第四話
───6月2日23時頃、西部区域ブロッサム、5番倉庫内にて。
薄暗い倉庫では一人、リリがスマホ画面と向き合って暇そうにしていた。
「んだよ、夜になったら誰か来るかと思ったら誰もこねーじゃん。マジつまんねー」
昨夜イブリース下位メンバー共に依頼を与えてから今まで、依頼達成者は未だゼロだ。
清龍党の調べでは数人の上位ナンバーの死亡は確認されたらしいが、同時に下位ナンバーもやられていたそうだ。
実にふがいない、上位と下位では此処まで強さに差が生じてしまうものなのか。
これなら自分が直接上位を狩った方が効率がいいように思えてくる。
「…リリさん、お待たせしましたねぇ」
ふいに倉庫内に男の声が聞こえてきて、リリはスマホから目を離す。
入り口付近を見てみると、三人の人影が見えた。
恐らくイブリース下位ナンバーの誰かだろう。
「…おっせーなーホント。で、早く証拠を見せな、金はそれからだよ」
「ええ、承知いたしました」
そう言って一人の男が前に進み、それに続いて残りの二人も歩き出した。
先頭の男は左手にはビニール袋、そして右手には謎の黒塗りのケースを持っていた。
真っ白な手術衣に身を包み、顔以外の肌を全て隠した出立はとても不気味だ。
残りの二人の内、一人の男は異常に痩せており、先端が赤い消火斧を不快な音を立てながら引きずっている。
もう一人の女性のほうは肥満体の黒人で、レゲエファッションが妙に似合っている。そしてその右手にはデザートイーグルを所持していた。
これはまた色物トリオが来たものだ。どんな狂気を孕んでいるのか実際に調べたくなる衝動を抑えつつ、リリはニヤニヤと三人を見つめる。
「中に首が入っております、ご確認を」
リリに近づいた白衣男はそう言ってビニール袋を置き、袋の口を開けた。
中に手を突っ込み、生暖かく濡れた首を取り出して誰の首かを調べる。
「んーと、確か…ああ、ナンバー10の何とかとかいう野郎だっけか。確かに確認した。ほら、100万はそこの段ボールに入ってるからテキトーに持っていきな」
首をどこかに放り投げて、リリは近くの段ボールを指差す。
白衣男は頭を下げて段ボールに近づき、レゲエ女は下品な笑い声をあげ出す。
そして斧男は驚いた表情を浮かべてリリの投げた首の元に走り寄る。
「こ、この首はもういらない、ですか…?」
どもりながら斧男がリリに尋ねる。
「あぁ?別にいらねーけど、あんま変なところに捨てたらだりーからちゃんと後処理しなよ?」
「ヘ、ヘヘヘ…分かっています、分かってますよ…ヘヘヘ…」
気持ち悪い笑い声を上げながら、斧男は地面に転がる首めがけて斧を構えて素早く振り下ろしたのだ。
頭蓋骨が叩き割られ、中に詰まった黒い血と脳が音を立てて飛び散る。
そしてあろうことか斧男はその首を手に持ち、目が見開いた杯に溜まった血生臭いカクテルを貪り始めたのだった。
「気持ちわり―もん見せんなよマジ。ったくー、最初のクリア者がこんなんとか超不愉快ー」
「どうも皆さん苦戦してるようですね。上位ナンバーの力量を調べるのには役立ってますが」
と、白衣男が段ボールの中の金を数えながら言った。レゲエ女は今も腹を抱えて笑っている。
「あ、参考程度にテメェ等のナンバー教えな。仕事出来るランクは何処からか知りてぇから」
「私はナンバー11、モーティマー。こちらの女性はナンバー16、ナディン。そしてあっちはナンバー13のアルバート。数か月前から組んで仕事をするようになりましてね」
「ふーん。で、テメェ等は100万だけで満足すんのかい?」
「…分かり切っているでしょう、我々がたった一人仕留めたぐらいじゃ満足などできないこと」
そう言ってモーティマーは歯を見せながら汚く微笑む。
「じゃあ早くこのウッセェデブと脳みそ男連れて消えな、気持ちわりーから」
「ええ、かしこまりました。では少々お待ちを」
モーティマーはそう言って、ポケットからスマホを取り出して何かの映像を見始めた。
「…ほうほう、ナンバー1と2がワトルに、3はベターロート、4と5はメープル、6と7はアイリス…いよいよ残った上位全ての居場所が分かりました」
「へぇ、情報網はそれなりって感じかい。こりゃテメェ等が一番期待できそうだよ」
「ありがたきお言葉です。さてアルバートさん、何処から行きましょうか」
モーティマーの問いかけに、アルバートは血で汚れた口元を袖で拭いながら答える。
「ナ、ナンバー3って確かあの金髪の麗人、だったはず…イヒヒ、実は俺の好みでして…」
「分かりました、ではまず残った下位を数人ナンバー3にぶつけましょう。そして弱ったところをアルバートさんが仕留めに行くと。現在ベターロートのラビーレに潜伏中だそうです」
「了解です…ヒヒ、楽しみだなぁ…」
「ナディンさんはまずメープルで5を狩りましょう。場所はノースハウスの通りにある廃墟です。近くに4はいないのでかなり楽でしょう」
モーティマーの指示を聞き、ナディンは笑いながら首を縦に振った。
「私は引き続き下位ナンバーに連絡を取って戦力を確保します。一日調べて分かりました、下位ナンバーが結託しないと上位狩りは不可能だと」
「テメェはその辺ちゃんと分かってんだねー」
「私は皆さんみたいに直接戦うのが得意じゃないので、こうやって戦力の分析に力を入れておりまして。では行きましょうか。ナディンさん、ダンボールの運搬をお願いします」
そうして三人は倉庫から去って行った。その後姿を見ていたリリは、いつの間にかスマホに不在着信が来ていたことに気づいた。
「ん、誰だろ…あ、マブダチじゃーん!」
相手の名前を見て、リリはニコリと笑いながら電話を掛けた。
「ちーっす!わりーわりー電話気づかなくってさ」
「いえいえ、気になさらず。先ほど帰国したので一応連絡しとこうかと思いまして」
「あれ、何かもうちょっと休みで帰るっつって無かったっけ?」
「少し急用が入りまして。まぁすぐに終わると思うのですが」
「へぇー、そう。じゃさ、近々昼飯食いに行こうや!新しくラーメン屋出来て、そこが割りと良い味してんだよね!」
「分かりました。では暇が出来次第また連絡します」
「はいはーい、じゃねー!」
リリは電話を切り、そしてある事に気づいた。
「あ、そっかー。用事ってアレ関係ってことかー。ま、アイツならそうそうくたばるタマじゃないし大丈夫っしょ」
そう呟いた後、リリは再びスマホ弄りに没頭し始めた。
───同日同刻、南部区域ワトル、FMOにて。
フロッドの指示で昨日から事務所を急遽休業し、現在この階にはフロッド、ジェロシア、アリーチェの三人しかいない。
元々ワトルは一般人も多く、この街としては珍しく警察も機能していることから未だ敵襲を受けていなかった。
「立て篭もるってのも暇ね」
ジェロシアはそう言いながら、デスクに置かれていたマジックの小道具をいじっていた。
アリーチェもデスクにうつ伏せになってぐっすり眠っていた。
「情報屋も使い物にならない、イブリース本部も現在捜査中、外に出れば何処に敵がいるか分からない…やれやれ、重役ならまだしも僕等程度の人間がこんな目に遭うなんてね」
「あんたの護衛がなければ私も外で遊んでくるんだけれど。大体此処にいれば襲われても大丈夫でしょう?」
「念には念をって奴さ。それに君の安全確保にも繋がる」
フロッドがそう言うと、ジェロシアは嫌そうな顔をする。
「余計なお世話よ、大体私の安全を守って何になるの」
「彼女の場所が分かるまでは死にたくないだろう、君だって」
「…放っておいて頂戴」
「素直じゃないねぇ、君も。まぁさっき連絡があってしばらくしたらボディーガードも戻ってくるそうだし、それからは何も言わないさ」
二人が話していると、ジェロシアの携帯が鳴り出した。
「もしもし、何かしらマフィンちゃん」
「お疲れ様でございますジェロシアさん。えっとー、何か色々起こりすぎてヤバイらしいんで伝えたいことだけパパパっと伝えちゃいますね」
「助かるわ、それで内容は?」
「えーっとですね、お昼頃にプレッツェさんからターゲット確認用アドレスに連絡がありまして…一応伝えといたほうがいいのかなーなんて。キャンディさんには反対されたんですけど」
情報屋より早くプレッツェが動いたとは。予想外の事態にジェロシアは一瞬言葉に迷う。
「…そう」
「画像から位置も割り出せたので場所も言っておきますね。ベターロートのラビーレです。ちなみにターゲットはイブリースナンバー35なんで、今起こってる問題に巻き込まれたっぽいですね」
「ありがとうマフィンちゃん。で、私はあの子に会いに行ってもいいのかしら」
「そげなこと私に問われても…てか喧嘩別れじゃないなら向こうも会いたがってますよー、知らないっすけどね」
「適当ね、相変わらず。じゃ、また何か分かったら連絡してくれるかしら」
「アイアイサー!あ、そだ。フリーの情報屋連中はどっかから相当デカイ情報規制貰ったっぽいんで役に立たないですよ」
「やっぱりそうなの。通りでLEから連絡が何も来ないと思った」
「こういうとき情報網が少ないと不便ですよねー。ではそろそろオイトマ!」
その言葉を最後に、マフィンからの電話は切れた。
「…彼女の件についてかい?」
と、静かにフロッドが問いかける。
「ええ…」
「行きたければ行ってくればいいさ。アリーチェには事情を説明しておくから」
「…悪いわね」
「僕としても、君のナヨナヨした姿を見続けたくないからね」
「失礼しちゃう、私はいつも平常運転よ。じゃあお嬢様の御守り、お願いするわ」
ジェロシアはそう言って静かに立ち上がり、事務所の外の闇へと姿を消した。
「…ジェシー、もう行った?」
しばらくして、アリーチェが顔を伏せたままそう呟いた。
「聞いてたのかい?いつもの君なら彼女についていくだろうに、珍しいね」
「そうしたいのは山々だけど、例のプレッツェって人の件なんでしょ、どうせ。何も知らない私がついて行っても疎外感味わうだけだろうし」
「…君ぐらいジェロシアと親密なら尚更会いたくないだろう、プレッツェに。どうだい、少しだけ二人の話とか知ってみるのは」
「別に聞きたくない。それに、ジェシーがプレッツェの事をどう思ってようと、私には関係ない。今と変わらず私を弟子としてくれるだけで十分だから」
「君がそう言うなら僕は何も言わないよ」
フロッドはそう言って、ふと事務所の入り口に目をやった。
外は暗く、非常灯の明りが遠くから漏れているのみだ。
「…気のせいか」
「え、誰かいる?」
そう言いながらアリーチェは体を起こした。
フロッドは何処からか何者かの気配を僅かに感じていた。
だがそれが果たして敵かどうか、あまつさえ人かどうかも分からない。
この事務所に入る入り口は一つ。来るならそこか、もしくは窓か。
「…違う、ネズミみたいだ」
気配の正体は天井のダクト口から尻尾を垂らしていた。
フロッドがネズミをじっと見ていると、すぐに尻尾が引っ込んでネズミはどこかに逃げて行った。
「なーんだ、脅かさないでよ」
「ま、ネズミがああやっているってことは、それだけ人の気配が少ないってことだろう。今夜も安心して過ごせそうだ」
フロッドがそう言った瞬間、後方の窓が音を立てて破られた。
敵襲に驚いた二人が急いで振り返ると、ぴっちりとした黒いラバースーツにガスマスクをつけた如何にも特殊部隊めいた人物が、サブマシンガンを構えていた。
二人は即座にかがんでデスクの陰に隠れる。それと同時に敵が引き金を引き、静かな銃声と物が砕けて飛び散る。
「MP5SDとはえらく高い銃だね…こりゃ参った」
幾らフロッドとは言え不意打ちでサブマシンガンをばら撒かれるとどうしようもない。
一方アリーチェは静かに右手に剣を持ち、相手の出方を伺っていた。
今回、いつものゴシックドレスを持ち出すことが出来ず、仕込み刃一切無しの普段着を着ているため、武器はこの片刃の剣ただ一本のみだ。
だが敵が一人なら、必ず銃撃は止まる。その隙を狙えば楽勝だ。
予想通り、すぐに弾切れを生じ、雨は止む。
即座にアリーチェはデスクから身を乗り出して、敵に向かって走り寄った。
それと同じくフロッドもM1911を懐から取り出して発砲する。
が、敵の身のこなしは想像以上に俊敏で、アリーチェの剣裁もフロッドの銃撃を同時に避けるという離れ業を見せ付ける。
「…アリーチェ、駄目だ。外にもスナイパーがいる。窓に近づくとやられるよ」
フロッドの言葉と同時に一発の銃弾が事務所に轟く。アリーチェの太ももをかすろうかという場所を通過していた。
「ちょ、いつの間に狙撃手が…!」
アリーチェは急いで窓から離れ、敵のほうを向く。
敵は僅かな時間でリロードを終わらせており、再びサブマシンガンを撃ち始めた。
二人はまた物陰に息を潜めるしかなかった。
「いやー、参った参った。スナイパーがいるとうかつに顔も上げられないね」
そう言いながらフロッドは携帯を取り出す。
「もしもし、フロッドだ。もうスタンバイは出来ているかい?」
「ええ。ただ事務所向かいにスナイパーが見えたので、まずはそちらを排除して来ます」
「頼もしいね。敵はこっちの事務所より高い階層にいるから、そっちを片付けたらワイヤーを張ってすぐにこっちに来て欲しい」
「了承」
フロッドは通話を切り、神経を敵の動きに向けて尖らせる。
腰にもハンドガンとナイフをぶら下げていた。たった一人とは言え隙を殆ど見せない強敵だ。
この事務所に仕掛けた罠も、度重なる銃撃で大半が無力化されてしまっている。
アリーチェは剣一本のみ、そして自分はハンドガンと仕込み武器。その仕込みもリーチの関係上扱うのは至難の技だ。
銃撃が止むが、スナイパーの目がある以上顔を出しようが無い。窓に映らないポジションは敵が既に位置取ってしまった。
敵は移動しながらリロードし、執拗に二人を狙う。そのたびに二人は身をかがめて移動し、敵から逃れることしか出来ない。
「スナイパー排除までどれだけかかるの!?」
必死に銃弾を避けながら、アリーチェが叫ぶ。
「一分もいらないよ。何ならもうそろそろ来るんじゃないかな」
「もう、何でそんなに余裕ぶっこいてんのよ!」
「そりゃあ、敵は装備も動きも良いけど、頭は良くないからだ。もし手榴弾の一つでもあれば僕等を木っ端微塵に出来ただろうに」
手は出せないが負けることは無い。フロッドは相手の装備を見てそう確信していた。
サブマシンガン相手に正面から勝つことは出来ない。だが、敵の動きを見て適宜身を隠す場所を変えていけば被弾を防ぐことは容易だ。
これが潜伏場所に事務所を選んだ理由の一つ。デスクが所狭しと並べられた此処ならば、身をかがめるだけで弾除けになる。
「敵は僕のテリトリーに入った時点で罠に掛かった。後は哀れな小鳥を刈り取る猫を待つ」
「猫って…あーもう、そうやって気取った事言ってさー!あんなのいつもの装備があれば一瞬で蹴散らせるのにー!」
二人が身を隠していた時、外からまたしても何かがぶつかる音が鳴る。
「ほら、もうスナイパーはいなくなったらしい」
フロッドはその音を誰が発したか分かっていた。
依然として敵はこちらに向けてサブマシンガンを撃ち続けている。
ガスマスクで外音に気づいていないのならば愚かでならない。
「さぁ化け猫よ、狂気の狩りを始めてくれ」
外から何かがこすれる金属音が聞こえだし、そしてすぐに巨大な人影が窓に迫る。
そして窓から新たに一人の女性が勢い良く乱入してきた。
体勢を整えることすらせず、女性は一気に敵に近づく。
それは敵が銃を構え直すより遥かに早かった。
強烈な膝蹴りをお見舞いし、敵は後ろに大きく吹き飛ばされる。
更に女性は敵に迫り、後ろの腰に差していた刃渡り30cmはゆうに超えるであろう大型ナイフで敵の両手首を切り落とした。
そして始めて敵が悲鳴を挙げる。だが女性は更にナイフで敵の足首を切り裂いた。
「…無力化完了」
鮮血を撒き散らしながら悶える敵をよそに、女性は静かに呟いた。
「装備も揃ってないのに悪かったね、チェシャ」
フロッドはそう言って、チェシャという名の黒髪ショートの女性に近づいた。
彼女はジーンズにラフなTシャツというカジュアルな格好と、それに似つかわしくないナイフ、そして金属入りの分厚いグローブを両手にはめていた。
「生憎銃器と服をビル裏に仕込み忘れていました、すみません」
「いいよいいよ、こうやって窮地を逃れられたし」
フロッドはそう言いながら、敵のガスマスクを剥いで顔を確認した。
「…やっぱりイブリースだねぇ。チェシャ、スナイパーの身元は分かったかい?」
「いいえ、調べる前に顔を潰したので」
「そうかい。まぁタッグを組んでいた以上向こうもイブリースだろう。さてと、あまり血で汚されるのも良くないし、適当に息の根を止めてくれ。死体はいつもの業者に頼もう」
「了承しました」
そう言ってチェシャはナイフをしまい、未だに暴れる敵に馬乗りになって無理やり動きを止めさせる。
「いい夢を」
敵の頭を両手で掴み、素早く首を捻ることで敵は絶命した。
死体から離れて、チェシャはアリーチェの姿に気づく。
「ご無沙汰です、アリーチェさん」
「久しぶりー。てか何処行ってたの?」
「フロッドさんの日本公演に合わせて、長期休暇をいただいていました。お土産もあるので、事が落ち着いたらジェロシアさんと一緒にどうぞ」
「ホントに!?お土産ってなになに!?」
「おかき詰め合わせセットと緑茶です」
「ふ、ふーん…相変わらずチェシャは和の心が強いね…」
アリーチェの和の心という言葉で、フロッドはあることを思い出した。
「そうだ、最近面白い日本人がやって来てね。近々チェシャにも紹介しておこう」
「日本人ですか、是非お近づきになりたいです。あ、私の装備一式は…」
「ロッカーにある筈だ。これから少し忙しくなるから、今のうちに装備を整えておいたほうが良い」
「では準備に入りますので、その間に状況のご説明を」
チェシャはそう言ってロッカー室に向かって歩き始めた。フロッドとアリーチェもそれに続いた。
事務所を出て、廊下を歩いて数十秒したところにロッカー室があり、そこに三人は入った。
チェシャは自分のロッカーの前で止まり、二人にお構いなく着替えを始める。
「端的に話すと、イブリース下位が上位ナンバーを襲撃している。ステラさんの情報では日久組も動いているらしい。それに清龍党とゼネリ家も何かしら一枚噛んでいる可能性が高い」
着替えるチェシャから目を逸らしながらフロッドが説明を始めた。
「今までに討伐した下位ナンバーの数は?」
「確認できているだけで9人。情報屋が規制されてて新しい情報が中々仕入れられないんだ、恐らく上位も何人かやられているだろうね」
「他のファミリーからは何も情報は無しですか?」
「ああ。恐らく他のファミリーは一切今回の件に関わらないだろうね。イブリースの内部騒動として片付けるだろう」
「しかし現に日久やゼネリは動いていると…情報が少なすぎます。とりあえず私はフロッドさんの護衛以外にすべきことはありますか?」
そう言いながらチェシャはオフィスレディの制服に蝶ネクタイをつけ、真っ黒のブーツと指貫グローブを装備した。
「…アリーチェ、君はこれからどうする?チェシャの護衛をつけて装備を取りに帰るかい?」
「護衛なんかいらない…って言いたいけど、今回は大人しく従うわ。チェシャなら安心だし」
「…ということだ。アリーチェは下位ナンバーだが恐らくジェロシアの弟子ということで例外扱いされたんだろう、十分襲われる危険がある。フウリーガーデンまで護衛してやってくれ」
「はい。では送迎用の車を使いましょう。防弾ガラス加工なので安全です。フロッドさんはその間どうされますか?」
「向こうの建物に警察を呼ぶ。殺し屋同士の騒動だけどそれなりの予防にはなるからね」
「なるほど、分かりました」
最後にチェシャは服装に似つかわしくないネコミミのカチューシャを頭につける。
それを見てフロッドは噴き出しそうになるがグッとこらえた。
「…もう一年にもなるのにやっぱり慣れないなソレだけは…」
「チェシャはフロッドさんから頂いた大切な名前です。それにあった立ち振る舞いをしなければ」
「そうそう、それに結構似合ってて可愛いじゃん?」
「…この街の女達はどこかずれてる…っと、何でもない。じゃあチェシャ、頼んだよ」
フロッドの言葉に対してチェシャは頷き、ロッカーから特大のショットガン、スパス12を取り出した。
弾を込めたそれを肩に担ぎ、ロッカー室から去って行った。
「…そうだ、もしジェシーから何か連絡があれば一応私にも伝えて」
「ああ、分かってる。じゃあチェシャとのドライブを楽しんできてくれ」




