、東部区域アイリスにて。

フォスター家3番ビル12階の一室。この部屋に来るのも何度目かしら。

いつものように向かいにブルーノのジジイ。隣には普段着のお嬢様。ジジイの目線は当然アリーチェのデルタ地帯。

ただ一つ…私達のソファの隣に立つように二人の男がいることがいつもと違う。

黒スーツに黒ネクタイ、サングラスとトップハットで決めたお二人が、イブリースナンバー6と7のアフロビート兄弟である。


「…急な呼び出し悪いな。まずジェロシアとアリーチェ、一連の依頼ご苦労だった。報酬は事前の告知通りに」

「あら、もうお仕事は終わりでいいの?」

「今後どうなるか未定の部分が多すぎてな、この辺りで一区切りつけておいた方がお互い楽だろう。心配するな、すぐに追加依頼が来る」

「そう、なら楽しみにしておくわ。で、このお二人さんも呼んだ理由は何かしら?」


私がそう言って兄弟の方を見てあげる。明らかに二人は居心地が悪そうだ。


「…アフロビート兄弟、二人が先日アコニットを殺害しようとしていたという情報が届いている。その件について訂正はないな?」


ブルーノが静かにそう言うと、二人は無言で頷いた。


「…この状況でルドマン家の主力に手を出すことが如何に危険か、お前たち二人が分からない筈がない…一体その理由は何だったんだ?」


しばらく部屋に沈黙が漂う。何で私達までお説教につき合わされないといけないのかしら。


「…報酬額が破格だったから、です」


やっと、アフロビート兄のほうが口を開いた。


「…幾ら積まれた?」

「前払い10万。成功すれば100万。断る理由もなかった」


アフロビート兄弟は手堅い殺し屋。そしてその行動原理は恐らく金だと、二人の活動を時折見て感じていた。

前払いだけで10万も貰える仕事などそう受けられる事はない。目がくらんでもおかしくはないだろう。


「…相手は誰だ?」


さて此処からどうなるか。殺し屋が依頼主の名を吐く事は本来許されない。口止めされているなら尚更。

アリーチェは神妙な目つきで二人を見ていた。とっても可愛いけど、どこか“プロ”らしさも出ててこの子の成長を感じさせる。

何となく、ブルーノが私達とアフロビート兄弟を同時に呼び出した理由が分かった。私達が居れば二人が口を割るとでも思ったんだろう。


「…兄貴、どうしますか」

「…依頼主は言えません。ですが外部組織であることはお伝えします」


あら、あっさり。私達の無言の脅しが効いたのかしら。そんなに怖がらなくていいのに。


「…その言葉、偽りはないな?」

「…ええ」

「…分かった。これ以上問うことはない、帰っていいぞ」


ブルーノの言葉に対し、アフロビート兄弟は軽く頭を下げて部屋を後にした。


「フフッ、私達を番犬代わりにするなんて」

「すまないな。だがこちらの予想通りで助かった。やはりジョングオ派がこの街でかなり暗躍しているようだな」

「そのようね。で、その始末をまた依頼するのかしら?」

「…いずれそうなるだろう。それまでお前たちはしっかり休んで備えてくれ」

「分かったわ。それじゃ」


私はそう言って立ち上がって軽く手を振って部屋から立ち去る。アリーチェも急いで立ち上がって一礼し、私の後に続いた。


「…ねぇジェシー」


エレベーターの中で、不安そうにアリーチェが問いかけてきた。


「どうかしたかしら?」

「あのね…どうしてもお願いがあるんだけど、しばらく街を離れたいの」

「フフッ、どこかに旅行でも行きたいの?」

「そう言う訳じゃ…あ、でもそれに近いかも…」

「私は何も言わないわよ。何なら勝手に遊びに行ってもいいのに」

「で、でもほら依頼とかあったらさ…」

「依頼を受けるかどうかを決めるのは依頼者じゃなくて私達。嫌な時は断って何の問題もないのよ」

「…うん、分かった。ありがとうねジェシー」


アリーチェはそう言ってしばらく黙ったままだった。私も特に話すこともないし黙っていたが、ふいにアリーチェがこちらの方を向く。


「…聞かないの?」

「…何を?」

「街を離れるちゃんとした理由」

「そうねぇ…プライベートの領域に踏み込むのは好きじゃないし、聞かないでおくわ」

「…ジェシーってそう言うところ冷たいよ…ねぇ、私の事に興味とかないの?」


あらあら、可愛い弟子が今にも泣きそう。でも困った、理由を聞く事が良い事なんて一切思えない。

予想ではこの子のいた孤児院関係なんだろう。そのことに関するであろう事を聞くのは過去を知る事になる。

この子だって昔の出来事を話す事なんて好きじゃないだろう。殺し屋に流れ着くような者に、綺麗な思い出など存在するはずない。

こんな時、なんて声をかけてあげるべきなんだろうか。答えが見つからない。

そして時間が来てしまう。エレベーターは一階に到達し、ドアが開く。


「…何か食べて帰りましょうか。しばらくのお別れだから、とびっきり美味しいものを」

「…うん」


確か、ずっと前に晃司が薦めてきた日本料理店がアイリスにあったはず。

静かな店らしいし、そこでこの子とゆっくりお話でもしてあげましょう。

…それが解決法に繋がってくれればいいけど。

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