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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第八章:Merchants of Death ~武器商人編~
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第三話

───7月7日14時頃、南部区域ワトルにて。

ワトルの路肩にベンツを停めて、僕は助手席であくびをしながらトイレに行ったマーチンさんを待つ。

あーめんどくさいめんどくさい。この間のギャングによる爆発事件があってから警察内部は少しだけ緊張状態だ。

何てったってマフィアのアホ共がこれを機に大きな動きを見せる可能性があるし。

大体前の下水道大量殺人やペスト蔓延危機といったマフィアがらみの大事件の時も四六時中働き詰めだったし、こちらとしては迷惑極まりない。

僕は最近この街でCYPD…キャスタニア市立警察に就職して、気がつけば組織犯罪対策支部所属に。

この支部は、一応マフィアを始めとする犯罪組織の取締を行う所だけど、実態は一般市民に危害が加えられたとき以外は一切動かないクソみたいな連中の集まり。

そのくせ常に命の危険に脅かされているし、なんと言うか給料の割りに合わないような職場だ。


「…おう、悪いな。この歳になるとどうも近くなっちまう」


そう言いながら運転席にマーチンさんが乗り込んできた。

この人ももういい歳なのに前線で働き続けている変な人だ。

他の警官に比べて正義感がほんの少しだけ強いらしく、マフィアとかに目を付けられた一般人をマークして危害が加わらないようにしているらしい。

ただどうも頭に血が上りやすい人らしくて、すぐに暴力を振るう困ったオッサンである。


「そんなにトイレが近いならオムツすればいいんじゃないですか?」

「老人扱いするな馬鹿野郎…っと、ターゲットが来た」


そう言って窓の外に目線をやるマーチンさん。視線の先には向かいの路肩に停まった一台の車。ナンバーは3ASC431、確かどこかのレンタカーだったはずだ。

車から降りてきたのは中年白人男性、メガネをかけた黒人男性、そしてアジア系の青年だ。

三人はそのまま目の前のビルへと入って行った。


「予想通りっすね…あのビルは観光商会でしたっけ?」

「ああ。連中がただの観光客なら問題はないが…そんなワケないか。ビルの屋上にイブリースがいやがる」

「え、マジッすか?こっちからじゃ見えないですけど」

「…もう少し情報が入ればいいんだが、連中がプレグレッフィの最高級ホテルを選んだ以上当分調べ上げるのは無理だろう」


プレグレッフィ家の息が掛かったホテルに泊まる人たちを調べようと思えば、一旦プレグレッフィ家を通す必要がある。

その時要求されるものはタダ一つ、金。

よほど重大な案件なら背に腹は変えられないが、今回はまだそこまでする必要は無いらしい。

爆発事件が起こった少し前からこの街に来たらしい連中は、毎日のように各所に移動して何かを行っているらしい。

しかも目撃場所は大抵ブロッサムやメープルといった危険地帯や、マフィアの息が掛かった建物。


「僕の予想じゃ、連中が爆発事件と関係があるのは間違いないと思うんですけど…」

「確証が取れないと動きようがない。身なりからしてもかなりの金持ちだろうし、安々と警察に協力するとは思えない」

「そうですよねぇ…あ、無線来ますよ」

「ん、ああ」


マーチンさんがボタンを押してマイクを手に持つと、すぐに無線から連絡が飛んできた。


『C班に入電、応答願います』

「こちらC班」

『C班マーチンさんへCIA捜査官トルテさんがコンタクトをとりたいとのことです』

「CIAだと…?」

『以上です、トルテさんへ変わります』


マーチンさんの応答を聞こうともせずに、無線の相手が変わる。

しかしCIAだなんてまた凄いところが出てきたなぁ…現場のデカに何の用だろうか。


『…説明があったと思いますが…CIA捜査官のトルテと言うものです。始めまして』

「…CIAが何の用だ?」

『現在あなた方がマークしている三人組の男性についてですが…そちらの介入をやめていただきたい』

「…いきなり何言いやがる?」

『現場の警官には少々荷が重い相手ということです。連中は前々から我々が監視している相手…あまり面倒なことになるとお互い困りまして』

「理由は…話せるわけ無いか。直々に交渉してきた点だけは褒めてやる。だが怪しい相手をみすみす見逃せる訳がねぇだろ」

『…再度忠告します。これ以上本件への介入はお止め下さい。此処から先は我々の仕事です』

「…チッ、偉そうに…」

『私からは以上です。それでは』


また勝手に無線が切られ、それと同時にマーチンさんがマイクを乱暴に戻す。


「し、CIAとか何かやばそうですね…あの三人組、一体何者なんでしょうか…?」

「俺等みたいな警察に手柄を盗られちゃ困るレベルの大物ってワケだ」

「どうするんですかマーチンさん…やばそうな臭いがプンプンしますよ?」

「…署に戻って連中の素性を調べ上げる。それから今後の動きを決める」

「マジッすか!?知らないですよまた何か言われても…」

「CIAだろうが知ったこっちゃ無い、俺達は仕事をするだけだ。行くぞルディ」


あー、まためんどくさい仕事の始まりだ…



───同日18時頃、北西区域メープル、ノースハウス一室にて。

この時間帯、いつもなら夕食とネタ探しを兼ねて街をぶらついている。

しかし今日はこの部屋で来客を待つ事になっていた。

まさか彼女から正当な依頼を受けることになるとは思いもしなかったが、得意分野ではあったので快く引き受けた。

部屋でメビウスをふかせていると、ノックもなしにドアが開けられた。


「お邪魔するわ」


いつもと変わらない彼女。どうやら今日はアリーチェも一緒のようだ。

ジェロシアの後ろについたアリーチェは相変わらず不愉快そうに俺を睨む。


「とりあえず椅子に…あ、でも一つしかないですね…どうしましょうか」

「フフッ、アリーチェは晃司の隣にでも座ったら?」


ジェロシアがそう言うと、アリーチェはジェロシアの右太ももを平手打ちする。


「ゼッタイ嫌!!ゼーッタイ無理!!」

「あらあら、どうしてかしら…そうだ、なら私の膝の上にでも座る?」

「何でそうなるワケ!?私は立ってるから別にいいわよ!!」

「…あ、あの…」


毎度毎度俺に対する不快感をぶつけられると流石に心が痛む。

ジェロシアもそれを分かっててアリーチェをからかっているに違いない。悪い人だ、全く。


「あらごめんなさい。それじゃ、お言葉に甘えて」


ジェロシアはそう言いながら化粧台についた椅子に腰掛けた。


「えっと、それじゃあ依頼の件ですが…簡単にですが資料を作っています」


俺はベッドの上に置いてあった資料を二つ持ち、ジェロシアとアリーチェに渡す。


「フフッ、ご丁寧にどうも」


俺は再びベッドに座り、自分用の資料を持った。


「今回の依頼…SLIT社についての情報です。1966年にアメリカで創立された国際貿易会社で、現在アメリカ国内でもトップクラスの規模を持つ大企業です」

「貿易…扱っている商品は?」

「貿易会社ですのでかなり手広く扱っています。食品、エネルギー資源、自動車…恐らく決まった商品を扱う、と言うことはないですね」


SLIT社…俺が就活をしていた時も耳にした企業だ。

もちろんエリート中のエリートの更にごく一部しか就職することが出来ないような企業で、最初から眼中にはなかったが。


「成程…なら、もしかしたら法に触れるような品物を扱っている可能性もあるかしらね?」

「どうでしょうか…大企業なので悪事を揉み消すことも出来ると思いますが、そんな物に手を伸ばす必要がある企業かと言われたら…」

「…じゃあ依頼内容にあったと思うけど、特殊機器部門について何か分かったかしら?」

「ええ。どうやらその部門については兵器を主に取り扱っているようですね。取引先は各国の正規軍隊のようですが」


この点について調べるのには少々面倒だったかが、現代のネットにはありとあらゆる情報が転がっているので何とか知る事が出来た。


「へぇ、軍人相手に兵器の取引…それってつまり、兵器を自由に輸出入できるって事かしら?」

「自由では無いと思いますよ、流石に。各国の法に基づいて取引を進める必要がありますし、何より物が物ですから」

「でもさっき言ってたじゃない、悪事を揉み消すことも出来るって」

「それは仮定の話ですよ…本気にしないで下さい」

「まぁいいわ。ありがとう、大体知りたいことは分かったわ」


そう言ってジェロシアは立ち上がり、俺に近づく。


「さて、報酬だけど…金と情報、どちらがいいかしら?」


ジェロシアはそう言うと左手で俺の頬をなでる。

そんなことするからまた後ろでアリーチェが怖い顔で睨んでくるじゃないか。誤解を招く行動はやめて欲しい。


「…情報だったら一体何を教えてくれるんですか?」

「あんたの仕事に見合っただけの内容を。そうねぇ…今起きてる事件の概要とかどうかしら?」

「いや、依頼内容から何となく分かりました。SLITの特殊機器部門の誰かが何か起こしたんでしょう?」

「…流石に察したか。じゃあこういうのはどうかしら?この事件が解決して全容が明らかになった時、改めてその情報を教えるってのは」


もしSLIT社なんて大企業が起こした事件について記事に出来れば大ニュース間違いなしの案件だ。

しかし、俺程度の記者がそんなネタを撒いた所で信頼してもらえるかどうか。

まぁいいか、ネタがあるに越したことは無い。


「じゃあそれでお願いします」

「フフッ、思ったとおり。あんたなら安く済むから助かるわ」

「…え?」

「最近情報屋が少なくて困ってたのよ。ステラさんも人探しメインだし、他の連中はかなり割高だし。こういう微妙な調べ物をさせるのにもってこいね」

「び、微妙って…」

「アリーチェ、行きましょうか。それじゃ、また」


ジェロシアはそう言ってそそくさと部屋から出て行ってしまった。

それに続いてアリーチェも部屋を去ろうとしたが、ドアの前でこちらのほうを向いた。


「…資料はありがたく頂いとくから」


それだけを言い残して外に出て、ドアを乱暴に閉められる。

仕事が終わったのに何も達成感が得られない。

報酬も何時手に入ることやら。もしかしたらタダ働きになる可能性もある。

何だかどっと疲れが出て来た。今日は適当にカップ麺で済ませよう。



───7月8日5時30分、北部区域ニビヤシアック、ウィルソン家にて。

警備の仕事も終わってやっと家についた。

ガレージのほうでは既にステラが販売車の準備を行っており、俺は一応顔を見せに向かった。


「ただいま、帰ったぞ」

「あらお帰り。こっち終わったらご飯作るから待ってて」

「分かった…すまないな、店のほう任せっきりで」

「楽しいからいいよ。ま、アンタの手伝いで始めたのにアタシの方がよく働いてるのは変だけどさ」

「…だな」

「…そうだ、アンタに頼まれた仕事、一応分かったから伝えておくよ」


もう掴んだのか、流石に早い。


「…頼む」

「例の武器商人は、SLIT社特殊機器部門取締役ヘクターを中心とする三人組。現在カルゲニアのスタジオクアトロニに宿泊中だってさ」

「かなり詳しいところまで掴んだな。何処からのタレコミだ?」

「フロッド君よ。彼、連中の護衛を依頼されてて、取引現場に顔を出して武器商人だと知ったらしい」

「成程な…分かった、ありがとう」

「…アンタもその仕事終わったらとっとと身を引いたほうがいいよ。シルヴァーニがかなり大きい動きを見せているし、どうもフォスター家も事態収拾のためジェシーちゃんたちに依頼を出したらしい」

「ああ、俺もこれ以上は関わらないようにするつもりだ」

「後ね…相手の武器商人もかなりヤバイ連中っぽいよ。会うなら気をつけなよ、ホント」


俺の事を心配してくれているのはありがたいが、やはりステラは心配性すぎる。

俺だってそれなりに自分の身を守る術は持っている、この程度でヘマをやらかしたりはしない。


「分かっている、そんなに言われなくても」

「そう?ならいいけど。それにしてもルドマン家まで動くなんて珍しい事もあるねぇ…」

「ルドマン家としてか、あのアコニット独断なのかは謎だけどな」

「あの人は何考えてるのか全然分からないからねぇ…昔世話になったけどどうも苦手だわ」

「だが大物だし、報酬はしっかりくれるだろう。仕事の甲斐はある」

「それもそっか…さてと、約束の物は?」

「ああ」


俺はポケットから50ドル札10枚を丸め、ステラに投げる。

ステラと出会って10年以上。パートナーとして私生活を共にするようになっても俺達の間には一つの決まりがある。

それはビジネスの取引をきちんと行う事。どれだけ親密な関係だろうとこれだけは守るべきだと俺達は考えている。


「毎度あり。じゃ、ご飯にしよっか。何がいい?」

「簡単なものでいい」

「それじゃあパンを適当に焼こうかしら」


朝食を取って、一旦仮眠をとったらホテルに出向くとしよう。相手が応じてくれればいいが…



───同日22時43分、中央区域南西部カルゲニア、スタジオクアトロニにて。


「いやぁ、一通り取引も終わったのに更に追加取引とはね!」


そう言いながらヘクターは相変わらずベッドの上でワインのボトルを開け始める。

既にグエンは熟睡しており、ゲイリーはノートPCを膝に置きながらヘクターの話を聞いていた。


「ちょっとヘクターさん…この量の取引に応じるつもりですか?」

「そのつもりだけど何か問題でも?」

「RPG-7の弾頭200個、C4を80kgに軍用の最新手榴弾を10ケース…まだまだ沢山…まずいですよ流石に!」

「いいじゃないかゲイリー君、これだけ売ればしばらく安泰だよ」


そう飄々と答えるヘクターに、ゲイリーはつい頭を抱えてしまう。


「大体、今回の取引だけで何台の偽装トラックを使用したことか…もうそろそろ足がつきますって…」

「大丈夫大丈夫、検問には賄賂も通してあるから。ただ…どうやらこの街にもやはりいるみたいなんだ、犬が」

「そりゃそうでしょう。こんな餌場を野放しにする訳ないじゃないですか、連中が」

「それもそうだ。ま、だからこの取引が終わったら場所を移そうか」

「ああ、やっぱり取引はするんですね…分かりましたよ…」


ゲイリーはそう言いながらパソコンを操作し続ける。


「相手方は深夜に現物取引を希望されています。商品が届くのは早くて14時間後。取引は明日の深夜でよろしいですか?」

「ああ、問題ない。場所の指定は?」

「南東部のカトレアにある建設途中のショッピングモール、其処の地下駐車場、ですね」

「ふーん、カトレア…そういえば取引相手は誰だっけ?」

「ルドマン家緊急医療隊隊長、ミズ・アコニットと記載されていますが…良く分からない相手ですね。そもそも緊急医療隊って…」

「面白そうな人だ。それは俄然取引にやる気も出てくる」

「はぁ…今の所我々にトラブルも降りかかって来てないからいいですけど、次はどうなるか…」

「その時はその時でいいじゃないかゲイリー君!さぁこれをグイッと!」

「あーまたそんな大量に注いで…って勘弁してくださいよホント!」

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