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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第五章:決別 ~ナンバー3編~
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第五話

───5月31日20時頃、北西区域メープルにて。

メープルには小さなバーがいくつか点在しており、飲酒目的以外にも様々な客が利用する。

その中の一つ「カリスト」は、特に人気のない通りにある建物の地下一階にある薄暗いバーで、普通の客はまず訪れない。

だが、俺達のような人間にとってこのバーは何かと都合のいい場所でもある。

俺はバーの扉を静かに開けて、店内を見渡した。

予想通り、赤髪の女性がバーの端のテーブル席…彼女の定位置に座っていた。

彼女の元にゆっくりと向かい、彼女の前に座る。


「…やっぱり此処だったか、ジェロシア」


俺がそう言うと、ジェロシアは虚ろな左目で俺のほうを見てきた。


「旦那さん、用事かしら?」

「いいや、何となくな」

「そう…」


テーブルに置かれたブッカーズのボトルは既に底をつきそうだ。

そして彼女のグラスには氷一つ入っていない。


「そんな酒を割らずに飲んだら胃が荒れるぞ」

「あら、いつから私の親父になったの?余計なお世話よ」

「ガキがいるとついお節介になってしまうんだよ…火種借りて良いか?」


俺は懐からパーラメントを取り出して、一本銜える。


「あんたタバコ吸ってたっけ?」

「ステラの奴を拝借してみた。アイツが吸うぐらいだからいいモンなんだろ?」

「さぁ、どうかしら」


ジェロシアはそう言いながら彼女のベストからジッポを取り出して俺に渡した。

俺は火をつけようとタバコを炙るが、中々燃え移らない。


「…息を吸いながら火をつけるのよ」

「お、おうそうか…ホントだ」

「アリーチェですら知ってるわよそんな事」


俺はジッポを返して、煙を勢い良く吸い込んで思いっきりむせた。

何だこれ、口の中が辛くてたまらない。

長いタバコをすぐに灰皿に投げ捨てると、ジェロシアは呆れた顔をしていた。


「情けないわね」

「こんな煙体に毒だ、うん」

「…で、早く本題に移りなさい。私は今一人で過ごしたいの」

「まぁ急かすな」


そう言って咳払いを挟んだ後、俺は話を続けた。


「プレッツェのこと、知ったんだろ?」

「…もうそんなに流れてるの」

「行くのか、彼女の元に」

「だとしたらあんたは全力で止めるかしら?」

「どうだろうな」


俺がそう言うと、ジェロシアはグラスを傾ける。


「…あの時と似てるのよ。今の私」

「…プレッツェがいなくなった時のことか」

「酒をどれだけ飲んでも、いくつも屍の山を作っても、満たされないのよ…どうしたのかしらね、私」

「…プレッツェがまだ元気だと知って、どう思った?」

「…あの子、写真の中で他の女性二人ととても幸せそうにしていた。良いことじゃない、あの子殺し屋業をあれだけ嫌がっていたんだから」


そう語るジェロシアは心此処にあらずといった感じだ。


「…お前らしくないな、いつも欲望に忠実に生きているのに」

「五月蝿いわね、私のことを知ったような口聞かないで」

「…いつまで此処で飲んだくれてるつもりか?お前が殺したチンピラのせいで清龍党が動いてる、じっとしていれば捕まるぞ」

「どうでもいいわ。来たら殺すだけよ」

「…ったく、ならはっきり言わせろ。会いにいけ、プレッツェに」


二人の関係を知っていた分、この事を正直言いたくは無かった。

だが、このまま彼女にウジウジされるのも癪に障る。


「嫌よ、今更あの子に会うなんて。向こうも望んでないわ」

「何故言い切れる?」

「私に別れの挨拶無しに去ったって事は、私の事なんて全く想ってなかったのよ、きっと。ならこのままそっとしておいてあげましょう」

「お前は恋する乙女か?自分の本心に従え、こういうときは」

「本心、ねぇ。私は本当はどうしたいのかしら…もしあの子に会ったとして、何を伝えたいのかしら」


ジェロシアはじっとグラスを見つめながらそう呟く。


「…実を言うとな、時間が無いんだ。ゼネリ家がプレッツェと接触を図るらしい。それにレイヴンも動いている。もしかするとかなりの大事になるかもしれん」

「私が此処で飲んでる間にそんなに動いてたの…」

「お前が何をしようとこの騒動からは逃げられん。なら後悔しない道を行け。俺はお前がどんな道を選ぼうとそれを見守る、一応お前の上司だからな」

「フフッ、部下に功績が劣った上司なんて頼りにならないわ」


ジェロシアはそう言ってゆっくりと立ち上がった。


「…行くのか」

「表に何人か来てるみたいよ。まずはそれを殺してあげましょう」

「バックアップについてやる、思う存分暴れろ。マスター、アレを」


俺がそう言うと、マスターが黙ったままカウンター裏からVz61を二丁取り出してカウンターに置いた。

それを受け取り、俺はゆっくりと扉に向かって歩くジェロシアを見る。

その時、扉を勢い良く開けて何人かの男達が銃を構えて雪崩れ込んで来た。


「敵は六人ね」


瞬時に敵数を見切り、それと同時に右ホルスターからSAAを取り出したかと思えば、敵は全員床に伏す。

圧倒的だ、彼女は。動体視力、瞬発力、命中力全てにおいて誰も敵わない。


「第二波も来るぞ」

「…旦那さんも撃ちたくてウズウズしてるのかしら?」

「言っただろ、バックアップだ俺は」


無駄話をしていると、扉の向こうから銃弾が飛んできだした。

俺達は近くのテーブルの影に隠れ、敵が来るのを待つ。


「グレネード行っとくぞ」


俺は懐からグレネードを取り出してピンを抜き、すぐに扉の向こうに投げた。

どこからか流れに流れた粗悪品だが威力は十分だ。向こうで慌てふためく声と爆発音が重なる。

すぐにジェロシアが飛び出し扉の向こうへ駆けて行く。俺もそれに続いた。

店を出て暗い廊下には既に生きた人間は残っていない。


「角に二人」


ジェロシアはそう言いながら後ろの腰に差したSAA二丁を構えて前に進む。

彼女の宣言どおり奥の角から二人の男が銃を構えて飛び出してきた。

やはり場数を踏んでいない構成員なのだろう、ジェロシアにスピードで勝てるはずが無いのに。

無残にも二人の男は引き金を引くことすら敵わず脳天に風穴を開けられてしまった。


「曲がったところにも数人いるな」

「つけられたでしょあんた、まぁ楽しいからいいけど」

「…喜んでくれて幸いだ」


ジェロシアは角に張り付き、ちらりと奥を伺った。


「また二人、か」


ジェロシアは両腕に持ったSAAの撃鉄を親指で起こすと、角から一気に飛び出して同時に引き金を引いた。

被弾するリスクを一切恐れないスタイルは、結果的に勝利を生み出す。


「曲がってすぐに階段だ、上にもいるぞ多分」

「いや、いないわねこれ…気配を感じない」


ジェロシアと俺は道を進んで、ゆっくりと階段を昇る。

そして地上に出ようとしたとき、突然ジェロシアが階段を一気にかけ上り出した。

俺も敵の位置を即座に察知した。向かいの建物屋上にスナイパーがいたのだ。

ジェロシアに続くのは無理だった。強烈な射撃音と共に俺とジェロシアの間に巨大な弾痕が出来る。


「ジェロシア、ありゃちょっと無理だ。俺は此処で待機する、後は任せたぞ!」

「ええ。旦那さんもお元気で」


ジェロシアあそう言い残してどこかへと走り去って行ってしまった。

俺は一旦地下に戻って一息つく。


「…全く、俺はいっつもあいつ等の世話を見てるな…」


あの二人がイブリースに入ってから、彼女等に戦闘面以外のサポートを精力的に行ってきた。

ステラも世話焼きな一面があるが、俺はそれ以上にお節介な人間なのかもしれない。

幼い頃からこの世界に染まりきった二人をどうしても救ってあげたかったのかもしれない。

…俺なんかじゃ無理なのにな。



───同日同刻、メープルのカリスト向かいの建物屋上にて。


「あー、シクったー。ちょろちょろしてちょーウゼー」


一人の少女がPTRS1941を伏せ撃ちしながらそう言った。

無骨な銃に似合わない格好をした金髪の少女は震えるスマホを取り出す。


「あー、おっさん何の用?」

「不機嫌だな、リリ。殺し損ねたか?」

「んだよ、そーだよわりぃか?」

「いや、お前には最初から期待していないから大丈夫だ」

「感じわりーマジ。イヤミ言うためだけに電話してくんなよホント」

「…次の作戦が決まった、引き上げろ」

「えー、メンドー。じゃあちょっち飯食ってから行くわー」


リリという名の少女は電話を切り、立ち上がってPTRS1941を担いだ。


「え、もう終わり?たった一発で?つまんない小娘」


そう言いながら屋上に女性がやって来る。


「あ?ウチに文句あんの…って、あれなんでレイヴンのババァがいんだよ?」

「口が悪いクソガキちゃん、もう少しおしとやかになんなさい」


レイヴンはそう言いながらリリに近づいた。


「ババァの相手してるヒマねーの。デカ乳の仲間なら相手してやらないこともないけど」

「こんな消極的な子を捻り潰すのも楽しくないからやめとくわ。それより、本当の狙い教えてくんない?」

「はぁ?あれぶっ殺すのが狙いに決まってんじゃん」

「もっと本質。ジェロシアがチンピラを殺してわざと問題起きるよう導いたんだろ、清龍党のおっさん」

「…なーんだ、お見通しってワケ。じゃ、隠さないでいっかー。何かさ、イブリース縮小したいらしいんだってー、あのおっさん」


リリがそう言うと、レイヴンは口元を緩める。


「それは面白い」

「しかも日久の坊主もそれに同調してるらしくてマジウケる。ま、もうちょっとしたら本格的にイブリース狩りすんじゃなーい?」

「でも上位ナンバーをそう簡単に殺せるの?お前等糞雑魚共が?」

「ババァも口悪すぎじゃね?大体テメェにイブリースとかカンケーあんの?」

「…無知は罪。ガキはおとなしくお勉強しなさいな」

「…あんま調子のってっと、殺しちゃうよマジで」

「じゃあ殺せ、早く」


二人は狂ったような笑みを浮かべながら睨み合う。


「…マジウゼェしー、腹減ったしー、帰るわ」

「お腹空いたのなら仕方ないわねー。早くお帰り」


リリは舌打ちを返し、建物の端まで歩いていくと、銃を担いだまま建物を飛び移って去って行った。


「さてと、ジェロシアはプレッツェの元に行くのかしらねぇ…っと、誰だ?」


レイヴンは携帯を取り出して通話を始める。


「あーら、ステラちゃーん、お久ー」

「久しぶりです、レイヴンさん。そのですね、フロッドから聞いてるとは思いますが…」

「ああ、御守りは終わった。アリーチェはこれ以上動かないらしいし、晃司は一発殴っといたから万事OK」

「ちょちょ、勘弁してやってくださいよホント。で、ジェシーのほうは?」

「今メープルから移動中。多分プレッツェに会いにいくはず」

「あーやっぱり…止めるべきですかね?一応プレッツェには連絡したんですけど」

「好きにさせてやんなさいな。二人の痴話喧嘩また見れんだったらそれでいいじゃん」


レイヴンはそう言って静かに笑った。


「レイヴンさんは楽観視しすぎですよ…とにかくアタシは二人が上手く取り繕えばいいと思ってるんですけど」

「なるようになるってそっちは。別件のほうがもっと面白そうだから、私はそっちのほうで動くことにするわー。また今度飲みに行きましょう」

「え、別件って、ちょっと…」


話を続けようとしたステラに構わずレイヴンは電話を切った。

既に下の通りにジェロシアの姿は無い。

レイヴンはニヤリと笑って屋上を後にした。

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