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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第五章:決別 ~ナンバー3編~
32/71

第六話

───6月1日午前0時頃、北西区域メープル、ノースハウス一室にて。

やっとレイヴンに殴られた箇所の痛みが和らいできて、俺は安心してベッドに寝転がっていた。

あの後すぐにアリーチェも帰り、結局俺は置いてきぼり。

まぁあんな強烈な一撃を食らった後に動くことなんて出来なかったし、別にいいんだが。

それにしてもあのパンチは凄まじかった。日本でも割りと頻繁に暴行は受けていたが、マジで死ぬと思ったのはこれが始めてだ。

まるで鉄塊で貫かれたかの如き威力、骨が折れなかっただけマシだ。

このまま寝て、明日も安静を取ってダラダラしよう、そう思っていた時またしても勝手に部屋の扉が開かれた。


「…ジェロシアさんでしたか、こんな夜にどうかしましたか?」


もうすっかり見慣れてしまったその異様な姿に、俺は驚くこともない。俺はベッドから体を起こした。

だが、今日のジェロシアはいつものような余裕を感じさせない。表情は無く、じっと俺のほうを見つめてくる。


「依頼、受けてくれるかしら」

「…内容次第です」


俺がそう言うと、ジェロシアはこちらに近づいてきた。


「あんたが雑誌に載せていた女三人の写真…あれの撮られた場所を教えてほしいの」

「えっと、それならいいですよ…俺もその件で散々振り回されましたし」

「…そう」


ジェロシアはそう言って、俺の隣に座った。


「会いにいくんでしょう、プレッツェさんに」

「…そこまで知られちゃったか。情報収集力、流石ね。私が見込んだだけのことはある」


今回の件については半分くらい勝手に情報が降り注いできた為自分の手柄ではあまりないのだが、彼女に純粋に褒められると思っていなくて妙な感情が芽生えてしまった。

彼女は俺の肩にそっと寄り添ってきた。いつもの様な露骨なセクハラではない、何処か憂いを思わせる素振りだ。


「…あの子と同じぐらいの高さだけど、やっぱりゴツゴツして不愉快ね」

「なら最初から頭を乗せないでくださいよ」

「…この部屋にいると、どうしてもあの子の事を思い出してしまう」

「どういうことですか?」

「…私がこの街に来てすぐ、まだ住居も何も持ってなかった頃。私、この部屋に住んでいた彼女の所で暮らしてたの」


偶然が重なる事が本当に多い場所だ、この街は。


「もしかして、この部屋の弾痕もジェロシアさんが…?」

「ええ。あの子にチョッカイかけたくて不意打ちしてみたんだけど、どれも弾かれて…あ、私つい過去の事を話しちゃったわ」

「思い出を語ることも、たまにはいいと思いますよ。特にプレッツェさんとの思い出はそんなに悪いものじゃなかったんでしょう?」


俺がそう言うと、ジェロシアは俺から頭を離して俺のほうを虚ろな目で見てくる。


「どうかしら。あの子がいなければ、純粋に殺しと酒だけで満足できる体になってたのかもしれないのに…今の私はそんなものじゃ一切満たされない」

「…やっぱりそれだけ想っていたんですね、彼女の事」

「…分からないのよ、私。あんた達は私はあの子を好きだと言うけど、私は何であの子に惹かれるのか全然答えが出ない」


今日のジェロシアは本当に弱弱しい。まるで女子中学生の恋愛相談を受けている気分だ。

ふと俺はかつてステラに言われた言葉を思い出した。殺し屋は非現実的なものではない、普通の人間なんだと。

彼女も無数の殺人を犯したことを除けば、歳相応の女性に変わりは無い。

ならいつもみたいに適当な返事を返すだけじゃ彼女を傷つけてしまうかもしれない。

俺だって大人の男だ。しっかりとした答えが返せなくてはならない。


「…その答え、彼女にもう一度会えば見えるかもしれませんよ」

「そうかしらねぇ…あの子、私に会うことを拒みそうだけど…」

「俺の元に来た時点である程度決心はついていたんでしょう?それに、こういう問題はお互いがある程度離れた後になって改めて解決したりするもんです」

「何だか胡散臭い心理カウンセラーさんみたいね…でもありがとう。決心がついたわ」

「その…よければ送りますよ、彼女の所まで。結構遠いんで…もちろん彼女と会う時に邪魔はしません」


俺の言葉に対し、ジェロシアは少しだけ口角を上げて見せた。


「意外と親切ね。じゃあお言葉に甘えようかしら。それで、タクシー代は幾ら出せばいい?」

「タダで結構です。これまでジェロシアさんには興味深い情報を教えてもらったりしましたし」

「…人が良すぎるわ。それじゃあもう一つだけお願い。あんた、銃は持ってる?」


唐突な質問に一瞬面食らう。

前にステラさんから借りた銃を今も所持しているが、一発も使用していない。

俺はゆっくりと首を縦に振った。


「そう…なら、もしもの事があればそれで私を撃ち殺しなさい」

「…え?」


彼女の意図が掴めない。護身用に持っておけと言われるのかと思っていたのでどう言葉を返せばいいかに迷う。


「…あんたも知ってるでしょ、あの子は今二人の女性と一緒に暮らしている」

「え、ええ」

「恐らくあの二人は一般人、私達とは違う世界の住人。でも私にとって…もしかしたらプレッツェを奪った仇敵かもしれない」


そこまで来て薄々彼女が何をしでかそうとしているかに気づく。


「まさか…殺すつもりですか」

「私って意外と物事を冷静に考えるのが苦手なの。つい興奮すると手が出ちゃう…でも多分、あの二人の死はプレッツェにとってとてつもなく大きな悲しみを生む」

「そうでしょうね…」

「それに一般人を殺せばこの街全員の敵になってしまう。そうなる前に、あんたが私を殺すの」

「…本気ですか?」


俺がそう言うと、ジェロシアは俺から目線を逸らし、遠くの壁を見る。


「この私が、殺されたいだなんて冗談で言うと思う?」

「…俺に引き金を引かせるような真似、絶対にしないで下さいよ、お願いします」

「世話かけるわね」

「出発は早朝にしましょう。パン屋だから朝も早いはずです。それまでジェロシアさんはベッドで寝てていいですから」

「本当?嬉しいわ、久々にこのベッドで眠れるなんて」


そう言ってジェロシアはベッドに倒れこんだ。しかしすぐに顔をしかめて起き上がった。


「臭いわ、臭過ぎる。男の臭いってどうしてこんなに不快なのかしら」

「お、俺ってそんなに臭いますか…?」

「此処の宿はベッドメイキングしないでしょ、だからあんたの臭いが積もり積もってるのよ。いいわ、私床で寝るから」


ジェロシアはそう言って立ち上がり、床に足を伸ばして座り込んだ。

アリーチェにも臭いと言われ、流石に傷つく。俺ももう歳なのかもしれない。



───私としたことが他人のいる部屋で熟睡してしまった。

急いで目を開き、晃司のほうを見る。既に彼は出発準備を終わらせていた。

外はまだ暗い。ベッド近くにあった時計を見ると時刻は5時過ぎを差していた。


「…おはようございます。俺は外でエンジンを温めてきますんで、準備出来次第来てください」


晃司はそう言って部屋から出て行った。

此処最近、いつもあの子の夢を見ていたが、今回は誰も夢の世界に出てこなかった。

三年ぶりの再会、か。改めてあの子に会うとなると複雑な感情が生じてしまう。

まずは何て声をかけるべきだろう。それ以前にあの子は私に会ってくれるのかしら。

…まぁいい、その時に思い浮かんだことを言おう。

私はゆっくりと立ち上がり、宿を後にした。

宿の前の道路では、晃司が大型のバイクにまたがっていた。


「…それに乗れって言うの?」

「まだ車は持ってないんで…あ、運転は割と自信あるんで心配しないで下さい」

「そうじゃなくて…胸押し付けないといけないじゃない、二人乗りだと」

「いつも押し付けてるでしょ、今更何言ってんですか。早くしてくださいよ」


レディに対してひどいこと言うわね。

まぁタダで乗せてくれるのなら文句はあまり言えない。仕方なく私は晃司の後ろに乗った。


「じゃあ行きますよ。それなりに飛ばすんでしっかり掴まって下さい」

「…そう言ってラッキースケベ狙っちゃって」

「違いますって…ほら、出発します」


そう言って晃司はバイクを走らせ始めた。

まだ日も昇らない街には車も一切走っておらず、バイクはどんどんとスピードをあげて行く。

頬を掠める風が痛い。不意に私は晃司の背中にしがみ付いてしまう。

そう言えば、あの子もバイクが好きだった。仕事現場に行く時もこうやって一緒に乗っていたっけ。

ああ、またあの子の事を思い出す。口では過去の事を話したくないというくせに、想うのは思い出ばかり。


「…少しだけ、プレッツェさんの事を聞いてもいいですか?」


バイクを運転しながら晃司がそう言う。


「何かしら?」

「プレッツェさんは…その、殺し屋時代の時はどんな方だったんですか?俺、あの人にそんな過去があったなんて事にわかには信じられなくて」

「…仕事のために殺しを行う、殺し屋らしい殺し屋だった。口数も少なくて、最初は何を考えているのか全く分からなかった」

「でも、いつの間にかパートナーとして働けるぐらいに親密になれたんですね」

「私が勝手にあの子にくっついていただけかもしれないけど」


最初は、何て言ったが実の所あの子の本心なんて最後まで掴めずにいた。

金のために仕方なく殺しを請け負う彼女が、私の事をどう思っていたなんて全く分からない。


「…そうですか。そろそろ街を出ます。郊外を30分ほど走りますけど、ほぼ直進なんでもっと速度を上げますんで、気をつけてください」


晃司がそう言うと同時にバイクのスピードは更に速くなる。

少しでも腕の力を緩めると振り落とされそうだ。

私はちらりとわき道に目をやった。

…やはりか。至る所に監視の目が広がっている。

それがファミリーのものかどうかは分からないが、私達を警戒していることだけは伝わる。

晃司は運転に集中して気づいていないようだし、この速度なら狙撃の心配も要らないだろう。

お互いに言葉を交わすことも無く、バイクは道を行く。

速度が落ち始め、目的地についた頃には日もすっかり昇っていた。

ついた先は一軒のパン屋。Dear Friendsか、嫌いじゃないセンスだわ。

私達はバイクから降りる。


「…じゃあ、行ってらっしゃい。俺は外から見てます。一応、ジェロシアさんの頼みですから」

「ええ、お願いね」


私はそう言って、パン屋の向かいにある畑の更に向こうに茂る林を睨む。

そこにも何人かの人間、更に一人はスナイパー。

どうしてこんなに厳重な監視が敷かれているのか、それだけ私は招かれざる客というわけか。

私はパン屋のほうを向きなおし、足を一歩ずつ進めた。

そして大きな扉をゆっくりと開く。店の中は洒落たカフェのようになっており、奥にはパンが並んだカウンターがあった。


「いらっしゃいませー!おはようございます、今日一人目のお客様ですね!」


そう言って一人の小柄な女性が奥からドタバタと走ってきた。写真に写っていた黒髪ショートの女性、エプロンには「クロワ」と描かれていた。

いきなりプレッツェがいるかどうか聞くのも怪しいだろうし、とりあえず客として接してみるか。


「こちらで召し上がってもいいかしら?」

「どうぞー!お飲み物、何がいいですか?」

「じゃあコーヒー、ブラックでお願い」

「かしこまりました!パンはあちらのカウンターで選んでください!」


クロワはそう言って奥の厨房のほうへまた消えて行った。

適当にパンを選びながら厨房のほうをチラッと覗いてみたが、どうやら彼女一人だけらしい。

クロワッサン一つを皿に乗せ、近くのテーブル席に腰掛けてコーヒーを待つ。


「おまたせしましたー!熱いので気をつけてください!」


クロワはそう言ってコーヒーの入ったカップを私の前に置いた。


「ありがとう。それにしても一人?大変ね」

「本当は三人いるんですけど、今一人は町のほうに宅配に行ってるんですよー」

「そうなの。もう一人は?」


私がそう言うと、ふとクロワは目線を逸らす。


「えっと…今ちょっと大事な用事があるらしくて、お店を離れてるんです」


まさか、プレッツェの事なのだろうか。だとすればすれ違いになってしまったのか。


「そうだったの…そうだ、ちょっと私の話し相手になってくれないかしら?まだ朝も早いし、他の客もいないし」

「あ、いいですよー!」


クロワは笑顔でそう答えて、私の向かいの席に座った。

何だか子供みたいな子。こんな私に何一つ臆することなく接してくる。


「嬉しいわ、クロワちゃん」

「私もちょっと休憩したかったんでー。あ、お客さんお名前を聞いてもいいですかー?お客さん、っていうのも何か変ですし」


名前か、これは困った。何て答えよう。

…アリーチェたちが呼ぶ愛称で良いか。


「私はジェシー、よろしく」

「ジェシーさん!良い名前ですねー」

「そうかしら。初めて言われたわ。さてと、こんな大きなお店たった三人で切り盛りするなんて大変じゃない?」

「大変ですねー。でも、楽しいんです!パンが大好きだし、二人とも昔からの親友ですし!」


…親友、か。あの子にもそんな存在がいただなんて。

あの子は私より殺しに関わった年数が長いと言っていた。

だから、勝手に物心ついたときから血を見てきたんだと思い込んでしまっていた。

でも、彼女も幼い頃にはこんな普通の女性の知人がいたのね。


「親友と一緒、それはいいわね」

「はい!皆それぞれ別の進路を歩んでたんですけど、私が一緒に働こうって声をかけて、そしたら二人とも来てくれて…」

「へぇ、そうなの」

「二人とも、最初は何だか暗かったんですけど、一緒に生活するうちにどんどん明るくなってくれて、何だかそれがとっても嬉しくて!」


親友の事になると話が止まらなくなるのかしら、この子。

途中で遮るのもあれだし、しばらく彼女の話をパンを食べながら聞いていた。

パン屋で働いていたときに起きたアクシデントや笑い話をとりとめなく話す彼女。

そこに出てくるプレッツェと思われる女性もまた、ごく普通の女の子のようで、とても同一人物とは思えない。

…晃司に言った言葉を後悔する。何がプレッツェを奪った仇敵だ。あの子はただ、親友の元に返っただけだったんだ。

何なら私があの子の道を狂わせかけたのかもしれない。

今になって彼女と再会しにきた私を惨めに思う。

ひとしきりクロワの話を聞き終わった後、彼女は少し暗い表情になる。


「…あの、一つだけ聞いてもいいですか?」

「…何かしら」

「実は、その…今ちょっといない子から伝言を頼まれていて、赤い髪の女性が来たら伝えて欲しいって言われてるんです」


あの子の、伝言?彼女も私が此処に来ることを予見していたのか。


「そう…確かに私は赤髪よ」

「あの、じゃあジェシーさんは…プレッツェの知り合い、ですか?」


クロワの質問に、黙って私は首を縦に振る。


「そうでしたか…ありがとうございます、私のお店まで来てもらって!」

「感謝されることかしら、それ」

「プレッツェからの伝言をどうしても伝えたくて…」


クロワはそう言って、一息ついた後に言葉を続けた。


「あの街で会おう、って言ってました」


…しばらく店を離れるという旨、態々私が来ることを予見しての伝言。

あの子の殺し屋時代の傷が、今になって痛み出してしまったのか。

一体何があったのかは全く想像もつかない。

だが、これだけは分かる。あの子はあの街に戻ることを一切望んでいない。

プレッツェは、このパン屋で生活することを望んでいるはずだ。


「…伝言、確かに受け取ったわ」


そう言ってクロワのほうを見てみると、何故か彼女はうつむいて肩を震わせていた。


「どうかした、クロワちゃん?」

「ジェシーさんは…プレッツェの事、知ってるんですよね?その…お金を稼ぐために人を殺していたっていう事を…」

「…あんた、あの子の過去の事を知っていたの?」

「私も、最近聞いたばかりなんですけど…」


先ほどまでの嬉しそうな物言いに比べ、もう消え入りそうなほど小さな声だ。


「…あの子の過去を聞いて、あの子の事、怖いと思った?」

「…いいえ、って言えたら、良かったのに…私、プレッツェがそんな事してたなんて全然知らなくて…だから私、今回プレッツェが出て行くって聞いたときも、事情も聞けなくて、止めることもできなくて…」


そう言ってクロワはとうとう涙を流し始めてしまった。


「怖いと思って当然よ。あんたは何も間違っちゃいない」

「…お願いします、ジェシーさん。私からのお願いと伝言、聞いてください」

「…いいわ、聞いてあげる」


クロワはエプロンからハンカチを取り出して涙を拭い、私のほうを赤くなった目で見つめてきた。

強い意志を感じるその目に、私は少し高揚してしまう。どうして真剣な眼差しってこうも美しいのかしら。


「プレッツェのこと、どうか支えてあげてください。そして、出来ればで良いからもう一回、私に会いに来て欲しいと伝えてください」

「…一回だけでいいの?本当はずっと一緒にいたいんじゃないの?」

「そうですけど…プレッツェがどうしたいかは私が決めることじゃないと思うんです。だから、一回だけ…一回だけでいいんです!」


私よりもプレッツェとの付き合いが長いだろうに、プレッツェの事を決して拘束しようとはしない。

それに比べて私は、あの子に会って、あわよくばあの子を奪おうとしに来た。

あの子は、私と一緒にいるより、この子と共にいるべきだ。

…なんて、きっぱりと割り切れたらどれだけ幸せか。

私だってあの子の傍にずっと居たい。あの子の肌の温もりをもう一度感じたい。

あの子やクロワの幸せを願うか、私の欲望を満たすか。

これまでの私なら迷いなんて一切なかった。なのに今は二つの選択肢すら決められない優柔不断な私。

ああ、苦しくて苦しくて堪らない。どうして、何で、こんな感情を抱かなければならないんだろう。

…分からない、殺し屋としての人生を歩んできた私には普通の人間の感情が理解できないのかもしれない。


「…その伝言、受け取ったわ」

「ありがとうございます…!あ、すみませんこんな見苦しいところ見せちゃって…」

「可愛い女の子が泣く姿、大好きなの。気にしないで」


此処で考えても答えは出ない。ならこの子の頼み…“仕事”だけは全うしようじゃないか。

仕事熱心なジェロシア。私のモットーであり、アイデンティティ。

それに、この頼みを聞くという事はあの子に会えるということ。

この子みたいに一回だけ、とはいかないかもしれないが、もう一度会えるならそれだけでも幸運だ。

私はコーヒーを飲み終わり、席を立った。


「…そうだ、あんた最初から私がプレッツェの知り合いだって知ってたんでしょ?」

「は、はい…エヘヘ、すみません」

「なら私も殺し屋だって気づいていたでしょ、こんな物騒なものぶら下げてたし。何で一切警戒せずに私と接したの?」

「…私、できれば皆と友達になりたいなって思って毎日接客してるんです。その人がどんな人だろうと、関係なく。もちろん、命に関わる事になったら話は別ですけど…」

「…フフッ、やっぱあんた変わり者ね」

「そ、そうですか…?」


クロワは少し顔を赤らめて頭を掻いた。


「プレッツェについては任せなさい、私こう見えて仕事は一流なの」

「ホントですか!頼もしいですジェシーさん!」

「…なんかペース狂うわね。じゃ、また今度来るわ。もう一人の子もどんな子か気になるし、パンも美味しかったし」


私はベストから適当にお札を出してクロワに渡そうとしたが、彼女はお金を貰うことを拒んだ。


「パンとコーヒーはお願い聞いてもらったお礼です!」

「…その好意、ありがたく受け取っておくわ」


私はクロワに軽く手を振った。

彼女もそれに合わせて笑顔で手を振ってくれた。

いくら郊外とは言え、こんな純粋な大人がいただなんて思いもしなかった。

そんな子でさえあの街の狂気は容赦なく襲い来る。

私もプレッツェもその狂気の一つ。

…初めてだわ、誰かの平穏を想った事なんて。

店の外で待っていた晃司は、何も言わずバイクのほうへ向かった。

私もバイクに近づき、彼の後ろに乗った。


───プレッツェ、もう一度あの街で会いましょう。


                  《ナンバー3編 完》

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