第三話
───6月2日8時頃、北西区域メープルにて。
雨も上がり、何も変わらぬ一日を晃司は過ごそうとしていた。
すっかり日課となった移動販売車での買い物をしようと、ステラの元に向かった。
「おはようございます、ステラさん」
「あら晃司君おはよう!…っと、悪いけど色々話があるから顔貸しておくれよ」
ステラはそう言って手招きをする。
晃司には概ね予想がついていた。ナンバー3やレイヴンといった関係の話なのだろう。
軽く頷いて晃司は移動販売車に近づいた。
「…お話とは?」
「とりあえず死んでないようで安心したよ。レイヴンさんに一発かまされたんだろう?」
「はい…いやー、あの時はもう駄目だと思いました」
「…で、どうすんだいアンタ。これ以上ナンバー3の件に深入りするつもりかい?」
ステラの言葉に対し晃司はしばし答えを考える。
確かにナンバー3…プレッツェの話はネタとして非常に興味がある。
だが、ジェロシアのあの姿を見てしまった身として、これ以上の深入りは良心が痛む。
そんなことを言っていてはライター失格なのは重々承知だ。でも俺もジェロシアも人の子だ。
「…色々ジェロシアさんから聞いて、俺もこれ以上の詮索はやめようと思いました」
「そう…ありがとね。あの子達の関係って結構デリケートな問題でね。さて、じゃあ次の話だ」
「まだ何かあるんですか?」
「何言ってんだい、こっちが本題だよ」
そう言った後、ステラは咳払いを入れる。
「どうも昨日から街全体の様子がおかしいらしい。特にイブリース関係者の間で何かがあったらしくてね」
「…具体的には?」
「…ま、言っちゃっていっか。イブリースナンバーの上位者が、下位ナンバーに一斉襲撃を受けてるらしい。アタシの旦那も昨夜襲撃されて今は潜伏してる」
「え…って事はジェロシアさん達も…?」
「らしいよ。今フロッドちゃんの事務所に立てこもってるんだってさ。色々臭う案件だし、被害が周囲の人間にまで及ぶ可能性も高い。アンタも気をつけるんだよ」
二人が会話をしていた時、ふと一人の男性が移動販売車に近づき、晃司の横に立った。
「…っと、あらいらっしゃい!ご注文聞こうか?」
と、ステラが男性に問いかけるが、返事はない。
晃司も疑問に思い、男性のほうを向く。
男性は初夏に似合わない分厚い黒いコートを着込んでおり、ハンチング帽を深く被って俯き、顔を隠していた。
「…ステラ・ウィルソン。間違いないか?」
「はい?そうだけど、何か私に用?」
「…お前の旦那、通称ビッグジョージについて幾つか聞きたい」
「…その名を知ってるって事はタダの客じゃないね。いいかい、人に物を聞くときはまず自己紹介をしな。無礼な男にくれてやるものなんてないよ」
「…強気だな、奥さん。だがこれを見たらどうするかな…?」
男性がそう言った瞬間、突如男性は両手をスーツの中に突っ込み、凄まじい速さで両手に拳銃を持って構えたのだ。
銃口はステラと晃司にそれぞれ向いていた。晃司はとっさに両手を挙げるが、ステラはじっと男を睨む。
「その子は何の関係もない一般人だ。見逃してやんな」
「一般人?笑わせるなビッチ。俺は知っている、この男がナンバー1を始めとするイブリースと関係を持っていることを」
「へぇ、物知りだねアンタ。でも態々こんな手を使わないと旦那の場所は掴めないのかい?」
「…口の減らない女だ。いいのか?この店や、お前の娘がどうなっても」
男がそう言うと、ステラは鼻で笑って返す。
「アンタに愛娘をどうかできると思うかい?ナンバー49、スーパーガンスリンガー・マイケルさんよ」
ステラは流暢に、長ったらしくてダサい男の名を口走る。
「…ほう、俺の名をご存知で。それは幸いだ。さて、最強の殺し屋集団イブリースに所属するこの俺と、ただの情報屋紛いな奥さん。どちらが強いかぐらい分かるよな?」
「…っと、これ以上の罵り合いは出来そうにないね。晃司君、この子から離れな」
と、ステラはどこかを見てそう言う。
彼女の視線の先に目をやると、そこには一人の厳しい、執事服を着込んだ老人が立っていた。
晃司は数歩下がり、雲行きを見守る。
「だ、誰ですかあれ?」
「説明は後だよ。ほらマイケルちゃんも此処は大人しく下がりなよ、悪いこと言わないから」
ステラの忠告に、マイケルは耳を貸そうともしない。
彼は後ろを振り返り、今度は老人に銃を構える。
「誰だか知らないが俺の邪魔をするなら容赦しねぇ、いいな?」
マイケルは威勢よくそう放つが、老人は顔色一つ変えずにゆっくりとマイケルに近づく。
徐々に迫り来る老人に流石のマイケルも不安を覚えつつ、銃を構えなおして威嚇をする。
「それ以上近づいたら本当に撃つぞ…俺のネロ・アンジェロとディアボロ・ビアンコがお前の喉元を掻き切り、醜い悲鳴を作り出し、そして…」
「…イブリースは無駄な前口上を語る義務でもあるのでしょうか。センスが絶望的ですぞ、若者よ」
「なっ…!ジジイ、お前も威勢だけは立派だな」
「いいですか、私が正しい前口上を教えましょう」
老人はそう言うと、僅かに口元を吊り上げて一言発した。
「死ね」
たった二文字の言葉と共に、老人が一気にマイケルに駆け寄る。
急いでマイケルは両手の銃を撃ち放つが、まるで弾が勝手に逸れたかの如く老人に傷一つつかない。
二発目を放つ時間すらなく、老人はマイケルの両手の銃を回し蹴りで叩き落した。
その一閃を常人は目で追うことすら敵わない。
両手を吹き飛ばされそうな衝撃に何とか耐えて、マイケルは相手の次の行動に備える。
が、所詮雑魚が何をしようと無駄な事。老人は続けざまにマイケルの頭部目掛けて更に回し蹴りを仕掛ける。
しなる鞭の鳴るような音と、頭蓋骨が砕け散る音が同時にその場に響く。
マイケルは真横に投げ出されて地面に落ち、鼻と口からどす黒い血を垂れ流しながら絶命していた。
たった二撃、しかも体術。圧倒的なパワーに晃司は何も言うことができない。
「…で、アタシ等に何か用かい?」
惨劇を見ていたステラが静かに口を開く。
「いいえ。一般人が輩に襲われていたら、それを止めに入るのが私のポリシー」
「ハン、そうかい。ならとっととそれ抱えて消えな」
「…冷たいですな、若奥様。まぁいい、お二人に話す言葉など何もありませぬから、私は死体処理をして御暇しましょう」
老人はそう言って、マイケルの死体の足を掴み、血の跡を作りながらメープルの路地へと消えて行ってしまった。
「…あ、あの…」
恐怖の対象が消え、やっと晃司が言葉を発する。
「厄介だねぇ、全く。日久まで動いてるとなると今回は相当でかい案件っぽいよ」
「ひ、日久組ですか…あの人が」
「ありゃ日久のゴミ処理担当の与一っていうジジイさ。もう70にも差しかかろうってのに元気なことだよホント」
日久組、と言うことはあの与一という老人も日本人なのだろうか。
何となくこの街に来て一般人扱いされにくい理由が分かる気もする。あんな化け物がいれば日本人ってだけで身構えてしまうだろう。
晃司は深くため息をついて、改めてステラのほうを見る。
「その…何が起こってるか全然分からないですけど、俺も動いていいですかね」
「はぁ…言っても聞かないんだろどうせ。面倒見切れないよ流石に今回は。こっちは自分達の身を守るのに精一杯なんだからさ」
「っと、それですけどいいんですか、キャリーちゃん家に置いたままで」
晃司がそう言うと、ステラはニコッと笑う。
「それについちゃ問題ないさ。実はかなり予定を早めてもらって、隣街のアルゲトンにある学校に六月から入寮することになってね」
「アルゲトン…大丈夫なんですか、隣街なんて行こうと思えば一日ちょっと車走らせればすぐでしょう?」
キャスタニアの郊外を更に東に行き、山を二つほど越えた先にある街、アルゲトン。
此処とは比べ物にならないほど治安は良いらしいが、ならず者共なんて何処だろうとその牙を隠そうとしないはずだ。
「アルゲトンはそこらへん大丈夫なのさ。しかもアルゲトン市立学校はワケアリの子供も多いし、そういうトラブルに迅速に処理できるようになってる」
「そうなんですか。まぁそれなら安心してもいいんですかね」
「ハハッ、悪いね晃司君。アタシ等の子の心配までしてもらってさ。とにかくアンタもこの街に大分慣れてきただろうし、踏み込んで良いラインも分かってきただろう」
ステラはそう言って、一枚の紙切れを晃司に差し出す。
「これは…?」
紙を開いてみると、そこにはステラの携帯電話の番号が書かれていた。
「改めて、アンタとアタシは情報提供し合う仲って事で頼むよ。もちろんこれはビジネスだ、これまでみたいに親切心は無し、いいね?」
これまでに何度かステラと電話のやり取りはしていたし、番号は既に知っていた。
恐らくこれが彼女なりに自分の事を認めてくれたという印なのだろう。
晃司は黙ったまま頷き、その場から去って行った。
「…さて、アタシも少しばかり働きますか」
誰もいなくなった道路脇でステラは呟き、手早く店じまいをして車を走らせていった。
───同日12時頃、中心区域北西部ベターロートにて。
ベターロートの風俗街。その路地の一角にひっそりと建つアパート「ラビーレ」の一室。
「…その部屋はどうだ?」
「窓が無い角部屋はとても快適だ。ベッドも堅くて香水の匂いも鼻につく」
「娘達のアパートが一番身を潜めるのに適していると思っていたが、気に入ってもらえて幸いだ」
「…で、私はいつまで此処にいれば良い?」
「予想通り、この街や郊外で不審な影が多数出てきている。郊外のほうは安心して欲しい、全て解決済みだ」
「そうか…だがやはり此処でじっとしているままでは…」
「昔の血が騒ぐか?お前が望むならその部屋から出ても良いが、命の保障はしかねるぞ」
「…黙れ。もういい、切るぞ」
部屋の隅でプレッツェは乱暴に受話器を叩き付けて電話を切った。
あの日の夜にこの街に戻り、久々に嗅いだこの街の薫りにかつての自分を思い出した。
親友の安全を条件にブレンダの守護という名の監視下に置かれたプレッツェはこの部屋から殆ど動けずにいた。
食材はゼネリ家の誰かが持ってくるし、キッチンもシャワーもトイレも自室にあるので生活面で不自由なことはない。
だが夜な夜な聞こえる娼婦の喘ぎ声と、アパートに立ち篭る香水の匂いにうんざりし始めていた。
せめて自身の薫りを保とうとガラムに火を衝けるが、わずかな煙ではこのアパートの薫りには勝つことは出来なかった。
イライラしながらタバコを灰皿に磨り潰し、じっと部屋の一角を見つめる。
こんな場所でじっとしているだけでは駄目だ、何か行動に移らなければ。
…だが何をすればいいのか。仕事は無い、欲求も無い。
あるとすれば、親友達の平和を祈ること、そして…
「…ちょっといい?あなた新人さんでしょ?」
プレッツェの脳内の交錯は、部屋の外からの声でかき消された。
ゆっくりと立ち上がり、扉の覗き窓から外を伺う。
外には一人のボサボサ頭の娼婦が立っていた。
胸元が大きく出ているヨレヨレのシャツにピシッと張ったミニスカート、そして高いヒールと一目でそれと分かる格好だ。
普段なら扉伝いでもある程度の殺気を感じ取ることは出来る。が、今回は香水が邪魔して相手の素性が見抜けない。
「居留守使っても無駄無駄。あなたが部屋から一歩も出てないことは知ってんだから、プレッツェちゃん」
その上こちらの名前を知られているとなると圧倒的に不利だ。
此処は一旦相手のペースに合わせよう。プレッツェは一息入れてから扉を開けた。
「…気合入ってるねぇ、部屋の中でもスーツなんか着てさ」
「…用件だけ伝えろ」
プレッツェがそう言うと、娼婦はニヤニヤ笑いながらゆっくりとプレッツェに近づく。
両手に武器は見えないが、警戒するに越したことは無い。プレッツェも後ろに一歩ずつ下がった。
「私さ、女専門の娼婦やってんのよー。結構これが評判良くってさ。此処は一つ先輩のサービス、受けてみない?」
娼婦はそう言いながら、確実にプレッツェとの距離を縮める。
生憎レイピアまでの距離は遠い。
「興味はない、帰れ」
「つれないなぁ。私知ってるんだよね、あなたがレズだってことさ」
唯の出鱈目か、過去の出来事を勘違いしているか。どちらにせよ、やはりこの女はただの娼婦ではない。プレッツェはじっと娼婦を睨みつける。
「…目的は何だ」
「だからぁ、私と寝てよー。お願いよー、ね?」
プレッツェのかかとが壁にぶつかる。とうとう追い込まれてしまった。
娼婦はプレッツェの頬に左手をそっと差し出すが、プレッツェは顔を背ける。
「ふふーん、結構初心ねぇ。可愛いー、食べちゃいたいくらい」
「私に触るな…警告はしたぞ」
「強がっちゃってー…イブリースナンバー3、プレッツェちゃん」
そう言った瞬間、娼婦はスカートの後ろからダガーナイフを取り出し、プレッツェの首元に突きつけた。
だが刃物を見た瞬間プレッツェの目が変わる。刃物に臆すること無く素早く娼婦の右手首を左手で掴み、更に右手で左腕を掴んだ。
そして勢い良く娼婦の肘目掛けて膝蹴りをかました。
一連の流れに娼婦は逆らえず、腕が本来曲がらない方向に音を立てて曲がる。
あまりの痛みに顔を歪めてナイフを落とす娼婦は、更にプレッツェのタックルを正面から食らい、後ろに吹き飛ばされた。
一方プレッツェは攻撃の手を緩めることなく、地面に落ちたナイフを拾って壁に叩き付けられた娼婦に一気に近づく。
そしてナイフを娼婦の心臓を貫くように突き刺した。
部屋に娼婦の断末魔が響き、心臓から赤い水が滴りだす。
「…何が命の保障だ、ふざけやがって」
プレッツェはナイフから手を離し、まだピクピクと僅かに動く娼婦を無視して電話を手に取った。
「もしもし、ブレンダだ」
「お前達の挨拶はえらく無礼だな。そんなに私の腕試しがしたいか?」
「…状況が読めんな」
「しらばっくれるな…お前の飼ってる娼婦が一人、私を殺しに来た。ゼネリ家の女は殺しのサービスまで請け負っているとはな」
「何だと?その女はまだ生きているか?すぐに正体を吐かせろ」
「もう始末した。顔には傷つけていない、それで調べろ」
プレッツェはそう言って電話を切った。
そして今度は自身の携帯電話をポケットから出すと、娼婦の顔をフレームに収めてシャッターを切った。
「…私の居場所を隠しても無駄か。ならいい」
そう言いながら、プレッツェはある場所に顔写真を転送した。
するとしばらくして彼女の携帯が鳴る。
「…一人殺した、判定はどうだ」
「イブリースナンバー35、雌食い娼婦ジュリア。報酬額およそ1万2百ドル。指名手配無しなのでそちらに報酬は入りません」
「…同業者か」
「お久しぶりです、プレッツェさん。まさかまたこのアドレスから連絡が来ると思いませんでした」
「キャンディ、話せる範囲で構わないから状況を教えろ」
「分かりました。とは言ってもこちらも調査中なのですが、イブリース下位ナンバーが上位ナンバーに襲撃をかけているようです」
「そうか。どうやら私も今回の事件に巻き込まれたらしいな」
「…私からは深くは問いません。また何かあればご連絡を、イブリース構成員としてのサポートはいたしますので」
「ああ、悪いな」
プレッツェは携帯を切り、ベッドに腰掛ける。
どうやらこの街に戻ってきた目的の一つ…ジェロシアとの再会はより危険なものになってしまったようだ。
まぁいい、親友の無事とジェロシアへの贖罪、それだけが叶えば私の身などどうなっても構わない。
ゼネリ家の組員が来るまで、プレッツェは死体を前に一服しながらこれから起こりうる闘争に向けてかつての自分自身を呼び覚ましていた。
───同日19時頃、北西区域メープルにて。
メープルの高架下、この時間帯は普段怪しい店が多く並んでいるが、今日は街の気配を察してか店は一つも出ていなかった。
代わりに、四人の軍服を着てAK47を提げた男達と、一人の男性の死体が路地に存在していた。
「何がナンバー9だ、一人じゃ何も出来ねぇ雑魚じゃねぇか」
男の一人がそう言って死体につばを吐く。
もう一人の男は無言のまま腰にぶら下げたマチェットを取り出し、死体の首を切り取りに掛かった。
「これで100万とかぼろ儲けだわマジ!傭兵なんて馬鹿らしくて出来やしねぇな!」
「ホントっすわ!戦場の最前線で死ぬ気で殺し合いなんて俺等何考えてたんすかね?」
二人の男達はそう言って囃し立てる。
「この調子で残りもいこうじゃねぇか。次はどいつにしようか…」
「MF、これ資料っす!」
「おお、悪いなFW」
MFと呼ばれた男はFWから資料を受け取った。
「…レイヴンか。嫌な名前だな、DF」
「レイヴン?ああ、聞いたことあんな。ま、ワタリガラスなんてありきたりなコードネームだし、まさかアレじゃないだろうよ!」
「…GK、レイヴン嫌い。アイツ思い出すだけでイライラする」
GKという名の男はそう言いながら死体の首をビニール袋に包んだ。
「ま、一人ずつ行きゃ絶対勝てる。いいな、俺等は元傭兵としてチームワークで勝負だ」
「俺達四人が集まれば敵無しっすよ!」
男達は妙な団結力を見せつつ、まるで戦場にいるかのようにAK47を構えながら辺りを見回す。
「何かこの辺は視線が多い気がすんな」
「仕方ないっすよ、此処はクソ共の巣窟っすからね…!?」
突如、一発の銃声が響き渡る。
幸い四人に怪我は無く、急いで敵の位置の把握に務める。
「う、上か!?」
DFはAK47と共に左手に持ったライトをつけて上に照らす。
高架のわずかな足場に人影が現れ、それと同時にもう一発の銃声が響く。
次の弾丸はDFの眉間を直撃していた。AK47とライトを落としながら地面に倒れこんだ。
「チッ、マジッすか…!」
残りの三人は影目掛けて引き金を引き続ける。
だが影は既に消え、三人がそれを追う前に更に一発の銃弾がFWを捉えていた。
「GK、絶対ぶっ殺す」
GKは地に落ちた影のほうを向くが、影は既にGKの目の前に迫っていた。
一瞬でAK47を叩き落され、GKは後ろに一歩下がりマチェットを構えた。
だが影は前進し続ける。即座に薙ぎ払ったマチェットの刃を、あろう事か左手で掴んだのだ。
どろどろと生血が流れるが、手が切り裂かれることは無く遂にマチェットは奪われる。
それと同時に右手に持った拳銃のトリガーに手を掛けてGKを息絶えさせる。
「や、ヤバイぞ…!」
残されたMFもAK47を撃つが、不幸にもGKが肉壁となり影の位置を掴めない。
そうこうしていると、GKを迂回するように先ほどのマチェットがブーメランのように飛んできて、MFの右腕を叩き切った。
悲痛な叫び声を奏で、落ちた右腕を支えることも出来ず、MFはその場に立ち竦む。
穴だらけになって倒れたGKの先に、影の正体が口を緩めて立っていた。
「…や、やはりレイヴン!」
「上で聞いてたけど、まさか私の事知ってた子がいたなんて」
レイヴンは左手から血を流しながら、ふらふらとMFに近づいた。
「ど、どうしてお前が、イブリースに…!?」
「だって、此処にいたら沢山戦えるって聞いてさ、だったら行くしかないってなるじゃない。お前さんたちも、そういう口だろ?傭兵業に飽きて、って感じで」
「相変わらず…だな…」
「残念だねぇ、私に会ったばっかりにもう戦争ごっこ出来ないなんて。あ、そうだ。何かチームワークがどうとか言ってたけどさ」
レイヴンは既に虫の息のMFの髪の毛を血まみれの左手で掴む。
「お前等、所詮ナンバー下位の雑魚集団だわ。戦っててクソつまんなかったし。そんなんでどうやって戦場渡り歩いてた訳?」
「…殺せ…早くしろ…」
「私とおしゃべりしたくないって?あー傷つくなぁ。じゃ、お望みどおり殺してやるよ」
レイヴンは右手に持ったM1911をしまい、代わりに拳を握り締めて思いっきりMFの顔面を殴った。
巨大な金槌を食らったかの如く顔の骨が砕け散り、顔面のいたるところから鮮血と体液を噴き出してMFは事切れた。
髪の毛を離し、おまけで一発キックをかました後、レイヴンは腰のポーチからスキットルを取り出して口につけた。
「…あー、次はもっと強そうなの返り討ちにしよ。これじゃ全然イケないわぁ」




